ゲッターロボ+あずまんが大王外伝 6日目の日常

Last-modified: 2011-03-22 (火) 20:29:45

よくも飽きずとはよくいったもので、底無しの陽気とでもいうような
強烈な日差しは、今日もこの傷付いた町を照らし上げていた。
 
町のある場所である者は暑さに顔をしかめ、またある者は、
紫煙と共に錆び付いた息を吐き、とある場所では、光の中に広がる
濃紺から覗く肌の色を、眼鏡越しの網膜に焼きつけていた。
 
 
町の中央に、裂け目のように開いた一本道に、一つの人影があった。
時は正午を大分越え、日の強さが最も極まる刻へと近付きつつあった。
 
その暑さによるものか、足取りは重く、振り子のような揺れさえも、
細く小柄な身体の歩みには生じている。
 
額を拭った左手の、白と朱が交互に施された制服の裾には、
柔肌から滲み出た汗の染みが広がった。
 
それが、ふっと体表から離れると、染み付いた汗は慣性によって弾け、
光の珠となって、彼女の側面で踊り、そして消えた。
 
身体の水分を搾り出させるような熱波は、着実に彼女の肉体を苛み、
布の袋に入った品物を支える僅かな筋肉は、蓄積された乳酸によって満ちかけていた。
 
そんな彼女が、首(こうべ)を上げた。
 
汗を拭った左手を、帽子の唾のように額に添え、雲一つ無い天を仰いでいる。
 
遥か高みの山頂から周囲を見渡すような視線は、
くりっとした、丸っこい目によって作られていた。
 
「うん!」
 
身体に宿る疲労感を、微塵たりとも感じさせない声と笑顔に、
 
 
「今日もいい天気!」
 
 
大空でさえも、怯んで見えた。
 
 
 
 
―ゲッターロボ+あずまんが大王外伝  6日目の日常―
 
 
 
 
水底のような闇の中、一人の少年が寝息を立てていた。
闇を内包する建物の面積は広く、横長に広がった空間は、彼から見て
奥に行けは行くほど、黒の濃度を増していった。
 
そこを黒とすれば、彼がいる場所は灰の色にやや近い。
彼のいる場所から、左にやや離れた場所で開いた戸から流れる、光によるためだった。
 
自重を壁面に預けた姿に刻まれた、衣類の損壊の程度は、
薄暗闇の中でも分かるほどであり、側面から照らされる光によって映されるシルエットは、
雨風に晒された木々のそれにも近かった。
 
しかしそれは、決して無様な姿ではなかった。
 
 
雨風に耐えて跳ね返し、今尚そこに君臨するものとしての強さが、
そのか細き呼吸と、ひと吐息ごとの微細な屈伸に、
それらの大元たる心の臓腑には込められていた。
 
それが、奥の暗闇よりも濃い黒を宿した影に現れていた。
傷付いた姿を横たえる少年の影は、傷付きつつも燃やされ続ける、
命の光によって生まれ出でたものであった。
 
 
数ミリずつ開いていく眼の隙間が、不意に、一気に拡大した。
眠気と気だるさが一気に次元の彼方まで吹き飛んだかのような覚醒感が、彼の体を駆け巡った。
 
少年を夢うつつから引き剥がしたものは、一対の眼であった。
 
限界近くまで広がった、鋭い眼には、実のように丸っこい目が映っていた。
というよりも、それしか映っていなかった。
 
というか、近かった。
ぱちくりとした瞬きの際に見える睫が、数えられるほどに。
眼(まなこ)に映る、己の鋭い眼光が見えるほどに。
その中に宿る彼女の眼が、覗けるほどに。
 
その目は二度三度と、眠気を誘発させるような、ぱちくりとした瞬きを繰り返した。
それには、冒涜的なまでの図々しささえ感じられた。
 
なんというか、近すぎた。
肌が触れていないのは、奇跡と言えた。
 
 
 
「…………」
「…………」
 
見つめ合う、のではなく見詰め合うと言うべきか。
意味自体は等しいが、その表面には歪な何かが無数に乱立し、
意味としての存在を著しく曖昧なものへと昇華させていた。
 
役者は異性同士だというのに、浪漫の欠片も微塵も無い。
睨み合っていないのが、せめてもの救いといえば救いだろうか。
 
「………」
 
無言のまま少年は、拳一つ分程度開いていた後頭部と壁面の隙間へと、退避行動を開始した。
 
相手にその動作を気付かれぬように、狩りを行う獣のように。
鋭く、手早く、緩慢に。
余計な刺激をさせぬよう、細心の注意を払いながら。
 
例として出した狩猟者とは逆の立場に立たされていることに、
僅か以上、少なからず以下の情けなさを感じながら。
 
「ふっ」
 
少女の唇が小さく尖がり、そこに開いた隙間が、少年に小さな息を吹きかけた。
緊張の糸が張り巡らされていた頭部が、こそばゆさに震える。
同時にその糸は、これによって大きな緩みを持ってしまった。
その隙間を見つけたのか、彼女の目は光を放った。
それは、ギャグマンガの一コマのそれに酷似していた。
 
「そぉい!!」
 
極めて間抜けな一声と共に繰り出された右手が、彼の鼻孔と口を同時に塞いだ。
講義のための息を吸い込むのと、殆ど同時であったが、
本来の身体能力の差を、緊張感の有無が埋めていた。
 
 
「しっ!」
 
数センチ下がり、開いてる方の手で人差し指を立てる様は、何故か真剣そのものだった。
そしてそのまま数秒経ち、十を越え、苦しさではなく怒りが立ち込めてきたあたりで、
 
「うん!」
 
と、ふてぶてしさを主成分とした頷きと共に、
 
「生きてるな!」
 
との、眩いまでの笑顔と声が、彼の元へと去来した。
 
少ない光源の中でも、それらははっきりと見えた。
 
まるで、彼女自体が光源であるかのようだった。
 
叫びに遅れて手は離れ、包帯を巻かれた肌との間に隙間が出来た。
ようやく開かれた口腔と鼻孔が、その間に存在していた気体という気体を全て、
肺腑の底へと叩き込んだ。
 
それは強靭な心臓より巡る、煮え滾るような血を介して全身に伝わり、
彼の肉体に莫大なエネルギーを与えた。
 
 
 
 
 
『『『『『『『『『『『『『「当たり前だバカ野朗!!!」』』』』』』』』』』』』』
 
 
 
 
 
熱線のような咆哮の一閃が、道場の中に木霊した。