ゲッター多重螺旋

Last-modified: 2009-05-20 (水) 20:29:17

ゲッター多重螺旋(新ゲッター×飛焔)




超時代/超宇宙/超次元的――新たなる世界の始まりを告げる、おぞましき鋼の獣たち。
狂気と進化の交じり合う、宇宙の果てという終わりへ向けて走り続ける、<進化の意志>の尖兵。
すなわち――無量大数に及ぶ“ゲッターロボ”の群れ、群れ、群れ。
果て無き増殖を続ける戦闘機械どもが、無数の宇宙に広がっていく。
喰い合い、滅ぼし、同化していき、その宇宙に終わりをもたらす絶対的殲滅者こそ、ゲッターだった。
多元に跨る軍勢の数は膨れ上がり続け、何時しか『皇帝』は己が生まれた宇宙を超えて存在し続ける悪夢となり。
数多の宇宙が、“ゲッター”によって侵され/犯され/冒されていた。
破壊されていく宇宙に住む数千億の生命が、壊れていく/輝きを放つ/同化されていく。
また幾つかの銀河系が消し飛び、恒星が一瞬で破裂し、絶大なエネルギーを放ちながら、滅んでゆく。
嗚呼、嗚呼、嗚呼――これぞ、進化の叙事詩なり。我らは<進化の意志>の軍勢であり……




―――滅び行く現世を救う“救世主(メシア)”だ。




刹那、馬鹿げた量の進化因子を含んだ緑光――光の大戦斧が超光速で迫り、数百機のロボが破裂する。
機械の内臓をぶちまけて炸裂するゲッターの尖兵たちは、己の死すら理解せずに消えていった。
いまだ、拡大を続ける軍勢『ゲッター艦隊』の旗艦、太陽を飲み込む超ド級機動兵器たる『皇帝』―――“ゲッターエンペラー”が、それを捉える。
宇宙を喰い滅ぼす最強最悪のゲッターの乗り手は、底冷えするような瞳でそいつを見て笑う。


「来たな……遥か並行宇宙、次元の狭間より……時空(とき)を越えて!」


男の声は全宇宙に響き渡る声(ヴォイス)であり、エンペラーそのものである男こそ、超人類たる不死の存在だった。
なおも暴虐を続けるたった一体の“それ”は、別の時空で戦い続けたゲッターの成れの果て。
虚空より現れ、すべてを引き裂く斧を振るいて、艦隊を沈めていく巨人もまた“ゲッターロボ”なのだ。
真紅の装甲/緋色のマント/鋭角的パーツで構成された頭部=かつて開発されたどのゲッターにも似ていながら、何処か異なる異形。
男が感じるその存在の形質は、ひどく、ひどく――自分に似ていた。だから男は笑いながら、そいつに告げた。


―――さて、やり合おうじゃないか――“流竜馬”!!


『うるせぇぇぇ! これだけの宇宙を食い潰すだと? ふざけるなァァァ!!』


ゲッター線を通じて互いを認識し合う、同一存在たる二人の男=二人の流竜馬が、吼えた。
片やすべてのゲッターを統べるゲッターエンペラー、片やゲッターでありながらゲッターを否定する異形のゲッターロボ。
すなわち、相反する存在同士の対峙であり、宇宙を揺るがすほどのおぞましい闘争――太陽そのものの大きさである『皇帝』に対し、
反逆の巨人はあまりに小さく、せいぜい50メートルほどだ。にも関わらず、互いの力量は拮抗しており、無限の並行宇宙を舞台に争い続ける。
エンペラーが放出したエネルギー量=無限熱量は天地開闢に勝る絶望。周囲の宇宙空間を丸ごと崩壊させるそれを、ゲッターロボは時空転移で辛うじて避けた。
ゲッターのコクピット内において、竜馬は牙を剥いてエンペラーを睨む。


『糞が! ゲッタァァァ―――ビィィ―――ム!!』


ちっぽけな巨人が吐き出した緑色の光。その閃光は空間構成を不安定化させ、超重力の壁に守られたエンペラーに向けて突進、
進路上のあらゆる概念構成と同化することで、ありとあらゆる認識範囲から隔絶した一撃を叩き込んでいた。
だがしかし、ありとあらゆる兵器を取り込む絶対防御――ゲッター線の持つ同化概念――は貪欲にそれを取り込み、エンペラーの巨体は揺るがぬ。
超克すべき存在と互いを認識した二機の超宇宙的加速によって、次元の壁は容易く撓み、歪み、螺子くれ、光や時間は意味を無くして消え去る暗黒の空間。
<進化の意志>に祝福されし巨人は、音もなく駆ける。


―――お前の攻撃は無意味だ。すべてのゲッターは俺に帰結するのだから。


『へっ、やってみなきゃわからねぇだろ!』


竜馬にとってこの時空を超えた戦いは、すでに己の天命と受け取るしかない状況であった。
帰るべき故郷もクレーターに変わった地獄の戦いの後、竜馬に残されたのは『戦う』か『逃げる』かの二つだけだった。
彼の生き方において重要だったのは、消して挫けないことであり――闘志を燃やし続けた先こそ、この永劫に続く争いの世界なのだ。
だから。


『お前なんざに負けられるかってんだ!』


―――愚かだな。並行世界の流竜馬! いや、俺自身よ!


『うるせえ! テメエが俺でも関係ない! 俺は、テメエらが気に入らないだけだからなァ!』


エンペラーの外殻装甲の極一部が変じた砲身=ゲッタービームの照射と、星を切り裂く大戦斧の衝突。
何度目になるかわからない激突の果て――時空湾曲を引き起こすほどの空間振動を以って、戦いの幕は閉じた。
次元の穴に吸い込まれていく、『反逆者のゲッター』。勝者も敗者も無く、ただ暗黒の虚空に、ゲッターエンペラーは存在していた。
争いの運命の中……虚空を仰ぎ見る。




■■■




遠くにそそり立つ、塔(タワー)のような巨大な植物の幹。それが、絶望を告げるように。
走れ、走れ、走れ。足を止めてはいけない。あいつらに捕まったら、身体から養分を抜かれて殺される。
いいや、殺されるなんて“人間らしい”死に方は出来ないだろう。植物の化け物に、肥料にされて取り込まれるのだ。
彼の友人や、母親のように。種を埋め込まれれば、この街を壊滅させた化け物の仲間入りだ。






“彼の父のように”。






自我も無くして、苗床になる人間を襲う食人植物の一部になる――まったく、ぞっとしない話だった。
だから彼の味方はもういない。みんな食われて消え去った。頼りになるのは自分と、自分が作った火炎放射器だけだ。
ああ、くそ、まったく――ろくでもないな、この状況は。だから、竜牙剣(りゅうが つるぎ)に出来るのは、せいぜい苦笑しながら火炎放射器を構えることだけだった。
十代半ばの少年である彼の肉体は頑強そのもので、眼光は異常なまでに鋭く、ぎらついた獣に似ていると言っていい。
瓦礫の山が続く廃墟の街並み。そのあちこちから顔を覗かせるのは、数十メートルはある巨大な植物である。
ひまわりの花のような先端部には、悪趣味なことに無数の眼球が存在しており、周囲の動物を取り込もうとそのセンサーに似た目を光らせている。
そいつの動物的な眼球が剣を捉えた刹那、廃墟の壁をぶち破って五本ほどの触手が彼に迫る。ほとんど亜音速のスピード。
ざんばらの黒髪を揺らして、剣は笑った。
トリガーを引く。


「舐めんなぁ!」


ボウ、と炎が火炎放射器から噴出し、一瞬で触手を構成する筋繊維を燃やし尽くした。
ちりちりと焼け焦げていく触手の成れの果てを踏みつけると、剣はそのまま風のように走り去った。
こんな状況で貴重な燃料を使用したのは痛い。次に燃料が補給できそうな場所が見つかるのは、何時になるやら見当もつかない。
触手が襲ってくる気配も無かったので、とりあえず剣は廃墟の陰に隠れた。今夜の寝床を見つけるのも一苦労だ、こうなってしまっては。
さて、あの化け物の目に見つからない場所は無いかな――そう思いながら火炎放射を抱えて空を見上げると、ひどく不吉な色が見えた。
成層圏で燃えるナニカ――徐々にスピードを上げて落下していくもの。


「なんだ、ありゃ?」


そいつは、遠くのほうに落下していくように見えて




突如として落下角度を変えた。




具体的には竜牙剣の今いる街=D市に向けて、物理法則を超越したUFOじみた機動で飛んだのだ。
あまりにも桁違いの大きさである。50メートルはある巨大な人型なのだと剣の直感が告げたときには、亜光速に迫る勢いでそいつは着地した。
植物獣が根を張る地面と、圧倒的な衝撃波によって廃墟の街並みは一瞬で吹き飛び、爆音と砕け散った構造物の破片が宙を嵐のように舞う。
それは大地に深く根を張る怪物も例外ではなく、宙に放り出された後に“それ”が放つ高濃度のゲッター線によって消滅。
当然植物獣そのものが衝撃波で大きくダメージを受けており、悲鳴のような甲高い咆哮が響き渡った。




PIGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!




街の中央にタワーのように聳える植物獣の本体が、無数の根っ子と触手を引き千切られる痛みに絶叫した。
硬い殻に覆われていた天辺が大きく花開き、内部から人間の顔に似たグロテスクな物体が現れている。
爆風で派手に吹き飛ばされた少年が顔を上げると、街の風景は一変していた。廃墟の街並みは崩れ去っていて、巨人が着陸した跡には巨大なクレーターが穿たれており、
そのアリ地獄のような深いすり鉢状の空間には何もかもが飲み込まれている。街の残骸、ガラクタ、植物獣の一部……ひどく嫌な光景だ。




そして。




竜牙剣は驚いたように顔を歪めて、乾いた唇が吐き出すざらついた言葉を聞いた。




「……ゲッター……ロボ?」




そうだ、こいつは歴史の授業で見たことがある。かつて人類に絶滅戦争を仕掛けた異種族、ハチュウ人類の国家=恐竜帝国。
その尖兵たちを薙ぎ払い、人類を勝利に導いた人造の巨人=ロボット兵器――“ゲッターロボ”。
授業の記録映像で見た如何なるゲッターにも似ていない、不気味なほど雄雄しく神々しい鋼鉄の人型。
重力制御なのだろうか、その巨体に似合わない俊敏な動作で立ち上がった赤の戦神は、次の瞬間、振り返って剣を“見た”。
巨体に積まれているであろう、ゲッター炉心からは緑色の光が溢れ出し、鋭い菱形のツインアイはただ何も言わずに剣を一瞥。
真っ赤なマントを羽織った異形の巨人は肩から大きな鉄球を射出、質量保存の法則をあっさりと打ち破って、鉄球から長大な柄と重厚な刃が飛び出す。
馬鹿でかい戦斧を形作る鉄球の威容――その大きさは40メートルをゆうに超えるほどである。


『ゲッタァ――トゥォマホォォォク!!』


トマホーク(投げ斧)と呼ぶにはあまりにも巨大な武器を、その真紅の巨人は軽々と振り回し、背後から伸びていた触手の束を引き裂く。
触手どもがドボドボと血飛沫を噴き、抉られ蹂躙された都市の成れの果てをその体液で染め上げる。


GYOGYEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!


この世のものとは思えない、耳障りな咆哮を響かせる食人植物の王は、ついに自ら触手を山のように射出して、四方八方からゲッターに襲い掛かる。
竜牙剣の父親だったモノ――異形の怪物へと変じたかつての人間が、グロテスクな頭部も露にゲッターロボを飲み込もうと口を開き


『温ぃいんだよ!』


一瞬で全天を覆い尽くしていた触手の群れはバラバラに砕け散り、ゲッタートマホークの切っ先が、植物獣の本体=巨大な人面を綺麗に寸断していた。
斜めに切断されてなお、無数の眼球を動かし触手を操って抵抗しようとする、植物獣本体――それを左足で踏みつけると、ゲッターは腹の装甲をスライドさせ、
凶悪なフェイスで睨みつけながら、トドメの一撃を放つべくエネルギーをチャージングし




植物獣が、僅かに呻いた。




TU……RUGI……!




「親父ぃぃぃぃぃぃぃ!!」




『ゲッタァ―――ビィィィィムッッ!!』




閃光が、跡形も無く――D市ごと――植物獣を消滅させた。


剣が呆然とゲッターロボを見上げていると、天に穿たれた巨大な虹色の穴に、ゲッターロボが吸い込まれていく。
まるで最初から、異形の巨人などいなかったと言わんばかりに。緋色のマントを揺らし、その巨躯が消える瞬間。
万華鏡のような無数の空間の割れ目より、幾度と無く/無限に連なる/虚無へと至る戦いが垣間見えた。
空間を支配する民がいた。
空間を支配する異形がいた。
すべてを取り込む魔獣がいた。
全次元を侵略する絶望的な脅威があった。




「ああああああああああああああああああ―――――!!!」




脳がオーバーヒートしてしまう、人知を超えた争いの時空。
故に少年は気を失い、意識を夢の彼方へ漂わせた。




■■■




竜牙剣が早乙女研究所に保護されるのは、それから数時間後のことだった。
彼がゲッターの乗り手となる前の、ささやかな物語は、これで終わりである。