ゲット・ダイバー 8

Last-modified: 2010-11-16 (火) 00:40:08

   8

 

 その後、竜馬の一行はマジンガーを発進させたダムのような施設に併設されていた「光子力
研究所」で腰を落ち着けることになった。
 アスカやレイは、早急に帰投したがったのだが、隼人の「まあ待て」一言で留まらさせられ
てしまった。
 無論その「まあ待て」が多分の威圧を含んでいたのは、書くまでもあるまい。隼人がネルフ
に彼女達の出撃要請をした時も、恐らくは同じように多分の威圧をもって「まあ頼む」といっ
たのであろう。
 断ろうものなら、どこかからか大量のゲッター線ミサイルが飛んできそうな、そういう雰囲
気をまとわせての言葉だから、従う以外の選択肢は無かった。
 それぐらいでなければ、前後のつながりもなく、ネルフが外部者からの要請に応えるはずがない。

 

 と、竜馬は光子力研究所に一室備え付けられた客間にて、唐突とあらわれた隼人の行動を推
理していた。
 どかりと降ろす腰を支えるソファーは、弾力と肌触り、双方がほどよくバランスし、悪くな
い座り心地である。
 横にはアスカとレイ。スポンジとクリームのグラデーションが、芸術的なまでに美しく彩ら
れたショートケーキを前にしていた。
 アスカは、なんとなく食べるのがもったいないとさえ感じている。

 

「すごい手ぇ込んでるわね。どこから買い付けたのよ」
「僕が作ったんだよアスカ」
「あんたが? ねぇ、竜馬も言ったけれど、こんなことしてるヒマ無いでしょ。なに白衣なん
か着てすましてんのよ!」
「まぁ、そのあたりは隼人さんが説明してくれるよ」
「隼人さんって……えと、そちらの、方?」

 

 アスカはちら、と向かいに座るシンジの横に居る、堂々とした威容をたたえる大男を見ていった。
 竜馬や将造よりもでかい。
 そして、アスカの目にはその二人を遙かに超えた機知のあるイメージも抱かせた。その洞察
力は間違っていなかろう。
 ゆえにいつもの生意気な態度は瞬間に抑えられたのであった。伊達に、将造率いる岩鬼組の
中、上下厳しいやくざ社会で鍛えられてはいないのだ。

 

「ああ、神隼人という。よろしくな、といいたい所だが……俺はお前や、そこのレイの事はよ
く知っているんだ」
「どういうことよ……ですか」
「カンタンな話さ。お前の隣にいる竜馬が、別の世界からこの世界へ来たように、俺もまた、
ある世界から別の次元に存在するシンジの世界へ行った、という訳だ」
「とすると。おめぇ、俺の知る隼人じゃねえな? よく見るとだいぶ歳くってるみてぇだし」
 竜馬が口をはさむ。
 それに対して、隼人はゆるりと頷くのだった。
「そうだろうな。俺の知る竜馬は、もう少し純なところがある男だった。だがお前はもっと、
すれっからしのようだ。それに歓楽街の匂いがする……歌舞伎町か? ススキノや中州じゃあ
るまい」
「ほう。よく解るじゃねえか。俺は新宿に居たんだ」
「やはりな」
「けっ、そのふてぶてしい態度。俺の知る隼人じゃなくても、やっぱお前は隼人だぜ」
「ふっ。どこの世界でも、ゲッターチームはゲッターチームということだな」

 

「……そうすると、そこの碇君はあなたが連れてきたのね」
「そういうことだ綾波レイ。そしてこのシンジは俺の片腕であり、頭脳を受け継ぐ存在でもあ
る。あのレプリカマジンガーを作ったのもこいつだ」
 そこまでいうと、隼人は置かれた紅茶に手を伸ばすと、説明をシンジにバトンタッチするよ
うに黙ってしまう。
「あのロボットを造ったのはシンジ、お前だったのか」
「ええ。もっとも、兜博士のオリジナル・マジンガーZには、及ばない点があって……光子力
エンジンのエネルギー効率をどうしても向上できなくて、結果的に機体が巨大化してしまった。
まだまだ、甲児さんから学ぶ事は多いです」

 

「兜博士? 甲児さん? 誰だそいつら」
「ああ、マジンガーZの開発者と、そのパイロットです。おじいさんとお孫さんの関係なんですよ」
「ふぅん」
「ちなみに、甲児さんも、そのお父さんも科学者で、親子三代にわたって光子力エネルギーと、
それを使ったスーパーロボット、マジンガーシリーズの開発者なんです」
「そうかい」
「そして僕の師匠で……憧れの人です」
「……ああ、解った」
 独り語りに、珍しく竜馬が大人しさをとどめていたのは、シンジの様子がどうも自分の知る
シンジとはだいぶ違う、性癖をもっていそうに感じたからだ。
 竜馬の知るシンジはなよなよしてはいるが、れっきとして男だし、その性的趣向もノーマルだ。

 

 だが、この隼人に隣座るシンジは、目の持つ色が違う。特に、同性に対して視線が向けられ
た時に輝きを増すのだ。
 そういう人間を、竜馬は新宿でいくらでも見てきた。
 特に二丁目に多かった記憶があり、仲の良い連中もいたが、しかし真に気を許すのはいささ
かためらわれる、そんな人たちだった。
「でも、竜馬さんも格好良いですよね。特に今お会いした竜馬さんは、なんか、こう、颯爽と
していて……素敵です」
 シンジがふわりと微笑む。
 一瞬、場が固まった。
 竜馬がソファーに背をめり込ませる。
 アスカなどはフォークを取り落とし、かしゃり、と音を奏でてしまうほどだ。綾波までもが
目のちらつきを多くし、動揺を隠せないでいるようだった。その心にユイの魂が共棲している
ためかもしれない。

 

「……おい! 隼人!」
「趣向は人それぞれだ。俺が関知することじゃない。こいつは科学者としての才能があった、
父親同様な。俺はそこを拾っただけだ」
「だからってな、お前」
「竜馬さん」
「な、なんだよ」
「ホモにも人権はあるんですよ」
「……誰も否定しちゃいねえだろう」
「シンジ、今はその話をしている場合じゃない」
「すみません隼人さん」

 

 隼人が場を仕切る。
 と、彼は紅茶を飲みきり、再びを口を開くのだった。

 

「竜馬。今回の事件は俺たちに責任があってな、その始末をするためにここに来たんだ。お前
達の手をわずらわせるのは申し訳ないが、相手が相手だ。協力を頼みたい……無論タダでとは
言わん。改良したゲッターGを持ってきた。最終調整ももうすぐ終わる」
「ゲッターGか。俺は動かしたことがねぇが……」
「心配するな。パワーは真ゲッター並に引き上げてある。これとレプリカマジンガーを提供す
る。ゴジラ殲滅に手を貸してくれ」