ゲット・ダイバー 11

Last-modified: 2011-05-26 (木) 16:01:02

「いくぜ。ゲッターロボG、出撃だッ」

 竜馬の叫びに、ドラゴンが腕を組む。その様はゲッターロボが「俺に任せておけ」と見上げ
る人々に言い放ったようにさえ見えた。
 勇ましい風貌に、整備員たちから歓声があがる。と同時に機体を乗せていたリフトは起動し
超高速でドラゴンを、エヴァを、光の下へと弾き出していく。
 第三新東京市の空に、赤い守護龍が飛んだ。
 その地に、三つの番人が降り立つ。

「初号機、リフトオフ」
「弐号機リフトおふッ!!」
「ボロット……リフトオフ」

 見ると、初号機はいつものように猫背だが、弐号機はリフトを降りるやいなや、しゃきっと
背筋を伸ばして、ドラゴンに負けじと細い腕を組んでいた。
 アスカ自身もプラグスーツの中で腕をがっしり組んでいる。同じ赤い機体同士、ドラゴンに
はライバル心が燃えつつあったのかもしれない。

「来るならきてみろぉ! こっちゃいつでもいいわよおッ」
「元気だなぁ、アスカは……それにしても、まさかエヴァでシト以外の敵と戦うことになるな
んて」
「そんなの今更言うことじゃないでしょ」
「そうだけどさ」
「ま、なにはともあれメカゴジラの強さを考えると、本物はそれ以上でしょうね。気合いれて
いかないと」
「零号機が一瞬で吹き飛ばされたもんな……」
「ほんと、ああも簡単にA.T.フィールドを突破してくれるんだから、ゲッターといい怪獣とい
い異世界の連中はふざけてるわ。おかげで、ひらめきもあったけれど」
「なにさ」
「A.T.フィールド。メカゴジラに投げたのビデオで見たでしょ」
「そういえば。あんな使い方もあったんだ」
「そ。攻撃は最大の防御ってね。心のカベだとかなんだとか、意味わかんない説明があるけれ
ど、要するに大質量の物理障壁ってワケじゃない、シト以外にはさ。だったらそれなりの速度
を与えれば良い威力になる」
「なるほど。いいセンスしてるぜアスカ。将造が目ぇつけるだけのことはある」
「へへん」
「あ。竜馬さん、ぼくらはここから動けないですけど、ゲッターまで待機していて良いんです
か? ミサトさんだけじゃ……」
「大丈夫だ。あのマジンガーとミサトなら、必ずここまで敵を連れてきてくれる」

 

 言い、竜馬もまた腕を組んだ。
 ゴジラも、第3惑星人も、狙いはゲッターロボだろう。うかつに動けば、間違いなく挟み撃
ちにされる。ゴジラの威力はいわずもがな、第3惑星人もメカゴジラをはじめとした驚異的な
兵器を、必ず当ててくる。
 ならばこれらを一気に相手取るとして、戦力を分散させることだけは避けねばならない。竜
馬はこの世界の破滅を防ぐため、第三新東京市に来た。すべては時天空という最悪の敵を打倒
するために……ここで倒れる訳にはいかないのだ。
 ミサトに悪いとは思うが、ゴジラをおびき寄せるに最適なのはマジンガーZに他ならない。
A.T.フィールドを凌駕する脅威の装甲があれば、相手がゴジラであろうとも耐えてくれるだろ
う。そしてその操縦には、彼女の一流の軍人としての能力が必要だった。

「ちょっと待って」

 そんな中、ぽつりと綾波レイのつぶやきが漏れる。
 くれぐれも直視せぬよう、触れぬように、周りが総スルーを決め込んでいた矢先のことだっ
たが、同時に「ああやはり」という感慨も涌き起ったに違いない。

 

「この際だから言うわ。碇君」
「えっなに」
「あなたじゃない。白衣君の方……無線。聞こえているでしょ」
「はいはい。なんだい綾波」
「この機体は、なに」
「それはボロット! 僕の世界にあったメカを模して造ったんだ」
「そういうことを聞いたんじゃないわ」
「……だってしょうがないだろ。零号機は大破しちゃってるし、元祖ゲッターロボも修理中。
代わりになる戦力はない。数時間でモノになる兵器を造れってムチャ言われても、僕にはそれ
が限界なんだよ」
「私に死ねっていうのね。いい、解った。私が死んでも代わりはいるもの……」
「だ、大丈夫だよ。見た目の割に頑丈だし馬力もあるんだから!」
「見た目……見た目……」

 菫色も映える美しき初号機に、焔をまとう勇壮なる弐号機。
 二体の巨人の隣には、黄土色をした巨大なだるまが置いてあった。いや、タダのだるまでは
ない。だるまにゲッター3の様な蛇腹状の腕と脚が生えた、どこからどうみても「マヌケ」と
いう単語しか浮かび上がってこない、スーパーではないロボットだ。
 てっぺんには球体がめり込ませてあり、ふざけているのか目玉が描かれている。一応、頭と
いうことらしい。だが、そこに設置されたコクピットはキャノピーが無く、よりにもよって格
子状にくり抜かれただけの窓があるだけだった。ゴジラの放射能火炎を浴びたら一発で御陀仏
だろう。かすっただけでも相当危険である。

 ただし乗り心地だけはよかった。
 なにしろ、コクピットは座敷になっており四畳半の畳まで敷かれているのだ。ご丁寧にちゃ
ぶ台と急須に湯呑み・ポットまで置かれている。
 うつむき加減の綾波が、その急須を手に取りポットの湯を注いだ。湯呑みに注ぎ、揺れる淡
い緑色を眺めた。そして飲む。

「ぬるくなってる……」

 決戦前の珍事であった。

 

  11

 

 ゴジラだ……!
 操縦桿を握るミサトの掌に、じっとりとした汗がにじむ。
 相模湾、海岸付近に接近したマジンガーZのコクピットから、はっきりと海をかき分けて進
む巨大生物の姿が見えた。まだ距離があるのに、圧倒的なプレッシャーを感じさせてくる。ま
るで黒い岩石で出来た山が迫ってくるようだった。
 いや、実際に山そのものといっても過言ではないだろう。四〇メートル級の、このレプリカ
マジンガーを遙かに超える巨躯は、ざっと見ても一〇〇メートル以上だと推定できた。
 ゴジラの咆吼がこだまする。すべてを萎縮させる、怪獣王の雄叫び。
 ミサトの心に恐怖の波紋が広がった。

「……まさに化け物、ね。シトが可愛く見えるくらいだわ……さて。こちらマジンガーZ。航
空隊聞こえるか」
「こちら航空隊。どうぞ」
「基本的には当機のみが目標を相手する。航空隊は目標より範囲一キロ圏外の距離を保持し、
当機からの指示があった場合にのみ戦闘行動を取れ。それと万が一、当機が戦闘不能に陥った
場合はすみやかに戦闘空域を離脱せよ」
「航空隊、了解」
「よし。通信終り」

 弱気なようだが、実際マジンガーZが行動不能になったら、ネルフ装備の航空機程度では、
どうすることもできないだろう。
 ミサトは大きく息を吸い、操縦桿を握り直した。
 マジンガーZはその間にも少しずつゴジラへ向かって進撃している。距離が縮むにつれ、敵
の威圧感はさらに増大していく……そして、そろそろ見上げようかというほどの位置に到達し
たときだった。

 

「グォォ……」
 と、あたりに響く唸り声と共に、ゴジラの憎悪に燃えるような瞳がマジンガーZを捉えた。
反射的にミサトは構える。
 どうする。
 相手は放射能火炎という凶悪な飛び道具の持ち主だ。
 ブレストファイヤーで押し返せるか? いや、無闇に刺激するのは止めた方がいい。目的は
誘導なのだ。航空隊と連携を取りながら回避に専念した方が――
 そんな考えが一瞬で頭の中を駆けめぐったが、しかし当のゴジラは睨むだけで、そのまま海
を悠々と割進む。攻撃などしてくるそぶりも見せなかった。
 まるで「雑魚が邪魔をするな」といっているかの如く。
「……」
 すると……やはり、竜馬の考えた通り、ゴジラの目的はゲッターだけなのか。
 と、なればゴジラは放って置いても新小田原の街を踏みつぶしながら一直線に箱根、すなわ
ち第三新東京市、ゲッターロボGの元へたどり着くだろう。
 だが、その態度がミサトの心に満ちていた恐怖を少しだけ押し流し、代わって怒りを溢れさ
せていく。いかにお前が地球の使者であったとしても……

「くっ、人間をなめんじゃないわよ! いけ、マジンガーZ!!」

 光子力ビーム。
 発射スイッチを勢いよく叩かれたマジンガーZは、その両目から一軸の破壊光を発射した。
目標を焼かんと一直線に進んでいく。だがゴジラは避けようともしない。もとより動きは鈍重
だが、危機と感じれば回避行動を取るなりなんなりするはずなのに。
 次の瞬間、ビームは直撃した。
 が、
「……効き目無し? そういやこいつのメカ物も頑丈だったわね」
 ミサトは軽く舌打ちをする。
 驚異的な皮膚だ。さすがに映画でも水爆大怪獣の異名を取っただけのことはある。
 だが、まあいい。
 初めから倒すつもりでいるわけではない。あくまでこいつを、第三新東京市まで誘導できれ
ばいいのだ。上手く……極力、市街地へ被害を出さないように。
 それに幸いというべきかどうか、セカンドインパクトによって上昇した水位は、旧小田原市
や藤沢などの低地を飲み込んでしまっている。代わって背後にいただく山の一部が新小田原市
となったのだが、かつてほどの人口が無いために、険しい部位を迂回していけば人間の生活区
域を回避できるはずだ。
 ならば。
 ミサトは光子力ビームの出力ツマミを最小に落とした。代わりに、単発式から連発式へと移
行する。威力は落ちるがこれで弾幕を張ることができる。他の内蔵火器と合わせれば、マジン
ガーは縦横無尽の移動砲台と化するだろう。
 ゴジラがいかに無敵の皮膚を誇ろうとも、チクチクと針で刺され続けるような感覚には耐え
きれまい。気を引くにはもってこいだった。

「航空隊へ、こちらマジンガーZ。当機はこれより旧根府川を迂回し、第三新東京市へ向かう。
目標の気を引きたい。集中砲火よろしく!」

 マイクへ叫ぶと同時にマジンガーZが全ての兵装を開いた。

・・・

 同じ時刻、場面は竜馬たちの待ちかまえる第三新東京市へ移る。
 マジンガーZがゴジラへ会敵したのと同時に、ネルフのレーダーが衛星軌道周辺に時空の歪
みを検知したのだ。一瞬、オペレータ達はシトの襲来かと思いパターン青の宣言をしそうにな
るが、歪みを越えて現れたのは小型の隕石であった。それも地球に堕ちても大気圏で燃え尽き
てなくなる程度の――。
 しかしなんだ、なぜ隕石などが時空を越えて現れる?
 これが竜馬のいう、第3惑星人の放った兵器なのか。それともまったく別の意思が介在して
いるものなのか? 
 ただ、どちらにせよ確かなのは敵意があるということだった。なぜなら隕石は、第三新東京
市の真上へと、真っ直ぐに降り注いできたからだ。
 地球が自らの身を守るべく大気の摩擦熱で侵入物を焦がし、隕石は瞬く間に焔と化する。
 聖なる炎が、邪悪の意思を暴く。

「これはっ……ぱ、パターン・オレンジ! 竜馬さん、怪獣です、隕石から怪獣が!!」

 焔は緩やかに市上空に燃え広がり、それがだんだんとひとつの形状を帯びていく。
 三つ首の、金色に輝く翼竜。まるでヤマタノオロチかヒュドラかといわんばかりの、ゲッタ
ードラゴンもモチーフとした伝説の神獣の姿になっていった。
 竜馬は、その姿をまとった敵をもまた記憶していた。
 その名は。

 

「来やがったな、キングギドラ……!」
「竜馬さん、あれが第3惑星人の!?」
「ああ。奴らが操ってる怪獣の中でも最強のやつだ。狂暴さじゃゴジラにも引けをとらねえ…
…どうやらここで俺たちをなんとしてでも、消滅させるつもりらしい」
「か、勝てるんですか」
「勝たなきゃ、こっちが滅ぼされるだけだ……いや、エンペラーの介入を受けることになるま
で、か。人類は残るがこの地球は焦土と化しちまうだろう。それが嫌なら、噛み付いてでも撃
退しやがれ!」
「やってやろうじゃん。行くわよ、シンジ! ファースト!」
「う、うんっ」
「この機体でどこまで援護できるか解らないけれど……やるわ」
「シンジ、アスカ、レイ! 奴ぁ引力光線って飛び道具を持ってるッ。A.T.フィールドでもア
テにはできねえ、うかつに飛び込むな! 接近戦は俺たちに任せて援護しろ!」
「了解!」

 応えと共に初号機と弐号機のパレットライフルが火を噴いた。フルオート、残弾気にせずの
一斉射撃だ。問題はなにもない。
 兵装ビルには大量の重火器が満載されている。専用ハンドガン、バズーカ、ガトリングガン
、そして新装備の超電磁洋弓銃。弾が尽きれば取り替えて、それが尽きればまた取り替えるま
でだ。
 ポジトロンライフルも二丁だけだが用意されている。
 敵は脅威の大怪獣。すこしの手加減も要りはしない。

 竜馬に操られるドラゴンは、吹雪く火線を縫うように飛んでいき、挨拶代わりのダブルトマ
ホークを抜き放つ。
「トマホークッ!!」
 巨大なギドラが迫る。街を飲み込もうかといわんばかりのサイズだ。パレットライフルの砲
弾を連続で浴びてもビクともせず、ドラゴンへ殺意の輝きを秘めた眼で向かってくる。すかさ
ず竜馬もギドラを睨み返す。
 ダブルトマホーク。ギドラの真正面に迫ると見せかけ、急激に軌道を横に変えるフェイント
で隙を造ると、さらに急軌道を描いて突進する。トマホークの鋭い刃が腹に思い切り叩きつけ
られた。
 ギドラから怨嗟の雄叫びがあがる。
 次の瞬間、復讐の引力光線が波を打ってドラゴンへ襲いかかってきた。竜馬はダブルトマホ
ークを犠牲にして光線を弾き、猛然と場から離脱する。
 ダメだ、万全の状態の奴にはトマホークぐらいでは通用しない。

 

「ち、効いちゃいねぇっ」
「タフなやっちゃのう! 竜馬ァ、ここはワシにまかせろや」
「解った、頼むぜ将造」
「オオヨ! チェンジ・ポセイドンッッ!!」

 ドラゴンの技が通用しないなら、力で上回るポセイドンの出番だ。空戦能力も手に入れた重
戦車の前に押し通せぬ物はない。
「ふぃんがあネットぉ!」
 将造のポセイドンが力を漲らせると、十の指から全てを絡め取る鉄鋼網をずわぁっと発射す
る。こいつは合成鋼Gで出来た蜘蛛の糸だ。逃げられるものなら、

「逃げてみいやクソトカゲ。日本のヤクザなぁ、なめんじゃねえぞおッ!!」

 ギドラをがんじがらめにし、空中から勢いよく地上へと叩きつけように放り投げると、すか
さずチェンジレバーを引く。
「よーし! ハニーとやら出番じゃぞ!」
「待ってましたっ、チェンジっ、ライガーーッ!」
「ハニー、奴が堕ちるより先に地上へいけッ」
「解ってますって、マッハスペシャル!」

 ハニーのライガーが、空中で超高速機動に入る。一切の加速時間を必要とせずマッハ3に達
するライガーが、その凄まじいまでの衝撃波で周囲の物体をなぎ倒しながら、街へ着陸する。
その地点へクレーターが開いてライガーがめり込むが、そのまま反動さえ利用して跳ね返ると
、堕ちてくるギドラへ向かって左腕部アンカーを開放した。

「ライガーミサイル連続発射!」

 ミサイルの爆風を浴びてギドラの悲鳴があがる。自慢の翼もネットに絡み取られて飛翔でき
ず、いましがたライガーのつくったクレーターに衝突し、地中深くにめり込んでいく。
 これでどうだ、少しはダメージになったはずだ。
 竜馬は次の手を考える。
 が……

「何だと!?」

 引力光線。
 地中から涌き出てくるように撒き散らされる光線が、地表をまるでケーキのように切り裂い
ていく。ギドラの、その聴く者の心をかきむしるような叫びが第三新東京市に響いた。
「ああっ!」
 巨体が地中より現出する。
 ネットに絡まれた全身を振るわせると、一気に引きちぎり再び翼を開く。
「馬鹿な、メガトン級の爆発にも耐える合成鋼Gだぞ!?」
「要するあいつに力はそれ以上ってことでしょ!」
「どうする竜馬、並の攻撃じゃーあの野郎はくたばらねえぜ」
「だが、ゲッタービームもシャインスパークも乱発するわけにはいかねえ。後にはゴジラが控
えてんだ。こうなりゃ……怪獣にゃあ怪獣だ! シンジ!」

 

 空中でドラゴンへのチェンジを追えた竜馬が、トマホークブーメランを乱発しながらエヴァ
の元へと飛来する。
 無論、初号機も弐号機も火線を絶やしてはいない。
 両手持ちのバズーカを次々と撃ちまくり、弾の尽きた砲は綾波のボロットに手作業で補給さ
せてまで集中砲火を行っている。だが爆風が広がるばかりで、足止めぐらいにしか効果がない
のが現状だった。
 そんな中、竜馬が叫んだ。

「シンジ、ケーブルを切って奴に突撃しろ!」
「ええっ!? そんなムチャな」
「ちょっと、ふざけてんじゃないわよ竜馬! シンジが死んじゃうでしょ!!」
「いいからやれ! ギドラの野郎、俺の知る個体よりはるかにパワーアップしてやがる。この
ままじゃあジリ貧なんだよ、初号機の持つ潜在力に掛けてみるしかねえ!」
「潜在力って……」
「今のお前に知る由もねえが、そいつは他のエヴァとはモノが違ぇんだ。ある意味でこの世界
におけるゲッター線みてえなもの。全てのパワーを開放できれば、ギドラでも倒せるはずだ」
「そうはいったって、どうして突撃になるんですか!」
「初号機はお前がピンチにならねえ限り本気を出そうとしねえんだ、放任主義だからよ!」
「つまり僕に特攻しろっていうんですね」
「ここでやられりゃ全員死ぬ! やばくなったら俺とアスカでカバーはする、行かねえってい
うなら、てめえにシャインスパークぶち込むぞ!!」
「わかった、わかりましたよ。行けば良いんでしょう、行けば!?」
「そうだ、その意気だシンジ!」
「ううチクショー! アンビリカルケーブル、パージッ。行っけええ!!」

 

 竜馬に脅されたシンジが、全身を振るわせながらケーブルを叩ききると、弐号機とドラゴン
の援護射撃を受けながら単騎、復活したギドラへ向かって猛然と突進していく。手にはプラグ
ナイフを握りしめ。
 気分はさながらヤクザの鉄砲玉だ。
 そういえばポセイドン号には現職ヤクザも乗っている。
 くそったれだ。なにもかもがくそったれだ、親父と再会なんかしなきゃ僕は今でも普通の中
学生をやっていられて、あんな戦闘狂どもと関わることもなかったっていうのに、なんて貧乏
クジばかりの人生なんだ! もういやだ武蔵野へ帰りたい。帰って僕を自転車泥棒よばわりし
た、あのクソおまわりに復讐してから首つり自殺してやる!

「破れかぶれだ、せめて道連れにしてやるからなキングギドラーっ!!」

 引力光線。
 不気味な音色を奏でながら襲いかかってくるが、初号機は両腕をクロスさせ、A.T.フィール
ドを張るとその威力を少しでも減退させるべく気合を入れた。
「ぐああっ!!」
 が、やはり光線の威力は高くフィールドを突き破ってくる。クロスして最前面に押し出され
ていた左腕が、焼けこげただれ落ちた。
 さらに二撃、三撃と喰らって初号機は右の肩を吹き飛ばされ、左目を潰されていく。
 それでもシンジは突進をやめない。
 突進をやめて竜馬に殺されるぐらいなら、まだ怪獣に食われて死ぬ方が恐怖を感じずに済む
からだ。世の中で一番怖いのは幽霊でも怪獣でもなく、生きている人間である。
「うわああああッ!」
 シンジの絶叫と共に、初号機はギドラへがぶりより、三首ある内の口の一つへプラグナイフ
を突き立てる。ギドラもまた絶叫。生物の生存本能が刺激され、攻撃してきた相手を殺戮する
べく残った二つの顎が、初号機の喉元へと食らいついた。
 尖った牙が、装甲板を破壊し、柔い生肌を食いちぎる。ぶあっ、と辺りに鮮血が舞う。

「ギャッ……うぐ、うぁあ……!」

 シンジが喉をかきむしる。
 初号機の受けた痛みがダイレクトに伝播してしまうせいだ。エヴァの神経接続操縦システム
において最大の欠点だった。
 あまりの激痛に、シンジの意識が失われかける。

 

 畜生、やっぱり死ぬのか――
 こんなところで死ぬ運命なら、世界が果てるとしてもそれまで武蔵野に引き籠もっていれば
よかった……。
 そんなネガティブな想いに囚われ、走馬燈が流れようとした時だった。
 唐突に、コクピットの照明が切れたかとおもうとシンジを蝕んでいた激痛が消え去る。痛み
から開放され、彼の意識は再び、澄み渡る水のように静へと回復していく。
(な、何だ……?)

 
 

 その様を、ネルフから眺めていた、白衣のシンジがつぶやいた。
「はあ……竜馬さんは相変わらず僕にムチャさせるや。ま、そんな強引なところも素敵なんだ
けど」
「どうだシンジ、初号機で行けそうか」
「たぶん大丈夫です。隼人さん、それより僕たちもそろそろ準備しましょう。ミサトさんがゴ
ジラを連れてきてくれるころです」
「そうだな。なんせ俺たちの撒いた種だ、最後は俺たちの手で刈取らねばなるまい」
「大神ゼウスの奇跡と、ゲッター線のエネルギー。二つが合わされば怖いものなんて」
「そいつは違うなシンジ。三つだ。最後は、俺たち人類の意思が物を言う」
「……フフ、ホントに隼人さんは格好つけがうまいなあ。あんまり格好つけてばかりいると、
寝込みを襲っちゃいますよ」
「眼と耳を潰されたくなければ止めておくんだな。さあ下らない事いってないで、行くぞ!」
「はい」

 きびすを返す二人。
 隼人はゲンドウに指揮権を返す旨を宣言すると、そのまま事後処理もなくさっさと中央作戦
室から出て行ってしまった。
 シンジもそれに続く……が、出口で司令席にゲンドウを見上げて立ち止まった。

「司令……いや父さん」
「……何だ」
「やっぱり男は結果を残してナンボだと思うんだ。最終的に責任放棄じゃ、いい男とは言えな
いよ。竜馬さんを見てみてよ。最後まで逃げずに意地を通しているでしょ? だからあんなに
ムチャクチャでも格好いいんだ。
「この世界」の父さんは、いい男であって欲しいな。これ息子からのお願い☆」

 バチリ、とウインクを残して白衣のシンジは去っていく。
 作戦室のモニタは今も戦場を映しているというのに、今起きたアクシデントに、その場に居
た職員全員は出口を見つめて固まっていた。
 マヤが震えてなにかを口走っている。

「ううう、あのシンジ君怖い……ああでも、私も同じ穴のムジナなのかも……うわああ、嫌だ
嫌だ、不潔なのはイヤァァ……」

 

 ごほん。
 その中で満身創痍ギプス姿のリツコが咳払いによって、止められた時は再び動き出した。

 

「碇……まあなんだ。お前の息子も、経験次第で様々な成長を見せる、というわけだな」
「冬月、もうそのことはいい。総員! 惚けている場合ではない、持ち場の仕事を維持せよ。
初号機の動きから目を放すな。ゴジラとマジンガーはどうなっている!?」

・・・

「ゥオオオオオ……」

 猛獣のごとき唸り声が、ギドラの叫びをかき消していく。初号機の、潰されたはずの眼は瞬
時に再生し、肩や腕も、みるみるうちに修復されていく。
 禍々しき顎を封印する拘束具は解かれ、猛獣の武器である牙が現れ、息を大きく荒げる。

「あれは……暴走!? ちょっと竜馬、シンジは大丈夫なんでしょうね!」
「大丈夫に決まってんだろう。伊達にゲッターに乗っていたワケじゃねえ、そんじょそこらの
ガキとは度胸の出来がな、もう違うんだよ。そうだなシンジ!?」
「あ、竜馬さん……」

 暗くなったコクピットで、シンジが竜馬からの無線に応答する。不思議と先ほどまでの恐怖
は消え、心は穏やかだった。目の前にはギドラが大口を開けて威嚇しているが、それさえ何の
恐れにもならない。
 ただ、代わりに例えようもない安心感が満ち溢れてくる。
 これは――これはなんだろう?
 遠い昔に、どこかで味わったような懐かしい気持だ。

 

「母さん……?」

 ゥォォオオオオッ!!

 反応するように、初号機がギドラに負けじと大口をあけた。組み付く一つの首を、力任せに
引きはがすと今度は先ほどのお返しとばかりに、首の根本へと激しく噛み付いた。
 ギドラ。悲鳴をあげて、翼を激しく羽ばたかせる。初号機を吹き飛ばそうというのだろう。
しかし、そこへ弐号機のポジトロンビーム砲から放たれた光が炸裂する。
 右の翼に大穴が開いた。

「! よ、よし……初号機、そいつを抑えつけるんだ!」

 もはや初号機はコクピットの操縦を受け付けない。だが、代わりにシンジは号令を出した。
今ならば、初号機と意思のやりとりをすることが出来る。そんな気がしたのだ。
 はるか昔、鉄人28号というロボット漫画の中で、主人公・正太郎少年が鉄人を操りながら声
援を送って戦ったように。
 果たしてその予感は的中した。
 唸る初号機は、噛み付いた首から離れると、二、三発の拳をギドラに見舞ってからシンジの
言う通りに全身を大きく開き、通常時からは考えられない異常な力を以てギドラを大地へ抑え
つけた。
 敵は必死に初号機から逃れようとするが、こちらの方が単純に力で勝っているらしい。もが
くだけで何もできない。
 引力光線も、吐き出そうとする度に首を抑えつけられてままならない。

「アスカ、綾波っ! 竜馬さん! いまのうちにトドメを!」

 

 シンジの叫びに弐号機が跳ね飛ぶ。ソニックグレイブを掴み取り、ケーブルをしならせなが
ら果敢に初号機の元へと参じるべく走った。レイのボロットが健気にもその後に続く。
 ドラゴンは再びライガーへと姿を変え、弐号機を追って走り出す。

「シンジっ、いま助けるからねッ!」
「ハニー! ドリルだ、ドリルで奴の頭を串刺しにしろ!」
「りょうかーいっ」
「……ボロット、もっと速く走って。そう、頑張って。良い子ね」

 三体の巨大メカが、三首の悪龍へ向かってそれぞれ一撃を放つ。ライガーのドリルが右端の
頭を突き刺し、弐号機が渾身の力で左の首を刎ねる。そしてレイのボロットが、どこかからか
持ち出していたN2爆弾を中央の口へ無理矢理突っ込んだ。

「初号機! A.T.フィールドっ、ギドラを完全に包囲するんだ! 爆発から街を護れ!」
「あたしも手伝うわよシンジ!」

 二体のエヴァが赤い障壁を造り、ギドラを完全に包み込んだ。直後、N2爆弾が起爆し、凄ま
じいまでの威力を狭い範囲に集中して炸裂させた。
 広範囲へエネルギーを散乱させる爆撃でも、並のシトのA.T.フィールドを破るだけの威力を
もった爆弾だ。それが、強化された初号機のA.T.フィールドと、寄り添うような弐号機のA.T.
フィールドにくるまれてごく狭い範囲の中で爆発するのである。
 大気も揺るがすような轟音がとどろき、それが果ててA.T.フィールドも尽き、爆風が過ぎ去
った後……ギドラは体表の一部を残す以外は、すべて炭化させられていた。

 

 倒した……。
 普通であれば影も形も残らないはずが、形状を保っているのはキングギドラがどれほど頑丈
な生物かを物語っていた。
 ひとりひとりであれば、とてもではないが勝ち目が無かったであろう。
 一行はほっと胸をなでおろす。
 だが。
 まだトリが残っている。このギドラをさえ上回る、最大最強の怪獣王が……。
 迫り来る予感に、竜馬の肌がざわつく。
 応じるようにドラゴンのコクピットに無線が入った。

「リョウ君! こちらミサト、お望み通りゴジラを誘導してきたわよ。これ以上はもう限界な
んだから早く助けに来てーッ」

 

つづく