ライフ 最終話

Last-modified: 2014-02-20 (木) 22:50:40

「アユム、アユムはどこなのっ!!?」
「おねーちゃんっ!!」

社宅に住む人々が逃げる中、文子と妹の茜は最後まで残り、彼女を血眼になって探していたのだった――。

それは園田も同じであった――。

「椎葉さんと流はどこにいったんだ、オレは二人を失いたくないっ!!」

彼は街中を逆流してでも探し回っていた――。

「椎葉……?」

――女子少年院。避難しようとする、服役する女子と職員達の中には愛海の姿が……。しかし彼女は立ち止まり、ふと夕空を眺めてそう呟いたのであった――。

「アユム……?」
「ミキ、どうしたんだ?」
「羽鳥さん、空がどうかした?」
同じく病院から車椅子に乗る父親と避難する未来も空を眺めていた。彼女の横にいた達人も一緒に空を眺めてるのだった――。

皆が見つめるその遥か上空には、竜馬と歩の駆るゲッターロボが信じられないほどのスピードで通過していくの
を――知るよしもなかった。しかし……。

 

(……ヤバ……息、できな……胃とか吐き……そう……)

歩は完全にゲッターのフルスピードに耐えきれず、顔がスゴく歪み、今にも身体中が潰れそうである。
彼女ははっきり言って今にも死にかけであった。身体の骨全てが砕け、内蔵全てが潰れて、口から全て飛び出しそうな――見るもおぞましいことが起こりそうな感覚だった。

(何も見え…な、……あたし……死――)

彼女の意識が飛びそうになった――時。

“アユム……ゲッターを疑うな……自分を、ゲッターを信じろ”

彼女の意識にそういう声が響く――男か女か、誰の声か分からないが。

(え……だ、だれ……)

“落ち着いて……レバーを握りしめろ、そして気を強く持て……それだけでゲッターはお前に応えてくれる………………”

――歩は離していていた右手を手探りでレバーを触り、握りしめ、歯を食い縛りながら気合いを込めて前を見据えた。

「ううっ……うっ……うああああーーーーーーっっっ!!!」
雲を突き抜けて、向かった先は……成層圏。スピードが徐々低速し、安定する。

「椎葉、大丈夫か!?」
一方、余裕で耐えた竜馬はすぐにモニターで彼女の安否を確認すると――。

「な、なんだと……?」
竜馬は驚愕する。何故なら彼女は平然としていたからである。

常人には耐えきれない重圧のかかる速度で、しかもどこにでもいそうな女子高生が耐圧服など着ずにゲッターに耐えたのは前人未到であった。

“流君……あたし生きてる……っ”

「椎葉、お前一体ナニモンだよ……」

彼女本人も驚きを隠せずにいた。

「まあいい、無事でよかったぞ。俺はお前に何かあったら――」
“え……流君……、なんて……?”

「いや、なんでもねえよ。それよりも――ミサイルを何とかするぞ!」

全視点モニターに表示される先にこちらへ凄まじいスピードで向かってくる丸いターゲット……重陽子ミサイルだ。
どうやら発射を阻止することが出来なかったようである……。

「……流君、どうするの?」
“どうするかって?ゲッターを信じるしかねえだろ”
「……ですよねぇ……っ」
刻々と近づくミサイル――。

「みんな……バイバイ……」

死を悟る彼女は涙ぐむが彼はニィと笑いながら彼女は見た。

“おい椎葉、なに諦めたようなことゆうんだ?俺達が死ぬわきゃねえだろ、いや、俺はお前を死なせやしねえよ――”

“……流君?”

“椎葉ほど、俺のコトをここまで考えてくれるヤツは初めてだ、ウレシいぜ。
俺は……もしこの時代に生まれて、ここで普通に過ごして、お前と出会ってたなら……俺はお前のことが『好きだ』と告白したかもな”

彼の真意を聞いて……歩は嬉しさのあまり大粒の涙が流れ止まらなかった。
しかしそれは彼の素性ゆえに、絶対に付き合えないとも……。

“流君……あたしも……実はあたしも――”

「よし、話はそれまでにして、行くぞ椎葉!!」

彼女は涙を腕で拭い……コクッと頷いた。

《うおあああああああああっっ!!!》

 

――ついにゲッターとミサイルがぶつかり合った瞬間、この成層圏一体は凄まじい衝撃波と球体のような蒼白い極光が当たり隙間なく覆い尽くした――。
それが地上にも行き届き、まるで太陽が爆発したような錯覚に陥った、しかし幸いにもそこは、島も何もない太平洋沖であったため、周辺の島、そして日本には何の影響もなかった――。

 

………………………

「…………」

歩はゆっくり目覚めた。しかし辺りは真っ白で何も見えない。明らかに自分の住んでいた日本ではなければ、非日常的な景色だ。
しかしその横には……。

「流……君……」

彼も少し離れた場所で漂うように眠っている。彼女はすぐさまそこに向かい揺さぶって起こす。

「……おっ、椎葉……?」
「流君……無事でよかった……」

二人は辺りを見回すも何も見えない――ここは天国か地獄か……その前に自分達は死んでしまったのか――?

「ここ……どこ……」
「さあな……ん?」

二人は互いに姿を見て数秒間黙り込むも、真っ先に声をあげたのは歩だった。

「キャアーーーーッ、あたし達なにも着てないじゃんっ!!」
「うおわ、そう言えばそうだな!!」
「流君、そんなキタナイモノあたしに向けないでぇ!!」
「きたねえとはなんだコラァ!!」
彼女は両手で顔を押さえる踞った……。

その時だった。二人の前方から声のような音が聞こえてくるのを……。
二人はとっさに前を見ると何かが見えてくる。

少しずつ、少しずつ、明らかになり、それに伴い声もちゃんと聞こえるようになる――。

どうやら赤ん坊が元気に産声をあげて、多分夫婦と思われる男と女の姿が。しかし顔はぼやけていて見えない。

「これは……なに?」

二人は黙ってその様子を見はじめた――。

“一岩見て、男の子だよ”

“ああっ、よく頑張ったなアユム……”

夫婦の会話に出た名前を聞いた二人は、目が点になった。

「アユムって……この女の人、わたし!?じゃあとなりの人は……あたしの……」
「一岩……だと……?」
「流君、男の人、知ってるの?」
「……俺の親父の名前じゃねえか……!」
「えっっ!!?」

さらに夫婦の話は続く。

“名前はどうする?アユムが必死で頑張って産んだ子だ、アユムが決めてくれ”

“いい?ならあたし……実はもう決めてあるんだ。
あたし、高一でいじめられてた時に、とある男子の転入生がやってきたんだ、とても不思議な人だった。
その人は行方不明になってどこにいったか分からないけど……あたしを助けてくれたんだ。
心身が誰よりも強くて、優しくて、挫けそうになった時、わたしを励ましてくれて、強くしてくれた。
その人は……あたしの憧れだった。
だからね、悪いけどその人の名前をあやかってつけたいの、あたし達の子供がその人のように強くなってくれることを……名前は『竜馬』って”

“そうか。アユムがつけたいのならそれでいい。俺もアユムのいうその人に近づけるような立派な男に育てる”

《よおし、お前は今日からアユムと一岩の息子、『流竜馬』だあ!!》

――それを聞いた二人は今まで経験したことのないくらいに驚愕、仰天したのだった。

「う、うそ…………でしょっ」
「な……に……っ」
「なら……流君は……っ」
「椎葉は……っ」

瞬間、二人は光に包まれて互いに姿が見えなくなってしまった――。

 

………………………

「アユム、アユム!!」
「お……、お母さん……」

文子の必死の掛け声で目が覚めて起きると見知らぬ部屋の白いベッド、どうやらここは病院のようである――。
身体には包帯やら滅菌ガーゼやらつけられていた、確かに身体中が痛い。

――どうやら重陽子ミサイルが日本に落ちる前に、太平洋上空で爆発したらしく、多少の被害はあったものの、日本壊滅という事態にはならなかったようだ――日本も今、少しずつ落ち着いてきたようである。

看護婦の聞くところによると、自分は近くの沿岸付近で深傷を負って倒れていたらしく、偶然そこを通りかかったとある男子高校生に救出されたと言うのだ。
それから、この最寄りの病院で約二日は眠っていたらしい……。
……歩はふとあることに気づいた。

「な、流君……は?」

誰に聞いてもそんな男性はこの病院にはおろか、全く知らないらしい。後もゲッターというあの巨大ロボットの存在すら知らず、姿どころか残骸すら発見されなかったことだ――。
それで歩はもはや悟った、彼は元の時代へ帰っていったのだと……。

「椎葉さん……ホントによかった……」
「みんな……っ」
歩の病室には園田やエイコ、そして廣瀬が見舞いに駆けつけてくれたのだった。

「なんで椎葉ばかりこんな目に……っ」
「ケド、なんで椎葉さんはあそこの海岸に流れ着いていたのかな……っ?」
エイコが頭を傾げるが、歩はハハッと笑ってごまかした。

「椎葉さん、流は……?」
「…………」
園田の問いに彼女はあえて首を横に振ったのだった。
園田達、特にエイコは酷く落胆した。だが多分、言っても信じてもらえないだろうし、そのくらいに非現実的な出来事であったからだ。

彼女は複雑な気分になった――竜馬の正体について。信じられないことだが、もし本当であるなら――それはそれで凄く嬉しく思えるのだった。

次の日、今度はなんと未来までもが駆けつけてくれた。

「あ、アユム……っ」
「ミキ……っ」

久々の、このような再開に未来から彼女をギュッと抱き締めて涙を流したのだった。

「ミキ、心配しないで。あたしは大丈夫だから」

泣く彼女を歩は気丈に励ました――。

「……大変だったよ。病院の人達が全員が避難するからあたしはお父さんを連れていかなきゃならなかったし……」

「そっかあ。お父さんは?」

「病院に戻ってまた療養してるよ。全く……ホントにアメリカもやってくれるよ、これでもし日本に落ちたらどうするつもりだったんだろ?」

愚痴も含めた楽しい二人の会話が続いた。やはり彼女からも竜馬のことを聞かれたが……彼女は園田達と同じような対応をした――。

 

未来が出ていった後、歩の病室にコンコンとノックする音が、開けると見たことのない男性が立っていた。
短髪の黒髪、黒い学生服を着ているが凄まじいくらいのガタイのいい男性である。どこか竜馬と面影がある。

「椎葉さん……だっけ。無事でよかった」
「あ、あなたは……っ?」
「椎葉さんが海岸で倒れていたのを偶然見つけて、ここまで運んだんだ。大丈夫……?」
「じゃああなたが……ありがとうございます……」
彼はこんな容姿なのにどこかシャイなような所がある。

「あなたの名前は……?」
「教えるほどでも……ないよ」
言うのが恥ずかしそうにモジモジする彼に、

「お願い、教えて。お礼をしたいから……」

すると彼は――。

「流……一岩」
「え……っ」
流一岩。彼女はその名を聞いた時、ドキッとしたのだった、なぜならば――。

「え、俺のこと知ってるの……?」
「い、いや……ハハッ」
二人は話をする内に気が合い、仲良くなった。
気の弱い一岩は自分と同じく元いじめられっ子であり、強くなりたいという思いから空手を始めてから凄く好きになり、これ以外に考えられないというほどにめり込んでいるということだ。

竜馬の超人的な強さの秘訣はここから始まったのだと、歩は知ったのである。

――その夜、歩は病室の窓から快晴の夜空を見ながら想っていた。

(流君、無事に元の時代に帰れたかな……?もしそうならわたしは大丈夫だから心配しないで。

もしかして流君がこの時代に来た理由って……まさかあたしがいじめられるのを知ってて、助けにきたのかな……?
それも今ではわからなくなったけど……実は今日助けてくれた人が来てくれたんだ。
その人ね、多分未来の流君のお父さんだよ。
てことはあたしはその人のお嫁さんになるってことかな……信じられないけどね。
流君と違ってちょっと控え目そうな感じだったけど、確かにどこか似てる雰囲気だった。
あたしと同じでいじめられてたって言ってて、趣味とか話が合ういい人だったから仲良くしていけそう……。本当にこの先で流君を産むことになるんなら……受け入れる、あたし嬉しいから。今まで運命に逆らってばかりだったから、今度はちゃんと従わないとね)

……歩は未来の竜馬に思いを馳せて、

「また……未来で会おうね、流君……ううん、竜馬」

――そう呟くのであった。

 

――そして竜馬は……。

「なにィ、ゲッターに乗れない!?」

彼の時代から13年後。第二の重陽子ミサイル投下による、大量のゲッター線で汚染されて荒廃した地球。インベーダーが蔓延したこの絶望的な世界。
太平洋上のポイント1500の孤島に現れた真ドラゴンが第二の進化を遂げてもはや人類に逃げ場なしの状況である。

その中で、インベーダー掃討をしていた人類部隊の司令艦『バヴェル・タワー』の司令室に、竜馬はいた。
そこには元ゲッターチームの一人であり、彼の復讐対象である現人類インベーダー掃討部隊の総司令、神隼人とそして仲間の車弁慶も居合わせていた。

「どういうつもりだ、隼人!!」
「竜馬、隼人はタワーの艦長としての責任があるんだ!!」

問いつめる竜馬だが、隼人は無言のまま何も言わない。その瞳に隠された強い決意に気づいた彼は、諦めてフッと笑った。

「……どうやら、なにか企んでるようだな。行くぞ弁慶」
「あ、ああっ」
二人は去ろうとした時、竜馬は振り向き拳銃を取り出した。それで彼に復讐を遂げるのかと思いきや、なんと無造作に投げ渡す。

「隼人、こいつは返しておくぜ」
「…………」
隼人は無言で受け取る。しかし竜馬は彼を見つめたままだ。
「隼人、教えてほしいことがある」
「……なんだ?」
ついにその低い声を出す隼人、竜馬も少し間を空けてこう質問した。

「お前の……両親について話してくれないか?」
「……なんだいきなり?お前に何の関係が……?」
「別に詳細なぞどうでもいい。名前だけでも教えてくれ。それぐらいならいいだろ?」
不可解な質問に隼人は黙り込むも、その後、静かに口を開いた。

「両親とはもう20年以上会ってない。悪さしまくって縁切られちまったからな。
父親は竜二という名前だ。母親の名は……」

竜馬はツバを飲み込む、彼の聞きたかったのはそれだった。

「……愛海だ。旧姓が安西」
「…………」
彼の予感は的中した。そう、歩を最後まで敵視したあの愛海の子供がそう、目の前にいるこの男、隼人であったのだ――。
それが分かると竜馬は一瞬、複雑な表情になったがすぐにいつもの態度になった。

「――わかった。それじゃあな」

――こうして竜馬と弁慶は部屋から出ていった。

「竜馬、お前どうしたんだ?」
「なあ弁慶……ワリィがお前の両親も名だけでもいいから教えてくれねえか?」
真ゲッターが格納される格納庫行きの通路を揃って歩く二人。しかし竜馬はまた弁慶に隼人と同じことを聞いた。

「気持ち悪いやつだなお前」
「うるせえ、さっさと教えやがれ!」
竜馬に押しつめられて、困惑する彼も仕方なくそうに答えはじめた。

「俺のオフクロはもう他界してる。オヤジならまだ生きていると思うがずいぶん会ってない。父親が婿養子でな。母親は『車』姓だ。父親の名が……優樹。旧姓が園田だ」
「なんだと……?」
竜馬の足が止まった――。

「どうした竜馬?」
「いや、なんでもねえ。それより早く真ゲッターに乗ろうぜ。早乙女のジジイどもに俺らの底力みせてやらねえとな!!」

……二人はまた歩き出す。

(やはり安西の子供が隼人だったか。弁慶のオヤジが園田で……俺が椎葉の息子……なら羽鳥やそのガキも俺の近くにいるっつうことなのか……?)

なんとも数奇な輪廻である――。

 

そして、孤島の中心部の火山から姿を現す、異形の進化を遂げた真ドラゴン内部では、インベーダーに侵された早乙女博士とあの二人、コーウェンとスティンガーが根城としていた。

「来るがいい愚かな人間どもよ!今日こそお前ら人類の最後だ。
そして我らインベーダーがこの太陽系を支配する、本当の時代になるのだ、うあはははははははっっ!!」

狂ったように高笑いする早乙女博士達だった。

(……すまぬな、達人、ミキよ。お前達の子、ミチルを守れなかったこのワシを許し……いや許してはくれまいだろうな。
だがそれでもやらねばならんのだ、これで竜馬達が打ち勝たねば、人類に本当の未来などないのだから――)

 

――そして竜馬と弁慶は真ゲッターを構成する三機のゲットマシンに乗り込む。

「真イーグル、OKだ!」
「真ベアー、いいぞ!」

二人は操縦レバーをグッと握り込む。

『真イーグル、ベアー、スタンバイ完了です。なお、真ジャガー号はオートパイロットに切り替えました』

隼人はタワーのモニターに映る、邪神と化した真ドラゴンへ目を見据えた。

「真ゲットマシン、発進っ!!」

……ついに発進された各ゲットマシン。カタパルトから飛び出して、まるで島以上の全長を持つ真ドラゴンへ向かっていく――。

(椎葉……まさかお前が俺の母親だったとはな……。
よくお前を守りたい気持ちになったのはそういうことだったのか。
だがよ、俺を生んですぐ病気で死んじまったんだよな、椎葉……ケッ、全く泣かせる話じゃねえか……。俺は一度は親になったお前の姿を見たかったぜ椎葉……いや、オフクロ!!)

――竜馬は様々な思いを胸に、横の合体専用レバーをグッと掴んだ。

「ジジイ、たっぷりと礼をさせてやるぜ。チェンジゲッターワン――――!!」

ゲットマシン同士が合体し、ついに姿を現す早乙女博士が開発した最後のゲッター、真ゲッターロボ。鬼神の姿をしたこの機械の巨人は前方の強大な敵へと勇敢に立ち向かっていった、それは自分達人類が未来を生きるために――。

――果てしなく、遠い明日へ。僕たちは息を切らして向かう。白い光の中、輝きに満ちた朝がきっと、待ってるから――

……fin……