ライフ 第1話

Last-modified: 2010-04-25 (日) 00:48:57

「な ん で あ ん た な の よ ! !」
「あ ん た な ん か い な け れ ば よ か っ た !」
 
…いつからだろう?あれほど仲がよかったのに…。
…いつからだろう?人と友達になるのが怖くなったのは…。
…いつからだろう?自分の体を傷つけるようになったのは…。
…いつからだろう?自分がイジメられるようになったのは…。
…いつからだろう…。
 
「……。」
ここは西館(にしだて)高校。市内でも有名な名門校。
入学式も終わり、新入生達は期待と不安、そして希望に溢れていた。
しかし、その中で全く顔に元気のかけらもない一人の少女がいた。
 
「……。」
椎葉歩(しいばあゆむ)。一見普通の少女だが、実はある出来事で友達との友情が崩壊した過去をもつ。それ以来、友達はおろか、人と話すことすら怖れるようになってしまった…。
(居づらいなぁ…っ、このクラス…。)
ろくにクラスメートと話せないせいか、昼食はいつも1人…。
屋上の片隅が自分の居場所…。
 
「ねえ!あなた何中からきたの?」
 
前の席の子に偶然話かけられた。普通なら明るく返すところだが、
「桜中…」
 
歩はぼそっと答えただけだった。
 
「……」
「……」
「ギブギブ!話つづかねーっ」
前の席の子はあきらめてどこかへいってしまった。
 
歩はすぐに顔をふせてしまう。
(めんどくさい!消えたい!みんな消えてほしい…っ)
 
4月15日
新入生歓迎遠足
 
「どこで食べるー?」
「あっちの広いとこいこーよ!」
新入生達は友達と一緒にワイワイと騒いでいるなか、歩は一人、草むらのなかでうずくまっていた。
「ーあたしには向こうの世界がまぶしいや」
歩は水筒のふたにお茶を注ぐと張り詰めたお茶を見つめていた。
 
ぽちゃん
 
お茶に一滴のしずくが落ちた。それは情けなくなった歩の瞳から流れた涙だった。
(や だ な ぁ …)
歩はお茶を豪快に飲み始めた。お茶の筋が口からこぼれていた。
 
(?)
 
歩の視線に、一人のとても笑顔が似合う美少女がお茶を飲んでいた歩を上から覗きこんでいた。
 
「椎葉さんだよネ?同じクラスの安西愛海(あんざいまなみ)でーす☆」
「あっ…あ、ハイ」歩はあせり、動揺していた。
 
「一緒におべんとたべよ!」
突然の誘いに歩は戸惑った。
(……どっどうしよう…あたしなんかと食べても楽しくないと思うけどな…)
 
  
そんな歩の考えを知る由もなく少女、愛海は歩のそばに座り込み、弁当を出し始めた。
 
「あーん☆」
愛海は自分の卵焼きを歩の口に持っていくと、歩は震えながらも卵焼きを口にした。
 
すると
「おっ…おいしい…」
歩の心に変化があった。
今まで真っ暗だった心が少しずつだが光が差し込んできたのだ。
 
愛海は屈託のない笑みをしていた。
「でしょー?うちの卵焼きは絶品なんだからぁっ!」
(なっ何…っ?光が…)
「?」
「うっ、ううんっ、何でもない…」
(きらきらして見えた)
その日から歩は愛海としゃべるようになった。
愛海と一緒にプリクラを取ったりしたり、一緒に昼食を食べるようになったりと 今まで一人ぼっちだった歩にとっては輝かしい毎日だった。
ある日のこと
 
「アユム、来てたのぉ?こっちおいでよぉー!」
友達と話していた愛海に呼ばれてアユムを照れ笑った。
 
「うっ…うん!」
すると
「もーすごいのー!ケモノ状態?生○だってつっこんでくるしー、タオル血だけけになるしー!」
「……」
高校生らしく、そっち系の話しに盛り上がる中、歩は経験がないためか話についていけなかった。
 
「マナミの彼氏はカツミくんだもんなー。ヒニンもちゃんとしてくれそーだ」
「カンペキよー!」
「すげっー」
話はさらにエスカレートし、
 
「ぶっちゃけ中出しー!」
「やばっ!」
歩はついに耐えきれなくなり、愛海に謝ってその場から離れてしまった。
 
(逃げちゃった…。あーゆー話ってなれないなー…)
歩は仕方なく屋上の隅に行き、ゆっくりと座りこんだ。
 
(落ち着く…愛海に嫌われたくないって思うと、顔色ばっか見ちゃうなぁ…)
 
ゆっくりしていると上からユラっと何かが動いたのを感じ、歩はそっと覗いた。
「!」
そこには晴天の空を眺めている一人の美少女がいた。
それは愛海、いやそれ以上の美しさをまとった、大人の風格を感じ少女だった。
「クス」
少女は歩を見るとニコニコしながら見ている。
 
「しっ失礼します!」
歩は顔を真っ赤にして一目散に逃げ出した。
 
「うわーーーっ!笑われたっ!」
歩は少し離れると、あの少女を遠くから見つめた。
 
(同じクラスの…羽鳥さんだっけ…あんなふうにひとりでいても堂々とできたらいいなぁ…)
 
ある日の放課後のこと
 
「マナもHしたい…」
突然の発言に歩はドキッとした。
「えっ!?ヒニンもカンペキって…」
「あーーん!声大きいよぉ!ナイショ!」
 
愛海は小声でこういった
 
「実はさ…まだカツミくんとはHしてないの…付き合って半年もたつのにさぁ…みんなの前じゃ言えなくて…」
 
(そうなんだぁ…)
「だからアユムはみんなにナイショよ!」
 
すると愛海は小指を歩に突き出した。
「なに?」
 
「約束同盟だよ☆約束のゆびきりね!」
(こーゆートコ!かわいーなー)
 
歩も笑いながら小指を出し、愛海の小指を交差させた。
 
「ゆーびーきーりげーんまーん♪」
「うーそつーいたーらはーりせーんぼんのーますっ♪」
 
ゆ び き っ た♪
 
ガラッ!
誰かが教室に入ってきた。それはあの時屋上にいた美少女、羽鳥だった。
 
「……」
 
羽鳥は机に置いてあったカバンを持つと無言で出て行った。
(キレーだなぁ…)
「あの人には気をつけなよ」
「えっ?」
愛海は羽鳥に聞こえないようにけしかけた。
 
「外でヤバいことやってんだって」
「ヤバいことって…援交とか薬とか?」
愛海から聞いた話によると、羽鳥はいつも違う男を連れ歩いたり、中学はほとんど行かなかったらしい。
 
(そっかぁ…イイ人に見えたんだけどな…)
 
「悪リィ!遅くなったー!」
「キャー!カツミくん☆」
 
教室に入ってきたのは愛海の彼氏で学年一の秀才のイケメン人気者、佐古克己(さこかつみ)だった。克己は走ってきたのか、ずい分汗だくだった。
 
「じゃあアユム、私帰るねぇ☆また明日ねぇ!バイバイ!」
愛海はそうゆうと教室から出て行った。歩は幸せそうな愛海を見て、微笑ましかった。
「うらやましいなぁ…好きな人とかいたけど、いつも見てるだけだったんもんなぁ…」
 
(付き合うとかHとかまだわかんないけど、ゆっくりでいいからあんなふうになりたいな…)
 
夜19時半
歩は用事があり、暗くなるまで学校に止まっていた。
 
(やっと終わったぁ…早く帰ってご飯食べなきゃ…)
  
歩は帰る支度をして校庭へ出た。
今日の夜はとても晴れていた。月が満月で星が宝石のような輝きを発し、散りばめていた。
 
そんな中、歩は変な予感をしていた。
(何だろう…いやな予感がするけど…)
歩は空を見上げた。すると、黒い粒みたいなものが校庭に向かって落ちてきていた。
 
「!!?」
 
歩はびっくりしてその場から離れた。黒い粒は地上に近づくにつれて、少しずつ大きくなってきた。
大きいなんてモノじゃない、学校をはるかに超える、巨大な隕石みたいなモノだった。
 
ゴオオ!
強力な突風が巻き起こり、砂嵐が歩を襲う。
 
「きゃあああああ!」
目の前は砂埃で何も見えない。歩は全く状況が掴めない。
「前が全く見えない…」
 
しばらくして砂埃も消え、視界が良くなった。
 
「…なっ…何っ…これ…?」
 
歩の目の前には信じられないものがあった。
 
それは高層ビル並の巨大な体、風になびく漆黒のマント、月明かりに照らされたモノは日本神話に登場する鬼の顔をした巨人が我が物顔で仁王立ちしていた。
 
「あっ…あっ……」
歩は漆黒の巨人の前に恐怖ですくみ上がっていた。
 
(こっ…こわい…こわい…こわい!)
 
ガシャア!
突然、巨人の口が開いた。
ストっ!
口から人らしきモノは飛び出し、地上へ着地した。
「おいっ!そこの女!ちいと聞きてえことがある!!」
 
人らしきものはちょくちょくと歩に近づいてきた。
歩は恐怖で動けなかった。