ガラっ!!
職員室に入ってきたのは克己だった。
「先生、今日の提出分の課題プリントです。」
爽やかな笑顔でプリントを渡す克己。
「ありがと。やっぱお前は頼りになるなぁ!」
「いえいえっ。」
「佐古くん、期末対策はどお?」
「いやぁ…まだ8割程度で…」
「本当かぁ?オマエの8割はこわいなぁ」
職員室では克己の話で持ちきりだった。
「いいですねー。田崎先生のクラスは佐古くんがいてー」
「戸田先生こそ、おたくには羽鳥とあのクラス1の流がいるじゃないですか?」
「……だめですよ羽鳥さんは。成績はいいですけど学校ほとんど来てないし…流君は…」
「まああいつは学校の窓ガラスを割るような問題生徒ですからなぁ…この学校で前代未聞なことをしでかした奴ですよ。」
……………………………。
あれから数日。竜馬は教室の窓ガラスを割ったことにより、1週間の謹慎処分を受けてしまい学校にこなくなった。
……………………………。
「このカバンはだっれのっカナ♪」
「あー?きたねーなー?誰の?」
「わかんなあーい★キャハハハハハハ。」
歩のカバンを漁る愛海達。
「!」
歩が気づいたが時すでに遅し。愛海が歩の携帯を取り出した。中身を見て、クスッと笑う。
「なにこのケータイ?見てよ、メモリ全然入ってないのぉーっ!」
「友達いないんじゃーーん!キャハハハハハハ!」
「生きてて楽しーのかなーコイツーっ!」
歩に対して暴言と言うべき言葉を吐きまくる愛海達をよそに手を震わせる歩。
「いらない」
歩は愛海に啖呵を切った。
「……あんたたちみたいのが友達っていうんなら…いらないほうがマシ。」
それを聞いた愛海は歩の携帯を歩に向けて投げた。
ガンっ!と歩の頭に直撃し、携帯は地面に跳ね返る。
歩は何も言わずに転がっている携帯を取ろうとした。
だんっ!
携帯をさしのべた手が愛海の足の下敷きになった。
「……っ!」
ついに逆上した歩は愛海をイスから押し倒した。
“キャアアア!”
「!?」
廊下で叫び声を聞きつけた戸田は急いで教室に入ってきた。
「何があったのよ?」
戸田が見ると机がなぎ倒されていて、押さえられている歩と愛海達がいた。
「…椎葉さんが安西さんを殴ろうとしてみんなで止めたんです……」
クラス全員の視線が歩に集中する。
「あたしはっ…!」
歩が反論しようとするが、
「安西さんは悪くないんです。」
この言葉にクラス中が便乗して歩を責める。
「そーだよね、もともと悪いのは椎葉さんだよー。色んなイミで…」
戸田は溜め息をつき、間を置いてこう言った。
「椎葉さんは放課後、職員室に来なさい。」
その言葉に歩の肩は力が抜けたようにガクンと落とす。そんな歩を見えないところでクスッと笑う愛海。
ーー放課後ーー
「………。」
歩は無言で職員室の前に立っていた。正直、不安が彼女の心を支配していた。
(……何言われるんだろっ…?)
ガラッ!
突然、職員室のドアが開いた。そのいたのは克己だった。
「!」
歩は一歩後ずさるが克己はそれを見てクスッと笑う。
「やあ、椎葉さんも質問に来たの?」
「………」
克己は歩の髪を優しくさわる。
「…髪…切ったんだね……ボク好みだなァ…」
歩はすぐに振りほどく。しかし一向に克己の態度は平然だった。
「もしわからないことがあったら、いつでもボクのところにおいでよ。」
そして最後にこう言い放った。
「時間をたっぷりかけて調教してあげるからねぇ…」
「……っ!」
歩は職員室に入り、すぐにドアを閉めた。
「だから苦労するんだよねぇ…劣等生は…」
不敵な笑みを浮かべながら克己は去って行った。
一方、歩は戸田の前に立たされていた。戸田はなにやら本を見ていた。多分、学級日誌だろう。それを見終わると優しい笑顔で歩の方を見た。
「そんなに緊張しないで?椎葉さんを責めるために呼んだわけじゃないから…。
ただ、何があったのかなと思って…。」
歩は黙り込む。いじめを受けていると言うのが恥ずかしいのもあるが、言って、先生に話したことが愛海達にバレたら…。
そんな思いが歩の頭の中で交差していた。
「…なんでもないです…。」
歩はぼそっとそう答えた。戸田も顔色を変えた。
「そう…じゃあ、悪いのは椎葉さんなのね?」
その言葉に歩の目から涙が込み上げてきた。自分が悪いのか…いや、自分が悪くない、自分は間違ったことはしていない。
その気持ちを誰かに伝えたかった。歩は勇気を振り絞って震える口を少しずつ開けた。
「あたし…あたしの机…安西さんに窓から捨てられたんです…。あんたの席ないからって…。」
その言葉に戸田は表情を変えた。ため息をつき、落ち込んだ表情を見せた。歩は言ったら何か解決口が開けるのかなと少し、戸田の言葉に待ち続けた。
しかし…戸田のクスッと笑い、歩に笑った表情を見せた。そしてその表情から出た言葉は歩を失望させる言葉だった。
「嘘は駄目よ嘘は…。」
顔の表情といい、言葉といい、聞く人の態度か?
歩は感情は剥き出しにし、戸田に大声を上げた。
「嘘じゃありません!!安西さんだけじゃない!!クラスみんなに誤解されているんです。変なウワサ流されたり、教科書がなくなったり!!」
戸田は歩の手を握り、落ちつかせる。
「状況がよく掴めないの。椎葉さんの話だけではわからないわ。
もう一度安西さんと話し合ってみて?」
戸田は歩の手を離すと今もなお平然と笑った顔をしている。
「社会に出たらそうゆうのはいくらでもあるのよね…合わない人とも一緒に働かなきゃいけないし…。
他人と折り合いをつけていかなきゃだめなのよ。学校っていうのはそうゆう人間関係を学ぶ場でもあると思うの。」
歩は悔しさ、恥ずかしさでいっぱいだった。何を期待していたのだろう…言わなきゃよかったと…歩の頭はそれでいっぱいだった。
歩はそのまま戸田に背を向け、物凄い勢いで職員室を出ていこうとする。
「椎葉さん!?待って、話が!」
戸田は立ち上がったが、運悪くそこに重ねてあった資料にぶつかり、床にばらまいてしまった。
歩はそのままドアを乱暴に閉めて出ていった。
職員室にいる教員全ては戸田に視線を向ける。それをただ黙々と拾う戸田。
「大丈夫ですか…。」
副担任の平岡が一緒に資料を拾う。
「椎葉さん…何があったんですか?」
平岡の問いに戸田は穏やかな口調でこう言った。
「気にすることないですよ。副担任なんですから、平岡先生は…。」
「でも…もう少し事情をきいてあげてもよかったんじゃ…もし、椎葉さんがいじめられてるとしたら…。」
戸田は間を置き、平岡を否定するかのような事を言った。
「わたしはそういう思いこみで指導するのは嫌いなんです。
仮にもし、そうだとしてもあなたが解決できるとでも?」
平岡は顔を赤くしてしゅんと小さくなった。
「…すみません…。」
落ちこんだ平岡はそのまま自分の机に向かった。
すると教員達から何やら変な声が聞こえてきた。
“まーたやってるわよ。平岡先生”
“なんかズレてんのよねーあの人”
“他人に口出ししてる場合じゃないわよね。自分の仕事もままならないのに…。”
平岡は机に座ると手をぎゅっと強く握りしめた。
……………………………
一方、歩は廊下を一目散に走っていた。
ドンっと一人の男子生徒に当たってしまった。
「あっ…椎葉さん…?」
男子生徒はどうやら歩のクラスメートのようだ。男子生徒は歩の顔を見ると、涙が浮かび上がっているのがわかった。
歩は謝りもせずに、そのまま走り去っていった。
……………………………
帰り道、歩は落ち込んだ顔でトボトボ歩いていた。
(はぁ…羽鳥さんと流君は謹慎とバイトで学校にいないし…誰も信じてくれない…。一体誰を信じればいいのかなぁ…。)
歩は歩いていると、大きなお寺に出くわした。しかも何か出そうな雰囲気だった。
(あれっ、こんなとこにお寺なんかあったっけ…?しかも気味が悪いよぉ…。)
歩は寺から立ち去ろうとした。
しかし
「ようねえちゃん!一人かぁ?」
「俺らと一緒に遊ばねぇ?」
ガラの悪そうな男が歩に近づいてきた。
歩はびっくりして少しずつ後ずさる。
「けっ結構です…。」
しかし男はさらに歩を追い詰めるように近づいてくる。
「いいじゃねえかよ?俺たちとイイコトしようぜ?」
ガシッと男達は歩の手を握る。
「いやあああっ!やめてぇ!!」
激しく抵抗する歩に男達は興奮する。
「まあまあ暴れんなよ。俺達と楽しく遊ぼうっていっただけじゃねえか?」
歩は気づいていた。男達はそんなこと言っているが何されるか分かったもんじゃないと…。
歩は激しく抵抗するが手を掴まれている上に女子高生が男二人に力で勝てるわけがない。
(誰かあ!!助けてよぉ!!)
歩は泣き叫び出した。男達は歩の口を押さえて連れていこうとした。
すると
「やめなさい!」
寺の方から声がして男達は振り向くと寺の門から1人のお坊さんが近づいてきた。お坊さん?いや、かなり若い。しかも髪型はツインテールで女性に見えるような顔立ちだった。
「あなた方、その人を離しなさい。嫌がってるではありませんか?」
男達はそのお坊さん(?)に目を向けるとニヤニヤしながら向かっていった。
「お前、坊主か?」
「髪が坊主でなくツインテールとか…女か。」
男達は聞くと、首を振る。
「私は…女ではありません。
空蓮寺少僧、爆烈!!」
空 海 坊 爆 烈 と 申 し ま す !
ズコーン
“ぎゃん!!”
男達は突然、吹き飛ばさて数メートル先の地面に叩きつけられた。
歩は爆烈と名乗る男を見て、その場に座り込んで唖然としている。
(なっ何この人…。)
爆烈は歩に近づくと手を差しのべた。
「大丈夫ですか?さあ立ち上がって。」
穏やかな顔をしている爆烈を前に歩は顔を赤くした。
「あっありがとうごさいます…。」
「最近物騒ですからあまり1人で歩かないようにしたほうがいいですね。」
ブオーン!!
車の音が聞こえ、歩達が振り向くとそこにさっきの男達が自動車に乗ってこっちに向いている。
「もう怒ったぜ!!こうなったら二人とも引いてやる!」
「この近くには人は全くいねえ!引いてもばれねえだろうぜ!」
男はアクセル踏み、物凄いスピードで歩に突進してきた。
それを見て歩は恐怖で震えてるが爆烈は首をコキコキっと鳴らしている。
「危ないから後ろに下がって。」
爆烈は歩を後ろに回した。
「危ないですよ!このままじゃああたし達は!!」
歩の忠告を振り切り、爆烈は全神経を集中させた。
「ムハっ!」
爆烈は拳を構えると何やらオーラらしきものが出てきた。
自動車はもう歩達のそばに迫ってきている。あと数メートルまで迫ったところで爆烈は拳を前につきだした。
爆烈の拳が音速を超えた…その時!!
す べ て の も の は 爆 烈 ! !
ド ワ オ ! !
強烈な爆発音と共に歩は光で前が見えない。一体何があったのか…。