ライフ 第23話

Last-modified: 2010-12-04 (土) 12:07:19

「…………」
歩は体中が恐怖で震えている。それはそうだ。正真正銘本物の銃、しかもショットガンが自分の後ろで撃とうものなら恐怖の何事でもなかった。

 

羽鳥はそんな歩を見て、青白い顔色をしていた。
「流、他に手錠をとる方法はないの!?」

 

「無理だな。鎖だから専用の道具でないと切れねえ。しかも見てみろ、こっちにもう煙が入ってきてやがる。早く脱出するためにはこうするかねえ。」

 

煙がついに歩達のいる部屋に入ってくる。火の魔の手がもうこっちに近づいて来ている証拠だ。

 

「ゲホっ!ゲホっ!」
歩は煙を吸い込みひどく咳き込んだ。

 

「時間がねえ。行くぞ!!」

 

竜馬はトリガーを握り込んだ。

 

「ちょっ!やっぱ怖い!!」
歩は大声で叫ぶ。こんなに鎖が動いていれば銃口がズレて下手したら歩の命が危ない。

 

すると竜馬は腰をおろし、歩の顔を見つめた。

 

「椎葉、よく聞け。お前が暴れるのは勝手だが隣に羽鳥がいるのも忘れるんじゃねえぞ。」

 

「なっ流君…。」

 

「あとなぁ、もし俺がこれを知らなければお前らは酷い目にあってたんだぞ。てめえだって最悪の事態を覚悟をしていたハズだ。
これで助かると思えばこんなことぐらい我慢しやがれ!」
「……。」

 

すると竜馬は立ち上がると銃口を鎖に押し当てた。

 

「心配すんな。ヘマはしねえよ。」
自信満々な顔をしている竜馬を見て、歩はついに顔が和らいだ。

 

「覚悟を決めたな。よし行くぞ!」

 

竜馬は狙いを定め、トリガーを引いた。

 

《スバァアン!!》

 

弾丸は鎖に直撃し、歩に取りついていた手錠がついに外れた。

 

「とっとれたっ…。」
歩は嬉しくなり、涙がこらえ切れなくなりまんべんの涙が溢れ出た。

 

《スバァアン!!》

 

竜馬は同じように羽鳥の手錠を破壊するとすぐに二人を立ち上がらせた。
「よし、すぐに脱出するぞ。死にたくなかったら俺についてこい!」
二人はコクッと頷くと三人は部屋から急いで出ていった。
……………………………
その頃、薗田もついさっき到着し、病院の異変に気づいた薗田は急いで病院に入っていった。
急いで階段を登っていく薗田。

 

「しっ椎葉さん!羽鳥さん!どこなんだ!!」
すると廊下付近で煙の中、ゆっくり歩く人影が見えた。
それを見て、薗田は驚愕しその人影に向かった。
「椎葉さん!?」
しかしそこにいたのは…。

 

「なんで…お前がいるんだよ…薗田!!」
そう、その人影の姿はアキラだった。痛手を追ったアキラは逃げ遅れ、ただ一人脱出しようとしていたのだった。

 

「ひいっ!!」
あの忌まわしい記憶が甦る。そう…自分を転校にまで追いやった張本人がまた目の前で再会してしまったのだから…。
薗田は恐怖で顔を歪ませ、後退り始める。

 

「久しぶりだなぁ…薗田…あの時以来だな…。」アキラはニヤニヤしながら薗田に向かってきている。薗田は恐怖にかられて動けなかった。

 

「ここに来ているってことは…さてはあいつらを助けにきたな…。」
アキラは薗田のもとにたどり着くと両手で薗田の首を掴んだ。

 

「おもしれぇ…。」
アキラは首を掴んだまま、薗田を壁に押し付けた。

 

「4人まとめて消してやらぁ!」
……………………………
一方、竜馬達は業火が迫る病院内を走っていた。
「お前ら大丈夫か?」
「うん!」
「流、この道であってんの!?」
「心配すんな!」
三人は階段付近に到着した。が、火災の影響か、上の階が崩れて階段への道をふさいでいた。

 

「ちいっ!これじゃあ通れそうにないぜ!!」
「流君、どうするの!?」

 

「お前ら、俺の後ろに回れ!」
「「?」」
二人は言われた通りに竜馬の背後に回った。一方、竜馬はまたコートに手を偲ばせると今度は何やら幅が太い筒上の物を取り出した。

 

「破片が飛ぶかもしれん、そこの隅に隠れていろ!」
竜馬が取り出した物…それはさっきのショットガンよりも幅が大きく、全長はショットガンよりも短いがその重量感丸出しのフォルムが存在感を出している。その姿はいうなら『大砲』である。
それは竜馬用に携帯用にコンパクト化された『スティンガー』と呼ばれるバズーカであった。
竜馬はコートにある拳大程の弾薬を装填すると障害物に狙いを定めた。
そして!

 

《ドワっ!!》

 

トリガーを引いた瞬間、強烈な音と共に弾丸は発射し、目標物に着弾、強烈な爆発を起こした。
爆風が閉まっていた窓のガラスを砕き、外へ突き抜けた。

 

爆風が治まると着弾部分は全部とは言えないが人が通れるほどの道が発生していた。

 

「よっしゃあ、二人とも行くぞ!」
竜馬がそう言うと隅に隠れていた二人が出てきた。

 

「流…あんた、いったいナニモノ?」
「それより今はここから出ることを考えろ!」
三人は急いで階段を降りるとすぐそこに男子トイレがあったので竜馬は二人をそこに誘導させた。

 

「ここにいればしばらくは安心だ。ここでじっとしていやがれ!間違っても出るんじゃねえぞ!」」
竜馬はそう言い残すと二人を残して出ていった。
「なっ流!?」
「流君!いきなりどうしたの!?」
二人はワケが分からなかった。何も言わずに出ていくなんて…。

 

「まさか…流、あたしらを置いて逃げたんじゃあ!」
「まっまさか!?流君はそんなことするはずないよ!!」
「じゃあなんであたしらに何も言わずに置いて出ていくのよ!?」
「そ…それは…。」
二人はどうすればいいのか分からなかった。今はここまで火の魔の手は来てないが、いつここに到達するかは時間の問題だった。

 

二人は途方に暮れていると

 

《早く死にやがれ!!》
「?」
歩は突然、かすかな声を聞きつけた。

 

「ちっ近くに誰かがいる!!」
そういうと歩はトイレから出ていった。

 

「しっ椎葉!?」
羽鳥は急いで歩を追いかける。

 

“声がしたのは…この階の下だ!”
歩は急いで階段を降りた。するとそこには…。

 

「薗田くんっ!?」
視線の先にはアキラに首を絞められて苦しがっている薗田の姿があった。歩の声に二人とも歩の存在に気づいた。

 

「!!」
「…椎…葉さ…」
アキラは薗田を地面に叩きつけると狙いを歩達につけた。

 

「…生きてやがったのか…」
歩達は恐怖で後退る。アキラはぐっと歩を睨み付けた。

 

「さっさとくたばれや!」

 

アキラは歩に掴み掛かると拳を構えた。

 

「ーーーーっ!」

 

《ガッ!!》

 

鈍い打撲音と共に、倒れたのは歩ではアキラだった。

 

「!?」

 

歩は前を見ると鉄パイプを持った薗田の姿があった。

 

「…こいつはオレがなんとかするから…早く逃げてくれ!!」

 

そう言うと薗田はアキラにのしかかり、髪と体を掴んで地面に押さえつける。
歩達は必死でアキラを押さえつけている薗田を見て薗田を信じ、無言で走り去っていった。

 
 

「…ヒーロー気取りかよ…負け犬薗田が!!」

 

アキラは力ずくで薗田を振り飛ばした。薗田はすぐに立ち上がった。しかし、

 

《バキッ!》

 

アキラは薗田の顔面に拳をいれ、メガネが吹き飛んだ。

 

悶絶している薗田の顔をぐっと掴むと拳を振り上げた。

 

「お前を戻してやるよ。あのころにな!!」

 

アキラは拳を薗田に向けて押し出した。
しかし薗田はアキラのパンチを避け、アキラの胸ぐらを掴んだ。そして!
《ガシャーーンっ!》

 

胸ぐらを掴んだまま、窓に向かって突き出した。ガラスは割れ、アキラは窓の外へ飛び出した。

 

「はあっ…はあっ」

 

かろうじて胸ぐらを掴んで落下を防いでいるアキラ。しかし落下という恐怖で顔が真っ青だった。

 

「ーーはっ…な…せ…!」
しかし、薗田は押し出し、アキラの落下の危険性が高まった。

 

「やめろーーっ!!」

 

アキラは大声で叫ぶ。すると黙っていた薗田が口を開いた。

 

「…オマエ…人がどんだけ傷ついたのかわかってんのかよ…?」

 

それを聞いて、アキラの顔は追い詰められたような表情をしていた。

 

「…悪かったよ……許してくれよ…。」
アキラは薗田に許しを乞う。
しかし、薗田から出た言葉は…。

 

「オマエを殺したよ…何度も…。」
アキラは薗田の顔を見た。そこには…。

 

“頭 の 中 で 何 度 も オ マ エ を 殺 し た よ”
アキラは恐怖に蝕われてその拍子でアキラはさらに下に滑っていった。しかし同時に薗田の腕を掴み、道連れにしようとした。

 

《ドサッ!!》

 

ついに落下。薗田は間一髪、窓枠を掴んで落下は防いだ。下を見るとアキラと思われる人物が倒れたまま全く動かなかった。

 

「~~~~っ!」
薗田は廊下に戻ると辺りを見回した。

 

「しっ…椎葉さん…!」薗田は椎葉達が去っていった方向へ走り出した。
一方、歩達は必死で出口を探していた。

 

「道が塞がれてて分かんないよ!!」
「もうあたしらに逃げ道なんてない!」

 

そう…あのあと男子トイレに戻ろうとしたが火災がついにそこまで来ていてそこから逃げるしか方法がなくさまよっていたのだった。
「どうしよう!このままじゃあ…。」
「くっそっ!流の奴はどこにいったんだ…。」
そう言っていると、

 

「椎葉さん!羽鳥さん!」
向こうから薗田が走ってきた。

 

「薗田君!!あいつは!?」
「もう心配ない!出口へ向かおう!」
「けどもう道は塞がれて逃げ道がないよ!」
上の階が崩れて道という道が全て塞がれていたのだった。あるのは来た道しかなかった。しかし、火災がある以上、戻るのは自殺行為だった。

 

「このままじゃあたし達死んじゃう!」
「そう言えば流は来てなかった?」
「来たけどあいつはあたしらを置いて何処かへ消えたよ!」
「なんだって!?あいつ、なに考えてんだ?」
「話している暇なんてないよ!!早く出口を探さないと!」
言い争っていると、

 

《ゴオオオ!》
来た道から火を纏った突風が歩達の方へ向かってきた。

 

“うわああああっ!”

 

物凄いスピードでこちらに向かってくる。歩達はもうだめかと思い、覚悟を決めた。

 

次の瞬間!

 

《ドガアアアッ!》

 

歩の目の前に不思議なことが起こった。なんと目の前にあった病院の廊下が全部崩れ、外の景色が現れた。しかし、そこには三人を激震させるとてつもないモノの姿があった。

 
 

《な ん な ん だ こ れ は あ あ あ あ あ あ っ ! ! 》

 

三人が揃って大声をあげた。そこにあったのは巨大な体に風にたなびく真っ黒いマフラー、そして金属板を多数、重ね合わせたフェイスマスクをつけた鬼のようなロボット…。
そう、あの『ゲッターロボ』の姿があった。

 
 

歩はこれを見て、あることを思い出した。
そう、それは西館高校に入学してきた際、ある夜の校庭に現れた巨人のことを…。

 

三人…とりわけ歩はその姿に恐怖という恐怖に襲われて身体をガクガク震えていた。