ライフ 第27話

Last-modified: 2011-03-20 (日) 06:58:01

「…………。」
 
戸田が黙々と職員室で仕事を進めている。しかし頭の中にはあの一言がちらついて仕事に集中出来なかった。
 
“先生はあたしの気持ちを考えてくれたことがありますか?”
 
戸田の顔色はどんどん悪くなっていき…、
 
「あの子が全部悪いに決まっているじゃない!!」
 
大声を張り上げ、バンっと机を力任せに手を叩きつけた。
 
《ガシャーン!!》
 
びっくりして後ろを見ると花瓶が割れて水浸しと破片がばらまかれて、それを見て驚いた表情の平岡が立ちすくんでいた。
「あ…ぶないじゃないの!!」
 
「す…すいません!!」
急いで片付ける平岡とそれを怖い顔で睨み付けている戸田。職員室の教師達はその二人を見つめていた。
 
「……。」
 
それを気付いた戸田は落ち着きを取り戻す。
 
「あ、あとはよろしくお願いします。わたし、安西さんの様子見てきますから……。」
 
そういい告げると、戸田は職員室からさっさと出ていった。
「……あーあ、かなりキちゃってんなァ戸田さん。」
 
「ムリもないやね。」
 
「ったく…、いい加減迷惑ですよ。どーなってんだ今年の一年は…。」
 
教師達は不満や哀れみの言葉を洩らす。今までこのような事はなかったのだから。
 
……………………………
その頃、愛海は保健室の扉を開けて、キョロキョロ見渡している。
 
ちょうど愛海の容態を見に来た戸田がその様子を目にした。
戸田は愛海の向かおうとした。しかし
 
「クックッ…。」
 
《!?》
 
戸田は見てしまった。狂気のような笑みを浮かべた愛海の顔を。
 
愛海を追おうとしたが、ふと保健室を覗くと何かがおかしい。開けてみると…。
 
「ひいっ!!」
 
戸田の顔は真っ青になり、壁に寄りかかった。ベッドが真っ赤に染まり、中央にハサミが突き刺さっていたのだから…。
 
……………………………
「犯人は絶対安西だよ。」
 
歩と羽鳥は帰りながら、事件について話していた。
「…よく考えたら、佐古とウチらがつづけて狙われるなんて不自然じゃない?
狩野たちは事件いくつも起こしてるようなヤツらだし、本当に偶然だってこともあるかもしれないもしれない。」
 
少し間を置いた後、羽鳥は振り向いて歩を見つめた。
 
「でもわたしには安西が犯人としか思えない。」
すると黙り込んでいた歩が口を開いた。
 
「……あたし、このまま終わらせたくない。絶対、あんなヤツにだけは負けない!!絶対!!」
 
その言葉には怒りとある種の決意を込めた発言だった。そう、愛海の汚いやり方に真っ向から立ち向かうと言う決意を。
 
……………………………
その頃、教室では事件の事を聞き、エミ達は驚愕していた。
「じゃあ……廃墟のもカツミくんのもアキラが犯人だってことかよ……。」
 
驚きと焦りが募り、冷静にいられなかった。
 
「イミわかんねー!!なんでアキラがカツミくんを!?
逆恨みかよ!?アキラ、マナのことが好きだったよな!?」
「知るかよ!理由なんて!!」
 
「…ヒロなら何か知っているかな…ほら、同中だし…。」
 
《ガラッ!!》
 
教室の入り口が開くと同時にヒロが帰ってきた。
「……。」
「……。」
 
無言のまま自分の席に行くヒロ。黙り込むエミ達。空気が悪くなる一方だった。
 
「…マナ…犯人扱いされて落ち込んでたよ。」
 
ヒロの一言にエミも勇気を出して、口を開いた。
「まさかマナがアキラに頼んだりしてないよね?」
 
「……。」
 
二人とも震えている。エミはヒロに少しずつ近づく。
 
「ちがうよね…ねえヒロ…。」
エミはヒロの肩に触ろうとした。しかし、
 
《パーーン!》
ヒロはエミの手を払いのけ、エミ達を睨み付けた。
 
「…マナのことを疑うつもり?それでも友達なの?」
辺りに静寂と重苦しい空気が教室内にどよめく。
……………………………
同時刻、愛海は変えろうと外に出ていた。持っていたミラーを取り出すと、笑顔で髪を整る。
 
「超ビビっちゃって…ハサミ見たときのヒロの顔ったら…。」
『アイツもバカだから扱いやすいわぁ★』
 
すると、
 
「あっ…安西さん…?」愛海の前に現れたのは戸田だった。必死で探していたのか息が少し荒れている。
 
「…大丈夫だったかしら?」
意味がわからず、ポカーンとなる愛海。
 
「…いや、その…すごいことになっていたから…保健室が…。」
すると愛海は驚いた表情をとった。
 
「もしかしてアレ?アレみたんですか先生っ?」口を押さえて笑いだす愛海。
「もーチョーーびっくりしましたよぉ。
誰かいるのかなーと思って…カーテンを開けたらあんな状態で……。
ひどいイタズラする人がいるんですねーー。」
愛海の屈託のない笑顔にホッと安心する。
 
「誰か他に見た人はいるの?」
「それが保健室の先生いなくて…田崎先生が手当てしてくれて、カバンも教室から持ってきてくれたんです。
でもそのあとはすぐ行っちゃったから……。
あっ…。わたしっ片づけなくてごめんなさい!」
半泣きで戸田によりすがる愛海。
 
「いっいいのよそんなの!それよりケガをお大事にね。」
すると愛海は笑顔でお辞儀をした。
 
「気をつけて帰ります。」
そのまま去っていく愛海を見つめる戸田。しかし、あの時の狂気の笑顔が頭のなかでちらついていた。
 
「気のせいよね…あれ…本当に椎葉さんになぐられたのよね…?」
 
(ピクッ)
一瞬立ち止まる愛海。後ろを向くと戸田は背を向けて去っていった。
振り返ると愛海の顔は笑顔から一転して怒りに満ちた表情に変貌していた。
「マナを疑うことなんて二度とできなくなるわよ。」
……………………………
帰り道、愛海は公園に通りすがった。中を覗くと小さな子供達が砂場で楽しく砂遊びをしていた。
「……。」
突然、愛海はカバンを投げ捨て、全力ダッシュで子供達がいる砂場に突撃した。
 
《ドゴーーっ!!》
「わーーーーッ!!」
 
子供達は悲鳴を上げる。愛海は子供が作った砂山を頭からダイブした。
愛海の頭は完全に砂に埋もれ、全く動こうとしない。
 
「……?」
 
男の子が不思議がって、持っていたスコップを愛海の腕をつついてみる。
《ずぼーーっ!!》
突然、愛海は頭を起こし、泥まみれとなった頭をまるで犬の如く、頭を振る。
立ち上がると投げ捨てたカバンを拾い、去ろうとした。
 
「~~~~!!」
遊んでいた子供の一人が怖くて泣いてしまった。それで怒った男の子がスコップを愛海に投げつけた。
 
《スコーーン!》
愛海の頭に直撃した。立ち止まると愛海は振り返り、子供達をグッと睨み付けた。
 
「ひっ!」
男の子は急に怖くなり後退り始めた。
愛海はスコップを握りしめるとそれをブランコに向けて投げつけた。
スコップはブランコに直撃し、ブランブラン揺れている。愛海は手をコキコキ鳴らしながら公園を去っていった。
子供達はあまりの恐怖に全員がその場で泣き出してしまった。
 
……………………………
「愛海!!?」
愛海の両親は娘の姿を見て驚いた。身体中、泥まみれで汚れていたのだから。
 
「…いったいなにが…なにがあったんだ…?」
父親は震えながら愛海を優しく触る。愛海の身体はブルブル震えている。
「……パパ、もう学校行きたくない…。」
 
愛海はその場で泣き崩れた。そして泣き声でこう告げた。
 
《マナいじめられてるの…。》
 
それを聞いた父親はあまりの衝撃にブルブル震えていた。
 
「愛海…なんてかわいそうに…。」
 
父親は愛海にぎゅっと抱きしめる。
 
「わしのかわいいマナちゃんをいじめるなんて…。」
 
父親は顔は徐々に憤怒の顔に変貌する。
 
「このワシが絶対に許さんからな!!!」
 
その中で愛海はニヤリと顔を笑わせていた。