――街の駅、入り口付近で未来が笑顔で手を振っている。
歩はそれに気付き、走っていく。
彼女はリュックサックであんまり荷物はなさそうだった。まあ、一泊2日だけなのだからそんなにいらないが。
二人が改札へ行こうとしている同時刻、改札口にて、
「イワちゃんは?」
「えっ……来てないの?」
愛海たちもそこにいた。エミとチカはムスッとしている愛海を説得し、電話をかけようと必死である。
――そんな中、歩達も三人の存在を知らずに近づいていく、しかしこのままでは確実にご対面してしまう。
その時だった。
「アユム!!」
突然、未来が歩を引き止めて、ある場所へ引っ張っていく。そこは……。
「弁当、買おうよ♪」
「……」
売店でこんなに食べるのかと思うくらい沢山、買い込む彼女を歩は完全に呆れている。
「ミキ買いすぎっ!!」
「だっておかしも食べたいじゃん」
……弁当のほかに、おかしやらお饅頭やら袋詰めで買い込んだ未来。その中にはお土産も混じっていると思うが。
二人は人目を気にせず、プラットホームへの階段を走るようにかけ上がっていく。
そりゃあそうだ、あと発車まで数分くらいしかなかったからだ。
しかし、買い込んだ物が明らかに走る彼女らを邪魔していた。
「あぁ!!」
未来は階段の途中で荷物をボトボト落としてしまう。
急いで拾おうとするが荷物が邪魔すぎて手間取っている。
「ああっ……やっちゃった」
そう言いながら、必死で拾っていると、
「落としましたよ」
顔をあげると一人の男性が笑顔で落とした物を差し出していた。
その男性は二人と同年代くらいの若者で短髪、金原の爽やか系の若者だった。
「あっ、ありがとうございます」
「いえいえ、こんなに買ってスゴいですね」
恥ずかしいのか、あの未来が顔を赤くしている。
こんなに若いのに不思議と紳士的だ。
そんなやり取りを歩も顔をニンマリしながら見ていたのだった。
「ミキ……っ」
そんな中、
「おーい、達人。なにしてんだぁ、乗り遅れるぞ!」
プラットホームにいる友人と思わしき声が彼を呼んでいる。
「なら、失礼します。お気をつけて」
達人という若者はすぐに彼女から去っていった。
未来はまるで惹かれたかように瞳で見ている。
「いい人みたいだね……」
「……今どきいないタイプだけど、あたし、ああゆう男の人が好きかも……」
――歩はそんな未来を見て、微笑ましい目で見ていた。
……一方、プラットホームでは。
「……なんでイワちゃんも連れてこなかったワケ?」
「……でっでも、あと40分もあるよ?絶対来るって?」
非常に不機嫌である愛海をなだめる二人の顔には、緊張という言葉が合う。
……実際は彼女たちも、行きたくはなかったのだから。
“ピロロロッ!”
エミの携帯に着信が入る。見ると“岩本咲”、……イワからだった。
「きっ、きたよ!!」
エミは愛海からこそこそ隠れて 電話をし出す。
(もしもしイワちゃん?なにやってんの!?3人で行こうって約束したじゃん!!)
“……行きたくない……”
元気のないイワにしびれを切らしたエミはついに……。
「マナぁ、イワちゃんもーすぐ来るって!!”
“ちょっとエミ!!?バカじゃないの!?」
「行かないなら自分で言えば?」
“マナと旅行なんて死んでもイヤ!!今、アイツの顔だけは死んでも見たくない、吐き気がする!”
携帯を取り上げて直接聞いていた愛海の顔が徐々に憤怒の顔へと変貌。
《ブチィ!!》
通話を切られて、彼女はかぶっていたゴージャスなハットの飾りを強引に引きちぎったのだった。
「「ええっ!!??」」
完全に怒り狂った愛海は、自分たちが行く先とは別方向の電車に乗り込み、ズカズカと長い車両を歩いていく。
しかも、彼女の行く先にある席には……。
「マナ、違う電車だよ!!乗るの!?」
「さっさとここから離れたいの」
先にある左側の空席を見つけてすぐに向かう彼女だが、右側の席ではあの二人、歩と未来が美味しそうに買った弁当を食べている。
「空いてるじゃん、あそこ」
……緊迫の雰囲気になりそうな予感。しかし、互いの存在は全く知らない。一体どうなるのか……。
と思いきや、
「良かった、空いてたぁ♪」
偶然、先にその席を見つけた客に座り込まれ、彼女は歯ぎしりを立てた。
「あったよ席!!」
エミに促されて、愛海は前の車両に戻った――。
発車し、歩の見る外の景色は街から郊外となり、山や森などの自然でいっぱいとなった。
「ミキはどれくらいぶりなの?」
「……小学校のころはそこにいたんだ?お父さんとお母さんが離婚して……わたしはおじいちゃん家に預けられたの。
……だから故郷みたいなモンかな?」
「…………」
話をしている内に、次の駅に到着したもつかぬ間、愛海はともかくエミたちは焦りに焦っていた。
「この電車じゃダメなの!!このままじゃ、マナパパの別荘に行けないんだってば!」
「ここで乗りかえなきゃマズイの!!」
そんな状況にも関わらず、愛海はビールとつまみを持ちながらゆっくりと席に居すわっていた。
「早く!!もー行き先も見ないでイキナリ電車乗るからぁ!」
彼女を無理やり下車させようと引っ張り、降りさせたのだが、
「やだっ!ちょっと!!」
彼女のスカートが不覚にも、ドアに挟まってしまい……。
《ビリィーーーっ!》
「キャア!」
発車と同時にスカートが破けてしまい、倒れこんだ同時に周りの人に、パンツ丸見えと言うはしたない姿を露呈する結果になった。
“クスクス……”
その恥ずかしさと惨めさで彼女の顔は酷いくらいに歪んでいたのであった。
……電車の中では、歩が彼女の叫び声を聞いて窓をずっと眺めていた。
「……今の声、安西に似てた……」
「いるわけないじゃん!」
冗談だと思い、笑っていた未来も未だに気になり続ける歩に、持っていたペットボトルを軽く頭に当てた。
「忘れなよ。……広瀬も今はあんな状態だけど、きっとなにか話してくれると思うよ。
…たった2日間だけどさぁ、考えなくていいよ。安西のことも学校のことも……」
そして彼女は歩を方を見て、笑顔でこう諭した。
「忘れちゃいなよ!」
そう言われても、歩の顔は何か腑に落ちない表情をしていた。
……………………………………
そして、いくつかの乗りかえをして目的地に到着した二人。
彼女らのいた街とは正反対で本当の田舎だ。オシャレなお店のカフェも何もない。
しかし、空気は遥かにあそこより綺麗だ。
駅員に切符を渡して、そとに出ると、そこには。
「……ミキ?」
甚平を着用した金髪の美青年が彼女たちの前に現れた。
未来はすぐさま彼に抱きつき、再会を分かち合っていた。歩はワケが分からず、ボーッとしていた。が、
「アユム!!」
未来の声で我を取り戻し、前を見ると二人とも歩の方を見ていた。
「直人(なおと)!幼なじみなんだ!」
「……はじめまして……」
「タメだからフツーでいいんだよ!」
そう言い、歩もその直人という青年を見つめる。
ハッキリ言ってイケメンすぎる。いままで見たことのないみたいほどに。
「……」
そんな彼が彼女を笑顔で見つめる。よく見ると未来と直人を並んでみたらこう思えた。
“お似合いだ……”
……そんなわけで、三人は長い畦道を歩いて行く。
見たら田んぼと山、川、それしかなかった。
店は……あるにはあるのだが、そこまでいくのに非常に遠すぎる。
そんな所だ。
未来達は楽しく話をしながら歩いている。多分、今までの思い出についてだろう。
そんな二人を歩はどこか羨ましい目で見つめていた。
……しばらく山道を歩いていると、
「……つちくら……こふん……?」
何やら朽ち果てた看板ともに分岐道があった。
すると未来は振り向いて、彼女にこう説明した。
「この先にいくと土暗古墳(どぐらこふん)ていう古墳があってね。
この辺に人を襲っては食べてしまう怪物がいたんだって。
その怪物がここに閉じ込められているらしいんだけど……まあ古い話なんだけどね」
「……」
土暗……どぐら、ドグラ……おかしな名前だ。
おとぎ話らしいので気にしないだろうが、そんな怪物がいたと思うとぞっとする歩なのであった。