――二日後の昼前。歩は再び町の中のある噴水のある広場に立っていた。
誰かと待ち合わせしているようだが……。
「ああ……っ、ドキドキしてきたなぁ……」
フリフリのワンピースを着用し、少し化粧もしている彼女は誰を待っているのだろうか?未来か、はたまた薗田か?
しかし、今回は違う。なぜなら予想だにもしない『あの男』であった。
「よお椎葉」
「な、流君……こんにちわ……」
現れたのはなんと竜馬である。彼は私服であるが、夏にも関わらず紺色の長袖であり両腕にはしっかり傷を隠した包帯を巻かれている。
……まるで刺青を隠したヤクザのようである。
「お前が俺を誘うたあどんな風の吹きまわしだ?」
「…………」
――なんでこんなことになったのだろうか。思い返せば歩があの時薗田と別れた後、帰る途中で彼にあったのだ。
軽い程度の会話をした後、別れようとした直後、歩が何を考えたのか……。
「あ、明後日、どこか行かないっ!?」
「……」
そこからは全く覚えてない。だが彼女から誘ったのは事実だ、それで彼もちゃんと来てくれるとは思わなかった。
「……」
「……」
二人は並んで町中を歩くが凄く気まずい。はっきりいって薗田の時以上の気まずさだ。
竜馬はそっぽ向きながら歩の隣に歩いている。
しかし、一番の気まずい原因は周りの目だ。変な目で見られているのは一目瞭然だ。
はっきり言って二人は全く釣り合ってない。
背がちいさくて、元々幼い顔立ちである歩に対しこの男、竜馬は言っては悪いが日本人であるけども
非常にそのガタイの良い体格に加えて濃い顔立ちでいわゆる『悪人顔』に近い部類である。
そしてその風貌から、端から見たら『ヤクザ、チンピラかどうか知らないが危なそうな奴に無理矢理捕まった哀れな少女』と思われていることだろう――。
「おい、お前どこか行くあてがあるのか?」
「えっ……?」
「とぼけてんじゃねえよ。誘ったのはそっちだろ?」
――全く考えていなかった。それより早くこの空気を打開しなければ。
「ね、ねえ……とりあえずどこか入ろうよ……もう昼だし……あそこのファミレス」
「……別にかまわねえが」
二人は近くのファミレスに入店。昼間なので結構客が入り込んでいる。
席については歩ともちろん、竜馬は煙草は吸わないと言うが座れればどこでもいいと言う。
二人は空いていた喫煙席に向き合うように座り込んだ。
立ててあったメニューを取り、顔を埋める彼女。一方竜馬は肘をついて、もうひとつのメニューを目を細くして見ている。
(流君って一体どんなの食べるんだろ――?)
竜馬のことについては全く不明だ。何が好きで何が嫌いか、趣味はなんなのか――とりあえず身近な疑問は好きな食べ物から知るという確かに今はベストである。
「決まったか?」
「えっ、ちょっとまだ……」
ふためく彼女に彼はため息をついた。
「なあ、何そんなに緊張してんだよ」
「……」
――当たり前だ。初対面なら絶対に言葉を交わすことどころか、歩からなら絶対に避けるだろう、そのぐらいの別雰囲気を持つ二人が今はここにいるのである――。
「早くしろよ」
「うん……」
――そしてやっとこさ決めて、机に置いてあるチャイムボタンを押した。
「ご注文は何に致しますか?」
少し経ち、ウェイトレスが笑顔でやってくる。
「椎葉から言え」
「ええっと、ならカルボナーラで」
ウェイトレスがまず彼女の注文をデバイスに打ち込んだ。
「俺は――」
何を頼むのか、彼女はドキドキする。
「生ビール中と鳥の唐揚げでいいわ」
「びっ、ビールっっ!?」
昼間から、しかもファミレスでいきなり酒を頼むという竜馬に彼女は唖然とした。
「なんだよ、俺の勝手だろ」
「そ、それはそうだけど……っ」
「じゃあそれ以上は何も言うな。このふたつでいい」
「かしこまりました。ではご注文を確認させて頂きます。カルボナーラが一つ、生ビール中が一つ、鳥の唐揚げでよろしかったですか?」
「は、はい……」
歩は頷いてしまった、了解しウェイトレスは厨房へ去っていった。
……再び二人は沈黙する。周りの客は楽しく会話しているのにこっちだけ別空間だ。
中にはこの二人の様子をひそひそ話しながらチラ見する客もいる。
「……流君?」
ついに耐えきれなくなった彼女は彼に呼びかけた。
「な、流君って携帯持って、ないの?」
「携帯?んなもん持たねえよ、誰にもかける奴なんざいねえし。代わりに俺にはこれがあるんだ」
「腕……時計?」
竜馬は左腕につけられた腕時計を彼女に見せる。
……見たことのないブランド品だ。しかし竜馬は未来人なのでこの先、様々なブランドメーカーが誕生していったのだろう。
「これ、実は通信機になっててよ。ここのボタンを押すと通信できるんだけどよ、さすがにこの時代にはこれと通じる機械なんてねえしなあ」
……耳を傾けるとラジオのような「ザーザーっ」とノイズが聞こえる。彼女は驚いた。
「未来から来たんだよね、流君は……」
「ああっ、1ヶ月前にゲッターロボを見せたばかりじゃねえか」
……ゲッターロボ。彼女の脳裏にトラウマが蘇る。あの事件もあるが乗っただけで酷いに遭ったあんな殺人的な巨大ロボット……よくあんな代物を未来から持ってこれたと不思議に思う。
「あの……ゲッターって巨大ロボット、あの山にまだ置いてあるの?」
「隠せる場所はこの近辺じゃ、あそこしかねえし、それにいざというときには近くにあったほうがいい。まああの時みたいに使う状況にまで至るかどうかだがな」
「…………」
……歩はとっさに話題を変えようと考え、
「……そういえばね、わたしつい最近、旅行に行ってたの。ミキの実家に!」
「……ミキって誰だ?」
「あっ……、えっと羽鳥さん!」
「なんだ羽鳥か」
竜馬は軽く笑みを浮かべた。
「椎葉、よかったな」
「よ、よかった?」
「お前、ここ最近まで友達いなくて安西達にボロカスにされてたのにな、今は下の名前で呼び合うようなダチができてよぉ」
「流君……」
「あいつは外見どころか人間的にもできた奴だ、お前が成長したのもあいつのおかげかもな。羽鳥と出会えたお前は幸運だぜ、ホント大切にしろよ」
あの彼に誉められて心がポッと暖かくなり、恥ずかしながらも笑顔になる。
「うん……けど流君のおかげもあるよ。流君がいなかったら、あたし今頃ほんと――」
「これでお前にいちいち忠告とかしなくても済みそうで清々したぜ」
すると、歩は竜馬にこう質問した。
「流君の時代に友達はいたの?」
「…………」
――しかし竜馬は答えようとしない。黙り込む彼に疑問と不安感が起こる。
「……ダチといるよりゲッター絡みの腐れ縁って奴らならいた。まあその内の一人とはここ来るまでは多少ワケアリだったがな」
「…………」
彼らしくなく言い渋る竜馬――。
「ごめん、ちょっとトイレ……」
席を後にし、お手洗いに向かう歩。
事を済ませ、手洗い場で手を洗う歩は少ししんみりとしていた。
(あたし、流君にまずいこと聞いちゃったかな……)
――席に戻ると、すでに頼んだ食事が置かれていた。
「きたんだ」
「よし、食べるか」
「うん。ならいただきます」
歩はフォークを使って上手くパスタを絡み取り、パクっと口に入れた。
竜馬は例のビールを味わうようにゆっくり飲み、唐揚げを一口で頬張る。
「……ビールっておいしいの?」
「おいしいというより大人の味っつう奴かな」
「流君って高校生なのにお酒頼んでも年齢確認聞かれなかったよね……ププッククク」
相手から成人だと思われていた竜馬。そう思うと笑いが込み上がるのだった――。
「おい、どういう意味だオラ」
「ぴいっ!!」
「まあいい。俺もう二十八だし――」
「え?今なんて……」
「おっ、いやなんでもねえよ」
黙々と食べる二人だが――。
「ところで椎葉って今まで彼氏とかいたのか?」
突然彼らしくないことを聞かれて、ビクッと反応した。
「彼氏……いないよ。好きな人は中学の先輩でいたけどいつも見てるだけで想いを伝えられなかった……告白する勇気なんてなかったから」
「ふうん」
「流君って彼女とかいたの?」
「前にもいったが小さい頃からお前みたいに『マトモ』な人生歩んでねえって。女っ気なんざ俺の周りには全くなかったよ。まあ、俺も気になる相手なら、いたぐれえかな」
自分が見る限りでは女性とか興味なさそうな竜馬もそう言う健全な面があったのかと――。
「どんな人なの?」
「前に話したゲッターロボを作った、早乙女賢の娘で『ミチル』って人だ――」
「ミチルさん……かあ、流君も気になる人ってことはよほどいい女性なんだね」
「ああっ、優しくて美人で、俺らゲッターチームのアイドル的存在だったな……」
「……だった?」
「――ところで次にどこに行くんだ?」
突然、話題を変えた竜馬とさっきに会話に何か引っかかる歩であったが、あまり聞かれたくない事なのだろうと悟り、これ以上はやめておこうと決めた――。
「次は……街の中を歩こうよ。そしたらどこか入りたいお店あるかもしれないし、流君は行きたいとこないの?」
「…………」
彼の様子を見るからになさそうである――。
「椎葉に誘われたからには今日はお前に付き合ってやるとするか」
「あ、ありがとう。けどごめんね、急に誘ったりなんかして……」
「なんで謝る必要なんかあんだ?俺も暇だったし。互いに知らない同士なんだからいい機会じゃねえか」
「いい機会って……まさか……あわわ……」
よからぬことを想像した彼女は赤面して顔を両手で隠した。
「ば、バカヤロウ、勘違いすんな、そんなつもりねえよ!!」
「…………」
――食べ終わり、二人は入口へ行き精算。恋人でもない二人は自分の食べた料理分の金額を出して外に出る二人。
「じゃあ、町案内頼むぜ椎葉」
「うん――」
……歩と竜馬。果たして異質なこの組み合わせにこれからどうなるか――。