ライフ 第44話

Last-modified: 2013-12-07 (土) 22:01:21

(みんな、みんな、いなくなっちゃう!)
歩が嘆いていた時、背中に誰かの手が置かれた。その人物とは、

「……なにやってんのよ」

未来であった。しかし彼女はバイトの衣装なのか、なんとバニーガールの姿であり、その美貌を持て余すことのないセクシーさを誇っていた。

「ミキ……ミキ、ほんとに……?」

歩は彼女の顔に、まるで本物かどうか確かめるように優しく触れた。

「アユム、どうしたの?」

「いなくなっちゃう、廣瀬も先生も……平岡先生が他の学校に飛ばされちゃったの……」

「うそ……?」

未来は耳を疑った。しかし歩が嘘をついているとも信じられず、証拠に泣きながら取り乱していた。
その時、豪快な笑い声が彼女達の近くより聞こえる。
見るとあの男、そう……平岡を権力で飛ばした張本人、そして愛海の父親である有力者、安西富美男と二人の部下達であった。

「今夜はワシのおごりだ、思う存分楽しんでいいぞ!!」

彼らは『CLUB J』と呼ばれる、キャバクラ形式のクラブバーに入っていった。そしてここは未来の今のバイト先であった。

「チッ……ヤな客が来やがった……」

蔭からこっそり見る彼女の顔は、実に嫌悪感丸出しであった。

「とにかく入んな、大丈夫だから!」

未来は彼女を連れて見せに戻っていく――。

《カンパーイ!!》

彼らは盃を上げて、一斉に盛り上がる。席には数人の、未来と同じバニーガール姿の女性店員が彼らの接待をしている。

「いや~君達は運がいいなぁ、このテーブルにつけるなんて幸せだぞォ?
何を隠そうこちらの安西社長は県会議員としても大活躍!!
今度の市長選も当選マチガイナシって方なんだからね~~っ!」

「すごーい♪」

部下がおだてにおだてる、が当人はしれっと酒を呑んでいる。

「……まあ、そんな話はいいだろう、今日はお祝いなんだ。さ、君たちも飲みなさい」

――その光景を店員の控え室内のドアから様子見をしている未来。すると――。

「いやあ、全く呆れるわい……、担任も持てんような新米の女教師がだよ?あつかましくしゃしゃり出てきおってな」

この話にしょぼんとしていた歩の耳にも届き、すぐに彼女の元へいった。

「こともあろうにウチの娘をイジメの主犯に仕立てあげようとしおったんだ!」

彼女達はそれが何の話なのか一瞬で分かった。

(平岡先生のことだ……)

様子見をする彼女らの存在など知らない彼はさらに続けた。

「かわいそうに……娘は深く傷ついてなぁ……でも親の前では笑うんだよ、“ヘーキだよ”ってなぁ……。
ワシを悲しませまいと強がりおって……もうワシは見ておれんで……なんとかしてやらんと思ってなぁ……!!」

涙ぐむ富美男に全員が注目していた。

「それでどうしたんですか……」

彼は酒のつまみであるスナック菓子一粒を持つと指で前に弾き飛ばしたのだった。

「とばしてやったわ」

歩達は耳を疑った。そして怒涛の如く憤怒した。

「ほんと、そーゆーね、無能でバカな教師がひとりいると汚れてしまうモンですよね、学校てのは!!」

そして何事もなかったように再び騒ぎまくる彼らに彼女はついに堪えきれなくなり、拳をこれでもかという程に握りしめ、飛び出そうとした。が、未来はそんな彼女を取り押さえた。

「なんでミキ、放してよ!!あいつが先生をっ!!」

沈黙する彼女は歩を離し、ロッカーからあるものを取り出した。

「だったらやることがある」

歩に渡されたのは、なんと自分が今、着ているのと同じバニーガールの衣装であった。

「……え?」

「着替えなっていってんの!」

歩の顔は一気に真っ赤になった。こんな露出度の高い衣装なんか今まで着たことがないのにムチャクチャだ。

「む、ムリムリっ!!あたしこんなの着たことないよお!!」

しかし未来は無理矢理、歩を試着室に押し込んだ。

「平岡の仇、討ちたくないの!?」

カーテンを閉められる。彼女は羞恥心でいっぱいだ、しかしこんな状況で逃げられるハズもなく、そして仇討ちという言葉が彼女の心を揺らした。

……そして数分後、

「お、いいね。カワイイじゃん」

ついにバニーガールの姿になった歩。ウサミミのついたカチューシャをつけ、蝶ネクタイのついた首飾り、白く丸いシッポのついた露出度の高い、黒ハイレグに網目のストッキング……童顔で背の小さい彼女の場合、バニーというより、ラビットな意味で凄く似合っていた。

これなら誰から見てもバニーガールと思われてるだろう。
ほぼ露出した胸を恥ずかしそうに隠す歩。そんな彼女の緊張を解そうと未来は優しく触れた。

「わたしは消えたりしないよ」

歩のつけていたリストバンドを外し、店専用のリストバンドを着け直す。

「あんたが言ってくれたよね、あの時……うれしかった」

二人が夏休みの時、未来の田舎からの帰り、蛍達で輝く駅で歩が彼女にいった言葉、

『あたしはミキのそばにいるよ』。

「すごくうれしかった」

歩にハイヒールを履き替えしながらこう言った。

「わたしもアユムのそばにいるよ」

彼女の見せた優しい笑みに歩は嬉しくて大粒の涙を流した。
「ちゃんといるからね」

「うん……」

そして二人は立ち上がり、今からの自分達の行動に気を引き締めた。

「さあ行くよ!!」

――一方、酔った富美男は調子づいて、女性店員にセクハラ行為を働き、受けた本人は悲鳴を上げた。直ぐ様ウェイターが仲介に入る。

「困りますお客様!!うちはそういう店ではないんで……」

「ああぁ?いいだろうちょっとくらい!!このワシがわざわざこんなさびれた店に来てやっとるんだぞ~~っ!!」

騒ぎ騒いでいると、未来が色気満々な雰囲気を纏い、彼の前に現れた。

「お時間ですのであたし、『レナ』が変わります、よろしくね♪」

その豊潤な胸を強調し、セクシーポーズをしかける彼女に、男性陣は釘付けだ。
「……ふん、いいか」

これには彼も落ち着き、再び座席に座り込む。

「じゃあまずは、レナと社長さんの……おちかづきのし・る・し♪」

――未来は両手を後ろへ回し、背中と衣装に挟み込んだ強力接着剤を器用にウサミミカチューシャに塗り込み、それを富美男の頭を被せた。

「ヤダ、かーわいい♪」

かわいいと呼ばれた彼は恥ずかしくなり、

「バカにするなっ!」

すぐさまカチューシャを取ろうとするも。
「やっはりいい男はなにやってもサマになるなあ!」

「いよっ、仕事もできるカワイイ男!!」

「モテますぞぉ♪」
部下におだてられて気をよくした富美男は取るのやめた。

「そうかそうか?」

すると一人のバニーガールが酒をのせたトレーを持ちながらやってくるが、ずっこけて全てを富美男にぶちまけた。その場にいる全員が唖然とした。

「キャーーッ、すみませんっっ!」

――歩であった。ずぶ濡れになった彼は、当然のごとく激昂した。

「キサマ!!」

未来は慌てて立ち上がり、なだめようとする。が、彼女は別方向に向き、すぐ手を振って合図を送ると、視線の先に待機していた店長がそばのブレーカーを切った。
店内は一瞬で真っ暗闇になり、富美男と部下は慌てる。

「オイ、なんだ、停電か!?」

「ここからサービスタイム♪」

未来はおしぼりを濡れた彼の顔を優しく拭く。

「今夜は社長さんのためだけに……トクベツに店長にお願いしておいたの。ごめんなさいね、こんなに濡らしちゃって……」

「い、いやあ……」

流石は未来。持ち前の美貌と色気、そして甘く、巧みなトークで容易く落とすテクニック。すでに富美男は彼女にゾッコンであった。

「今からなんでもオーケーよ……?」

身体を密着させて甘い吐息を溢す彼女に彼は完全に堕ちた。

「な、な、なんでも……?」

「そっ♪社長さんの好きなコト、ぜ~~んぶ、してイイんだよ♪」

その気になった彼はついに獣になった――。

「レナちゃ~~んっ!!」

その時、非常用ベルが店内に鳴り響いたのだった。

「火事です!!ロッカールームから火災が!!」

歩の叫び声に当然、辺りは大パニック。しかしこれはウソであるが、客である彼らはそれは知るよしもなく、

「大変、逃げて!!」

「そ、そんなあ……イヤだ、ワシはこれからレナちゃんと……」

「社長!!」

暗闇の中、 彼らは店から飛び出した。

「おい、おまえら無事か!?」

部下達は富美男の声に反応に目を向けると、ナゼか笑いが吹き出した。
ウサミミもあるが、ネクタイがズボンのベルトに巻き付けられて、いわゆる『社会の窓』が全開どころかズボンがメチャクチャになり、下着を露出、靴も片方しか履いてなく、もはや有力者とは見るかげもないブサマな姿に成り果てていた。
周りの人間も注目、 指差して笑う中、

「なにやってるんですか安西さん……」

一人の中年女性が呆れた顔をしている。

「だ、だれ……?」

「バカ、後援会長の奥さんだ!!社長の最大の支援者の!!」

一番見られてはいけない人物に目撃された瞬間であった。

「信じられませんわっ!市長になろうお方が!!」

「いやっ、これは……」

急いで服を直そうと焦るが、カチューシャだけはナゼか頭に引っ付いて取れない。

「と、とれん!!」

当然である、そのカチューシャには未来が細工した、強力接着剤付きなのだから。

その光景にもはや見かねた彼女はその場から去ろうとした。しかし、富美男は誤解を解こうと追いかけようとするが、哀れクチャクチャになったズボンが足に引っかかり、ついにはそれさえも脱げてしまう倒れこんだ。
彼がとっさにすがった手の先は何と彼女のスカート。
ずり下げて、彼女の下着までも露出させてしまった。

「不潔!!」

持っていたハンドバッグで殴られて、彼女は激怒して去っていった。そしてその場で愕然と崩れ落ちる彼と慌てる部下。
これで信用も、がた落ちしたことだろう。
その様子を陰からこっそり見届けた歩と未来は喜び、互いにタッチした。

一連の出来事は全て、店員や店長までもがグルで行った行為であり、見事平岡の代わって復讐の完遂である。