ライフ 第46話

Last-modified: 2013-12-20 (金) 21:45:33

ここは川沿いの未来のバイト先である飲食店。主にイタリア料理を振る舞う個人店である。
夕方になり、段々客が入り込むようになり、店内はほぼ満員である。

「お待ちどうさま!!」

未来はいつも通りにフル稼働で働いている。そして彼女の人気は非常に高かった。美人であり、尚且つ気配り上手、そしてトークにも長けていたら当たり前だ。証拠に彼女目的でこの店にくる人もいるくらいだ。

いつものように出来た料理を運ぶ未来。満面の笑みで料理を運んでいると。

「うわっ!」

近くの座席からコップが割れる音が聞こえ、直ぐ様彼女は向かった。
どうやら手を滑らせたのか通路側にコップが落ちて、見事にバラバラになっていた。

「すいません!」

「いえいえ、おケガありませんか?」

落とした本人だと思われる客と彼女は顔を合わせた。すると、

「あれ?」

「えっ?」

どこかで見たことのある男性の顔。それは夏休み、歩と実家に行こうとして電車に駆け込もうとして、階段で荷物を落とした時に拾ってくれた男性……。

「君は電車の時の……」

「お客さんは……っ」

本当に偶然であった。達人(たつひと)、彼の名である。
驚く二人、そして同じ席に座っていた友人達はポカンと見ていた。

「達人、しってんのか?」

「ああ、前にちょっとな」

「こんな美人店員さんと知り合いだなんてお前、流石は天才博士の息子だな」

「違うよ飛鳥、彼女とは前に落とし物を拾っただけだ」

達人をおちょくる友人達。

「こいつの父親はマジで天才なんだぜ、なんつったってエネルギー分野の権威で世界的に認められてる早乙女賢博士のご子息ナンだからな!こいつも親父の後を継ぐために医学の勉強してんだから」

「それは凄いですね」

「あ、ちなみに俺、飛鳥了(あすかりょう)。こいつ、早乙女達人とは中学からの腐れ縁、よろしく、んで横のこいつは不動明(ふどうあきら)」

「よろしく」

各人の自己紹介する飛鳥という彼の友人はなかなか口達者な、金髪の碧眼をしたハーフのような青年である。

「お客さん達は高校生?」

「うん、南高の」

それを聞いた未来はびっくり仰天した。

「み、南高っていったら県内でもトップクラスの名門校じゃないですか!?」

「俺と不動はスポーツ特待生で達人は実力入学だから、達人のほうがずっと頭いいよ」

「その代わり俺は飛鳥達と違ってスポーツ得意じゃないからな」

「だから俺らで弱点を補う仲ってヤツ、なーー?」

未来はおもわず笑う。彼らの話は面白く、付き合う彼女。

「あ、まだ仕事中だし、そろそろ」

「悪いね、頑張って!」

互いに笑顔で手を振り、彼女はウェイター、達人達は食事しながら楽しんだ――。
数十分後、達人の携帯から着信音が入り、見るとどうやら父親からのようだ――。

「ちょっと電話してくる」
「おっ、女かあ?」
「ちげーよ、父さんからだよ!」

彼は外に出て、電話をする。

「なに、父さん……え、俺も研究所に…………うん、確かにそうだけど……」

何やら重要な話をしているようだ。それが数分間続く。

「分かったよ。今友達とメシ食ってるから――」
電話を切ると、フウとため息をつく。すると――。

「どうしたの、友達が待ってるよ」

振り向くと未来の姿が。

「ああ、ありがとう」
「この前はありがとね」

彼女からお礼を言われて照れる達人。

「いやぁ、当たり前のことをしたまでだよ。にしてもアノ時、スゴイ量だったね。今離れてもいいの?」
「交代で休憩中♪」
――二人は星空の下、話を始める。

「へえ、羽鳥さんて言うんだ。高校生?」
「うん、西舘高。たしか早乙女君だったよね、すごい名前!」
「はは、けど羽鳥って名前、何か大金持ちそうな感じ」
「あたしは貧乏人だよ。そういえば早乙女君のお父さん、スゴイ人なんだって?」
「まあね、けど父さんは父さん、俺は俺だよ――まあ、目指す先なんだけど」

二人の会話がどんどん進む。
「父さんさ、何年後か先に長野県の浅間山に建設される研究所で働けっていうんだよ、お前のためだってね」
「いいお父さんなんだね……」
「ちょっと頑固で親バカな所があるけどね――」
……彼の父親である早乙女博士は、先の未来で地球全土を救い、そして揺るがす、恐るべき大事件を引き起こす張本人になろうとは、二人は知るよしもなかった。

「羽鳥さんとこのご両親は何してるの?」
「…………」

彼女は黙り込んだ。達人は何か聞いてはいけないことなのか、心配してしまった。

「ゴメン、聞いたらいけなかった?」

「ううん、あたしお父さんと二人で暮らしてるんだけど、少し心臓が悪くてね――」
「心臓……どんな病気?俺、医学勉強中だから多少なら分かるかも」

未来は話すと、達人は驚き口を押さえた。

「これは……日本で治せるのは何人いるかだぞ……」
「……」
「いつ悪化するか分からないよ、早く専門医を紹介してもらったほうが――」

「その為にお金が必要なんだ、生活費も稼がなきゃいけないし……父は仕事も休みがちだし――いっぱいバイトしないとね」

「えっ、もしかして結構掛け持ちしてるの?」
「うん、いろいろと」

達人は黙り込む。しかし、すぐに頷いた。

「羽鳥さん、今ケータイある?」

「えっ……」

「番号を教えてほしい。父さんに頼めば手術してもらえるかもしれない!」

「え……ええっっ!!?」

彼女は仰天した。まだ出会ってばかりの男性がなぜここまでして……。

「な、なにいってんのよアンタ!!出来るわけないじゃない、第一手術費が……」
「心配しないで、父さんはエネルギー光学専門だけど医者の資格も持ってる一流だからきっと――!」
「け、けど――ケータイ持ってないし……つかなんで知り合ったばかりなのに!!」
「う……ん、なんか感じるんだ……キミを放っておけないってね……お人好しにも程があるよな俺。けど別に何も企んでない、単なる善意だよ」
「……だけど」
「じゃあ……悪いけどペンと紙あるかな?」

未来は言われるままに店内から注文で書くボールペンと紙切れを持ってきて達人に渡した。
すると達人は何やら書き、それを未来に渡した。

「これは……」

「俺の電話番号と住所。もし必要になったら躊躇わず電話してほしい、その時は父さんに話して手術してもらうよう頼んでみる、入院先をちゃんと手配するし費用は最悪でも激安にすることもできる」
「…………」

そんなことを言われても、いくら自分の父親だろうが絶対に認めてもらえないだろうし、色々と問題が出てくる。何よりそこまでやってもらうのは感謝を通り越して、迷惑だ。自分の父親も確実に反対するだろう。

「羽鳥さん、余計なことだけどキミ、もう少し自分のことを考えたほうがいいと思う。
バイトを掛け持ちして体壊したら返って悪循環だよ、羽鳥さんだってホントはもっと自分らしく、楽しく生きたくないの?」

「…………」

彼の言うことは独善的な面もあるが、確かにその通りだ。彼女の心に重くのしかかった。

「……ごめん俺、凄くあつかましくコトした。けど、もし行き詰まったら、遠慮することなく電話して――」

達人は店内に戻っていった。未来は紙切れを見つめる。
場所は……なんと県外でかなり遠い、そうなれば引っ越す以外ない。転校も考えないといけなくなる。

昔の自分なら別に引っ越し、転校でも気にしない。
しかし……今は歩というかけがえのない友達がいる、彼女と離れなければいけないとなると……。

(アユム……っ)

彼女の心を大きく抉りこんだのだ……。