中間テストが近づく中、夜中、歩は自室で勉強していると。
(あ~あっ、ずっと勉強もあきてくるなあ……っ、ちょっと気分転換してこようかな……)
こっそり家から抜け出して外に散歩に出かける。
外は真っ暗闇だ。月が出ておらず、頼りは街灯のみである。
「あまり夜中の外、出歩かないから新鮮だな」
歩は惹かれるような街中へ近づいていく。
そしてもう日が変わった時間帯なのにイルミネーションで溢れて、さらに活気になっている街並み。飲み屋やクラブのキャッチ達が出回っている。
ただここで警察や学校の教師に見つかれば面倒なことになる。彼女は見つからないことを祈りながら街に近づいていった。
彼女は、その景色、雰囲気をまるで未知の世界に入ったかのような気分だった。
「よおネエチャン、ワシと今から付き合わない~♪」
酔っ払いに声をかけられて、彼女は血の気が引いた。
「け、結構です!!」
とっさに逃げ出す彼女。先を見ると道路の片隅に酔っ払いが座り込んでいた。しかしよく見ると、服装が西舘高校の制服である。
(あれ……西舘高の……誰……?)
足を止めて近づくとそれはなんと……竜馬だった。
「な、流君!!」
彼女は仰天し、すぐさま彼を揺さぶった。
「……お、椎葉じゃねえか~~っ!」
顔が真っ赤で意識が朦朧している様子は泥酔している証拠だ。
「うわ、酒くさ……大丈夫!!?」
「大丈夫大丈夫、いつもより飲みすぎたらけやから~~っヒックっ」
竜馬とは思えないくらいにぐでんぐでんであった。歩は放っておけなくなり、彼の肩に腕を通した。
「流君、こんな所にいないで家に帰ろう、警察や学校の先生に見つかったら大変だよ!」
「ハイハイ、椎葉は優しいな~~、流石は俺の認めたヤツだ」
何とか彼を立ち上げるが、すごく重い。筋肉隆々の大男を身の細い彼女が支えている。いつ倒れてもおかしくなかった。
「いやあ~~っ、ホント椎葉に感謝感謝っっ!ワハハハハっ!」
凄くご機嫌だ。彼女は呆れ果てて何も言えない。
人の目が凄く気になる、実際周囲はこっちを見ている、まるでだらしない父親を迎えにきた娘のように見える。
彼女は恥ずかしくて顔を俯いていた。しかし、それでも竜馬を放っておけなかったのは何故だろうか……。
……やっとの思いで、街外れの公園にたどり着き、これ以上はキツイと悟った歩は中に入り、近くのベンチへ向かった。竜馬を降ろすと、彼女はその場で酷く息を荒らした。
「はあ!はあ……!」
「わりぃな椎葉!!こんな情けねえ俺を笑ってくれや!!」
「…………」
……どうやら運よく誰もいない。ホッと一安心する歩であったが……これでは祭りの時の未来のようだ。
「流君、もう少し考えて飲まないと!!」
「うるせえな!!俺に指図してんじゃねえよ!!」
らちがあかないと感じた歩は受け流した。ともかくここまで来ておいて公園に放置というワケにもいかない。再び彼に肩入れすると、彼は独り言を喋っていた。
「全く情けねえやな、仲間に裏切られて刑務所にぶちこまれた俺は……」
「えっ……?流君……?」
歩はその場で止まった。
「お前が羨ましいわ、羽鳥っていいダチいてな。俺なんか隼人ってクソヤロウに殺人の濡れ衣着せられて、永久刑務所で地獄を見せられたんだぜ……ヒック!」
それを聞いた歩は戦慄したのだった。そう言えば、夏休みに彼を誘った時に、友達を聞いたらワケありとも、牢獄とか何とか言っていたのを思い出した。
「そしてあの早乙女のクソジジイ……俺ら仲間を裏切ってズタズタにしやがって……俺は絶対に生きて帰って、てめえらをぶち殺してやらぁ……」
物騒な言葉を吐く竜馬に歩は感じた。
並々ならぬ復讐心に燃えていることに……何があったか知るよしもないが、彼の先ほどの発言から本人は多分、自分とは比べ物にならないほどの仕打ちを受けたのだと……。
はっきり言って非現実的すぎて信じられない話だが、彼の素性を知っている自分は、ウソとは思えなかった。
(流君……そんなことがあったなんて……)
――彼女は悲しくなった。しかし彼から……。
「そういえばなあ、羽鳥って凄くミチルさんに凄く似てんだよなぁ……初めてあった時にそう感じた、なんでかな……っ」
「ミチルさんって確か流君の言っていた……っ」
「そのミチルさんも事故で死んじまってから、ホントろくなことねえやな……はは」
「じ、事故……しかも死んだって……」
彼が前にファミレスで彼女について言い渋っていた理由が分かった。
そのミチルは、事故死したのだと……彼女はもはや返す言葉すらなくなった。
――二人はやっとの思いで竜馬のアパートにたどり着く。彼の部屋は鍵が開きっぱなしだったのは幸いなのか、どうなのか……。
彼を居間に上げるとそのまま寝転んだ。
「ありがとな椎葉、もう帰っていいぞ~~っ」
大の字になり、イビキをかきながら爆睡してしまった。
疲れはてた彼女は彼の近くに座り込み、休憩した。
防犯的に心配だが、盗まれる物は見る限り何もないし、竜馬なら特に大丈夫だろうという一種の安心感があった。
しかし、彼女は竜馬を見つめる。モノ悲しい目で……。
(流君もキツかったんだね……。いつもは大胆不敵だからスゴく強くていい人だと思ってたけど)
彼の人間的弱さを知った時であった。
(あたし……これから流君に頼らず、いや、逆に流君に役立つコトしたいな……ミキのように……)
すると彼女は竜馬の身体をそっと触れた。
(わたし……きっと薗田君やミキ、そして流君に負けないような人間になってみせるからね……見てて)
歩はコクッと頷いた。
……そして朝になり、竜馬は朝日に浴びてゆっくり目を開けた。
「……もう朝か……けっ、昨日は飲みすぎちまった……ん?」
彼は横を見るとなんと歩が横たわって寝ていたのだった――。
「し……いば……っっ、て、な、なんだあああっっ!!!?」
竜馬は驚いて大声を上げてしまった。それに反応して彼女も目を開けた。
「ん、あれ……流君…………って、ああああああっっ!!」
脳が起きた歩も、とっさに身体を起こしてすぐに固まった。
「オマエ……なんでここにいんだよ……?」
「流君……夜中街で酔いつぶれてたからここまで送ったんだよ……覚えてないんだね……」
「そうだったか……けどなんでお前、寝てたんだ」
「つ、疲れはてて多分そのままバタンキューだったと思う……」
「…………」
すると竜馬は立ち上がると、身体を伸ばしてあくびをした。
「なら俺も礼をしないとな、お前を家まで送っていくわ、行くぞ」
「え……あ、うん」
二人は歩の家までの道中、話をしていた。
「俺、そんなに酷かったか?」
「酷いも何も、流君とは思えないくらい醜態晒してたよ……」
「マジかよ……」
「独り言も多かったしね……フフっ」
なぜか彼女は笑っていた。
「おい、何を喋ってたか教えやがれ!!」
「ヒミツだよヒミツ♪」
二人は朝から元気に騒いでいたのだった――。