(あたしは安西を許せない。これから先、なにがあっても。けど、このままうやむやにしたくない!)
消えていく歩の後ろ姿を黙って見つめる竜馬と途方に暮れる未来。
そんな彼らの元に園田が駆けつけた。
「流、羽鳥さん、椎葉さんは!」
すると未来は立ち上がり、園田にすがった。
「アユムが……アユムが安西を追うって……!」
「えっ……」
「止めたんだけど……」
彼女は歩から返されたリストバンドをぎゅっと握りしめて不安そうな表情をしていた――。
「お前らも、そんなに心配なら後を追いかけたらどうだ?」
さすがの未来も竜馬の軽はずみの発言についに。
「あんた……自分からアユムをけしかけたくせに……」
彼をぐっと睨み付ける未来。しかし竜馬は顔の筋肉を少しも動かしてない。
「別に俺はどうこう言われようが何とも思わねえ。文句あるヤツはたとえ羽鳥、お前でも立ち向かってやる」
竜馬は愛海と歩が走っていった方向を目を向けた。
「俺は、椎葉みたいに強い心を持つヤツが好きだな。そんなアイツが迷ってたから俺が背中を少し押してやった、ただそれだけよ」
「「…………」」
「行け、二人とも。俺に何か言いたいのなら後で好きなだけ聞いてやる。今はそんなヒマないんじゃねえのか?」
……園田は羽鳥の手をグッと引く。
「行こう羽鳥さん。椎葉さん達を追おう!」
「園田……」
彼女も納得したのか立ち上がり、コクッと頷いた。
「流は?」
「俺のことはいいから早く行きな」
……二人も急いで、二人も後を追うべく駆けていった。
竜馬は何を思っているのか、彼らの後ろ姿をじっと見つめているが……。
すると竜馬のつけていた腕時計が急に反応し、ビービーと甲高い音が。彼はすぐに確認する。
「……ゲッター線量が急速に増加……だと?」
ゲッター線。今の時代では採取はおろか、発見すらされていない産物。そんなエネルギー体がとある一定方向に集中している。それはなんと四人の走っていった方向であることを竜馬は腕時計の機能によって突き止めた。
「この過剰な数値は、真ドラゴン級ほどじゃねえが……ただ事じゃねえな」
竜馬までもが彼女らと同じ方向へ駆け出していった。
「いいかげんにしろ!!さっさと教室へ戻らんか!!」
一方、学校の玄関では教師達から厳しい指導を受けている生徒達の姿が。
「おまえら……こんな騒ぎ起こしてタダではすまさんからな……」
しかし、近くの生徒は反抗的な態度で切り返した。
「は?なにいってんの?先公達が学校を野放しにしてっからこうなったんじゃねーか」
「つかさあ、安西だけが悪いの?他にも仲間いるんじゃねえのか?」
「ちょっとなにこの空気……みんなおかしいよ」
「あんな写真撮ってなにが楽しいわけ……?考えられない……」
反発、恐怖、疑心、様々な思いが揺れ動いていた……。
一方、愛海は街中を無我夢中で走っていた。
周りの目が集中する中、ひたすらに……。
「いた……」
痛みの走る右肩を押さえた。竜馬が発砲した銃弾がかすった所だ。
「……えっ」
たまたま横にある店のショーウインドを見ると、そこにはボロボロの自分が。
傷と血だらけで学生服も全て汚れ土まみれになっている。肩も出血で紅く染まっている、いつもの自分とは思えない姿が。
「や、やだ……なにこれ……どうしよ……これじゃあ……バスに乗れない……帰れない……サイフもない……」
何もかも全て学校に置いてきたので、今の彼女は丸腰であった。
「ど、どうしよう……」
悩む愛海だったが、すぐに名案が閃く。
「そうだ……あそこなら」
フラフラしながら歩いていく彼女。
……その様子をとある観光外国人のような男性二人が不思議そうに見ていた。一人が黒人、一人が白人の若い男性……。
「変わった女の子が歩いているけど、日本のコって結構クレイジーなのかな。ねえ、スティンガー君?」
「うん、そうだね。それより早くドクターサオトメの元へいこうよコーウェン君」
……コーウェンとスティンガーと呼ばれる彼らは早乙女博士と同じ若き天才科学者。そして、竜馬の時代にて地球最大の惨劇を引き起こす暗躍者になろうとは自身すらまだ気づいていなかった……。
そして歩も息を切らして彼女を追っていたが、完全に見失っていた。
(あたしは安西に復讐をしたかったわけじゃない……心ない謝罪がほしいわけじゃない、今さら謝られても許せない……。
けど戸田はハッキリ言った。自分の罪を認めてあたしに全てを話してくれた。
あたしはきっと、安西の真意を知りたいんだ!)
無我夢中で探すも手がかりすら見えない。
(どこなの安西……まだそこまで離れてないはず……学校から……)
そんな時、先ほどの学校での記憶がよみがえる。
『佐古くんが安西助けるために非常ベル押したんだよ』
その言葉が浮かんだ時、歩の足は止まった。
(ま、まさか……)
彼女の胸が締め付けられる。一つだけの手がかりを見つけた。しかしそこは歩にとって思い出しくない、行きたくない場所。トラウマになりかけたあの忌々しい場所である――。
――克己の自宅。愛海は玄関ドアに立っていた。インターホンを押しても反応しなかった。
「なんでだれもいないのォ……」
すると愛海は何かに気付いたのか、家の裏側にまわり、勝手口付近にある植木鉢を持ち上げるとなんと鍵が。勝手口の鍵を開けて、誰からの許可なく入った。
「えへっ、前にこうやって入ってたもんね、カツミ君と♪」
誰もいない克己宅内で一人、感傷に浸りながら辺りをうろいき、階段を上り、克己の部屋へ侵入した。
「なにも変わってないな……カツミ君の部屋……」
……彼女は彼と付き合い始めた思い出を振り返った。同じ中学校同士で彼と付き合いたい女子が多数いる激戦区に勝ち抜き手に入れ、その頃は友達も大勢おり、ほぼ全員から祝福されてもはやこれ以上のない幸せ。
そして、彼と同じ今通う高校に受かるために一緒に、そして愛し合いながら受験勉強したこの部屋でのあの頃……。
「幸せだった……あのときのマナは……ほんとに幸せだった……」
しかし彼女の足がそばのごみ箱に辺り、散らかる。しかしその中身は二人のツーショットなどの写真が無惨にも破り捨てられた残骸、そして彼女がプレゼントした人形であった。
今となっては幸せだった過去も虚像。彼女に今あるのは……『無』である。
「もうマナにはなにもない……」
へたり込み、自分にこう問いかけた。
「……なんで、なんでマナがこんな目に……」
彼女の目から一筋の涙が……。
「またやり直したい。あの頃に戻りたい……さいしょから……」
その時、この家のインターホンが鳴る。彼女はとっさに顔を上げた。
「カツミくん……」
彼女は立ち上がり、急いで一階へ向かった。来たのは唯一寄りすがれる人物、佐古克己だと信じて……。
しかし、外の玄関にいたのは……歩だった。
一階の玄関モニターから、ドア前に立つ彼女を目撃した時、愛海に蓄積された憎悪が再燃したのであった。
「こいつだ……こいつのせいでマナの全てがぶち壊されたんだ……そうだ、全部……」
《お前が全てをブチぶち壊したんだっっ!!》