ライフ 第65話

Last-modified: 2014-02-19 (水) 23:01:41

歩は購入した新しい携帯ですぐに園田に電話をかける。
彼とは近くのファーストフード店で待ち合わせし、中で話をする。

「羽鳥さんが!?」
未来の転校を初めて聞かされた彼は大声を上げて、席から立ち上がった。

「もうすぐいなくなっちゃうんだ。場所は県外でここからだとスゴく遠いんだって……」
「そんな……なんとかならないの?時期をずらすとか、羽鳥さんだけ残るとか、高校だけでも……」
「いいの。ミキが決めたんだもん、尊重しなきゃ」
彼女は受け入れたのだ、現実を。さみしいけど、彼女の気持ちを大切にするべきだと。

「それでね、園田君にお願いがあるの。あと、ここにいないけど流君にも……」

 

……そして未来が引っ越す前日。彼女の部屋前には歩、園田の姿が、ノックすると中から未来が。

「ミキ!」
「アユム……園田も。どうしたの?」
「なにか手伝うことないかなーと思って!」
「荷造りとか一人じゃ大変かなって」
二人は玄関を入る。しかし目の前の光景は、モノがほとんどなくガランとしていた。

「もうわりと……おわっちゃってるかも……」
二人、特に歩はここに来て実感してしまった、本当に今日でさよならだと。

「お父さんは?」
「もう新しい病院へ移ってて……?」
すると歩は彼女の腕を握りしめてグイっと引っ張りはじめた。

「ミキ、遊びにいこう、ぱあーっと♪」「えっ!?えっ!?アユムーーっ」
そして三人は街へ出掛けていった――。その途中、

「流君!!」
「お、おう……」
「待たせた?」
「いや……そうでもねえけど……」
歩は竜馬にも未来との最後の思い出作りにこの日を誘っていた。はじめは彼は、しょうに合わないからイヤだと言い張ったが歩と園田の必死の説得により、承諾に成功したのだった。

「まさか流も来るとは……こりゃあ一雨降りそうだね」
「おい、どういう意味だコラ」
最後の最後まで彼を茶化す未来であった。
四人が最初に向かったのはカラオケボックス。

「だめだだめだそんなんじゃ!カタイんだよ、もっとかわいく!!」
「ええっ」
女性曲の歌い方が堅い園田にダメ出しを出す未来は、自ら進んで歌い出し、歩はタンバリンを持ってリズムよく叩いている。その傍ら竜馬は……。

「なに歌えばいいかわからねえ……」
思いっきり悩んでいた……。
――四人は次にゲーセンへ。

「アユム!」
未来は歩とプリクラを撮りたいという。二人は撮っている間、園田と竜馬は外で待っていた。

「園田」
「流?」
「なかなかいいもんだな……こういうのはよお……」
……顔をそっぽ向いて呟く彼に園田の顔は和やかな笑みをはなった。

「二人とも、一緒に撮ろうよ!!」
「園田君と流君も来て!」
誘う彼女達に野郎組は、

「流、行こう!」
「俺……もか……?」
恥ずかくて照れている竜馬を園田に引っ張られて、四人仲良く撮影した。
プリクラというのは全く初めてである竜馬は最初は戸惑い写り方がぎこちなかったのは当たり前だが、徐々にコツを掴んだのか、ごく自然体になっていた――。

「おい羽鳥!なんで俺ばかり落書きするんだよ!!」
「だってあんた、こんなかで一番おもしろい写りかたしてるもん♪」
「つか椎葉と園田もどさくさに紛れて笑ってんじゃねえよオラァ!」
お絵かきタイムではペンで、竜馬へ落書きを集中攻撃されるのであった――。

その後クレーンゲームをしたり、街のファミレスで食事したりと時間の隙間も惜しむくらいに遊びまくったのであった――。

(ミキはつらい時、いつもそばにいてくれて元気をくれた。
ミキのおかげで嫌いだった自分を、今では名前まで好きになった。生きる勇気を、あたしにくれた。
……だから、今度はあたしが恩返しする番だよ、あたしが……ミキの光になるから!)

……そして四人はやっと未来のアパートへ帰宅。しかし竜馬以外の三人は部屋を開けるなり、疲労がどっと出てその場で倒れ込んだ。

「あ、暑い……」
「み、水……」
「アユムまって!」
未来は冷蔵庫から麦茶を取り出し、氷の入れたコップに注ぐとそれぞれ歩と竜馬に差し出した。

「おーい、園田もお茶……」
彼女が見たのは窓を開けて、そのまま力尽きて爆睡している彼の姿が……。

「そのだ……寝てる……しょうがないな。流、お願い」
未来が布団をひき、竜馬が彼を軽々と持ち上げて寝かし、今日クレーンゲームで獲得したぬいぐるみを添えてタオルケットを被せた。
ぬいぐるみに抱きつくように眠る園田は男性なのに、スゴくカワイイ……三人は温かく見守ると静かにその部屋から出ていった。

すると竜馬は、

「俺、行くわ」
「流も泊まってけば?」
「そうだよ。流君も一緒にいようよ」
「バーカ。俺みたいなこんなむさ苦しい男といるよりもいいだろ。園田もいるし」
やはり帰る気満々な竜馬である。

「流……今までありがとね。いろいろとお世話になったよ」
未来に笑顔でお礼を言われる竜馬は、彼女にニィと不敵な笑みを放った。

「羽鳥、お前も大切なダチが出来てよかったな、椎葉っていう女をな。大事にしろよ」
「流君……」
「それじゃあ羽鳥、今度次は会えるかどうか分からんが、会える日を楽しみにしてんぞ――っ」
「な、流……?」
彼は去っていく。また会えるか分からないという理由が分からない未来に対し、歩はその意味に気付き、急に胸が苦しくなった。

――彼は未来からきた人間である。本来この時代にはまだ存在もしていない。何かあって元の時代に帰ってしまったら本当に二度と会えなくなる。
それは未来だけではない、園田も、そして自分もだ――。
二人は仲良く、同じ布団に潜り込む。

「アユム……ありがとね。今日のこと絶対に忘れないよ」
未来は仰向けになりながら、横向きに寝ている歩にこう話した。

「あたしね、お父さんが迎えにきて田舎から出てから中学校 ……三回転校したんだ。だから友達なんかいなかった」
「……」
「……つくらなかったのかな。どこかでひとりでいることに慣れてた、楽だった……そう思ってたんだ、あんたと会うまでは――」
「…………」
「けどはじめて転校したくないと思った。あんたのおかげだよ、ありがとうアユム」
歩を見ると、目を瞑って寝ていた。彼女は、軽いため息をついた。

「……なんだ。こういうときに限ってねてやんの」
歩の頭に優しく撫でて、かけていたタオルケットを引き上げた。

「アユム、大好きだよ。おやすみ」
彼女も寝静まった時、歩は涙が溢れ出したのだった。

(ミキ……ミキっ!)

――翌朝。未来はひとり起きて、横ですやすや寝ている歩に優しく呟いた。

「またね、アユム」
その数十分後、窓の朝日によって歩はふと起きる。しかし横を見ると未来の姿がどこにもなかった……。

(うそ……ミキ!!いやだ、このまま別れるなんてイヤだ!!)

すぐに飛び出して、彼女が向かったと思われる駅へ全力で走っていった。

(ミキを笑って見送りたい。最後までそう決めたのに!!)

改札口を通り抜け、プラットホームに行くと……。

「アユム、来ちゃったか」
彼女は売店で飲み物を買っていた。すぐに二人は駆け寄ると、未来から先に言葉が出た。

「ごめん……なんか、ホントに行きたくなくなっちゃいそうだったから……あんたの寝顔見てたら」
すると歩はつけていたリストバンドを外して、未来に差し出したのだった。

「これ返すね。あたしはもう必要ないから、頑張っていけるから――ありがとう」
彼女はこれから先、どんな苦難があっても、何があっても自分で自分を傷つけないと決めた、返すのはその決意表明である。

「……よかった。いつ返してくれんのかと思ってた」
冗談を言う彼女に歩の表情はやわらいだ。
その時、彼女の乗る特急電車が到着した――。

「これに乗るの?」
「……うん」
入り口が開き、次々に人々が乗り込んでいく……そして未来もこれに乗っていくのだ。
歩はまだ話したいことがあるのに……言葉に詰まって何も言えない……出ない。

「住居は……落ち着いてから連絡する」
未来はついに電車へ。歩はせめてこの瞬間でも笑って見送りたい、しかし別れの悲しさからかなかなか笑えない……。

「み……」
その時だった。彼女は振り向き、歩をギュッと抱きしめていた――。

「アユム……あんたとは一生のトモダチだよ――」

……歩はついに笑顔へ変わり、乗り込む彼女を見送った――。
動き出す電車に彼女は走って最後まで見届けようとした。
そして未来は席に腰かけた時、駅員が切符の拝見に回るのを見て、ポケットに手をしのばせる。
すると切符の他に何か紙くずのような物が……。
取り出すと切符と……昨日四人で撮ったプリクラの片切れだった。
特に歩との、仲の良さが引き立ったツーショットを見た時……今まで見せなかった未来の眼から、一筋の涙が……。

「あの……」
駅員が切符を見せるよう言われ、彼女はさっと見せるとすぐに立ち上がり、入ってきたドアの場所まで駆け出した。

ドアの窓からすぐに後ろを見ると、端で最後まで手を振る歩の姿が……。

「アユムっ、アユム!!!」
最後まで笑顔で見送る彼女の姿が見えなくなった時だった。
未来はついに嗚咽を上げて泣き崩れていた――。

「アユム…………っ 」
――電車が見えなくなった後、歩も泣いていた。しかし、その顔はまさに希望に溢れているようであった。

「また会えるよね、ミキ。あたしは思うよ、離れていても……心のどこかで絶対に繋がっているんだって――」

――快晴の空に向かってそう呟く歩であった。
そして彼女は未来のアパートへ戻ると園田は目覚めていた。

「びっくりしたよ。起きたら誰もいないんだもん」
「えっ、園田君だっていきなり寝てたからびっくりしたよ!」
「そっかあ。流は?」
「あの後帰っちゃった。俺みたいなむさ苦しい男がいるより園田がいるだろって――」
「あいつらしいや、ハハ」
歩は使ったコップを洗い、園田は使った布団を畳んでいる。

「……行っちゃったんだね、羽鳥さん」
「うん……」
すると歩は……。

「あたし……光になりたいな」
「え……光?」
「……将来ね、まだはっきりとはしてないけど。誰が辛い目にあったり、苦しんでる人を導いてあげる仕事をしてみたい」
そう告げる彼女に園田は。

「……椎葉さんはもうなってると思うよ、光に。俺にもそうだし――」
「え?」
――園田はこれ以上何も言わなかった――。

 

あれから一週間。愛海はというと――。
「今日はここまでとします!」
ここは女子少年院の農業実習場。そこで汗だくになりながら農具を使い、励む彼女の姿が。

「あーぁ、もうヤダ!!なによ農業実習って……マナもうヘトヘト……こんなトコで暮らすなんて……やだ……」
壁に寄りかかり、へたり込んでしまう。しかし、自分の土で汚れた手を見るたびにあの人間を思い出す。
そう、自分が最も憎み、そしてただ一人自分と本気で真っ向からぶつかった歩の姿が。
そして彼女は立ち上がり、空を眺めて手をぎゅっと握りしめた。

「やってやるわよ」
ケリをつけるべく更正に向かって励む決意する愛海がいた。

「椎葉……多分もうあんたと会えそうにないけど……なんでかな、まためぐり会う気がする……」

 

――そして学校を辞めた戸田というと、

「すいません、戸田と言いますが、外の募集を見たんですけど……」
塾講師の募集ポスターを見て、応募している、前と違い、活気に溢れた彼女の姿が……。

 

そして――平岡は……。

「こーーら、今は授業中!!」
飛ばされた先の湧厳高校で元気、且つ積極的に授業に取り組む姿が。ヤンチャ揃いの男子高で、今は授業中に生徒がサボって読んでいた漫画を取り上げている所だった。

「やるときはやる!!」
「平岡、そんな堅い性格だからカレシできねんだよ」
茶化す生徒に彼女は竜馬のように不敵な笑みを放った。

「ならあたしと付き合ってみる?その根性たたき直してあげるわよ」
「や、やめときます……」
しかし彼らと仲良く、楽しく授業するその様子は、だいぶ慕われているようだ――。

 

一方、女子少年院に送致された愛海の父親の富美男はなんと、自ら市長選の立候補を取り止めていたのだ――。
彼の部下が、室内に飾っていた選挙用ポスターを外す。

「先生……これは……」
「かまわん、処分してくれ」
部下と共に事務所から撤退するために自ら周りを掃除する彼は、あの一件から全ての過ちと娘の過保護過ぎたことに目覚め、これからは家族と自分について真剣に考えていきたいと――。

 

――背中を切られた克己はあの後、情緒不安定になっていたが、綺麗に片付いた自分の部屋でクラス生徒全員による、励ましの手紙を見て泣いていた。

「みんな……っ」
彼はやっと精神が安定しているように思えた……。

 

――そして今日この日の午前中、歩の久々の登校が。衣替えし、冬用制服に着替えて玄関へ向かった。

「制服久しぶり……行ってきます」
見送りにきた文子も、彼女へ優しくこう告げた。

「歩、もう……ガマンしなくてもいいんだからね」
言葉を受け止めた歩は笑顔で手を振って、家から出ていった。

……学校の歩のクラスでは――岩城を中心とした教師たちと生徒達による、『いじめについて』の真剣な討議が行われていた。

「今日はみんなと真剣に話し合いたい。我々教師はいじめというのを甘く見ていた。
しかし、それを隠そうと、なかったことにしようとした原因でこのような悲劇が起こった。
ハッキリ言おう。椎葉歩が受けていたたいじめは、もはや犯罪行為だ。
安西愛海は女子少年院に送致されて、関わった者もこれから厳しい処分が下されると思う。
だがその前に、ひとりひとりがいじめについて考えてほしい。誰か意見のあるものは……」
一人の女子が手を上げて立ち上がった。
彼女は冤罪を背負って謹慎処分を受けていたはずの廣瀬だった。

「わたしは……謹慎している間、後悔の気持ちでいっぱいでした。
みんなの前で嘘をついたこと……忘れようとしても頭から離れなくて、その気持ちをパソコンにひたすら書いてました」

彼女の机には三枚ほどの、自分の本心が全て書かれた書類が置かれていた。

「……わたしはマナミが廃墟の事件に関わっているのを知っていたのに……怖くてだれにも言えませんでした。
マナミにいじめられるのが怖かった……」
彼女の言葉はその場にいたエミとチカの心に響いていた。

「……でもマナミだけが悪いんじゃない、自分に負けてしまったわたしも同じです。
椎葉みたいに……立ち向かうような勇敢なこと……できなかった。
椎葉がどんな辛い思いをしてたか、それがどんなに勇気がいることか……わからなかった。
もっと早く、わたしが勇気を出していれば、どこかで変えられたハズなんです」

――廣瀬の主張についにエミも口を開いたのだった。

「ヒロだけじゃない。あたし、いやみんなだってそうだよ。
ちゃかしたヤツも、見てただけのヤツも、先生も……間違いだと気づいていたなら、そこで誰でもいいから止めるべきだったんだ。この中で関係ないヤツなんて一人もいないんだよ」
全員かエミの言葉は噛みしめる中、廣瀬がふと窓を覗くと……。

「椎葉……」
歩が登校してきたのを見る否や、廣瀬は無我夢中で教室から飛び出していった。

そして歩が玄関へ向かうとそこに涙を浮かべている廣瀬の姿が。

「廣瀬……」
「椎葉……」
しかし今度はエミと引っ張られてきたチカの姿が。
いや、次々にクラスの生徒が歩の元へ集っていく、園田も、エイコも、そして竜馬も――。

「椎葉……おかえり……おかえり!!」

廣瀬の温かい迎えに歩は……。

「ただいま!!」

歩は笑顔で迎えられたクラス生徒達の中へ入っていく――。

(あたしは生きてく。ここで、全力で生きてく!!)