ライフ 第66話

Last-modified: 2014-02-19 (水) 23:04:31

あれから一ヶ月が過ぎた――。
いじめという壮絶かつ残酷な現実に立ち向かい、そして腐敗しきっていた西館高校を光へと導いた歩は今、本当の意味で学校生活を楽しんでいた。

愛海、未来の二人が学校から去り、クラスは多少静かになったのがある意味寂しいと言う生徒も。

彼女のいじめに関与したエミ、チカ達の女子生徒は退学までとはいかなかったものの、停学や謹慎なとの懲戒処分を受けてしばらくは学校には来ていない――。

無事、学校へ復学した克己に関しては……あの異常性愛の写真は父親に処分され、歩もそのことに告訴こそはしていないが、彼はそれで後ろめたさを感じているのか学校生活を窮屈そうに過ごしているようである。

園田、エイコ、廣瀬達との仲は良好で、特に廣瀬とは互いに完全に和解し、今は本当の親友のように接している――。
そしてエイコとも仲がいいが、あの男、竜馬に片思いする女同士で少しライバル意識を持っているようにも見える。
そして竜馬はというと……相変わらず大胆不敵な、態度であるが、竜馬自身も垢抜けたのか、前よりは明るくクラス生徒と接している。

――11月上旬。冬に近づき少し寒くなるこの時期。
学校が終わり、歩と竜馬は二人で帰路についていた。愛海に切られた竜馬の腕は完治し、普通に動かしていた。

「流君、昨日ミキから電話きたんだよ。お父さんの手術は無事に成功したって」
「ほう、あいつもこれで一安心だな」
「住所も教えてもらったし、今度園田君や廣瀬も誘って一緒に遊びにいかない?」
「別にいいぜ。ゲッターで行くか?」
「……流君、あたし達全員殺す気?」
「冗談だ。それにあれで行ったらこの時代の人間全員は腰抜かすに決まってんだろ」
……あれから仲の良さが一層際立つ二人であった。
二人は町外れの河川沿いを歩く。近くには未来の住んでいたアパートがある。

「数ヶ月間いろいろあったね、ホントに。入学した時は夢も希望もなかったのに――信じられないくらいに今は充実してる」
「それはお前が自ら勝ち取ったことだ」
本当に自分がここまで成長したことに驚愕すると共に、喜びさえあった。

「安西……今ちゃんと頑張ってるかな」
「さあな。しかしお前、あいつに散々やられといて心配か。やっぱりお人好しだな」

――しかしそこが歩のいい所かもしれない。
「あ~あっ。で、俺はいつになったら元の時代に帰れるんだろうな」
「流君……」
歩の顔は少し暗くなった。やはり彼は自分の時代に帰りたいのか。

「あたしは……流君にいつまででも、ここにいてほしいな……」
「なに?」
「思えば入学して間もない時、あたしが夜学校から帰ろうとした時に空からあのゲッターと降ってきて、その時からの出会いだよね。
あたし、最初流君がものスゴく怖かった。なにされるかわからないって。
けど、実際の流君はスゴく男らしくて、スゴく優しくてあたしを強くしてくれた。廃墟の事件の時も助けてくれたし、うれしかった――」
顔を少し赤めらせてさせてそう彼に伝える。

「だからあたしね……その……っ」
ここで彼女は再び言うのか。彼のアパートにいた時のあの言葉を――。

「ワリィがそういうワケにはいかねえんだよ」
割り込むようにそう言った。

「お前は解決したからいいが、俺の事情はまだ解決してねえ。俺は何があっても元の時代に戻る、そしてあいつらを……」
「…………」
彼が酔っ払っていた時に呟いていたこと……誰かに復讐すると言っていたのを思い出す、彼女は一瞬ゾッとした。が、

「だがよ……、お前のせいでなんか俺まで復讐する気がなくなるじゃねえか、椎葉」

彼女へ軽い笑みをみせる竜馬に、歩の顔も和らいだ。

「……今、平岡先生とかも頑張っているかなあ?」
「平岡なら心配ねえよ。さあて今から何しようかな」

すると歩が笑顔で、彼の前に移動し対面。

「なら流君、今からどこかで遊ぼっか」
「お前、なんか積極的になったよな」
「エヘヘ……」
「ただし、俺金あんまねえからそこはお前持ちな」
「えっ!!?」
――二人はそのまま街へ向かおうとしたその時だった。

「椎葉さん、流!!」
園田が大声を張り上げて走ってきた。しかし、その表情はあまり思わしくない。
「園田君、どうしたの!?」
彼はものスゴく息を切らしているが、休まず口を開いた。

「ふっ、二人共……今すぐここから、逃げたほうがいい……っ!」
「ど、どういう意味だ?」
いきなり不可思議なことを言い出す彼に二人は混乱した。

「さ、さっきニュースでやってたんだ。アメリカの……軍事兵器の管理システム……てのが原因不明の誤作動がおこしたらしくて……」

「園田君、なんの話してるの!?」
「お前、もうすこし落ち着いて話せ。何いってるかわからん!」
「だから、その……誤作動で実験段階とかなんたらいってた『重陽子ミサイル』ってのが日本に向かって発射されるんだって――!!」

「な……なんだとおォォ!!!?」
それを聞いた二人、特に竜馬は愕然とした。

「アメリカはそのミサイル発射を必死で止めようとしているんだけど、止まらないらしくて……。
今街じゅうが、いや多分日本中も大パニックだってニュースで言ってた」
「流君、知ってるの、そのミサイルっていうの……?」
「当たり前だ!!あれは核以上の戦略兵器、ようは一撃で戦争を終わらす目的で作られたやつだ。そんなもんここに落ちてみろ、日本の三分の一が消し飛ぶぞ!!」
それを聞いた歩と園田はゾッとし、顔が青ざめたのだった。
「いつ発射されるかわかるか!?」
「そこまでは……っ」
「こうしちゃいられねえ!!お前らは今すぐ避難しろ」
「流はどうすんだよ!!」
「いいから早くいけ!!」
そういうと竜馬は一目散に駆け出していく。しかし歩は気づいた……まさか。

「流君っ!!」
「椎葉さん!!」
歩は竜馬を追いかけようとするが園田に手を掴まれて引き止められた。

「園田君……」
「椎葉さん逃げよう。流が何考えてるかわからないけど……今は少しでもここから逃げるんだ!!」
しかし彼女は首を横に振った……。

「流君が心配なの……もしかしたら――」
「流が……っ、どういうこと……っ」
「……園田君、ホントにごめんっ!!」
「し、椎葉さんっっ!!!」
彼女は強引に振りほどき、竜馬の後を全速力で追いかけていく。その後ろ姿を見て園田はその場で膝をつき、途方にくれた――。

(……もう何がなんだかわかんないけど、流君が危ないって感じる……今度は流君を……あたしが助ける番だ!!)

一体今、この日本に何が起きるか分からない。だが彼女はその強いだけを胸に駆けていった――。

 

(くそっ、重陽子ミサイルがこの時代から、試作段階で造られてたのは知ってた。だが誤作動で発射なんて歴史になかったハズだぞ……!!
だが今はそんなことより、発射されたらなんとしてでも止めねえと、日本どころか世界中がヤバイことになるぞ!!)

――竜馬でさえ予想つかなかった緊急事態に動揺していたが、気を保つように何とか持っていた。竜馬はゲッターのある山へ行く経由で街へ行くが……。
「皆さん落ち着いてください!!」
案の定、逃げ惑う人々でたくさんだ。道路は大渋滞、歩道は走って逃げる人々ですし詰め状態だ。警察が出動しているも全く意味を為さない。

(重陽子ミサイルの到達時間は……大きく見積もって約10分か……真ゲッターじゃねえからあのゲッターで食い止められるどうか……ちい、なんでこんなことに!!)
またあの惨劇が引き起こされてしまうのか……竜馬は苦虫を噛み潰したような表情をとった。
竜馬は出来るだけ人の出入りが少ない通路を選んで、あのゲッターロボのある山へ向かっていく――。
そして数分後、竜馬はついにゲッターがある山の麓へ着く。直ぐ様竜馬は登ろうとした時、

「流君!!」
「椎葉っ!?」
歩もなんとか竜馬に追いついた。その息の荒れようをみれば無我夢中で駆けてきたようだ。

「てめえ、何しにきやがった!!」
「な……流君のやることわかったんだ。もしかしてあのゲッターで……」
「今はそれしか防げる方法はねえ。いつ発射するかわからねえ今の内に発進しといたほうが時間に余裕ができる。お前は何しにここに?」

「あたしも……ゲッターに乗せて。流君の役に立ちたいのっ……」
そう洩らす歩に竜馬は突然、阿修羅のような顔で彼女の胸ぐらを掴んで引き付けた。

「おい椎葉、なにふざけたこといってんだよ、自ら死ににいきてえのか!?」
「…………」
「ゲッターのパイロットはな、本来俺みたいに頑丈な奴じゃねえと扱えられねえんだ。
多少の出力で根を上げてた奴をなんで乗せる必要があるんだ?」
竜馬の言う通り、ゲッターロボとは常人には到底扱えきれない出力を持った超兵器である。
それを彼女が乗ろうものなら……確実に身体が潰れるだろう。

「大陸弾道ミサイルの数倍の速度で向かってくるんだ、ゲッターでも止めれるかどうか分からん。悪いことは言わねえ、今のうちに避難しやがれっ!!でねえと――」
なんてことだろう。竜馬は拳銃を取り出して彼女の頭に押しつける……これは警告だが、彼女はこれでも引き下がらなかった。

「流君……あたし……」
「なんだ?」
「……流君がいなかったら今の自分がなかったと思う。
もしかしたらいじめられてた時に自殺してたかもしんない。
けど流君はあたしを助けてくれたり励ましてくれた、どんな苦しい時にでも強くなれと教えてくれた……っ!」
「…………」

「流君、言ってたよね。自分で決めなくちゃならない時があるって。今のあたしが決断した結果がこれなんだ。
……お願い、あたしもゲッターに乗せて、流君が死ぬかもしれないのに、あたしは何もできないなんて、そんなのイヤ!」

竜馬は知った。知らない間にここまで強い意志を持つようになった彼女のスゴさを……彼は感じた、自分とどこか似てると。

「流君に救われた命だもん。なら、ここで使わなきゃ……今度はあたしが流君の光になる」
「……バカヤロウ。お前、二度と生きて帰れる保証はねえぞ。
家族はおろか、園田や他のクラスの奴ら、そしてお前の好きな羽鳥にも会えなくなるんだぞ、それでもいいのかよ!?」

彼女は迷うことなく首を縦に振った。

「あたしの命で日本を救えるんなら……それでいい。みんなの死ぬ姿なんか見たくないから……」

竜馬はゆっくりと拳銃を下ろし、胸ぐらを離す――。
拳銃を懐にしまうとため息をついた。

「お前がここまで本気だなんて知らなかったぜ……ホントに覚悟はできてんだな?」
「流君……うん!!」
ついに彼女をゲッターロボに乗せることにした竜馬。二人は直ぐ様、ゲッターロボの元へ向かう――。
歩は竜馬の指示で、腹部にある既存の二つ目のコックピットへ乗り込む。着座シートに座り込むと同時に周りの機械が起動し、ライトアップ、前方モニターに同じく一番上のコックピットに座る竜馬の姿が映る。

“椎葉、もう泣きわめいてもあと戻りはできねえぞ”
「うん……!」
“操縦は俺が全てやる。お前は左右のレバーを全力で握って身体中に力を入れてろ、それだけでいい!!”
歩は頷く。しかし彼女は不思議と何かを感じていた。はっきり言って今にも心臓が止まるくらいに怖い、失禁するかも……それ以上に凄まじいほどの気合いが湧水の如く沸き上がるのだった――。

《ゲッタァァーーーっっ、ウィィィングっ!!》

竜馬の咆哮と共に、ゲッターの背中からマントと思わせる漆黒のボロボロの布が飛び出した。
瞬間、一気に飛び上がり高度百メートル程の高さに到達した時、漆黒のマントを身体全体をくるませ、進路を太平洋の方向へ向けた。

“椎葉、最大出力で行くぞ!!”
「いいよ、流君!!」
“上等っ!”

そして――。

《ゲッターロボ、発進っっ!!!》

急加速で発進したゲッターロボは音速(マッハ)をゆうに越える超スピードで遥か上空へ飛翔していった――。