ライフ 第33話

Last-modified: 2013-05-25 (土) 23:46:50

ここは市内の病院。
その建物の一角の病室のベッドではヒロはずっと窓の外を眺めていた。右足全部が包帯とギプスと吊りバンドで固定されている。

“ガタン”

ドアが開く音がし、振り替えるとそこには歩と未来が花を持ってこちらを見ている。
どうやら見舞いに来てくれたようだ。

「なっ……何しにきたのよ……」

しかしヒロは顔を歪ませ、うつむく。心境はとても複雑なのだろう。

「これ…かりるね……」

歩はデスクにおいてある花瓶を持ち、水を入れに病室から出ていった。

一方、未来はイスに座り、ヒロの方へ見つめる。

「ーーよかったじゃない、無事で……」

未来がそう言うが、彼女から返ってきた言葉は、

「死んでりゃよかったのよ」

その一言が周囲に静寂へと変える。

「あのコに……アユムに言ったんだってね、“アユムみたいにはなりたくない”って」

あんただってなにもしなかったわけじゃないでしょう?」

“………”

沈黙する。それが一秒、十秒と続く。

ーー外では遊びで行っているペットボトルのロケットが高く跳んでいき、ヒロのいる病室まで到着するが、そこから勢いがなくなり墜落していく。

それをヒロと未来、そして戻ってきた歩はそれを眺めていた。

「……すごいゆっくりだった。落ちてくとき……。
その時思ったの、“ああ、死ぬんだな”って……」

歩は花瓶をデスクにおき、ヒロの元へ。

「……あたし、はじめてわかったんだ。自分がやられてはじめて……あんたにしてきたこと……」

“ごめん……バカでごめん……”

ヒロは体を震わせ涙を流し始めた。それは自分が味わった苦痛や悲しみ、同時に歩に行ってきたことへの謝罪の意味を込めている。
「……よかった。生きてて……っ」

今まで敵視し、苛めてきた本人からの気を遣う言葉に、さらに涙を誘う。
彼女は掛け布団で涙を吹いて震えるような声でこう言った。

「あんた達は、強いね。」

ヒロの言葉が二人の心の中に残ることになる。それはヒロ自身が歩達を認めたと言う意味を込めている。

「実はね、昨日、教室で……」
「……?」

未来がヒロに竜馬が全員を一蹴したことを話した。

「……流も不思議だね。一時はあいつにも嫌がらせしてたのに……全てお見通しみたいで……全く通用しなかった。

あたしは思った……椎葉と流はどこか似てる」

「えっ……?」

その言葉に歩の顔は赤くなる。
やはり彼女は竜馬を意識していたのだったが……疑問だ。

……帰り道、二人は暗い夜道を歩いていた。

「大丈夫だよ……廣瀬は」

未来の言葉が幾分、歩を心配を取り除いてくれる。

ーー町のイルミネーションが夜だというのに昼間のように明るい。
まるで蛍のようだ。

未来は彼女の方へ向き、ニコッと笑顔でこう質問した。

「……アユム、ほたる見に行こうか?」

……………………………………

その頃、街では、

「うげっ!!」

エミとチカ、そして岩本(イワ)の愛海を覗いた計三人のメンバーが遊びに来ていたが、学校の教師達が巡回に来ているのを発見し、すぐに近くの店に隠れた。

「やっぱり岩城だ……」

「見なよ、ゴリに捕まってんの、2組(ウチ)のヤツだし」

「ええっ!まだ7時半だよっ?」

「巡回強化するって言ってたじゃん!!ヒロのことがあって夏課外やめるからってさぁ!」

「……」

……三人はひとまず近くのハンバーガーショップに入り、どうするか決めている。
周りの客は笑い声で溢れているのに対し、三人はどんよりした空気の中、黙り込んでいた。
「……行こうよっ、ヒロのとこ……」

「……わかってる?行ったらマナを裏切ることになるんだからね?
そうなったらウチらが標的になるんだよ!」

チカの言葉が二人の心に突き刺さる。
さすがの三人も愛海のやり方に疑問を抱くようになり、迷っていた。
ついていくか、ついていかないかーー。

「あたし、もうマナにはついていけない……学校だって、もしかしたらケーサツだってヒロのことやイジメのことを調べてるかもしんないんだよ!?」

イワが頭を押さえて涙を浮かべている。後悔しているのかわからないがもう遅すぎだ。

「こんなこと、カレシにも言えない。あたしはフツーに遊びたいし、大学だって行きたいよ…。
こんなとこで人生メチャクチャになりたくない……」

イワはエミの手を握り、必死でこう問いかける。

「マナミだよね? ウチらのせーじゃないよね?
おかしいじゃん、無視したくらいで死のーとするなんて!!」

《ヴィーーッ!》

エミの携帯に着信が入る。その着信主とは……。

「そう旅行♪みんなで行こーよパーっとさぁ!!」

……愛海であった。彼女は自室のベッドで寝ころがりながらニコニコ顔で話している。向こうの話を全く知らずに。

「パパの別荘があるからタダだよ♪
電車のチケット分もマナが出すからさぁ、三人分!ねーーいいでしょぉ?」

「ーーじゃあ明日ね、10時に駅の改札でっ、チカとイワちゃんにも伝えといてねー♪」

電話を切ると彼女は顔色を変えて、不機嫌そうな表情となる。

「……フン。あいつら完っっ全にビビってるし……バッカじゃないの?」

彼女は枕に抱きつき、顔を伏せる。

「…………」

その表情は何か憎悪を剥き出しにしたような雰囲気を漂わせていた。

……………………………………

その頃、竜馬は一人であのロボット、ゲッターロボのコックピットにいた。
慣れた手つきで各ボタンやレバー、端末を動かしている。さすがはこれの扱いに長けた男だ。

「ーーゲッター線数値が上がってる。なんか嫌な予感がするぜっ。

……まあ問題は特になさそうだな。いつでも動かせるようにたまには調整しにこねぇとな」

《ガシューーっ!》

ーー調整が終わり、フェイスマスクを開けて外に出る。

ここから見る景色は最高だ。山の中なので星空が一層に綺麗に見える。

正面を見るとふもとは街の光で非常に輝いている。
こんな情景で飲む酒は格別だ。竜馬はそう思うのだった。

(こんな平和な世界が……十数年後にはインベーダー戦争勃発かぁ。
今の時代の人間には信じられねえだろうな、地球が危なくなって、ゲッターもとい、こんなメカをたくさん開発されるなんてな)

竜馬は腕組みをし、少し渋い表情となる。

(ヒトのこと言えねえが、この時代からこんなにガキの精神が腐ってたとはな……隼人や武蔵、弁慶、そしてミチルさんが見たらなんて思うか見物だったな)

いやいや竜馬、あんたが強すぎるんだ。今の子供の育った環境を考えろ。

……とまあ、彼の言い分も分からなくもない。確かに自分達と比べたら軟弱すぎてムカつくのも当たり前だった。

「…………」

竜馬は入り口を閉めて、器用に地面に着地するとゲッターから去っていった。

「せっかくの夏休みだ。そこらのヤクザから金をしめてどっか飲みにいくか?

確か……先公どもが徘徊しているらしいが、知ったこっちゃねえや!」

さすがは肝が据わっているだけあってそのくらいでは竜馬には全く通用しないのであった。

…………………………………

「旅行……?」

翌日、歩は夏らしい服に着替え、バッグに荷物を詰めている。
「うん、一泊2日、友達のおじいちゃん家に泊まらせてもらうから」
「ケータイ……ちゃんと持っていきなさいよ?」

しかし、母は気づいた。歩は今、携帯がないことを。

「そう言えば壊れたんだったわね……買っとくわ」

そう言うが、歩は振り向かずに顔を横に振る。

「いいよっ、自分でお金貯めて買うし……」

「買っとくから!」

母は珍しく、歩にそう強く答える。すると歩は振り向き、電話番号のかかれたメモ用紙を母に渡す。

「そこの電話番号、なにかあったら連絡して?」

「……ああっ、うん……」

「なら行ってきます!」

いつも通りの笑顔の歩の姿を温かく目で見つめる。

「気を付けてね」

「はいっ!!」

歩は家から去っていった。その時の母親の表情は何か気持ちのいい雰囲気を持っていた。