太陽鉄人外伝 SHIKISHIMA

Last-modified: 2009-02-07 (土) 18:18:20

太陽鉄人外伝 SHIKISHIMA

金田正太郎が、死んだ。
自分には、何もできなかった。
マキ子をその背に隠し、自分は一人だけそれを見ていた。
鉄人がハンマーパンチを振り下ろし、恐竜型の怪ロボットを叩き伏せる。
爆炎が上がり、金属片が飛び散る。
「いいぞ、正太郎君!」
大塚警部が叫ぶのが聞こえる。正太郎の操縦に合わせて、鉄人がフライングキックを放つ。これで終わりだと思った。鉄人は無敵だし、これからも金田正太郎とともにあるのだと。
一瞬の。
静寂。
銃声が響いた。
正太郎の体が、ゆっくりと崩れ落ちる。
操るもののなくなったVコンが、地面に冷たい金属音を立てた。
雨が降っていた。
自分には見えていた。
正太郎の背後から、編み笠をかぶったトカゲのような男が忍び寄る。
狙いを定める。
撃つ。
そのすべてが、自分にははっきりと見えていた。
なのに、声が出なかった。
自分の無力を、呪った。

 

少年探偵金田正太郎の葬儀は、敷島邸でひっそりと行われた。
ICPOはその事実を完全に隠蔽し、正太郎が生きているかのような報道を続けた。宇宙魔王を退けた英雄の名は、いまだ活動を続けるいくつかのロボットマフィアに対して大きな抑止効果があったし、そのためにはときおり鉄人が飛んでいる姿を見せるだけで十分だった。
許せなかった。
その怒りをぶつけるように、研究に打ち込んだ。
もっと強力な火器を。
もっと強力な破壊を。
鉄人の装甲を突き破るほどの火器さえ製造できれば、正太郎は出撃せずとも良かった。
だから。
雨音の中で乱射される携帯用改造銃器は、悲鳴にも似た哄笑を奏でていた。
敷島は、何かに追われるように学会を去った。
嫉妬していた。
正太郎には力があった。
本来守られるべき立場であるはずの少年。
金田博士をブランチの陰謀によってなくした悲劇の少年。
だが、彼はいつしか英雄になっていた。
繰り返される戦いのたびに、正太郎のまっすぐな正義が痛かった。
そのせいかもしれない。あの時叫べなかったのは。
自分は、汚い。
上等だ。
どうせ、正太郎のようには生きられない。
あのトカゲを見つけ出し、自分の武器で殺す。
それが、自分と正太郎への何よりの供養だ。
マキ子の呼ぶ声が聞こえる。
そんなはずはない。
マキ子はもう、いないんだから。
あのとき、正太郎をかばって飛び出したマキ子は、廃墟の混乱の中で行方不明になった。
それも、たまらなく悔しかった。
鉄人の操縦もできず、安全な場所から口を出すだけの自分。
それが、二人を殺したのだ。
雨音が聞こえる。
それに混じって、ノックの音。
「ただいまー」
聞き覚えのある声。しかし、そんなはずはない。
ありえない。科学者として、絶対にあってはならない。
火器を携えて玄関に出る。

 

「マキ子…!?」
そこにいたのはマキ子だった。
五 年 前 の 姿 そ の ま ま の。
「お父さん!久しぶり!ごめんなさい!しばらく冬眠してて…」
いなくなったときと同じ声で、マキ子が再会を喜ぶ。
違う。
これは。
マキ子は。
敷島の中で何かが弾けた。
「はははははははははははは!」
手に持った携帯用ミサイルのスイッチを入れる。ドワオ!
爆風と熱波に全身を焼かれながら、敷島は笑っていた。
「マキ子まで使うか!上等だ!上等だよトカゲ野郎!なかなか面白い余興だった!お礼に見せてやろう!人間の花火というものを!」

 

雨が降っていた。
季節外れのこの雨は、もう一週間目に入っていた。
全身に大火傷を負いながら、敷島は空を見上げた。
花火が打ちあがる。火薬庫に引火したようだ。
かつての生活の証が、復讐の炎となっていく。
楽しかった。
無性に楽しかった。
自分の過去も、思いも、敵の目的すらも燃やし尽くす。
「ああやって…死ねたらいいだろうな」
ゆっくりとやってきた08に抱き起こされながら、敷島はそんなことを思った。
「その力、僕のところで使う気はないか?」
早乙女博士と名乗る若手の研究者から手紙が来たのは、その直後だった。