第三話「血戦、第三新東京市」

Last-modified: 2008-11-09 (日) 19:00:26

479 :第三話:血戦、第三新東京市:2008/10/19(日) 21:22:52 ID:???
 碇の息子が裸のレイを押し倒したらしい。
 ソースは作戦部長の葛城君。さすが碇の息子だ。と思ったが、どうもただの偶然なのだそうだ。
 勿論その後、セカンド・チルドレンに「女の敵」として、溶けて蒸発せんばかりに猛打を食らったという。
 碇の息子よ。ネルフ来訪以来ずっと病院暮らしというのも災難だと思うが、弐号機が無いセカンドは現在非常に精神不安定で沸点が低い。
 弐号機が届くまでは避雷針の役割を君にお願いしよう。その前は何故か私がしていたのだし。
 そんな一時の平和が訪れたと思ったら、例によって使徒が来た。
「目標は芦ノ湖上空に侵入」
「パターン青、使徒です」
 今回の使徒は、巨大で大きくて見上げるようなサイズの青い正八面体。としか言いようの無い物体だった。
 当然のように空を飛んでゆっくりと近づいてくる。
「冬月。昔あんな形の飴があったな」
 そうだな。碇。
「兵装ビル展開準備」
「エヴァ初号機、発進!」
 発進するエヴァ初号機。今回は事も無くやれるだろうか。と思ったらそうはいかないのが世の常だ。
「目標内部に高エネルギー反応! 周円部を加速、収束していきます!」
「! まさか……加粒子砲?」
 加粒子砲。まさにマンガアニメそのままの光線兵器だ。特殊装甲を持つエヴァと言えど直撃すれば無事ではすまん。
 オマケにエヴァは射出直後で、射出リフトに固定された状態だ。
「シンジ君、避けて!」
「!」
「第64兵装ビル、起動!?」
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああッ!?』

480 :第三話2:2008/10/19(日) 21:24:52 ID:???
 結果からすればエヴァの損害は軽微で済んだ。
 兵装ビルが突如起動し、エヴァ射出リフトを初号機もろとも乱射したからだ。リフトは破壊されエヴァは発射地点まで落下。
 加粒子砲は初号機の頭頂部を抉り取り飛び去っていった。被弾及び落下による損害も無視できないが、
 加粒子砲の直撃を受けた場合を思えば圧倒的に小さなダメージに過ぎん。
 とはいえ一応撃った者を尋問はせねばな。

■特務機関ネルフ/司令室
「神特殊作戦課長。申し開きはあるかね」
「何か問題でもありましたか?」
 これだ。神隼人。
 黒髪を揺らしてよく響く、しかし決して下品ではない声。無駄肉のない長身。印象はよく切れる日本刀のようだ。
 狐のように冷静だが、それでいて虎より強い。出会い頭に目と耳と鼻を潰す男の異名を持つ。我が特務機関ネルフの作戦部特殊作戦課長。
 国連軍軍籍を持つ出向軍人でもあり、かつては英雄でもあり、そしてゼーレを潰した男……。
「問題ない。おかげで損害は最小限度に留まった」
「碇、しかしだな」
「では神大佐。現場に復帰します」
「うむ」
 碇、あの男は
「構わん。あれは危険な男だ。敵に回られるよりは手元に置いたほうが良い」
「いやそうでなくてだな、作戦部門の課長が、作戦部長の葛城君より階級が上なのはどうにかならんのか?」
「問題ない」
 そうか?

481 :第三話3:2008/10/19(日) 21:27:00 ID:???
 大型スクリーンに映し出された巨大な正八面体。コードネーム第五使徒「ラミエル」。
 エヴァの脅威を退けネルフ本部直上まで移動したラミエルは、正八面体の下部から飛び出した細く長いドリルを回転させる。
 地下施設への潜行と直接攻撃。目的はそう推測された。
 本部決定は「最下層施設 ターミナルドグマへの進撃を阻止せよ」。
 以上である。
『ネルフ本部職員の諸君。諸君らには『15年前の真実』セカンドインパクトの真実を、入所時に既に説明済みであると思う』
 また同時に、我がネルフ地下には15年前の事件の元凶と…同質のモノが眠っておるコトは既に述べた。
 ターミナルドグマに眠る「リリス」への使徒接触は、サードインパクトを引き起こしかねん』
『諸君らがネルフの本義を全うすることを期待する。以上だ』
 副指令の言葉を碇指令が引き取る。首脳部からの異例の訓示であった。
 接触だけでサードインパクトが起こる。
 という説明はあまりにも簡潔であったが、使徒という謎の生物の存在が、既にその疑問を吹き飛ばしていた。

「非武装のエヴァ型ダミーバルーン、及び敵性行動を示した12式自動臼砲が攻撃を受け、消滅されました」
「これまで採取したデータによりますと、目標は一定距離内の外敵を自動排除する行動を取っています」
「パターン青、使徒です」
「攻守共にほぼパーペキ、まさに難攻不落の空中要塞か……」
 本部への到達予想時刻は明日午前0時6分54秒。残り10時間足らずだ。それを過ぎればドリルが本部へ直撃する。
 幸い初号機及びパイロットは小破及び(今回の攻撃による負傷は)軽傷で済んでいるし
 凍結状態だったエヴァ零号機も「動くだけ」なら出来るようになった。
「やれるだけのコトはやっておかないとね」
 作戦部長葛城ミサト一尉は呟く。そう。やれるだけの事はやってみよう。勝ち目はまだ、あるハズだから。

「え!? 陽電子砲は未完成!? まァだ設計図レベルですってェ!?」
 だがそういう時に限って、作戦はのっけからつまずくのだった。 

482 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/10/19(日) 21:32:20 ID:???
レス誠にありがとうございます。
以上。長くなったので今回は前半部分のみの投下となります。後半は次回。

今回初登場となったハヤトは、基本はゲッターゴウの神司令仕様「置いていかれる」かは未定です。
大佐なのに葛城一尉(大尉相当)の下なのはその内説明するかもしれません。
が。特に意味はないかもしれません。

483 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/10/19(日) 21:44:11 ID:???
ちょwwwwww問題だろwwww設計図だなんてwww

乙です

484 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/10/19(日) 22:17:40 ID:???
ダメダメじゃねーかw

乙!

485 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/10/20(月) 20:28:18 ID:???
おぉぉぉぉぉぉぉ!久しぶりに覗いてみれば新作ではないか

がんばってくだせいまし

486 :第3話:血戦、第三新東京市4:2008/10/20(月) 22:02:30 ID:???
(喜びの)感情を込めて、ネタを操るんだ………

「戦略自衛隊に電話したんですって?」
「直接出向きもしたわよ? 一応」
「最近の戦自の予算、ウチが相当分捕ってるの知ってるでしょ、陽電子砲の実機なんて出来てる訳ないじゃない」
「そりゃそうよねえ……」
 技術本部部長 赤木リツコのあきれ声に、葛城ミサトは頭を抱えた。
 リツコは黙って片手でコーヒーを差し出すが、ミサトはそれに気付く余裕すらない。
「だからって設計図から実機を5時間で作れですって? 無茶にも程があるわ」
「そりゃそうよねえ……」
「大体日本国内の総電力を徴発して陽電子砲使って使徒を倒すなんて、それはそれで無茶でしょ」
「そりゃそうよねえ……」
「そもそもネルフが、第二東京電力の電気代何ヶ月滞納してるか知ってる?」
「そりゃそうよねえ……」
「いいから何か考えなさいよ……」
「そりゃそうだな。だが手は今思いついた」
「「え!?」」
 いつの間にかコーヒーを片手に立っていたのは、ネルフ作戦部門特殊戦闘課長 噂の神隼人その人だった。

487 :第3話5:2008/10/20(月) 22:03:24 ID:???
 一方こちらはネルフ医務室である。
「見慣れた天井だ……」
「明日午前0時から発動される作戦のスケジュール……読む?」
 あの攻撃で気絶し、ようやく目覚めたシンジを待っていたのはいつもの医務室と、そして綾波レイだった。
「それと食事。食べといたほうがいいと思うわ。60分後には出発だから」
 すらすらと作戦スケジュールを読み上げる綾波レイ。だがシンジは目をそらすだけだった。
「あんなコトがあったのに……また、アレに乗らなきゃならないのか」
「いやなら、逃げたら?」
「……?」
 シンジは思わず起き上がると周囲を警戒した。だが幸い、赤い影は見えない。
「初号機には私が乗る。パーソナルコードの書き換えなんて……大丈夫。弐号機パイロット<セカンド>は居ないわ」
「セカンド?」
「セカンドチルドレン。弐号機が無くて精神不安定のパイロット。今は大事な作戦の前だから神大佐の監督で拘束中」
「神大佐……そうなんだ」
 一度バギーで同乗しただけだけど憶えている。むしろ忘れようも無い。あのヒトなら抑えられる気がする。
「むしろ赤猿」
「誰が!?」
「気にしないで。独り言だから」
「………」
「……じゃ60分後にまた。食事……ちゃんと食べてね」
 綾波レイが出て行った後、シンジは我知らず呟いていた。
「逃げる…」
 ここで時計の針を一旦巻き戻そう。綾波レイと、碇シンジが始めて出逢ったその場面へ。
 碇シンジが、ネルフを初めて訪れたその場面へ。

488 :第3話6:2008/10/20(月) 22:04:07 ID:???
『久しぶりだな。シンジ』
 三年ぶりの父との対面。
『このエヴァにお前が乗るのだ。でなければ人類が滅亡することになる』
『解らないならば説明を受けろ。お前が一番適任…いや、お前でなければ無理なのだ…』
『必要だから呼んだまでだ』
『戦えぬならば必要ない。帰れ』
 父親が投げかけた言葉に温かみは無く、どれも意味不明で。唐突だった。
 言葉から『お前が戦わなければならないのだ』という意思だけは伝わる。いや『戦え』。という意思だけは伝わる。
 戦わぬならば不要だという言葉が突き刺さる。
 
 碇シンジという少年…彼について多くを語る必要は無いだろう
 だが敢えて語るなら、彼が、少し無気力なだけのただの普通の少年だと言う事だろう。
 彼は自身が無力であるコトを良く知る普通の少年だ。ある意味で、現実を(やや悲観的にだが)わきまえた少年だとも言えるかもしれない。
 彼は頭が良いから『父親に期待するだけ無駄だ』とよく知っていた。
 だが血が繋がった父親なのだ。どこかで『父親と分かり合える』コトを彼は期待していたのかもしれない。
 ほんの僅かな期待。潰されるコトが前提の期待。それでも彼はどこかでそれを望んでいた。そして結局それは無残に潰された。
 必要なのは道具だけなのだと。道具にならないならば不要なのだと。
 そう、父親に言われた気がした。
 
 そんなコトを言い放ちながら、それでも超然とした父親の姿。
 反感を覚えないわけがない。だから敢えて子供じみた反応をしてみた。少しでも父親を慌てさせたかった。
 あの男の、超然とした仮面を剥ぎ取りたかった。だからあの時は言ったのだ。
『逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ…』
 でも今は、どうなのだろうか?

489 :第3話7:2008/10/20(月) 22:05:56 ID:???
「いい? これからの作戦を聞いて」
 ミサトの背後には増加装甲を施したエヴァと、そしてエヴァサイズの、長大な日本刀らしきモノが並べ置かれていた。
「まず今回の使徒は極めて強力なATフィールドと長射程かつ高火力の武装を装備しています.
 ですが敵対行動を取るか、或いはエヴァ級の人型に対して以外は敵対行動を取らないことも確認されています」
「でなければ、今頃周辺のビルも全部攻撃されてるハズですものね」
「物分りが良くて助かるわ。そしてエヴァは地下に格納されており、こちらから出向くまで攻撃されません」
「……だから増加ブースターでエヴァの推力を強化し、更にこの改装リニア射出ケージから目標めがけて射出します」
 ミサトの説明をリツコが引き継ぐが、説明が進むたびにシンジの顔が呆れ顔になるのが彼女にも解った。
「命中計算とかは機械が全てやってくれるわ。あなたはATフィールドを張るだけよ」
「そしてこれがマゴロク・エクスターミネート・ソード。要はプログナイフを大きくしたエヴァ用の試作兵装よ。このサイズなら
 エヴァによるATフィールド中和領域に入り次第、すぐに敵を攻撃できるわ」

 つまりATフィールド無効化が可能なエヴァに剣をくくりつけて射出し、砲弾代わりにして使徒にブチあてて撃破する。
 これが本作戦の概要であった。

「相手が固い盾と長い槍で身を守るなら、より鋭い剣を素早く懐に入れて叩き斬る。それだけよ」
「あの、ミサトさん、リツコさん」
「何ですか?」
「もしかしてこれって冗談「大マジよ」」
 シンジの言葉をさえぎるミサト。顔は笑っているが目が笑っていない。
「大丈夫大丈夫。攻撃時には可能な限りのダミーバルーンを展開するし兵装ビルにも攻撃させるから」
「大丈夫大丈夫って……」
「そしてレイ。貴女には囮役を務めてもらいます」
 続くミサトの説明に、今度こそシンジは息を呑んだ。囮、あの攻撃力相手に囮だって!?

490 :第3話8:2008/10/20(月) 22:06:43 ID:???
「そこでこの盾。こちらも急造仕様だけど、敵の攻撃にも計算上17秒耐えられるわ」
「はい」
 淡々と説明するリツコ。レイも淡々と、しかし明瞭に応える。
「シンジ君は初号機で攻撃役を担当」
「はい……」
「レイは零号機で囮役を担当」
「はい」
「もし攻撃が外れた後は?」
「後はないわ」
 端的に応えるミサト。
 それを合図に一同は解散し、後には柱にもたれた神大佐と、呻き声のする赤い簡易拘束室がその場に残った。

 それからシンジとレイはほんの僅かな交流をかわした。
 自分達は死ぬかもしれないという事。
 だがレイにとっては、ネルフの、碇ゲンドウの役に立たないという事は己が無価値になることであり、死ぬのと同じだと言う事。
 生きているのに、死んでいるのと同じ無価値な人間。……それはシンジにとっては、今までの人生がそうだったのかもしれないという事。
 ならシンジもまた「何か」を見つけるまで、ネルフをもう離れられないのかもしれない。また無価値になるのが嫌ならば…。
 二人にとって、ネルフで生きる今以外に「生きている」という事はないのかもしれないという事……。
 何故シンジはそれをレイに話したのか? 自分とレイの境遇は似ているから?
 違う。
 多分レイとシンジは似ているが、レイはシンジ以上に「何も無い」のではないか。
 そう、シンジは思った。
「碇君。あなたは死なないわ。私が守るもの」
 事も無げに彼女は言い、そして別れ際にこう、言った。
「さようなら」

491 :第3話9:2008/10/20(月) 22:10:02 ID:???
 日本標準時23時57分52秒。作戦開始数分前である。その頃エヴァ初号機コクピットでシンジはふと呟いていた
「そういえば、なんでこんな作戦名なんだろ?」
 勿論答える者など誰もない。
 一方、発令区では作戦の発令が行われていた。
「エヴァによる高速・超近距離からの一点突破か。随分大胆な作戦を立てたものだ」
 しかしこの作戦名は流石にどうかと思うぞ葛城君。
「時間です」
「“ヤクザ作戦”スタート!」
「そう、さしずめ碇の息子は「特攻役」。ヤクザの鉄砲玉、という訳か……」
 司令席脇で呟く冬月だった。

 想定外の事態はあった。
 いきなり多数展開したダミー・バルーンに驚いたのか、「ラミエル」は周囲全方位に対して弱度の加粒子砲をバラ撒きダミーを殲滅。
 残された零号機も重い盾のせいで身動きがとりにくく、ラミエルの加粒子砲の餌食となった。
 しかしカタパルトから射出された初号機はギリギリで「ラミエル」を撃破。司令部直上にてドリルは停止し、司令部は沸きかえった。
 射出の衝撃で装甲をズタズタにされたが、初号機は健在。同じく装甲板を融解された零号機の救助へ向かった。
 両機の通信機は半壊したらしく、その時、碇の息子とレイに何があったのかは私には判らない。
 ただ二人の間に何かの交流があったのは事実だろう。

『綾波…もう、別れ際に……さよなら何て、悲しい事、言うなよ……』
 そして通信機から僅かに漏れ聞こえる二人の声を聞き、作戦が成功したというのに碇が不満げに立ち去った事
 碇が立ち去った後、通信機から弐号機パイロットのにぎやかな罵声が響き始めたこと。兵装ビルの再建予算が私の頭を悩まし始めたこと
 神君が、何故か物欲しげな顔で使徒のドリルを眺めていた事……。問題は山積みだ。
 だが今だけは疲れに浸っても良いだろう。なあ、ユイ君?

本日これまで。レスが書き手のエネルギーです。いやホントに