第二話「慣れない、土方」

Last-modified: 2008-11-09 (日) 19:01:11

469 :第二話:慣れない、土方:2008/10/18(土) 20:30:32 ID:???
 15年前のその日から。
 地獄が,始まった。
「誰か、いないのか……」
 返事はない。暴風のような何かが吹き荒れているのが理解できた。周りに居た同僚、調査員たちたちが一瞬で弾けた事が理解できた。
 と言っても弾けたのは血と肉ではない。血ではない真っ赤な液体。LCL。
「糞、人間を舐めるなよ……ッ」
 意思を持て。強く保て。いまならまだ、耐えられる。男はただ自分を鼓舞する為に呟く。
 目の前に白い巨人。そうとしか形容できないモノが天へと咆哮を挙げ、周囲には十数体の異形が浮かぶ。
 対するはヒトが乗る赤い巨人。槍を手にした、たった独りの赤い巨人。

「見るがいい。これが貴様らが最も恐ろしがったロンギヌスの槍だ!」
 白い巨人が身じろぎするのを感じた。感じたように思えた。
 白い巨人が咆哮し、異形達が応じるように共振を起こす。赤い機械巨人が、ゲッターロボが、軋む。
「貴様が何億年も寝ていたところを起こしてしまったのは我々だ。だが悪いがもう一度眠ってもらうぞ化け物め!」
『お父さん?』
 最後に過ぎったのは娘の顔。そして遠くから自分を見つめていた薄気味の悪い男の姿だった。
「ミサト、生きろ」
 全ての圧力を押し切ってリバーを押し切る。ゲッターロボは槍を白い巨人へ突き刺すと同時に緑の閃光と化して圧壊した。
 白い巨人は閃光となって弾け、その余波は「現代」と呼ばれていた時代を破滅させた。

 白い巨人の名はアダム。
 赤い巨人…ゲッターロボを駆った男の名は葛城。
 この事件は「セカンド・インパクト」と呼ばれるが、公表では『巨大隕石衝突によるもの』となっている。真実を知るものは少ない。
 それから15年。世界はゆっくりとだが復興した。その経過でゲッターロボと呼ばれるロボットが姿を消し、そしてゼーレと呼ばれた組織が姿を消した。
 狂った時代が過ぎてゆく。何が狂っているのかはさて知らぬ。だが狂った時代が過ぎてゆく。

470 :第二話2:2008/10/18(土) 20:31:56 ID:???
■第三新東京市
 前回の使徒「サキエル」襲来と、国連軍が行った過激な防衛作戦により第三新東京市の被害は甚大。
 だからと言って何故副指令の私自らトンカチ片手に復旧作業に出なければならないのだろうか。
「さすが冬月教授。建築学科に転向なさっては如何です?」
 お前は書類仕事か碇?
「問題ない。ところでこんな計画を考えてみたんだが」
 なるほど。エヴァにツルハシとスコップを持たせて…どうみても電気代とエヴァの修繕費で赤字だぞ
「先生。後は任せます」
 いいから真面目に仕事しろ碇。それと復旧中の兵装ビルの件だが。

「問題ない。今回の件で国連軍がこんなモノを寄越した」
 寄越しただと? どうせ今回の件で難癖付けて分捕ってきたのだろう。こいつはそういう男だ。
「…ビィートT32を12機か。連中にしては奮発したな」
 ビィートT32。国連軍日本支部で主に用いられている陸戦用装甲騎兵である。早い話がロボット兵器だ。
 総重量10.8トン。全長8.2メートル。飛び出た頭と、大きな四足を持つ鉄の亀のような機体。とでも言えば良いだろうか。
 固定兵装は特に無いが、武装を施して前衛として運用したり、或いは厚い装甲と巨大な四足の機動性を活かして強行偵察などに用いられる機体だ。
「ふむ。技術開発部に命じて武装化すれば、兵装ビルの死角を埋める役には立つか」
「パイロットの選抜と育成は、作戦部特殊作戦課に任せます」
「彼か」
 確かに彼ならうってつけだろう。こんな機体でも使い方次第か。乏しい戦力はなんとかせねばならん。
 全ては予算が不足している為だが、既に日本政府とアメリカ政府はオレンジの種が泣くまで(碇が)絞っている。エヴァの運用には金が掛かるのだ。
 本来ならこういう折衝役はゼーレがやってくれるハズだったが
 十三年前「彼」がバラバラにしてしまったからな……。
 考え事をしていると諜報部員から連絡が入った。
 何? エヴァ初号機パイロットがジャージの不良に絡まれているだと?
「問題ない。脱がせ」
 碇。もうお前は黙っていろ

471 :第二話3:2008/10/18(土) 20:33:25 ID:???
■第3新東京市立第壱中学校2年A組
「しっかし、あのロボットのパイロットはほんまのヘボやなあ! 無茶苦茶腹立つわ! 味方が暴れてどないするっちゅうんじゃ!」
 鈴原トウジはその日苛立って「いた」。
 先日ロボット騒ぎがあった際、彼の妹がケガをし病院通いになってしまったからだ。
 そして今日、そのパイロットが転校してきているらしいと聞いた。だから彼はそいつを見たら一発ぶん殴ってやろうと決めていた。
「オイ転校生、お前あのロボットのパイロットってホ……いや」
「……何?」
 そのパイロットは全身くまなく包帯を巻いて車椅子で、おまけに覇気のない疲れた顔で登校してきていた。
 彼のドドメ色の脳細胞は、パイロットが乗りたくて乗ったのではない苦労人であろうと一瞬で察した。
 だから彼は謝ろうと思った。彼は感情に素直な、ある意味古風な少年だった。
 
■第三新東京市再建現場
 知るものかね。そもそもあの学級の生徒については全て調査済みだ。あのジャージ君についてもな。
 彼は決して悪い少年ではないよ。頭以外はね。……何、まだ続きがあるのかね?

■第3新東京市立第壱中学校/体育館裏
「スマン転校生!」
「?」
「ワイを殴ってくれ!」
 碇シンジは苦労人である。何せ父はあの碇ゲンドウだからだ。そのせいで変な赤毛の少女にボコられたし、変な巨大ロボットにも乗せられた。
 ついでに母の碇ユイは実験の事故で早くに亡くなっている。
 親元ではなく親戚の間で多感な少年時代を過ごした彼は(その対処方法はともかく)場の空気を読む術にそれなり長けていたが
 いきなり殴れと言われては空気を読む暇も無かった。
 鈴原トウジの思考はこうだ。
 パイロットが悪いと思った彼は、パイロットである彼を殴ろうと思った。しかしパイロット=碇シンジ少年は重態だった。
 つまり碇少年はそれなりに必死にやったのだ。そんな彼を疑った己はバカだと思った。
 そんな己を罰してもらわなければならない。
 誰に? もちろん彼にだ。

472 :第二話4(終):2008/10/18(土) 20:35:07 ID:???
 もちろん碇シンジ少年にそんな心の葛藤はわからない。
 彼から見れば、鈴原トウジは発対面の人間にいきなり自分を殴れというおかしなマゾにしか見えない。
 だが鈴原トウジからすれば幸いな事に、彼の望みは直ぐに叶えられた。
 その場、体育館裏を突如として赤い鬼が強襲し、そのまま蹴りと殴打でブチのめしてしまったからだ。
 なおこの場合の「赤い鬼」というのは比喩表現であり、正確には惣流・アスカ・ラングレーという赤い髪の少女である事は言うを待たない。

■第三新東京市再建現場
 つまり碇の息子<サードチルドレン>が変な奴に攫われたと勘違いして大暴れしたと。
 ある意味間違っておらんが彼女の短慮なところは何とかならないものかね。何? 護衛役として付けている例の作戦課長の影響?
 まあそれもあるかもしれんが、彼女はエヴァを存在意義代わりにしている傾向がある。
 彼女のエヴァが届けば少しは落ち着くだろう。急がせねばな。
 まったく。国連の連中といい誰も彼も喧嘩早くていかん。
 それと碇、今回の件の情報操作も頼むぞ。隠蔽工作はお前の十八番だろう。
 最近は市民団体とやらもバカに出来んし使徒を倒しきるまでネルフは潰れるわけにはいかんのだからな。
 その為には……何? 使徒か?

「パターン青、使徒です」
 現れた第二の使徒は、飛行と直立が可能で二本の鞭を組みつけた巨大なイカ。そんな奇怪なイキモノだった。
 中距離で光の鞭を操るイカに対し、エヴァは懐に踏み込んで一息に突き殺した。意外に見事な手前だ碇の息子よ。
 何? 懐に飛び込んで目と耳と鼻を潰すのが戦いの基本? 誰かねそんな事を言ったのは……いや聞きたくない。
 ともかく第二の使徒の撃退に成功した。が、予言書「裏死海文書」に従えばまだまだこの戦いは続くという。
 戦いはまだまだ続く。だから碇、とりあえずお前も仕事しろ。

 そうそう聞くところによると碇の息子は例のジャージ君と友達になれたらしい。
 共通の存在にこっぴどいめに遭わされたせいだろうか。私も何かに酷い目に遭わされたら碇以外の友達が出来るだろうか。
 いやそもそも……この先は考えまい。

473 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/10/18(土) 20:39:36 ID:???
第二話終了。
次回はようやくゲッターチームから一人目が登場する予定です。
後は例によって対ラミエル「ヤシマ作戦」ですが、作戦名及び内容は変更を予定。
二日以内には投下予定です。よかったら見てやってくださいませ

474 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/10/18(土) 20:43:43 ID:???
追伸:「赤い髪の少女」…。別に髪が赤いワケじゃないのを今思い出しました。
ファンの方、誠に申し訳ございません。何故か物凄く赤いイメージがありました。何故でしょう

前回はシンジの、今回はトウジの返り血で真っ赤に染まったというコトでどうか一つ