第十一話「使徒、驚愕」

Last-modified: 2008-11-09 (日) 20:00:20

616 :第十一話/使徒、驚愕 ◆ALOGETTERk :2008/10/31(金) 22:34:00 ID:???
 来るべき近未来。
 今、人は第二の滅び「セカンド・インパクト」を乗り越え、たくましき活況の中にある
 だが、その闇に潜み、激しくぶつかりあう二つの力があった。
 生命消失を策謀する謎の生命体「使徒」。
 かたや、彼らに対抗すべく世界各国より集められた正義のエキスパート集団「NERV<ネルフ>」
 …そしてその中に、史上最強の汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンを操縦する一人の少年の姿があった。
 名を、碇シンジ!
『砕け! エヴァンゲリオン!』
「………」
 勇ましいテーマと共に使徒を薙ぎ倒すエヴァ初号機が駆け、そして緊張に包まれたネルフ発令区へとシーンが移ってゆく。
 ちなみにシンジの発言はすべて吹き替えで勇ましい発言に変わっているが…。
「冬月。この動画を公開しようと考えている」
「黙れ碇。そもそもこんなモノをつくる暇があったら仕事をしろと言っているだろう」
 だいたいネルフは国連直属の非公開組織だろう。と、冬月は碇ゲンドウへと苦言を呈した。
「だが予算が足りん。そして、既に度重なる使徒襲来によってネルフの存在は半ば公然の秘密となりつつある」
「だからと言ってこれで国民の機嫌がとれるとでも思っているのかお前は」
「ふ…問題ない。全ては脚本通りだ」
「それは洒落で言っているのか碇」
「ですが冬月先生」
「…確かに。十三年前に同じ手が通じたことは事実だがな」
『だがあれはセカンドインパクト直後で娯楽が少なかったが故ではないのか?』
 そう冬月が口にしようとしたその時、流しっぱなしの動画が急に乱れる。
 やがて使徒襲来を告げるサイレンが鳴り響いた。

617 :第十一話2:2008/10/31(金) 22:35:07 ID:???
「状況はどうなっている?」
「パターン青、使徒です」
「極性サイズの使徒が、シグマユニットの第87蛋白壁の一部に混入・偽装して侵入した模様」
「蛋白壁より侵食が進んでいます。爆発的なスピードです!」
 まさか使徒に侵入されたというのか? いかん。いかんぞ
「セントラルドグマを物理隔離だ。急げ!」
「エヴァへの汚染を防げ。初号機を最優先で地上へ射出。他二機は破棄しても構わん」
 碇がまた無茶な指示を出す。だがエヴァ初号機なくばそもそも我らの補完計画は意味を成さぬ。止むをえんか。
「汚染が進めば最後だ。急がせろ!」
「了解。セントラルドグマ物理閉鎖。及び初号機を地上へ射出。開始します」
 使徒によるドグマの占拠は敗北と同意だ。これで王手は避けられたが、さてエヴァ無しでどう攻める。碇?

「彼らはマイクロマシン、細菌サイズの使徒と思われます」
 ゲッター線研究で篭りきりだった赤木リツコ博士を叩き起こし、使徒対策に当たらせる。
 要はウィルスのようなモノのようだが、同時にコンピュータ・ウィルスにもなれるらしい。まるで一昔前の冗談のようだな。 
 だがその侵攻速度は冗談ではなく、既にネルフメインコンピュータ「MAGI」の一角に侵入しつつある…。

 第七世代有機コンピュータ「MAGI」
 人類が開発した初の人格移植OSで動作し、ヒトの思考を模して思考する。
 メルキオール、バルタザール、カスパーと名付けられた三機のコンピュータで構成され、合議制を行うのである。 
 なお人格提供者は、今は亡き同開発者「赤木ナオコ」博士…現開発部部長赤木リツコ博士の母である…。
「死ぬ前に母さんが言ってたわ。MAGIは三人の自分なんだって」
「科学者としての自分、母としての自分、女としての自分。その3人がせめぎあってるのが、MAGIなのよ」

618 :第十一話3:2008/10/31(金) 22:36:34 ID:???
「止められません! MAGI-メルキオールが使徒に乗っ取られました!」
「MAGI-メルキオールより本部施設自律爆破、自爆指令が提訴されています」
「賛成1・却下2、自律自爆却下されてました…使徒は今度はMAGI-バルタザールへ侵入を開始!?」
 早い。使徒のハッキング速度は人間業ではない。さすが人間でないだけのコトはあるな。
 これに対し作戦部は「MAGIの物理除去」つまり破壊を提案する。
 即決即断で定評がある葛城君らしい提案である。
 その背後では既に神君以下、特殊作戦課が嬉々として大量の爆薬とドリルを運びこみつつある。
 だがMAGIが無くなれば、第三新東京市の迎撃機能どころかエヴァの運用さえままならなくなるだろう。
 それだけではない。我々の補完計画を進める上での研究もまだ終わっては居ない。
 MAGIの破棄は本部破棄と同意であり、そして碇の計画の破棄でもあるのだ…。
「目標がコンピューターそのものなら、CASPERを使徒に直結、逆ハックを仕掛けて、自滅促進プログラムを送り込むことができます」
 そう。まだメルキオールの大半とカスパーが残されておる。
 カスパーで逆ハッキングをしかけるという訳だな。
 俺はこちらを支持するが、どうだ碇?
「冬月、3行で説明を頼む」
 碇。もういいから黙っていろ。

619 :第十一話4:2008/10/31(金) 22:38:22 ID:???
「暇ね……」
 発令区要員の殆どがMAGI内部への直接接触作業へ移行してしまったので、発令区ががらんとしてしまった。
 でもすぐ慣れると思う。だから心配するなよド…いやもとい。オペレーターの一部と手持ち無沙汰の作戦部がたむろする程度だ。
 阻止に失敗すればジオフロント・エリアが丸ごと吹き飛ぶ。逃げる時間も無いので現実感も無い。
 ただ死…あるいは生へのカウントダウンが他人の仕事で進むだけである。
「………」
 正面スクリーン上では「メルキオール・バルタザール・カスパー」の侵攻状態を示す画像が呈示されるばかりだ。
 既にメルキオールとバルタザールは「使徒侵攻」で真っ赤。カスパーの半分程度が青いだけである。
「……3つの心、か」
 ふと葛城君が呟く。
 うむ。何か心に響くフレーズだな。さて何だったか…

「ガン! ガン! ガン! ガン! 若い命が 真ッ赤に燃え~て~♪」
 突如、静寂を破って葛城君が拳を固めて叫び、いや歌いだした。これは、これは確か…
「葛城君。どうしたかね?」
「ゲッタースパぁーク~空高く~・・・・あ。いえその、なんていうか」
「発令区でバカ騒ぎを始めるとは。申し開きはあるかね?」
 碇が叱責を始める。しかし
「「見たか合体! ゲッターロボだ!」」
 その背後で作戦部要員も歌だした。この曲はまさしくイサオ=ササオの名曲「ゲッターロボ!」か。
「いやその、なんていうか皆緊張しちゃってるので緊張をほぐそうかな~と」
「葛城君。減俸3ヶ月だ」
 容赦ないな碇。だが作戦部の歌は止まらない。むしろヤケを起こしたように唱和が、始まった。
 死を伴った緊張に、さすがに誰も彼も耐えられなくなってきたらしい。
「「「「ガッツ! ガッツ! ゲッター・ガッツ!!!」」」」
 一人、神君だけが離れて苦笑していた

620 :第十一話5:2008/10/31(金) 22:38:55 ID:???
『『『『ガッツ! ガッツ! ゲッター・ガッツ!!!』』』』
 歌声は、遥か下で作業を続ける技術開発部チームまで響いてくる。
「先輩、この歌って…なんでしたっけ」
 ぽやっとした調子で言ったのは技術開発部の秘蔵っ子 伊吹マヤ二尉である。
「ゲッターロボ! ね。なんだか懐かしいわ」
 先輩と呼ばれた女性、技術開発部赤木リツコ女史がキー操作を止めずに応える。
『『『三つの心がひとつになれば~ 一つの正義は・百万パワー♪』』』
「母さんもよく聞いていたもの」
「お母様って……もしかしてMAGIシステム開発者の赤木ナオコ博士ですか?」
「そうね」
「コンピュータ開発の世界的権威がロボットアニメって、なんだか意外ですね」
「あら、先端化学者…特にロボット開発者がロボットアニメ好きだった、なんて話は結構あるのよ?」
 モニタから目を離さず、一瞬もキーを止めず、それでも懐かしげにリツコは語る。
「母さんね、あれで結構子供っぽいところがある人だったから…子供というか、のめり込みやすいというか
 だから、なんの気なしに見たロボット・アニメに妙にハマっちゃったらしいわ。早乙女研でサイン貰ったって喜んでたもの」

 ゲッターロボ。それはセカンドインパクト後の荒廃期にNSHKが作成した連続テレビアニメで
 3人のヒーローが乗り込む3体合体ロボット「ゲッター・ロボ」と、地下から現れた「恐竜帝国」との戦いを描いた物語であった。
 …当時、ゲッターロボの広告活動の一環として作成されたテレビアニメだが、そのコミカルながら熱い熱気を放つ物語は
 老若男女問わず評価が高く、特に放映時がセカンドインパクトから間が無く娯楽に乏しい時期だった事もあり
 現実のゲッターロボが「核以上の脅威」として遠ざけられるまで、視聴率上位に居続けたという。

「母は研究一筋の人で、私はずっと祖母と暮らしていたわ…だから、たまに逢ったときの印象は強く残っているのかもしれないわね」
 珍しく饒舌になるリツコ。しかし表情が一変する。
「え……? メルキオールが…?」
「バルタザール及びカスパーも同調しています! 先輩!?」

621 :第十一話6:2008/10/31(金) 22:40:08 ID:???
 さてこちらは発令区スクリーン。
 使徒に汚染され、赤一色に染まっていたハズの「MAGI」に僅かに青が生じ始める。
「「「悪を許すなゲッターパンチ! ゲット! ゲット! ゲッタ~ゲッター・ロボ!♪」」」
「いよっし青くなってきたわ!」
「続いて2番!」
 発令区要員も作戦部要員も、手の空いている者達は手を組み肩を組み、既に発令区は合唱コンクールの様相を呈している。
 葛城君にいたっては、どこから持ち出したのかガクランを羽織ってハチマキを巻き、扇子で音頭を取っている程だ。
 神君のみ一人やや気恥ずかしげだが、作戦部一同で中央にがっちり羽交い絞めである。
 彼も大変だな。
 しかし。
「碇、何か動きが早すぎやしないか?」
 確か二時間程度処理にかかると言っていたハズだが、まだ一時間少ししか経っていない。
「ガンガンガンガン………あ、ああ何だ冬月」
「……もういいからお前も合唱に加わって来い」

『『『ガン! ガン! ガン! ガン! 若い怒りが一直線~に~~~♪』』』
「嘘、勝手に自己修復プログラムが走り出した?」
 わ、私入力して無いわよ!?
「先輩、カスパーだけじゃありません! 汚染されたはずのメルキオールとバルタザールまで自己修復プログラムを!?」
「カスパー、メルキオール、バルタザールが同時実行という事?」
 妙だわ。プログラムの打ち込みはまだ終わっていないのに。
 まるで進化する使徒の侵攻に対して、MAGIが自らを…自らを進化させている?
 それだけじゃない。3つのMAGIが一心不乱にただ一度に同じ様に考えている!? 自ら使徒を隔離し再生を始めている?
 母さんの3つの心が一つになっているとでも言うの!?
「先輩、メルキオールが!」
 母さん、MAGIは、貴女の心は……いや、これは、これは?

622 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/10/31(金) 22:41:28 ID:???
しえん

623 :第十一話7(終):2008/10/31(金) 22:42:32 ID:???
 スピーカーからも突然「ゲッターロボ!」が流れ出し、更に全モニターで一斉にゲッターロボ(アニメ版)の動画が流れる。
「何の冗談かね」
「何よコレ、リツコの差し金かしら…何にしても燃えるわね!」
「「「「若い怒りが一直線に~♪ ゲッター・チェンジ、ぶちかませ!」」」
 葛城君以下、もはや完全にカラオケの調子で歌っている。
 碇、お前も歌いたいなら行っていいんだぞ?
「ああ…ああ」
 と碇をからかっていると、発令区最上部、つまりココにエレベータが上がってきた。
 乗っているのは…金髪。赤木君……だと?
「赤木君、処理はどうなっているのかね!?」
「……」
 心ここにあらずの碇はさておき、思わず私は声を荒げた。だがリツコ君は力なく首を振る。
 何? MAGIが自己再生を始めた?
「MAGI第4の人格が目覚めました……もう、手を施す必要はありません」
「第4の、人格?」
「はい。科学者としての母でも、母親としての母でも、女としての母でもない……一心不乱にただ一つに打ち込む人格です」
 珍しく赤木君が口ごもる…が、やがて意を決したように告げた。
「は、母の……お、オタクの、心です」
 私が思わず足からズッコケてしまった時、丁度MAGIは3台とも青パターンを取り戻す。つまりは使徒消滅と自律自爆解除である…。
 遠ざかる意識に「3つの心が一つになれば」という歌詞が遠くエコーするのだった。

 なお後ほど伊吹君に聞いたところ、その後作戦部主導でネルフ一同カラオケに繰り出したらしい。
 まったく。気絶した老人をほうっておいて出かけるとは敬老の精神が足りんと思う。
 それだけではない。
 カラオケなら駅前にある「ネオ・アトラン」の常連割引券を私が持っていたというのに…。

本日ここまで。某動画のワンシーンを見ていたら自然とこんな話になっていた。
今は反省している(youtube) ttp://jp.youtube.com/watch?v=vvZ38RQ3hN8