第十三話「顛末と沈黙」

Last-modified: 2008-11-10 (月) 00:27:18

645 :第13話「沈黙と顛末」:2008/11/05(水) 00:13:56 ID:???
『黙れ! 誰か、誰か俺に解るように説明しろォーーーーーーーーーッ!!!!!』
『ォーしろォォォォーーーーーしろォォォーー!』
 さて嵐のような一夜が明けた。
 説明を要する。と叫び、斧を片手に大暴れを始めた真・ゲッターにより第三新東京市の被害は甚大。
 説明を行え、と叫ぶのは構わん。
 だがこちらの説明を聞かないというのはどういう事だろうか。
「俺がバカだった!」
 いいから神君、君もちゃんと説明してあげたまえ。

 大暴れするゲッターロボに対し、第三新東京市は捕獲ネット・爆撃・砲撃・放電・落とし穴・膝カックンとあらゆる手段で対抗したが
 それでも真ゲッターの勢いはとどまるところを知らぬ。

 結局、元ゲッターチームである神隼人君自らビィートT32で直接通信を試みることでなんとか事態の沈静化に成功。
 しかし被害を受けた市街地が直るわけではない。ゲッターを建造した早乙女研も今は亡い。この損害はどこに請求すれば良いのだろう。

 何? 更に追い討ちをかけるようにパイロットが生身で大暴れ?
 安全の為に武装解除を命じ、保安要員をさしむけたのが気に障ったらしい。
『俺はやってない! 俺じゃない! 俺じゃないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!』
 と叫んでこれまた大立ち回りである。なにかトラウマにでも触っただろうか。
保安要員がダース単位で吹き飛び、ならばと神君が生身で立ち向かったが、やはりその巻き添えで保安要員がダース単位で入院となる。
 葛城君。ビール呑みながら観戦している暇があったら君も確保に向かいたまえ。
 それと碇。私も入院してきていいか?
「ああ。問題ある」
 そうか。

「…流竜馬二尉、及び車弁慶三尉はどうしている?」
「とりあえず私の宿舎につれていき事情を聞かせました。今は落ち着いています」
 とは神君の弁だ。しかしあの野獣のような男が落ち着いている姿など想像も出来んが…
「時を越えた、などと聞かされればおとなしくもなりますよ」

646 :第13話2:2008/11/05(水) 00:15:15 ID:???
■葛城ミサトのアパート兼碇シンジ他自宅
「そうか……」
「まさかそんなことになっていたとはな…」
 ボロボロの作業着にも似た制服の男が二人、うなだれる。
「まったく心配かけやがって。お前らは世間的に死んでいたんだ」
 しかし神隼人は容赦の無い言葉を投げかけた。彼らしいといえば彼らしい言葉である。
「死んでいた、か」
「どのくらいだ?」
「ああ。十三年だ」
 隼人の一言に、思わず男たちは気色ばむ。
 二人とも同じように制服……旧早乙女研究所制服に身を包み、同じように短く刈った黒髪に黒い瞳、濃い眉の日本人である。
 だが印象はそれぞれに違う。
 
「そんなバカな」
 片や、すこしばかり余裕のある体躯にしもぶくれ気味の顔。
 それだけならただのメタボリックだが、まるでオタマジャクシのような太い眉毛の下の瞳に宿る力が、それだけで男を精悍に見せている。
 …元ゲッターパイロット候補生であり最後のゲッター3パイロット「車弁慶」が彼の名だ。

「俺達が夢でも見ていたってのか?」
 片やこれまた巨漢だが、格闘家特有の引き締まった体躯がそれを感じさせない。
 短く刈った髪に、ヘの字を造るこれまた厚い眉毛。そして口元まで届こうかという力強いモミアゲが特徴となる。
 引き結ばれた口元と釣り目気味な目も相まって、いかにも意思が強そうな男である。
 冬月副司令は「野獣のような…」と称したが、決して醜男という訳ではない。
 …元ゲッター1パイロット「流 竜馬」。これが彼の名だ。

647 :第13話3:2008/11/05(水) 00:15:52 ID:???
「そうは言ってねえ」
 と言ったのは元同僚。神隼人。
 彼は「ゲッターが黒い海に飲み込まれ、その後早乙女研が壊滅。そして早13年の時が流れた」と説明したばかりである。
 二人の生還者は、僅か数時間で13歳も年を取った元同僚の前で、今は神妙に話を聞いている。

「だが俺たちにしてみれば長くて1・2秒のコトだったんだ」
「黒い海に飲み込まれたときの事。全ての感触がまだ体の中に残っているぜ…」
 じっと、手を見る。
 セカンド・インパクト後の戦争。日本を守る防衛線にて「黒い海」に消えたはずの彼らが、突如、乗機「真ゲッター・ロボ」と共に帰還した。
 彼らを飲み込んだ黒い海「ディラックの海」と呼ばれる虚数空間からの帰還である。
 その間、驚いたコトに彼らにとっては全く時が流れていなかったらしい。
「物理法則もなにもあったもんじゃねえな」
「お前らの戸籍も抹消済みだ。しかも元英雄で顔が割れすぎてる」
「当面ここで軟禁ってコトですか」
「バカ。その前にやることがあるだろうが」
 体躯に似合わずおずおずと言った弁慶に、後ろ頭で手を組んだ竜馬が軽い調子で言った。
「そのゼーレとやらにお礼をしにいかなきゃならねえだろ?」

648 :第13話4:2008/11/05(水) 00:17:09 ID:???
『………今なんと言ったかね』
『左様。冗談は止したまえ』
 他方こちらはそのゼーレである。真ゲッター生存の報はいちはやく彼らにも届いていた……。
 なお、聞いた途端、闇に冷然と浮かぶ七つの石柱<モノリス>がドミノ倒しを起こしたのは君と我々との秘密である。
『間違いないのか…』
 言った途端、頭目である「議長」キール・ローレンツが頭を抱えてうずくまった。
『議長……』
『無論、憶えておる。憶えておるぞ……』
『左様。思い出したくもありませんでしたがな』
 連鎖反応的に神隼人との交戦を思い出し、議員全員が暗闇で頭を抱えるのだった。

「そのゼーレとやらにお礼をしにいかなきゃならねえだろ?」
「無理だ。リョウ」
 間髪いれずに言ったのは隼人である。
「何を!? 日和ったかハヤト!」
 気色ばむ竜馬に対し、隼人は淡々と告げる。
「お前はゲッターに乗っていたくせに気付いてなかったのか?」
「なに…?」
「真ゲッターのエネルギー、もう残ってねえぜ?」
 隼人の発言に、思わず硬直する竜馬であった。

649 :第13話5:2008/11/05(水) 00:18:02 ID:???
「まあ失踪から十三年。機体が生きていただけでも儲けものだがな」
「だから、俺たちにとっては1・2秒のコトだったった言ってるだろハヤト」
「つーかですよ。俺たちゃゲッターのオマケですか、先輩」
「実際似たようなモノだな」
「おい」
 ネルフ地下ケイジへと続く通路を連れ立って歩きつつ軽口を叩くゲッター・チーム。
 実際、竜馬も弁慶も一切歳は取っていないように見え、肉体的にも20台相当のままと言っていい。
 一人残された隼人だけは13年余計に歳を刻んでしまったが、肉体の冴えは決して20台にも決して劣らない様子なので問題ない。
 実に、問題ない。

「まあ十三年前にも話したが、このゲッターはゲッター・エネルギーを最大に活かす為に建造された試作機だ」
「だからメチャメチャに強いが…」
「エネルギーもメチャメチャに喰う、んでしたよね」
「そういう事だ…おーい! どうなってる!?」
 メンテ班に問いかける隼人。
 以下技術的な話が続くので体育会系なりにわかりやすく科学的に解説すると「機体の破損は殆ど無いが、エネルギーが殆ど無い」とのコト。
 しかしエネルギーの調達。これが問題だった。

650 :第13話6(前半パート終了):2008/11/05(水) 00:26:11 ID:???
「なによゲッターロボって無限エネルギーで動くんじゃなかったの?」
「違うよアスカ。確かゲッター線収集装置だか何かが必要だったんじゃ」
「それも違うわ碇君。真・ゲッターには独自の収集・増幅機関であるゲッター炉があるハズよ」
「誰だお前ら」
「「うわッ!?」」
 ケイジでひそひそと話していたのはエヴァパイロット「チルドレン」、碇シンジ、綾波レイ、惣流・アスカ・ラングレーの三人である。
「ああ。お前さんたちが噂の」
 ゆったりとした口調と動作で、弁慶が自己紹介した。
「俺はゲッター3パイロット。車弁慶ってんだ。よろしくな」
「どうも、エヴァ初号機パイロット、碇シンジです」
「零号機の綾波レイ」
「惣流・アスカ・ラングレーよ。ま、憶えておけば?」
「ほう。若いのに凄えんだな」
 挨拶を返す三人に感心したように弁慶が笑う。
 背丈が文字通り大人と子供の違いだが、約一名、物怖じしないのが混ざっている。
「若さなんて関係ないわよ。何せエヴァには最新の技術がたっぷり詰め込まれているんだから」
「あ、アスカ」
 アスカは言外にゲッターを旧式の遺物だとでも言いたげだが、弁慶はおっとりと応える。
「そうか。やっぱ十三年も経つと色々違うのかなあ」
「そりゃそうよなんてったって…」
 以下、アスカの自慢とそれをおろおろたしなめるシンジの声がしばらく続く。
 それを弁慶がいかにも面白そうに聞くので、ついついアスカの声も途切れず続いてしまうのだった。

続く。
竜馬達の年齢やキャラは読者の方のイメージによって変わると思いますが
一応筆者のイメージでは、竜馬は漫画ゲッターロボサーガ中の、真・ゲッターロボ編辺りのイメージ。
弁慶も同様に考えていたんですが、結局OVA真ゲッターのイメージで書いていたりします

651 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/05(水) 02:02:17 ID:???
いや、イメージがどうこうさておいて冒頭で三人ともダメすぎるww毎度毎度あんたはwwGJ

652 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/05(水) 11:07:32 ID:???
笑えばいいのか、感動すればいいのか、俺にはもうさっぱりだwww

653 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/05(水) 12:09:49 ID:???
何気に左様のおじいちゃんが痴呆から回復しとるな

654 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/05(水) 20:26:12 ID:???
>捕獲ネット・爆撃・砲撃・放電
ここまではいい。努力の程はよーっく判った。
しかし
>落とし穴・膝カックン
ちょwwwwwおwwwwwまwwwww

655 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/05(水) 20:55:20 ID:???

653
左様

656 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/05(水) 22:16:18 ID:???

654
落とし穴はありだと思った俺はこのダメ人間集合体ことネルフ職員と同レベルなのか?

657 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/05(水) 22:43:23 ID:???
第3新東京で落とし穴使っちゃらめええええええええ

658 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/05(水) 22:58:58 ID:???
ゲッターが落とし穴に落ちたら黒い月を踏み抜いて
びっくりサード・インパクトが起きちゃううぅぅぅぅぅ

659 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/05(水) 23:09:21 ID:???

656
左様

660 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/05(水) 23:15:25 ID:???

659
左様って…

661 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/05(水) 23:30:54 ID:???

660
さ‐よう〔‐ヤウ〕【▽然様/左様】

[形動][ナリ]そのよう。そのとおり。「―なことはございません」「はい、―でございます」
[感]相手の言ったことを肯定したり、自分の思い出したことにうなずいて話し出したりするときに発する語。そう。「―、あれは去年の暮れのことであった」
[名詞]人類補完委員会(及びゼーレ)所属の、某老議員の渾名。由来はその口癖から
[類語] そんな

俺のゲッター線収集装置はこのように受信したが

662 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/05(水) 23:35:42 ID:???

660
  V /  / _,, ァ=ニニ:}       _
   .V  /,.ィ"f= <r'ニ三{        |_    ┐   _l_ l
    'vf^<''"  弋z.ミ'テtフ       |_ Х □_ 匚 L | У
    〉!ト _ i{ ´ ̄r' =|'
   ./ェ゙‐ェi.    、__`_ヤ     ( その通りでございます )
   ./iュ.Hヽ.、   ゙,ニ/
  -^ ー'-.、,i._`ヽ,.仁リ
  ー - .、     /、

663 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/05(水) 23:58:08 ID:???

660
つーか有り得ぬだろ

664 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/06(木) 11:10:06 ID:???
とりあえずツッコミポイントが多すぎるのは本能的に判ったwww

665 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/06(木) 11:14:29 ID:???

664
左様

666 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/06(木) 11:47:44 ID:???
  ┌┬─────┐  
  |::::|::          | このスレはゼーレに監視されています
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667 :第13話「沈黙と顛末」その7:2008/11/06(木) 22:02:17 ID:???
落とし穴と聞いて「穴があったら(以下略)」を真っ先に連想した私は破廉恥な男かもしれん…

 さてゲッターの帰還。それに関心を示した者は、無論彼らだけでは、ない。
「流竜馬、車弁慶」
「「そして早乙女の遺産 真・ゲッターロボ!」」
 歓喜の声を、上げる。
「(いよいよ時が近づきつつある、という事だね。ね、スティンガーくゥん?)」
「(そ、そうだね。いよいよだねコーウェン君)」
「「全ては…」」
 歓喜の声をあげる、コーウェン博士、そしてスティンガー博士。だったが。

『もはや猶予は無い』
『そうだ。戦争だ! 流竜馬が来る。竜馬が来るぞ……!』
『もはやエヴァも待てぬ。Gだ。ゲッターGを用意せよ。補完計画の前に倒すべき相手だ。倒さねばならぬ相手だ!』
 それ以上に喚起された集団があった。そう。老人、ゼーレの議会である。

『銃を持て。砲弾を込めよ。戦争だ。戦争だ!』
 石柱の立体映像を解き、各々に獲物を取り、仕込んだ火器をチェックする。
 かつてゼーレを滅ぼした神隼人。
 いや、神隼人と共に、ゲッターロボと共に、ゼーレが動かした数万にも及ぶ軍勢に立ち向かった男らが蘇ったのである。
 老人達は戦慄した。
 昔日の力を持たぬ己らに、果たして彼らが倒せるのか、と。

668 :第13話8:2008/11/06(木) 22:03:43 ID:???
 いやそうではない。
 老人達は知らぬうちに歓喜していた。ゼーレを滅ぼされ、権力を失い、地下に潜り、十三年に渡って戦い続けた肉体は歓喜していた。
 権謀術数のみではなく、文字通り己の力で生きてきた年月は、彼らに紛れも無い「若さ」と「熱気」を与えていたのだ。

『偽りの生まれを持つが故に、愚かな生き物として進化せざるを得なかった我ら人類!』
『無節操に産み増やし、お互いを理解できぬまま憎しみあい!』
『そしてお互いを理解できぬがゆえに傷つけあうことしか出来ぬ愚かな人類!』
『行き詰った我々に未来は無い!』
『故に我らは、その罪を払い新たな未来を産まねばならぬ!』
『その為に!』
 人類の原罪を払う。
 その野望<ゆめ>みた最後の明日を必ずその手に掴まえるが為に! 人間たる己らを振り向くコトなく、冷たき夜を過ごしてきたのだから。
 その為に! その為に!

『いまこそ、銃を突きつける時である!』
『戦争を。戦争を!』 
「「……」」 
 それこそ「人間らしい感情」など持たぬはずの、コーウェン・スティンガー両博士が「引く」ほどに燃え上がるゼーレであった。

669 :第13話9:2008/11/06(木) 22:04:44 ID:???
 …などと老人達が燃え上がっているなどと露知らぬネルフ本部。
「ま。とにかく真ゲッターは動かせんよ。だが切り札としては充分だ」
 隼人いわく、ゲッター炉による収集と増幅は可能だがエネルギーの許容量と消費量が桁違いに高い為
 エネルギーを自然に満タンにする為には3年はかかってしまうのではないか、という事。
 また残されたエネルギーでは、数分と持たずガス欠である。
「そういえば早乙女博士もそんなコト言ってたな」
「ゲッター線研究の上で、課題の一つだったからな」
 竜馬にしてみればわずか一日足らず前の出来事だった。早乙女博士の声まで思い出せるようだ。
「それを数分で済ますには…」
「ふむ」
 顔を、つきあわせる。

「まあ当面はここで食客でもやって、機会を待つほか無いな」
 言いつつ、スコップを放ってよこす隼人。
「なんだよこれ」
「とりあえずお前らが壊した施設の復旧を手伝って来い。ゲッタービームで空けた穴があるだろう?」
 あれを対使徒用プログレッシブ落とし穴に改造する手伝いが待ってるぞ。
 と、隼人。
「参ったね…」
『その代わり、機体はこちらで提供させて頂きます』
 地下施設に反響音が響く。タラップを軽快に鳴らして降りてきたのは、ネルフの科学者 赤木リツコ女史であった。

670 :第13話10:2008/11/06(木) 22:05:35 ID:???
「初めまして流二尉。お会いできて光栄ですわ」
「あ、ああこちらこそ初めまして」
 白衣に作業着姿ながら、大人の色気漂うリツコに思わずどぎまぎする竜馬である。
「つうか階級でよばれるとなんかしっくりこねえな」
「では流さん、と及びしましょうか?」
「あ…あ」
 にっこりと笑う。普段の赤木リツコ女史を知る者からすれば想像も付かないほどの「笑顔」だ。
 実際リツコの隣ではマヤ嬢が硬直し、周囲で一斉に作業員がスパナやレンチやドリルを取り落としてひと騒ぎになっている。

「しかし赤木女史」
「なんでしょう神大佐?」
 にこにこしたリツコに、何故かハヤトも冷や汗が出ている。しかしそれでも聞いた。
「今日は、ご友人の結婚式で休暇を取られると聞いていましたが…」
「パスしましたわ。どうせもう二人の友人が行くことですし」
 遥か遠くでくしゃみする加持とミサトである。
「それより機体でしたね? ビィートのカスタム改造を進めていますからどうぞこちらへ」
「え、ええ」
「…いい女<ひと>じゃあないか。ん? どうしたハヤト?」
「あ、ああ」
 その「いい女」の瞳に、なにか尋常ならない光…いや「渦」が見えた気がするのは気のせいだろうか?
 リツコに竜馬に生返事を返しながら、妙な汗が止まらないハヤトであった。

671 :第13話11:2008/11/06(木) 22:06:40 ID:???
 その後
「あの赤い奴が良いな。カラーリングも気に入ったし、それにトマホークもあるじゃないか」
「あれはあたしのよ! それにあれは試作スマッシュホークなの!」
 と竜馬とアスカが言い合い
「黄色いのは…ねえのか」
「ごめんなさい。先日まではあったけれど、青く、塗りなおしたの」
「そっか。いやまあ独り言だから。気にすんな」
 と弁慶がぽんぽんとレイの頭を軽くなで
「なあ隼人、そういえばお前は何に乗ってるんだ?」
「ビィートだ」
 と、隼人。
「そうかビィートか……苦労したんだな」
「ああ。そうだな」
「何せドリルが小さいからな」
「ああ」 
 なんて竜馬と隼人のやりとりを横目に眺めながら
「へえ…」
 シンジがリツコが持ってきた完全変形ゲッターロボで遊んでいたのだったりするが
 それがリツコの母の遺品であり、また現在の持ち主が彼の父、碇ゲンドウその人であったりするから世の中わからないものである。

 さて。その夜の事であるが…
「出ました。賛成1・条件付賛成2です」
 深夜、暗闇に満ちたネルフ発令区。
 電源をすべて落とされた中で、メインモニターだけが光を放っている。
「条件付ですが、MAGIは先輩の推論を支持すると言っています」
「そう…」
 二つの影。言うまでも無くネルフ本部技術研究部部長 赤木リツコ女史と、その弟子 伊吹マヤ嬢である。
 モニターには、彼女らの問いに答えるMAGIの返答が踊っている。

672 :第13話12:2008/11/06(木) 22:07:55 ID:???
『落ち着きたまえ諸君』
 他方、それとは異なる闇。時ならぬ熱気に湧きかえったゼーレ本部に、冷水のようなキール議長の声が響く。
『落ち着きたまえ諸君。我らがなすべき計画は人類補完計画のみ。瑣末な事象に囚われすぎてはおらぬか』
『左様』
 うなずいたのは鷲鼻の老議員である。
『左様。アレは確かに脅威かもしれぬ。だが補完計画の準備さえ終わっておらぬ我らが、今、表に出るのは如何か?』
 その場に落ちた沈黙は、肯定か、それとも…
 約一名のみ、うめくように
『お主が言うかね…』
 と言ったとか言わないとか。
『ともかくゲッターロボなど所詮シナリオに無いイレギュラーに過ぎぬ。今は待て』
『左様。加えて相手は未知なる存在。勝てるかも解らぬ戦にあえてこちらから飛び込むなどまさに愚の骨頂』
 やはり議員が一斉に何かを言いかけたので、キールがコホンと咳払いして場を整える。
『確かに……今の我らならば勝てるやもしれぬが、な』

『体が、軽い』
『他人の考えが手に取るように解るように思える』
『体調もすこぶるよろしい』
『いやあ最近食事が美味くてな』
『うむ…身体だけではない…心が軽い……魂が若返ったというのか』
『我らが神が…アダムらを我らに使わした神が近づいておられるのだろうか』
 議員らが声を揃え、キール議長は深く頷く。
『だが……まだだ。まだ足りぬ』
『左様。全ては死海文書の導きのままにあらねばならぬ』
『全ては人の罪を購う為に』
『全ては人の心の垣根を払う為に』
『全ては世界最後の夜明けを迎える為に…!』

674 :第13話「顛末と沈黙」その13(終):2008/11/06(木) 22:10:38 ID:???
「ゲッター線の異常活性化反応、ですよね」
 華奢な顎に指を当て、マヤが首を傾げる。
「でも先輩、ゲッター線が人類の誕生に影響を与えたって論文は私も読みましたけど」
 ゲッター線の先駆者、故・早乙女博士が残した「異端の」論文である。
 だがリツコの推論は更に斜め上を走っていた。
「今、現在の人類もゲッター線に影響されつつあるか否かなんて……」
「そうね。少し前の私なら鼻で笑っていたと思うわ」
 それがリツコの推論であり、今回問うた事例である。
「でも、ね。マヤ」
 リツコが語りかけたその時である。発令区の扉が開き、一人の老人の声が響いた。

「こら赤木君。伊吹君! 時間外の使用は許可を取りたまえとあれほど言っているだろう!」
「あ…」
 …夜回りをしていた冬月コウゾウ副司令である。
 副司令は電気代の節約の大事さについて一通り述べた後、しかし重要な要件であれば許可は出すという事
 そしていざモニターを扱う時は、体を悪くしないよう、発令区を明るくして離れて見るように。
 と、一通りの説教をして去って行く。
「え……と。先輩?」
「いいわ…続きはまたにしましょう」
 すっかり毒気を抜かれてしまったリツコとマヤであった。

左様と落とし穴が大人気とは想像もしなかった。今は転生している