第十四話「余人目の適格者」

Last-modified: 2008-11-10 (月) 01:02:25

 今日も今日とて雑務が多い。
 責任者と言うのは責任をとる為に居るモノではあるが、それにしても書類がやたら多いのは気のせいだろうか?
「ああ。問題ない」
 碇。いいからお前もPCばかり弄ってないで書類仕事を…。
 いや。もう言わん。

 実際、作戦部管轄のハズの書類が相当量回ってきているのは問題だ。
 一言申す為に赴くと、そこには葛城君の書類処理を全部回され、真っ白に燃え尽きた日向君が倒れていた……。
 そうか、君もか。
 お湯をかけて3分待つ。
 復活した日向君によると、葛城君以下、作戦部ほぼ総がかりで修練場にお篭りだという。
 全く、司令部に断りも無く…いやそんな書類を見た気もするがともかく何をやっているのだろうか。

 修練場に赴くと
「オニ……オニ…」
「シンジ…すまねえシンジよぉぉぉぉぉ」
 呻く車弁慶君の傍らに、今度はサードチルドレン。つまり碇の息子が倒れていた
 割烹着姿にしゃもじ片手とは? ふむ。以前MAGIで撮影した「君がレイと○○○している際の現場写真」をそっと置いてみよう。
「……!?」
 若いな。

 さて修練所はさながらマネキン置き場と化していた。
 マネキンと言っても落ちているのは本物の人間だ。人間なのだが、既に身動きも出来ぬほどに打ちのめされた状態である。
 また恥をかかせおって。

「おらおらおらおらおらおらおらぁッ!」
 マネキンの荒野に立つのは、やはり彼ら、流竜馬君ほかゲッターチームだ。
「ぎゃん!」
「あ」
「ひいッ!?」
 流君の「オラッ」という一言のたびに屈強な男らが吹き飛んでいく。
 全く。手加減と言うものを知らんな。
「ですが副司令。ここで簡単に吹っ飛ばされるようでは実戦でも死ぬだけです」
 そんなモノかね神君。
 それと殴るのはともかく目と耳と鼻を潰すのは控えめにしておきたまえ。回復に時間が掛かる。

 聞けば、先日流君達に全く歯が立たなかった件を反省し、実戦部隊を中心に稽古をつけてもらっているのだという。
 まあ流君達を無駄飯食らいにさせておくのも勿体無い話だ。このような役職でも与えるに越したことは無い。
 いやいっそ彼らを汎用人型決戦兵器と銘打って出撃させたほうが良いのではないだろうか。
「それは興味深いですね」
 赤木君。人の心の声を読むのは止めたまえ。それより
「葛城君。こんな調子で大丈夫なのかね?」
「皆、元は国連軍の選り抜きですからね。それだけに先日の件はショックだったみたいで」
 まあ普通はショックだろう……いやそうではなくてだな。
 飯炊きにチルドレンを動員するのは止したまえ。聞けばサードチルドレンはオニギリの握りすぎで倒れたそうじゃないか。
「オニギリが7839個……オニギリが7840個……握らなきゃ駄目だ握らなきゃ駄目だ握らなきゃ駄目だ…」
 いいから落ち着け碇の息子。
「すまねえシンジよぉぉぉぉぉぉ」
 君もだ車君。
「……」
 なんだね葛城君。その沈黙は
「実はレイもお茶の淹れすぎで右手が攣りまして……」
 馬鹿な…ならセカンドは、アスカ君はどうしたね? まさかソーセージの作りすぎ等とは言うまいね?
「いえ。それがですねえ」

「神教官、いえ師匠<レーラァ>! お願いします!」
「アスカ。妙な呼び名は止せと言っているだろう…まあ良い」
 道着姿の二人が向かい合い、やがて隼人が手招きをした。
「殺す気で来い。いつものようにな」

『うなあああッ!』

 神君と付きっきりで教練か…無茶をさせる。
「本人が言って聞かないんですよ。あたしは天才だからこのくらい平気よ。って言い張っちゃって」
「最近シンジ君のシンクロ率が上がって来ていますからね。危機感でしょう」
 ふむ……まあ神君には日本に来た当初、アスカ君の護衛役も任せておったからな。
 馴染みがあるなら心配もいらんか?
「まあ隼人の奴も、あれで面倒見が悪い訳じゃないですからね」
「そうそう」
 保安要員を屍の山に変えた君らが言っても説得力ないぞ。
 流君、車君。

「ああ…問題ない」
「まあ確かに戦力に余裕が出来たのは事実だな」
 司令室に戻った私を待っていたのは碇のいつもの一言。しかしこの男、どこまで私の話を聞いてるのだろうか。
「そういえば明日にもエヴァ3号機が届く手はずだが、適格者<チルドレン>はどうなっている」
「ああ。問題ある」 
 …何。また機関に何かあったか…
 いや、3号機輸送艇が引き返した? 何の冗談だ?
「お前が視察に言っている間に米国政府の決定が覆った。書類も既に届いている」
「…エヴァ3号機委譲決定の破棄だと…?」
 日本へ移送中だった『エヴァンゲリオン3号機』輸送艇が、突如、米国へと引き返した。
 その理由は『本部委譲決定の破棄』。

 つまり従来どおりアメリカ支部にて管理するから返せというのである。
 日本到着まで数時間へと迫った状況からの急激なUターン。空中給油機まで使っての大作戦を行ったのだから恐れ入る。
「ゼーレの老人共の差し金か?」
「冬月。老人達はシナリオを知っている。次の使徒がエヴァに寄生する事も承知のはずだ」
 と、碇。

 シナリオ。
 それは言ってしまえば「未来を書き記した予言書」であるという。
 
 空に浮かぶ「白き月」。その主たる第一使徒アダムと、系譜たる使徒。
 地に埋もれた「黒き月」。その主たる第二使徒リリスと、系譜たる現地球生命。
 第一使徒アダム発見後、その復活から順次出現する使徒ら、その最終使徒第十七使徒タブリスに至るまでの出現順と解説。
 第一使徒アダムが起こしうる「インパクト」についての解説。
 使徒が本部地下の存在<リリス>に辿りついた際、起こりうる「インパクト」の解説。
 それを止めうる保安装置ロンギヌスの槍の解説。

 これらの描いた文書が遺跡から見つかった。それが「裏死海文書」である。
 ゼーレはこれを覆せぬ未来を記した「予言書」と解釈し、これを利用してやがて起こりうる「インパクト」を人為操作する計画を立てた。
 これが「人類補完計画」であり、その為の「シナリオ」、そして実行組織「ネルフ」である。
 ネルフが使徒に対抗するのはこの文書によるものだ。

 もっとも私と碇の解釈はそれとは異なる。
 裏死海文書とは、アダム及びリリスというシステムの運用手引きに過ぎないのではないか、という解釈だ。
 それは覆せぬ運命でも無く、単なる手引書のQ&Aのようなモノに過ぎず、使徒もまた単なるシステムの一部なのでは無いだろうか。
 であれば、人の手で操作し形を変えるだけでなく、そもそも全く別の形のインパクトも起こせぬだろうか?

 委員会は「運命の使者」である使徒による遂行、或いはその複製たるエヴァンゲリオン量産型による「模倣」を行うだろう。
 対し我々はアダムとリリス。二つの「主」を組み合わせる計画を立案した。
 どちらが上手くいくか、それが我々の戦争である。
 …少し、話がそれたな。

「…既に汚染されているハズのエヴァを、わざわざ米国へ。か。確かにゼーレにしてはおかしいな」
「米国政府は真・ゲッターとゲッターチームの存在を嗅ぎつけたようだ」
「なるほど」
 ゲッターに対抗する戦力を欲しての米国政府の独断行動か。ゼーレもあの国を支配するまでには至っておらんと見える。
 だがシナリオ通りなら3号機は
「既に次の使徒に乗っ取られているはずだな?」
「ああ。これで3号機が暴走すれば、米国政府内の反ゼーレ派は力を失うだろう」
 それもシナリオの内か。老人達め。

 しかし碇。アメリカ支部はダミー・プラグで運用すると言ってきているが、いつこれは流出した?
「…ああ。問題ない」
「碇。情報部から『司令部内の個人PCにファイル共有ソフトがインストールされている疑いがある』と苦情が来とるぞ」
 今時、持ち込み個人Pcから情報流出だと? 碇、お前のセキュリティ意識はどうなっとるのだ。
 脂汗を流し「シナリオの内だ」と繰り返す碇。
 ああ全く恥をかかせおって。
 
 …ふむ。そういえばこれで3号機は使えんわけか。
「せっかく四人目の適格者<フォース・チルドレン>の選別を行っておったのに無駄になったな」
「ああ…余ったか」
「4人目の適格者ならぬ余りの適格者、という訳だな」
「冬月。減棒3ヶ月だ」
 馬鹿な!?