進化(チェンジ!)ポケットモンスター 第一話

Last-modified: 2009-02-01 (日) 18:07:04

進化(チェンジ!)ポケットモンスター
第一話

セキエイこうげん。
そこに、その建物はあった。長く苦しいチャンピオンロードを抜けた先、半透明に輝く栄光の闘技場。ポケモンリーグ。
全国各地から、腕に覚えのあるポケモントレーナーが集う場所だ。
現在、内部では決勝戦が行われている。
会場の熱気が、ここ入り口前のドアまでも聞こえてくる。
あめが、ふりはじめた。
季節はずれのこの雨は、もう二週間目に差し掛かっていた。
あめが、ふりつづいている。
「きみ しょうたいけん は?」
リーグの大扉の前に立つ警備員が、そのめがねの端を上げた。
彼の目の前にいるのは、長身の青年だ。ぼろぼろになった学生服をはおるようにまとい、全身を筋肉で鎧ったその男は、傘をさそうともせずにそこに立っていた。
あめが、ふりつづいている。
男の持つただならぬ気配を感じたのか、警備員の足元からピカチュウが走り出る。
「ピッピカチュウ!」
しかし、ピカチュウが男にむけてはなった渾身のたいあたりは、その目的を果たさなかった。
「ふん…長雨でピカチュウまで気が立ってやがる」
男が放った手刀の一撃は、一瞬でピカチュウの皮膚を貫き骨まで到達。
あかぼんぐりのように地面を転がったピカチュウの頭部は、ブロック塀に到達するとベトベターのように貼りつき、そのまま動かなくなった。
「な…」
「邪魔するぜ」
あまりの出来事に動けなくなっている警備員を尻目に、男は鉄扉を押し開く。
目の前では、まさに決勝戦が終わろうとしていた。
挑戦者のエビワラーが、ワタルのカイリューに向かってれいとうパンチを放つ。
こうかは ばつぐんだ!
きゅうしょに あたった!
カイリューが小さく鳴いて動かなくなり、ワタルがその横に駆け寄る。
「そこまで!」
審判の声が響き、通常ならばそこで挑戦者が勝利、互いの健闘をたたえ合うはずだった。流れを断ち割ったのは、入り口から歩いてくる男の鋭い語気。
「待ちな!」
男はスタジアムに駆け寄ると、周囲の警備員の制止を殴り飛ばして拒否、
「なんで殺すまでやらねえんだ?」
にやりと笑う。
そのまま優勝カップを手に取ると、
「こんなもんを貰うためにやるのがポケモンしょうぶか!?これじゃまるでダンスだッ!」
握りつぶした。
激昂し、メガトンパンチを繰り出すエビワラー。
対する男はそれを片手で受け止めると、エビワラーのあごに一撃を放った。
「が…」
崩れるエビワラー。
「これが優勝したポケモンのパンチか…ポケモンリーグも堕ちたぜ!」
会場を睥睨する男に、四天王シバが歩み出る。
「まて…!貴様、何の魂胆があってこの神聖なポケモンしょうぶの邪魔をする?」
「神聖…?ふふふ…わははは!」
突然笑い出す男の顔は、残虐な喜びに満ちていた。
「戦いに神聖もくそもあるかよ…!あるのは…勝つことだけよ!」
満を持して、男は懐から一枚の額を取り出す。
そこに挟んであるのは、ひとりのからておうの肖像。
「おめえならこの顔に見覚えがあるだろう!おれの親父だ!」
現れた肖像に、シバは息を呑んだ。
疑問を浮かべるワタルに向かい、解説する。
「イチガン……昔のポケモントレーナーだ。そのうでのすさまじさはカントー地方全土のトレーナーに恐れられていた……ジム荒らしとしてな!」
「親父をジム荒らしにしたのはだれだ!てめえらじゃねえかっ!親父に勝てもしねえてめえらが、悪評を立ててジムを立てさせなかった!」
「し、しかし、きみの親父さんのポケモンしょうぶは危険とか言う以前にもはや何か違うものだった……ポケモンを出さずにトレーナーが肉弾戦を挑むのは、ポケモンしょうぶではない!」
「うるせえ!このサトシさまが本当のポケモンしょうぶを教えてやる!」
叫び、サトシは、そらたかくまいあがった!
サトシの とびひざげり!
きゅうしょに あたった!
てきの シバは たおれた!
「今の蹴りがかわせねえ年かよ…してんのうが聞いてあきれら…」
観客が息を呑んでいる間に、悠々とセキエイこうげんを後にするサトシ。
その後姿を、電柱の影から見ている男が二人。
「おい…いまのやつ…」
「サトシとか言ったな…あいつなら博士の探している人材にぴったりだ…」