Change11

Last-modified: 2007-12-07 (金) 19:37:48
 

「わかってるわよ! 真ゲッターロボ、起動開始!!」

 

 アスカの言葉と共に、真ゲッターの両眼に黒い瞳が宿った。
 その悪魔のような羽根が左右に開き、そして真ゲッターの頭部が出撃してゆくべき空へつながる天井へと向く。
 なお、エレベータはかつてのゲッターの時はサイズが合ったので使用することもできたが大型化している真ゲッターは、自力で飛び立つしかない。
 真ゲッターにとってエレベータ口は狭く、傷を付けないように発進するのはすこし手間が要るだろう。
 アスカは出撃すべくレバーを握りしめるが、このとき竜馬から通信が割り入る。

 

「抑えろよ。こいつの出力はハンパじゃねえ、下手に全開をかますとネルフが吹っ飛ぶ」
「う、うるさいわね! 素人じゃないんだから発進から全開なんてしないわよ!」

 

 と、派手好きなのが災いしてうっかり全開に倒してしまいそうだったところに図星をつかれて顔を真っ赤にするアスカが、そっとレバーを倒した。
 しかし、

 

「ひぇっ」

 

 と悲鳴が漏れるほどの圧力が体全体に掛かったかと思うと、真ゲッターは一瞬でエレベータ口へ突入して上昇していってしまい、途中の曲がり角を全て破壊しながらあっという間にネルフ上空まで到達してしまった。
 結局、発進は失敗に終わった。竜馬の激が飛ぶ。

 

「バカヤローッ! だから抑えろっていったろが!!」
「抑えたわよ! い、いいのよ敵を倒せば!」 #br
 アスカはそう言いながらも、壊してしまった射出口を見る。
 ネルフがただでさえゼーレからの支援が止まって資金繰りにあえいでいることを考えて気分が重くなったが、しかし、出撃してしまった以上はシトを倒さねばならない。

 

(なにさ! ゲッターぐらい操ってみせるわよ!)

 

 と、気合いを入れ直して再びレバーに手をかけるとさきほどの失敗を参考に、力そのもので御そうとはせずに、エヴァの時と同じように感覚で動かした。
 すれば、今度は面白いほど思い通りに動いていくれる。
 前進、後退、上昇、下降、旋回、停止、全て思うがままだ。
 しかもそのどれもが、普通の人間であれば瞬時に内蔵を潰されて死んでしまうであろう驚異的な速度をもって実現する。
 さらに感覚を深めていくと、直線を瞬間移動のように動いては停止し、そしてまた別のベクトルに向かって瞬間移動していくという、力学を完全に無視した動きすら真ゲッターは披露していく。
 ちょっと思いついてみて、五芒星……つまりクリスマススターの形になるように一筆書きの要領で動いてみれば、まさに指で星の形を描くかのように飛び回る。
 さすがのアスカもこの無茶苦茶さには、ため息をついた。
 これだけの動きについてこられる相手など、少なくとも地球上にはあり得ないだろう。

 

「悔しいけど、これは凄いと認めるわ」

 

 というが、逆にそれを聞く竜馬の方はアスカに驚いていたようだった。

 

「初乗りで真ゲッターをここまで操れるとは……将造が見込むだけのこたぁあるな。だが遊んでる場合じゃねえぞ、敵はすぐそこだ!」

 

 竜馬のいう通り、アルミサエルが目前へと迫っている。
 アスカが真ゲッターに戦闘態勢を取らせぐっ、とボクシングのような体勢に屈む。
 するとシトが、定点回転を止めると形状を変えてくる。今度は一つのリング状の姿になるとムチのようにしなって動いてきたのだ。
 最初、威嚇しているようにも見えたのだが、どうも様子が違う。

 

「なんか、妙に動きがコミカルなんだけど……」

 

 と、こちらへ襲いかかってくるでもなくヘビのようにのたうち回るアルミサエルを見てアスカが毒気を抜かれたような顔になる。
 それが作戦か、と構えもしたが、それでも敵は襲ってこない。
 だが、下手に先制攻撃を仕掛ければ、どんな罠が待ちかまえているかもわからないので真ゲッターは屈んだまま体勢で固まったまま、こう着状態となってしまう。
 どうしたらいいのか解らず、アスカが、

 

「なんなのよコイツ!」

 

 と、しびれを切らしてわめいた。
 リツコが「落ち着いて」となだめるが、もともと竜馬に負けず劣らず喧嘩っ早いアスカだからどうにもならない。
 もう攻撃する、といわんばかりの表情になってレバーに手をかけると、その時アルミサエルが再び形を変えていくのが見えた。
 それは、

 

「ひ……ヒト!?」

 

 丁度、マッチで棒人間を作るかのような形状になっていくアルミサエルは、真ゲッターの前で直立する姿勢になると、やがて棒一本の腰を折り曲げて、上半身といえる部分を下げてきた。
 つまり「おじぎ」の姿勢を取ったのだ。

 

「バカにして! 絶対にぶっ殺す!!」 #br
 これにますますアスカが怒りをたぎらせていくが、ここでふと竜馬がなにかに感づいたようだった。

 

「待て、アスカ――前のシトは人間の心を知ろうとした。もしやこいつ、俺が礼儀を知れといったのを実践しているのかもしれん」
「あんたバカぁ!? いやバカでしょ!!」
「うるせえ! 見ろ!」

 

 と、竜馬がいうとアルミサエルが形作る棒人間は、つぎに腕に当たる部分を差し出してきたのだ。
 握手、ということだろうか。
 これを見て、

 

「いいだろう」

 

 と竜馬が、真イーグルから操縦系統を奪うと真ゲッターの太い腕を差し出してアルミサエルのそれへと重ねていく。
 そして、腕と腕が完全に重なり合ったとき、それは起った。

 

(……アラエルにより、我らアダムの子はついに真の使命を悟った。我らはタブリスを救い全てを彼に託す。そのための力、いまこそゲッターに貸そう)

 

 竜馬にリツコにアスカに、真ゲッターに乗った三人の頭のなかに深く響く声が幾重にもなって反響していく。
 それはまごう事なきシト、アルミサエルの声だった。
 さらに流れ込んでくるものは声のみでない。
 人間がエンペラーのような超存在をイメージするのと同じに、シトを理解すべきイメージが濁流のように流れ込んでくるのだ。
 そのイメージから察するに。
 やはり先のシト、アラエルが放った光は竜馬のいった通り、ヒトの心を理解しようとする行動であったようだ。
 そして竜馬から全時空の有り様を学び取った彼らの下した結論は、人類との対立ではなくエヴァンゲリオンが終号機へと成熟するまでの間、その番人となることだった。
 進化もできず、寿命により死ぬこともできないが、ならばこそ永遠の命をもってでしか成しえない守護を果たそうと、彼らは想った。
 その溢れるようなイメージを受け取る竜馬がいう。

 

「じゃあおめえは身を犠牲にしてシンジとカヲルを救う気か。健気なこった」
(我らにとって、生と死は等価値だ。恐れる必要はない)
「そうかよ」

 

 そうしてアルミサエルがひときわ大きく光り輝いたかと思うと、棒人間だった形が崩れて不定形と変じていく。
 そして真ゲッターの腕に触れていた部分へと集約していき、同時にその全身にアルミサエルの光が宿っていくと、青白く発光した。
 まるで光の巨人だ。
 各コクピットの視界は真っ白となるが、しかし機体の状態を示すモニタにはゲッター線エネルギーが急上昇していくのがはっきりと示されていた。

 

「すごい……」

 

 思わず、リツコが漏らす。
 自身が一から造った機械であっても、その能力は未知数なところが多いのが実のところであったのだ。
 これがシトの融合によるものなのか、それともゲッターロボ自身がシトの意思を受けて潜在能力を発揮しはじめたのか、それらは果たして推測するしかない。
 そして、その様子は作戦司令部からでもはっきりと視覚できていた。
 こちらでは、発光する真ゲッターから感知される精神波長のパターンが青、オレンジ、赤、白と目まぐるしく変化していくのが確認できた。
 パターンの意味は再度記すが、各波長の色は青がシト、オレンジがヒト、赤がこれで初登場となるがゲッター線を示すものであり、白が正体不明だ。

 

「な、なにが起こっているの……」

 

 ミサトがうめいた。
 先から理解に苦しむ出来事ばかり起きるが、今度もそれを見ているしかない人間たちにとっては何が起きているのかまったく理解ができない。
 せいぜい、ゲッターとシトが融合していくという物理的事象を観測できる程度だ。
 しかも上のように波長が目まぐるしく変わるものだから、それがゲッターによる行動なのかシトの攻撃なのかすら判断できない。
 だが、とりあえず竜馬達が危機にさらされた訳ではないことは、やがて発光が収まった真ゲッターより、通信が入ったことではっきりする。

 

「ど、どうしたのリョウ君、なにがあったの!? シトはっ」
「心配するな。奴は力を貸してくれる」
「えっ……?」
「とらわれのシンジ姫とカヲル姫を助けるってぇ、共通目的が出来たんだよ」
「でも、インベーダーに寄生された者を助けることはできないっていったじゃない」
「確かにそういった。だがな、どうやらこのアルミホイルとかいうやつもインベーダーみてえな能力があるらしいぜ。こいつとゲッターの力が合わされば、あるいは」

 

 アルミサエルよバカ、とミサトが言いかけて飲み込んだ。
 シトには悪いがそんな重箱の隅をつつくようなことはこの際、どうでもいい。
 それよりも、予想だにせぬシトの助太刀により、絶望的と思われていたシンジの救出に一筋の光が差してきたことは特筆すべき事柄だったろう。
 真ゲッターが帰還してくる。
 その通信越しからは、アスカが操縦を取るなとわめき立てていたが、いまは誰もそれに反応している余裕がない。

 

「シトとヒトが、手を組む時が来るとはな。厄介な敵も時には良い作用を働かせる」

 

 冬月がつぶやくと、ゲンドウが応じて頷くのであった。

 

「これで、いよいよ敵が動くな」
「奴らがどうしてくると思うね」
「人類補完計画を実行しようとするならば、その邪魔となる我々は消そうとするだろう。 情報によれば、各国で量産型が相次いで完成しているそうだ」
「早いな……こちらの戦力を整えさせる気はない、ということか」
「ああ。おそらく我々以外のゼーレ関連組織はすべてインベーダーの占領下にあると考えていいだろう。奴らとてゲッターを甘く見ているとは思えん。大攻勢がいまに始まる」
「我々は孤立無援ということか」
「……そうとは限らんさ」
「ん。どういうことかね」

 

 いぶしかむ冬月にゲンドウはニヤリと意味深に笑って茶を濁すのだった。

 
 

・・・

 
 

 そして、アルミサエルが真ゲッターの内に姿を消してからしばらくの時が流れた。
 インベーダーの大攻勢を見越したゲンドウの指示によってネルフの各位は、対抗戦に向けて残った戦力をいつでもフル稼働できるように、再び不眠不休となって復旧作業に没頭している。
 特に今まで難航していた兵装と施設の修繕はリツコの復帰によって、見違えるほど効率が上がった。
 いや、というよりもリツコの持つ技術が、その姿を消す以前とは桁違いにハイレベルなものへと変貌していたのだ。
 彼女が加わった後は瞬く間に弐號機が復活したのは無論のこと、ロンギヌスの槍によって受けたネルフ本部の被害もほぼ元通りとなった上に、資金が許す限りの追加武装が施されて、さながらジオフロントは地下要塞ともいうべき様相を呈していた。
 以下にはその詳細を記していこう。

 

 まず、リツコの持ってきた真ゲッターだが、これをいつでも実戦可能なように調整しているのはいうまでもないだろう。
 今後の戦闘において、主軸となるのは間違いない。
 ただし、あまりにも出力が高すぎるゆえに、かつてゲッターに乗ったことのあるミサトやゲンドウも耐えることができず、事実上のパイロットは竜馬とリツコだけだ。
 レイはいまだ倒れたままで、それどころか日を追うごとに容体が悪くなっていく始末で戦うことは到底できそうにないし、アスカは弐號機に搭乗するので、除外する。
 その弐號機の改修強化策だが、ジャガー号の損失により事実上の戦闘不能となったブラックゲッターより、さらにベアー号を解体して得られた装甲素材「合成鋼G」を加工して弐號機の装甲板として用いた。
 原理は不明だが、合成鋼Gを身にまとうことで素体を拘束する必要がなくなってエヴァ本来の力を引き出す事に成功したのと、また肩に設置されたコンテナ部に収納できるスペースが異常増大している。
 これに、いくつかの追加装備を内蔵させた。
 ひとつはマゴロク・エクスターミネート・ソードという、白兵装備だ。
 形状は日本刀の中で最も長大な大太刀を、そっくそのまま四〇メートルの巨人サイズに巨大化させた様な代物であるが、たたら製鉄によって造ったということはない。
 仮に造ったとしても自重で崩壊してしまうだろう。
 リツコいわく真ゲッター用のゲッタートマホークを参考にしているとのことだったが、その威力がどれほどかは、書くまでもなく知れ渡っているだろうから省く。
 この刀の破壊力はそれに追随するはずだ。
 それにアスカ自身が軍刀の扱いに慣れているので、大きな戦力となってくれるだろう。
 加えて、専用火器として対空ミサイルマシンガンを二丁製造した。
 これは敷島のエヴァ用の新型火器案として以前の稿で出現しているが、その名の通りに対空ミサイルを、雨あられと撃ち出す脅威の兵器だ。
 片腕で用いることのできる設計を活かして、二丁の同時射撃による大破壊を望めた。
 資金に限りがあるゆえ、弾は装弾した分のみの使い切りとなったが、数が許す限りのN2弾頭を組み込んで当初の敷島案通りの破壊力を実現している。
 N2爆発による被害は、計画では命中と同時に弐號機のA.Tフィールドを飛ばして標的を包囲することで抑える予定である。
 が、うまくいくかどうかは解らない。インベーダーという途方もない敵が相手であるのでもはや被害には目をつむっているのがじつのところだった。
 また、余ったイーグル号だがこれにはベアー号のブースターを追加して真イーグル並の飛行速度を持たせた。
 ただし、単純に出力を増加しただけなので、ただでさえ扱いにくいのが、もはや制御不能の暴走弾丸と化してしまっている。
 ほとんど特攻機にしか見えないということで、技術部のスタッフたちから桜花というあだ名がつけられてしまった。
 桜花とは、旧海軍によって大戦末期に製造された特攻専用機だ。巨大な爆弾を背負って敵艦に体当たりするという豪儀なものだが、敵の機体にくらべて絶対速度が足りないせいで、その犠牲に見合った戦果が得られない代物でもあった。
 ただ本物と違うところは、このイーグル号がひとたび発進すれば敵が感づいた時にはすでに命中しているということだった。
 そしてネルフ本部そのものの強化だ。
 本来、戦闘施設としての役割は第三新東京市そのものが担っているので、ネルフ本部はあくまで司令部としての能力しか持っていない。
 むしろ、エヴァを初めとした人類補完計画を推し進める上での研究施設としての性格の方が強いであろう。もちろん、今は計画に対抗する拠点であるが。
 すでに第三新東京市そのものは度重なる損害で、要塞としての能力を失っている。
 仮に市が生きていたとしても相手はゼーレやシンジを取り込んだインベーダーであり、こちらの構造を完全に把握しているのだ。
 潜られてジオフロントに侵入されれば一巻の終わりである。
 そこで、ネルフ本部そのものを改造して戦闘に対応できるようにした。
 もっとも資金が限られているし、その多くは真ゲッターと弐號機へ回っていったので、出来たことは少ない。
 リツコは残り少ない資金を活用するため、ネルフ本部の各箇所にトラップを仕掛けていった。まるで忍者屋敷のように仕掛けを知らぬ者が踏み入れば、たちどころにそれらが作動して仕留めていくようになっている。
 そして、こちらが重要なのだがネルフの頭脳、というより全館の維持を司る生命線ともいえる統括コンピュータMAGIの防衛だ。
 いくら物理的に防衛しようとも外部からのクラッキングによりMAGIを占拠されてしまえば、たちどころにネルフ本部は機能を停止させてしまう。
 リツコは対策を考えていたが、ひょんなことからその手段は講じられることになる。
 彼女が真ゲッターの調整作業をしている最中、接続したコンピュータのモニタに、ふと「イロウル」という単語を示す数字が現れたのだ。
 最初、どこからかクラッキングを受けたと思ったリツコは防衛しようとコンピュータのキーをタッチしていたが、いつの間にかプログラムの打ち合いによるチャットをしているような状態になっていった。
 不思議な対話を続ける内、やがて「イロウル」というのが、どうやら一種のファイアウォールのような存在だということが解ると、最後に「イロウルをMAGIへ」というメッセージが現れてコンピュータがフリーズしてしまう。
 原因がわからず困り果てていると、コクピットの外で変な音がした。
 驚いてコクピットから顔を覗かせてみれば、真ゲッターの体からいくつもの管が伸びてあちこちの壁に付き刺さっているではないか。
 リツコはアルミサエルに真ゲッターを乗っ取っられたかと思って、それを竜馬へ知らせるべく急ぎ作戦司令室へと走ったのだが、たどり着いてみるとなにやらマヤが黄色い声をあげている。

 

「どうしたのっ」

 

 と、聞いてみると

 

「先輩! これはゲッターの能力なんですか!?」

 

 と、マヤはそのMAGIを制御するモニタのひとつを指してはしゃぎながらいった。
 見れば新しいプログラムの適用が表示されており「イロウル」と表示されている。
 調べてみると、たしかにファイアウォール型のプログラムがいつの間にかMAGIに流れ込んでいたのだ。
 調査すると「イロウル」はまるで人体におけるマクロファージのような性能をもっていることが判明する。
 なお、マクロファージとは白血球の一種であり体内に侵入したウィルスや細菌、死んだ細胞などを捕食して消化する働きをするものだ。
 さらにリツコを驚かせたのは「イロウル」は未知の種のプログラムが相手であっても、それに合わせて自己進化・自己増殖を瞬時に行い、あらゆるクラッキングに対応し、逆にクラッキング元へ、上記と同様の性能を破壊活動に転化させたエージェントを送り込む事すら行うものであることだった。
 まさに難攻不落の要塞プログラムである。
 この「イロウル」が真ゲッターから流れ込んだのは、MAGIを構成する各パーティションであるバルタザール・メルキオール・カスパーのそれぞれに物理的に接続された謎の管を見てもわかる。
 が、リツコはそれが真ゲッターの能力ものでなく、おそらくアルミサエルによるものだろうと推測した。
 というのも、ゲッター線によって成立する存在はどちらかというと、理論は無視してなんでも力任せに攻撃したり防衛したりする傾向があるからだ。
 たとえば、ゲッターロボは自身にクラッキングを受けたとすれば、そのクラッキングをしている相手の元へ直接飛んで物理的に叩きつぶすだろう。
 たとえ時空の壁を越えてでも、だ。
 データの応酬をデータでする、などという回りくどく地味な方法は絶対に取らない。
 永い時間をエンペラーで過ごしたリツコには、そう確信するものがあったのだ。
 そう思って解析していくと、どこかで「アルミサエルより」という意味を示す数字が羅列されている部分を発見した。

 

「やっぱり。シトも可愛いところがあるのね」

 

 と、リツコが独りで笑うのを、他の職員が不気味そうに見つめていた。

 

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