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Last-modified: 2007-12-11 (火) 20:20:55
 

「来る……」

 

 アークの手のひらの上で、シンジがいった。

 

「ああ、来るね。彼らが」
「私たちに取り込まれることを拒む者」

 

 カヲルとアスカの相づちに、シンジは大きく頷く。

 

「ゲッターロボ、そして流竜馬。あれを倒さない限り、完全勝利は決してみえてこない」

 

 シンジはそういうと、アークの手のひらから飛んで胸の中央にある球体になった部分に触れると、めり込むようにして消えていった。

 なお、ここでゲッターロボアークについて少し詳細を記しておこう。
 ゲッターアークは、ゲッターロボの発明者である早乙女博士が生涯において制作した中で最後期作にあたるものだ。
 細かな開発時期は、真ゲッターの開発過程における、とされている。
 不安定なゲッター線エネルギーの安定を最優先してつくられた、試作真ゲッターの一つとでもいえる機体だった。
 安定しているということは、常に最大の効率で戦闘を行えるということであり、先にも起動不能になった真ゲッターに比べた場合、潜在能力は劣っても信頼性は極めて高い。
 兵器としては、最大出力が高いが常に不安定な機体より、多少出力は低くとも安定しているものの方が強力たり得るのは、当然だろう。
 ただ、ゲッター線の器として考えた場合はその限りではないのだが。
 カヲルの言葉を信じれば、これはあくまで模造品だということだった。が、本物のアークと同等の物であるとするならば、以下のような構成になっているはずだ。
 いわゆる、ゲッター1の形態がアーク。同じくゲッター2の形態がキリク、そしてゲッター3の形態がカーンである。
 総称としてはゲッターアークでいい。
 なお、これも他のゲッターロボ同様に三機のゲットマシンによる分離・変形を行うのだが残念ながら、各ゲットマシンの名称は不明である。
 なので、ここでは単純に一号機、二号機、三号機と表記したい。
 つぎに武装のことだ。
 まず、基本の内蔵火器は変わらない。
 ゲッタービーム、ゲッタートマホーク(ダブルトマホーク型、双刀に合体可能)だ。
 そして、この機独特であるのが、先に見せた背中の魚の骨のようなものを展開させて繰り出す超高圧電撃サンダーボンバーと、もうひとつ。
 腕に巻き付いている形状記憶合金のような、長大な三連の刃を起こして敵を切り刻む、近・中距離用格闘武器バトルショットカッターの存在だ。
 また、もっとも特徴的なのが弐號機を喰らった時にみせた噛み付きと、両手の爪によって文字通り肉弾戦が可能なことである。
 そのためゲッターアークは他のゲッターに比べると、顔が人間じみている。どことなく初号機をほうふつとさせなくもない。
 キリクは全身がバラの形を模した刃物といっても過言ではない体に、ドリルとウインチアームの二種類へ自由変形する両腕が武器だ。
 そしてカーンは、手脚が超巨大なスパイクタイヤで出来ているような形態であり、実際に車輪そのものに変形して相手を押しつぶすこともできる。
 以上のことから、通常の状態にある真ゲッターと比較しても遜色ない戦闘力を秘めており、敵として考えた場合は非常に厄介な相手だった。
 やがて、シンジがカヲルの座る一号機のコクピットに現れる。
 彼は音もなくカヲルに背後から近寄ると、その肩にふわり、と両腕をまわしていった。

 

「カヲル君、代わってくれないかな。竜馬さんは真ゲッター1で来る。なら僕がアークで息の根を止めてあげたいんだ」
「ああ、いいよ。君の望みは僕の望みでもある」

 

 カヲルは、その黒目だけを横にやりながら応えると目の前のコンソールをパチパチといじくった。シンジが回した腕を、ゆっくりと離す。
 するとカヲルの座っていたシートだけが、その下に空いた穴に飲み込まれていった。
 しばらくしてから無人となって返ってくる。
 そしてシンジがシートに収まると、スクリーンに二号機へと映ったカヲルの姿と、さらに三号機の中にいるアスカが映った。
 シンジはアスカに向かって問いかける。

 

「アスカ、気分はどう?」
「こんないい気持ち、生まれて初めて。今まで苦しんでたのがバカみたい」
「ふふふ。そういってもらえるとうれしいな」
「さて……聖戦だね。シンジ君」
「そう、結局は時天空さえ倒せればいいんだ。ここらで人間には退場してもらおう」

 

 かつてと変わらない口調で、しかし三人は明確に人類を滅ぼすことを確認しあう。
 思えば、いままで何度も彼らの立ち振る舞いを描いてきた。
 どうやらインベーダーに寄生された彼らは、人間であったときの記憶と、インベーダーとしての意識が融合しているようだった。
 だがインベーダーに感情はない。
 好きと言っても、うれしいと言っても、彼らが人の感覚である、こころの変化を起こしているのではない。
 生前の記憶にのまねごとを、機械的にしているのみである。
 いわば、知恵のあるゾンビのようなものだった。
 そしてシンジがコントロールレバーを握りしめると、その真下から真ゲッターが弾丸のように突撃してくるのが確認できた。
 間もなく、竜馬の怒号が響く。

 

「シンジィィィィイイイイッ!!」
「いくよ、アスカ、カヲル君。ゲッタートマホークッ」

 

 シンジが叫ぶと、アークの両肩から巨大な両刃のトマホークが射出される。
 それを左右の手で引き抜き、柄と柄をつなぎ合わせて双刀とすると、それを振り回しながら迫る相手に向かって突撃していく。
 対する真ゲッター1も自分よりも巨大なゲッタートマホークを両手に持ち、アークと激突する瞬間に胴体を回転させるかのような勢いで振り払った。
 ぐわん、と空間を切り裂いて刃が敵に襲いかかる。
 が、アークも双刀の片側でもってそれを弾くと、もう片側を真ゲッター1に向ける。
 どんっ、と半分が柄から離れて撃ち出された。
 トマホークが迫る。
 竜馬が唸った。

 

「むおおっ!」

 

 それと共に真ゲッター1はゲッタートマホークを手から放し、左腕の巨大カッターで撃ち出されたトマホークを受け止めると、ぶんと振り払って捨てた。
 息はつかない。そのまま、

 

「ゲッターッビィィィイムッ!!」

 

 と、腹部から赤色の濁流をアークに向かって解き放つが、相手も、

 

「ゲッタービームぅ!!」

 

 額に埋め込まれた球体から、やはり赤い光線を発射すると真ゲッター1のビームを受け止めた。
 両者の威力は拮抗しているようで、どちらに押し出されることもなく、やがてエネルギーを失って消滅する。
 これを見て将造が叫ぶ。

 

「バカタレ、同系統でやり合おうてどうする! こういう小手先で攻めてくる野郎は力で押しつぶしちゃるんじゃ、真ゲッター3じゃ竜馬ァ!!」
「操縦できんのかよッ」
「こんなもんレバー倒しゃ動くわいっ、チェンジゲッターすりぃぃッ!」

 

 将造がレバーを折るような勢いで倒すと、アークの目の前で真ゲッターが分離して蜂のように舞うと、その真上で真ベアーを先頭にしてチェンジしていく。
 そしてアークの頭上で真ゲッター3が出現すると、黒く大きな影となって覆い被さってきた、と思えばその巨大なキャタピラのついた、扁平の脚で垂直に踏みつけると剛速球の下降がはじまる。
 すれば将造は、

 

「ミサイルストームじゃ!」

 

 と、脚の上部を展開させて無数のミサイルを撃ち出していく。
 それは下降の速度も上回って飛ぶと反転し、真ゲッター3に踏まれて身動きのとれないアークの下部へ迫るが、命中には至らなかった。
 アークがオープンゲットしてミサイルを回避してしまったのだ。
 通過した全弾が真ゲッター3に命中していくと、もうもうと空に爆煙が舞った。
 その隙を縫ってアークが、

 

「チェンジ、キリク」

 

 と第二の形態に切り替わると、高速度をもって爆煙を突き抜けて真ゲッター3に近づくと巨大ドリルと化した両腕を突き出して襲いかかってくる。
 将造がオープンゲットで回避しようとするが、寸前で間に合わず一撃を食らって腕に損傷を受けてしまう。
 次の瞬間でようやっとオープンゲットできた。
 やはり、さすがの将造といえども初乗りではなかなか息が合わないようだ。
 対して相手はインベーダーという、意識の共同体だ。
 分が悪い。

 

「バカヤロー!」
「じゃかあしい!」
「喧嘩しないで! 離脱するわよ、チェンジゲッター2!」

 

 リツコが叫んで真ゲッター2がキリクより離れるべく、急加速を開始するが相手の方も同速でもって追いかけてくる。
 もとより、どちらも同じ開発時期にある同士である。
 潜在能力の差はあれど、基本性能に違いはないのだ。

 

「逃げるのかい」

 

 カヲルが真ゲッター2の後ろ姿を見て、うすら笑った。
 それが聞こえていたのであろうか、真ゲッター2から右腕のドリルが撃ち出される。
 キリクはそれを両腕のドリルを交差させて防いだ。
 その間にリツコは再びオープンゲットし、また真ゲッター1の姿へと戻り、迫るキリクにゲッタービームを撃ち出すが、オープンゲットで回避されてしまう。
 だが、竜馬は諦めずにさらに一発、二発と、ビームを乱射しながら叫んだ。
 アークのゲットマシンはそれらをたくみに回避しつつ、三号機を先頭にチェンジした。

 

「チェンジ、カーンッ! ほらほらっ、もっと逃げたらどぉ?」
「逃げるかよこの野郎!」
「じゃあ遠慮しなぁい」

 

 と、竜馬の反論にアスカの声が響くと、全身スパイクタイヤへと変じたカーンが真ゲッター1に突撃してくる。
 竜馬はさらにゲッタービームを撃ちまくって迎え撃つが、見た目通り頑丈なのだろう、全てはじかれてしまう。
 しかも、それが思わぬ高速で激突してくるので、竜馬にも反応する余裕がなかった……いや、訂正する。
 竜馬に油断があった。
 ゲッター3系統のパターンであるカーンならば、速度が殺されると思ったのだ。
 実際、竜馬が乗ったことのあるゲッターロボでは、どれもゲッター3系はパワー重視で速度はなかった。
 が、アークにおいてはその常識は通用しない。
 ゲッターに慣れすぎたがゆえの誤算であった。
 回避に失敗した真ゲッター1が、自身を削るカーンをなんとか防ぎ止めようと抱えた。

 

「このやろ負けるかぁあああっ!!」

 

 震えるコクピット内で吼える。
 竜馬が熱くなりすぎて冷静でなくなっていくのがリツコにわかって呼びかけるのだが、聞くものではない。将造が叫んでも同じだ。
 だが、つづいて竜馬の脳裏に聞いたことのある声がひびいた。
 これに竜馬は目をはっとさせる。

 

「……アルミサエルか!?」
(竜馬、冷静になれ。お前の使命は少年を救う事、我らの使命はタブリスを救う事。相手を破壊することではない!
 落ち着いて距離を取り、真シャインスパークをつかえ。我らをアークへ導くのだ)
「偉そうにいいやがる、やってやろうじゃねえかっ」

 

 と、アルミサエルの言葉に幾分か落ち着きを取り戻した竜馬は、カーンを抑える四肢にくわえて、悪魔の翼ともいえるゲッターウイングを羽ばたかせると、それも手脚のように動かした。
 敵の背後へ翼を伸ばし、引っぺがすように力をかける。
 すれば、カーンの激突する力が削がれて離脱する隙が生まれた。
 死中に活である。
 竜馬が叫ぶ。

 

「オープンゲット!」

 

 どん、と真ゲッター1が三つに弾け飛ぶと、支えを失ったカーンが弾丸のように突き抜けていく。
 それが軌道を戻して、アークにチェンジし直す頃には、遠くにすでに真ゲッター1が構えている姿がみえた。
 その様子が、先ほどまでとは異なっているのを感じてシンジが手をとめる。
 同時にアークも動きを止めた。

 

「シンジ、今助けてやるぜ。ちょいと手荒だがな! リツコ、将造、気合い入れろ!」
「ええ!」
「オオヨ!」

 

 やっと意思がひとつになったようだ。
 ぶお、と真ゲッター1の足下から上昇気流のような緑色の光が立ち上ると、コクピットではゲッターエネルギーを示す数値が、うなぎ登りに上昇していく。
 その余波なのか、それぞれのコクピットも異様な高温にされされる。
 空調は完全に機能しているのに、それすらも追いつかないのだ。
 にじみ出る脂汗をなめて、竜馬がいった。

 

「いくぜアル公」
(承知)
「真ッ!! シャイン・スパーーーーークぅッッ!!」

 

 竜馬の叫びと共に、光を帯びる真ゲッター1が空を超えて天を突き抜けるようにして上昇していく。
 その凄まじい速度は、一瞬にして大気圏を飛び出すほどだった。
 宇宙に出た真ゲッターは、間近に迫る月を背に反転して直角に再び地球へと落ちると、火の玉になってアークのいる領域に突入していく。
 この往復に掛かった時間は、わずか数秒に過ぎなかった。
 それによる機体への負荷、音速による衝撃波は、数値にしてみれば恐ろしいものであっただろうが、真ゲッターにとっては何の影響もない。
 むろん搭乗者も負けてはいなかった。
 竜馬と将造は鼻血を吹き、リツコは吐血するが彼らはくたばらない。
 普通の人間だったらとっくに肉塊と化している頃だろう。
 そして、意思と摩擦で火の玉となった真ゲッター1がアークに一瞬で迫る。
 そのまま、かすれるように通過していく。
 外れたか。
 と思われたが、違う。通過の瞬間、真ゲッターの体より出でたアルミサエルが、アークの胸に突き刺さったのだ。
 真シャインスパークは、そのために発動させたに過ぎない。
 この、超に超がついた高速移動だけはアークが真似できない動きだったからだ。
 アークに突き刺さったアルミサエルが、一気にその中へと消えていった。
 すると、

 

「こ、これは……っ!?」

 

 アルミサエルの浸食を受けたアークのコクピットで、シンジが、いや、シンジに取り憑いたインベーダーが狼狽しはじめた。
 こころのあるはずのない彼らに、ヒトのこころを追い求めたシトのこころが決壊したダムの水のようになって溢れてくるのだ。
 それはインベーダーにとっては、殺虫剤を吹きかけられた虫けらも同様の苦しみをもたらすものであった。
 彼らが苦しむこともなく、悩むこともないのはこころがないからであって、それを植え付けられれば人間同様の苦しみを味わうことになる。
 シンジ、カヲル、アスカ。それぞれに寄生していたインベーダーは、はじめて味わった感情というものに頭を抱えながら苦しんでいく。
 その中で、

 

「シンジ君、いやコーウェン君、ま、まずいんじゃないかな、これは」
「そ、そうだカヲル君、いやスティンガー君。このままでは、我々はこころという奇怪なものに崩壊させられる。この体に取り憑いていられなくなってしまう……!」

 

 と、二人に取り憑いていたインベーダーが言い合う。アスカに取り憑いていたものは何も喋らないが、考えることは同じようだった。
 シンジ改め、コーウェンがわめく。

 

「おのれ、シトめ……! こうなればっ」
「人間共よ、悪魔となったエヴァンゲリオンに滅ぼされるがいい!」

 

 コーウェン、そしてスティンガーが地獄の底から響いてくるような声で体を震わせた。
 その外では、アルミサエルの浸食によりアークの体に今まで倒されたサキエルからアラエルまでを彫像にしたようなものが、盛り上がるように生えている。
 それを、オープンゲットによって吹き飛ばすと三機のゲットマシンが十字架につるされたようになっていた初号機に、それぞれ突っ込んでいった。
 それを見て竜馬が目を剥く。

 

「あいつら、何をする気だ!?」
(まずい、竜馬。我らの思ったよりも呪いが深い。蟲どもは初号機の魂をも取り込むつもりだろう。もはや我らの意識も限界だ。あとは、あとは……リリスにっ……)

 

 そこまででアルミサエルの声が途絶えた。
 見れば、先ほどよりもさらに巨大になった月を背後にして、ゲットマシンと融合した初号機が吼えて十字架から離れていくではないか。
 そして、大きく口をあけたまま大の字になって覆い被さってくる。

 

「……上等じゃねえかあっ!」

 

 対する真ゲッター1は、竜馬の言葉の通りに初号機と同じように大の字になると、お互いの掌をがっぷりと組み合わせて空中で押し合う形になった。
 すこし初号機が押したかと思えば、真ゲッター1が押し返す。また初号機が押す。
 その繰り返しだ。
 相手が巨大なインベーダーであると考えれば、むやみにゲッタービームを撃つわけにもいかない。ゲッター線をエサにするから、下手をすれば強化してしまう恐れがある。
 そうしてしばらく押し合いへし合いしていたが、やがて初号機がひときわ大きく吼えると、真ゲッター1が押され始めた。
 覚醒した初号機の力なのか、はたまたアークを融合したことによるものなのか。
 それは解らないが、脅威の威力を発揮する初号機を押し返すことができず、真ゲッターの喉元に初号機の大きく開いた口が迫る。

 

「……こりゃやべえぜ」

 

 スクリーン一杯に迫る初号機の大顔を前に、竜馬がニタつきながらいう。
 こんな時でも表情が「喜」であるのが彼が戦闘狂といわれる原因だろう。
 しかし、その時だった。
 喜の表情が竜馬から消え失せる。
 警告音が鳴ると、真イーグルのレーダーに、超高速で接近する点が表示されたのだ。
 ゲッター以外にこんな速度を出せる物体があるはずはない。

 
 

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