Getter ALTERNATIVE 02

Last-modified: 2008-12-09 (火) 02:05:33
 

すべての手続きと準備が終えたあと、4人はグラウンドに向かうよう指示された。
「隼人ー、マジで俺らも訓練兵やんのかー?
タケルに協力するとは言ったが勉強はさすがに無理だぜ?特に弁慶の野郎は」
「そうだ隼人。今さら勉強なんて俺達にはあわねえよ。やめようぜ?
それより竜馬、さっきから頭がスースーするんだが何かしらねぇか?」
「ったく、この有様だ。大丈夫だろうなぁ?」
「それは全部お前ら次第だ。だが弁慶、居眠りだけはもうできんだろうな?」
「えっと3人とも、もうそろそろ着きますよ?」
竜馬と弁慶はいまだに不満を漏らしていた。
よっぽど彼らは座学が苦手なのだろう。そしてグラウンドに着くと突然彼らは呼び止められた。
「もし・・・そこの方々」
「ん?俺らか?」
彼らが振り向くとそこには軍服を着こんだ少女がいた。
彼女の名は御剣冥夜。白銀たちが所属することになる第207衛士訓練小隊の一員である。
「危険です故、外部の方のここから先の立ち入りは御遠慮下さい」
冥夜は竜馬達を外部の者だと思っているようだった。
そうしていると向こうから女性士官が近づいてきた。
「いいんだ御剣。そいつらが207小隊に配属されてきた新顔だ。
白銀武、流竜馬、神隼人、それに武蔵坊弁慶だな?」
「はい」「ああ」「そうだ」「おう」
「それではこの者たちが・・・」
「よし、では小隊集合ッ!」
女性士官は白銀たちが本人かどうか確認すると小隊に集合をかけた。
小隊員が白銀たちの前に集合する。ちょうど竜馬たちと女性士官の間に入る感じだ。
「207小隊集合しました!」
「よし、では紹介しよう。新しく207小隊に配属された白銀武訓練兵、流竜馬訓練兵、神隼人訓練兵、武蔵坊弁慶訓練兵だ」
「白銀武です。よろしくお願いします」
「流竜馬だ!これから世話になるぜ」
「神隼人だ。よろしくたのむ」
「武蔵坊弁慶だ!よろしくな!!」
「うむ、私がこの小隊の教官の神宮司まりも軍曹だ。
207小隊員の紹介だがさっきお前たちに声をかけたのが御剣冥夜訓練兵」
「よろしく頼む」
「こっちから分隊長の榊千鶴訓練兵、そして珠瀬壬姫訓練兵、彩峰慧訓練兵だ」
「よろしく、あなたたちを歓迎するわ」
「よろしくお願いします」
「よろしく・・・」
「さて、見ての通りこいつらは全員男だ。しかもこの時期ということでおどいているだろう。
だがこいつらはある事情により今まで兵役免除を受けていた者たちだ。
訓練には明日より参加してもらう。いいな」
「了解!」
一応の紹介のあとの補足と命令に小隊員たちが返事をする。
「とりあえずは今日はお前たちが訓練終了後にいっしょに食事でもして交流を深めておけ。
榊、兵舎への案内など諸々は任せたぞ」
「はい!」
「では残り十分、引き続き訓練だ!解散!
白銀たちはココで見学していろ」
「わかりました」
解散の合図で小隊員はトラックでの長距離走に戻っていった。
「おぉ!ああいう体力勝負ならお任せあれだな!」
「あれならオレたちの得意分野だ!」
竜馬と弁慶は訓練の様子を見て自分たちの得意分野を見つけ、少々興奮していたようだった。
「それにしても・・・まさか小隊のメンバーが全員女だとはな・・・。
これがこの世界の現実か・・・」
「はい。人類とBETAとの戦いもだいぶ長期になってますからね・・・戦える男はもうほとんど兵役で戦場ですよ」
興奮する竜馬たちとは対照的に隼人は冷静そのものだった。
そして白銀は訓練している彼女らの様子を見て前の世界での自分の事を思い出していた。

訓練終了後、榊から兵舎や諸々の説明を受け、今白銀たちはPX、食堂に来ていた。
「榊さん、白銀さんたちこっち!」
食堂に着くや壬姫が手を振り彼らを呼ぶ。
「早かったではないか」
「ええ、だって白銀が施設の説明をサポートしてくるんですもの。まるで何年もここにいたかのような感じだったわ」
「まぁいいじゃないか。予習の成果だよ委員長・・・あ」
「・・・委員長?」
彩峰が不思議そうな顔をしている。

「なんだか分からないけどさっきからずっとこの調子なのよ」
「まぁまぁいいじゃねえか分隊長。タケルが分隊長が知り合いの学級委員長にそっくりだって言ってただろ?」
「もうその言い訳聞きあきたわ」
「少々馴れ馴れしいかもしれねえけどコレが白銀なりの親睦の深め方なんだよ。な、そうだろ白銀?」
弁慶もフォローしつつ白銀に同意を求める。
「そうなんだ分隊長。悪いな」
同意しつつ榊に謝る。
「まぁ別にいいわ・・・」
「そうだ白銀、流、神、武蔵坊。これを教官から預かってきたぞ」
榊が白銀たちとのやり取りに飽き飽きしていると、冥夜が4人に冊子を手渡す。
「なんだコレは?」
隼人が冊子をめくりながらつぶやく。
「ああ、それ?あなたたち4人は明日までにそれを暗記して。入隊宣誓してもらうから」
「ゲェッ!めんどくせえな!!ったく」
「情けない。これぐらいも暗記できんのか竜馬」
予想外の事に文句を漏らす竜馬を弁慶が茶化す。
「んだと弁慶!てめぇは暗記できんのかよ?」
「こんなのお経を憶えるのにくらべれば朝飯前よ!」
「弁慶に負けたくないのなら、必死に暗記するんだな」
「隼人ぉ、てめえはどうなんだ?」
「ふん、これくらいもう憶えた」
「・・・・っ!?」
隼人の発言にその場に居た全員が驚く、いや唖然とする。
しかし隼人にはそれくらい造作もないことだ。
何せ小学の時にはIQ300の天才とよばれ、かつては革命組織のリーダーだった男なのだから。
「ま、まあ皆さん明日頑張ってくださいね」
壬姫が場の空気を変えようと発言する。
「ああ」「まかせろ!」「そうだな」「任せとけ!」
4人がそれぞれの形で返答する。
「ところであなたたち、聞きたいことがあるの」
「何だ?委員長」
「教官からは『特別な人物達』と聞かされているわ。期待していいのよね?」
榊が竜馬たちに尋ねる。

「・・・ああ任せてくれ。たぶん期待してくれていいと思う」
白銀が代表して答える。
その目には確かな自信が宿っていた。
「それは頼もしいな。流たちも白銀と答えは同じか?」
「当然だな!俺達にどーんと任せろ!」
竜馬はまさに自身たっぷりという様子だった。
「ふん、さっきまで暗記がどうとかいってた奴が」
「うっせえ弁慶!人間やりゃあなんでも出来んだよ!!」
「あははは。じゃあ皆さん頑張りましょうね!」
竜馬と弁慶とのやりとりに笑顔を見せながら壬姫が言う。
「ああそうするとしよう」
隼人も自身があるという面では竜馬と同じ様子だ。
言葉の中にたしかにそれを感じさせるものがあった。
「・・・自信たっぷりだね」
彩峰が感想を漏らす。彩峰も彼らに期待をしているのだろう。
「1か月もすれば総合戦闘技術評価試験があるわ。私達はそれを何としても成功しなくちゃならない」
「それに先んじてあと一週間もすれば、鎧衣も帰ってくるはずだ。
それまでに207小隊を最強のチームにしておきたいものだ」
「鎧衣・・・?ってのは誰だ?」
冥夜の口からでた知らない名を竜馬が聞く。
すると壬姫が竜馬たちに教えてくれた。
「鎧衣さんは訓練中に怪我しちゃって今は入院中なんです」
「そうか、その鎧衣ってヤツも俺達の仲間なんだな?」
「さまざまな方面、特にサバイバルの知識については右にでるものはいないわね」
「会えるのが楽しみだな・・・」
隼人が感想を述べると、榊が念押しをしてくる。
「とにかく、みんなあなたたちに期待してるからね!」
「ああ、お手柔らかにな」
「期待はぜってぇうらぎらねぇぜ?」
「任せておけ。」
「おう!それより飯はまだか??」
「「弁慶・・・」」
このあとの食事は弁慶の食いっぷりとそれに対抗する竜馬を中心にかなり盛り上がり、隊全体の親交を深める結果となった。
その結果に白銀は世界を救う道を確かに一歩進んだという感触を得たのだった。

横浜基地のグラウンド。
ここでは現在第207衛士訓練小隊が訓練をしている。
しかしその様子はいつもより少々異なるようだった。
「よし、他の者が戻るまで待機。休んでいいぞ」
「こんなんじゃまだまだ走りたらねぇ・・・。座学で頭使い過ぎてんだ。その分体をうごかさねぇとナマっちまうぜ。
よし!教官、俺達はトラックを走りながら待たせてもらうぜ」
「ふん・・・いいだろう」
「竜馬ぁ、走るのはいいがペース速くねぇか?」
「そうですね。途中からは隼人さんと竜馬さんの競争みたいになっちゃってましたもんね。
まさかいつもは冷静な隼人さんが熱くなるとは・・・」
「フン、なんだ武。体力には自信があったんじゃないのか?」
「もちろんありますけど、3人の体力はもう桁はずれですよ」
「おうおう、ぐずぐず言ってないでトラック走るぞ!」
新しい207小隊のメンバーは他の者と比べると明らかに体力があった。
それは男と女の違いというわけではない。もちろん白銀は体力がある方だった。
一般的な兵士以上の体力の持ち主であるのは間違いない。
しかし、竜馬、隼人、弁慶の体力はそんな白銀と比べても桁はずれだった。
現に体力のある白銀ですら少々息切れしているのに、3人は全く息切れをしていなかった。
まさに彼らはバケモノ級の体力の持ち主だった。

座学の時間。
竜馬、弁慶は必死になって講義を聞いていた。
幸いなことに講義のすべてが戦闘行動に関することなので2人はなんとか食らいついていた。
そして白銀と隼人はどのような例題に対しても的確な答えと説明を出していた。
白銀は正攻法のやりかたを、隼人は少人数での犠牲をためらわないゲリラ的なやりかたが得意であった。

小銃の分解組み立ての実習ではそれまで小隊内で最速だった記録を4人があっさりと塗り替えていった。
「へっ、早乙女のジジイに無理やりやらされたことがここまで役に立つとはな」
「だけど竜馬よ。隼人と白銀は目隠ししたままでも出来てるぜ?」
「本当、あなたたちのレベルでさえ凄いのにあの二人は神業級じゃない」
「うむ、それでは他の者も新入りに負けぬよう努力しろ!新入りはそのなまらせぬようにしろ!」

夜。
竜馬は白銀の部屋の前に訪れていた。
だがノックしても返事はない。どうやら部屋の主は不在のようだ。
「何だタケルのヤロウこんな時間にどぉこほっつきあるいてんだ?」
ひとり部屋の前で愚痴る竜馬。
特に用事があったわけではないが、いざ訪問して不在なのは少し腹が立つ。
理不尽なの分かっているが、腹が立つ。
「武なら博士のところだ」
そんな竜馬に通りがかった隼人が声をかける。
「なんでおまえがアイツの居場所を知ってるんだ?」
「さっき博士の所に行った帰りにヤツと入れ違いになったんだ。
その時は初めて見る女の子を連れていたな・・・おそらくあの少女がアイツの言っていた霞だろうな。
おそらくこの世界での行動を博士に相談でもしているんだろう」
「ほおぉ。アイツも頑張ってんだな。それでお前は何しに博士の所に行ったんだ?」
「ゲッターの修理に必要な物資と人員の融通を利かしてもらいにな。
武が可能な限り早く衛士になろうとするならオレはゲッターを動けるように最善をつくすだけだからな」
「だけどよ、ゲッターは炉心が完全に動かねえじゃねえか」
「それに対してはオレの方で考えがある。まぁ、今は俺達も武と同じように早く衛士になれるよう努力すればいいだけだ」
「へっ、オレもなんだかんだで戦術機とやらに乗ってみてえからな。
タケルのためにもなって、オレも戦術機を乗り回せる。一石二鳥だな!」
「それにはお前は座学をもっと頑張るんだな。
ところで武が帰ってくるのは遅くなると思うんだが、どうするんだ?」
「そうだな・・・ちょっくら体動かしてくらァ。おめえの難しい話を聞いて頭使っちまったしな」
「そうか。それじゃあな」
隼人と別れた竜馬はその足でグラウンドに向かっていた。
この時間、グラウンドに人はいないはずである。だからこそ竜馬は思う存分体を動かせると考えていた。
しかしどうやら先客がいるようだった。
「ん?誰かいるじゃねーか。おーい!そこにいんのは誰だー?」
グラウンドにいる人物に竜馬が声をかける。
「なんだ、流ではないか」
トラックを走っていたのは冥夜だった。

「冥夜か。お前もストレス発散に体動かしにきたのか?」
「いや、日課だ。一刻も早く衛士になり戦場に立ちたいのでな。だから自主訓練としてな・・・
だが・・・」
「だが?」
「このようなことを言うのははばかれるのだが・・・
流たちの超人ぶりを見せつけられて少々自信をなくしていてな。
このようなことだけでいいのかと悩んでいる」
冥夜は竜馬たちと自分の間に大きな差を感じていた。
もちろんそれは冥夜だけでなく全員が感じていることだ。
いくら訓練兵とはいえ、新参者にさまざまな面で大きく差を開けられているのに不安を抱いているのだろう。
「ふぅん。そんなもんかねぇ。だが、自主訓練してるなんて立派じゃねえか。
そういやなんで早く衛士になりてえんだ?」
「同じことを武にも言ったが、私にも護りたいものがある故な」
「ほおう。護りてぇモノ、か。じゃあちゃんと強くなるための理由があるじゃねぇか。
別に冥夜が不安がる必要はないんじゃねぇか?」
「なにゆえ、そのような事を申せるのだ?」
「う~ん、そうだなぁ・・・
オレの知ってるヤツでよ、おまえみてえに色んなもん護るために頑張ってた女がいたんだ」
「ほう?」
「ソイツは自分よりつええ奴に一歩も引かず、護るためのケンカをしててな。そんな姿とお前がダブんだよ。
だからよう・・・俺は隼人みてえに頭良くねぇから何て言えばいいか分んねえが・・・
ソイツみてえに強くなりたい理由があって頑張って踏ん張れる奴はきっと大丈夫だと思うワケよ。
だからてめぇも強くなる理由がありゃあ強くなれるぜ?きっと。
だーっもう何が言いてえのか自分でもさっぱりだぜ!」
竜馬がしゃべりおえると冥夜はしばし目を閉じた。
「なんだ、やっぱワケ分かんなかったか?」
「いや、むしろその逆だ。武にも似たようなことを言われた。
そなたのような人物も同じことを言うのであれば、大丈夫なのだろうな」
「おう、冥夜や隊の連中なら絶対大丈夫だ。すぐにオレらにおいつくだろうよ」
「ははは、さすがに流たちのレベルにまで達するのにはまだまだ先であろうがな。
だが流の言葉で不安は消し飛んだ。
今は流たちの背中を追いかけ、そして近いうちに並べるよう努力するとしよう」
冥夜にはさっきまであった不安感はなくなっていた。

竜馬の言葉はちゃんと彼女に伝わったのだろう。
「ま、おめえの不安がなくなったんならこっちとしちゃあ安心だ。
さてと、じゃあオレは少し体を動かしにきたんでな。どうだ?付き合うか?」
「いや、遠慮しておこう。今日はもうあがるところだ。また今度付き合わせてもらうとしよう」
「そうか、じゃあな。お疲れサン」
「うん、またな」
竜馬は冥夜と別れ自身の目的を果たすためにトラックを走りだす。
そして走りながら冥夜に話したことを思い出し、頼光から自分が教わったことを深く心に刻み込むのだった・・・。

11月に入り、竜馬や白銀が隊に入隊ししばらく経ったころ、入院していた鎧衣美琴も復帰し、207衛士訓練小隊はようやく全員が揃った。
訓練では竜馬や白銀、隼人や弁慶の影響により彼ら以外の全員が彼らを追う形で相当の底上げがされた。
座学で少々の遅れをとった竜馬と弁慶も仲間たちの協力や自身の努力により、その遅れを取り戻していた。
11月11日には佐渡島ハイヴのBETAが新潟に上陸してくる事態が起こったが、白銀の夕呼への進言により待機していた帝国軍により殲滅された。
そして207小隊の総合戦闘技術評価試験も白銀の前の世界での記憶、竜馬達3人の並外れた体力、それに底上げされ鍛え抜かれた小隊員たちの力により難なく合格した。
そうして、今現在まりもが戦術機の有用性とこれからの訓練の流れを説明している。
「――午後は強化装備を実装して衛士特性を調べる。各時昼食は1時間前までに済ませドレッシングルームに集合せよ。
解散!」
「「「了解!!」」」
まりもが教室を出て行ったあと、美琴がさっそく口を開く。
「ねぇねぇ・・・このマニュアル全部覚えなきゃいけないのかな?」
美琴の言う戦術機の操縦マニュアルはかなりの厚さがあり、まりもの説明によればそれを全て頭に叩きこまねばならないらしい。
「・・・無理だろ・・・」
めずらしく竜馬が弱音を漏らす。
「ま、乗ってるうちに慣れるんじゃないか?」
武が彼らを励ますように言う。
「だといいなあ・・・ボク、こんなのさすがにおぼえらきれないよ」
「まぁ習うより慣れろってヤツだな。要はうごかせりゃあいいんだ!うごかせりゃあ!」
どうやら竜馬は慣れればいいと考えたらしい。
そんな竜馬にだけ聞こえるよう隼人が言った。
「竜馬、お前の言う通り慣れればいいだろう。
それにな、お前は知らんだろうがゲッターのマニュアルはコレの数倍は厚いんだぞ?
それを慣れだけで動かしていたお前に関していえば戦術機の操縦は問題ないだろう。
それをあそこの弁慶にも教えてやれ」
隼人の言葉のあとに弁慶をみると早速暗記しようと躍起になっている弁慶の姿が見えた。

戦術機適性調査終了後、一同はPXに集まっていた。
「タケルやリョウマたちはほんとーーーにあの揺れ大したことなかったの?」
「大したこと無いも何も、全く前全然!」
美琴の質問に武が答える。
「おかしいよ、人として・・・もしかして流たちも?」
武の答えに呆れながら慧が竜馬たちに尋ねる。
「んー、揺れは確かに大したことなかったなあ。つーか面白かったぜ?」
「なかなか良くできた機械だったな」
「おう、竜馬の言う通り面白かったな!」
三人がそれぞれの感想を述べる。
「「「化けものだ・・・」」」
そしてその感想に冥夜たちは驚くばかりだった。

今、武は戦術機のシュミレーターに乗っていた。
“1機!2機!!――ラスト!!”
あざやかな操縦で次々と目標を撃破し、武はあっというまに全目標を撃破した。
そしてその隣のシュミレーターには竜馬が乗っている。
「イイイーーヤッホーーー!」
こちらの操縦はめちゃくちゃではあるが、機体の性能を限界まで引き出していた。
中でも機体の急な方向変換、思い切りのいい近接格闘戦などこちらはこちらで見事な操縦だった。
『動作教習応用課程Dを終了する。白銀、流、降りて来い。』
「「了解」」
まりもの指示で二人がシュミレーターから降りてくる。
そして奥からは隼人と弁慶がそれぞれシュミレーターを終了して戻ってくる。
「試しにということで乗せてみたが・・・貴様らは戦術機の操縦経験があるのか?」
「え?あはは、まさか」
「戦術機には乗ったことなんざないぜ?」
「少々無茶な機動をしましたがね」
「戦術機の経験はないなあ」
「ふうむ・・・」
まりもは4人の言葉に眉をしかめた。
「教官、白銀たちはそんなにすごいんですか?」
まりものそんな様子に千鶴は疑問をぶつける。
「過去の訓練兵の動作教習応用課程Dをクリアした最短記録は33時間なんだが・・・
一日中乗ってるわけではないからこれは実質5日ほどかかっていることになる。」

「それでは白銀たちはそれを2日、いや正味1日ですか!?」
冥夜が驚きを口にする、しかしその事実にはまわりに居た全員が驚いていることだった。
「その通りだ。こいつらは歴代最短記録を5分の1に縮めたんだ」
まりもは彼らが成し遂げたことがどれだけどれだけ凄いかを千鶴たちに説明する。
そんな中、武は自分の成したことを振り返り、そしてある名案を思い付いた。
「教官っ!」
「・・・ん?」
まりもの説明が終わると武はさっそくまりもに発言する。
「オレたちの操作記録を、みんなに見せるわけにはいけませんか?」
「どういうことだ?」
白銀の突然の提案にまりもは不思議そうな表情をする。
「教官の言葉通り、俺達の技術がそこまですごいのならそれは隊全体で共有する財産だと考えます」
「なるほどな・・・流たちはどう考える?」
「そうですね・・・。オレ達の操作記録は隊全体で共有する案には賛成です。」
まりもの質問に隼人が答える。
「そうか、香月博士の提案通りか・・・」
「どういうことだ?そりゃ?」
まりもの言葉に弁慶がつい聞き返す。
しかしまりもの言葉にはその場にいた207小隊の全員が疑問を持たざるを得なかった。
「実はな、白銀とまったく同じ提案を昨日、香月博士がなされたのだ。
白銀たちは操縦技術に長けているはずだから、それを確認、事実ならば操縦記録を全員に開示しろとな。
そして既に博士の提案に基づき、操縦訓練カリキュラムが大幅に変更されている。
まず貴様らが卒業するまでの間、我が207小隊がシュミレーターを最優先使用出来ることになった。
次に、貴様ら専用の練習機が明日搬入されてくる」
「あ、明日ですかぁ!?」
あまりの内容に全員が驚く中、壬姫がおもわず声をあげてしまう。
その内容には白銀も、隼人ですら驚いていた。
「まさかこれほどとはな・・・
午前の教習はこれで終了だ。解散後、榊は白銀たちの操作記録を取りに来い。
以上だ。解散!」
まりもの解散の合図で全員が敬礼をする。
敬礼終了後、まりもは即座にその場を立ち去った。

数日後、訓練は順調に進んでいた。
もちろん武や夕呼の努力もありオルタネイティブ4も着実に進んでいた。
それに武の提案で新OSが開発され、今回の模擬戦闘でその実験が行われることになり、
武、千鶴、慧の3人の機体に武が提案した新OSが組み込まれ、この模擬戦で新OSの優位性を実証する実験となっていた。
新OSのことは搭載機に乗る3人以外には知らされてはいない。
まず最初の武たちと冥夜たちの模擬戦では武たち新OS勢が圧勝。
新OSの優位性を見事に実証した。
そして次は武たち対竜馬たちの模擬戦が行われようとしていた。
「おい、隼人見たか?さっきの戦闘」
「ああ、あっちの3人の動きがかなり良くなっているな。」
「あの機動は白銀の機動にそっくりだったな。いつのまにあいつらあんなに上手くなったんだ?」
「さあな。博士が模擬戦前に何かをしてたようだから、何か仕掛けがあるんだろうな」
「ま、なんにせよあのタケルと闘(や)れるんだ。相手に不足はねえな!」
「油断するなよ竜馬。今は向こうの3人とも白銀並の機動をするんだぜ?」
「わーってるよ弁慶。てめえこそハジをかくなよ?」
「二人とももうすぐ模擬戦開始だ。気をひきしめろ」
先の戦闘を見ていた竜馬たちは久々に本気の戦いが出来ると思い、少々熱くなっていた。
一方、武たちは、
「委員長!彩峰!竜馬さんたちに勝てればこの新OSはかなり使えることが証明される!
だから頑張ろうぜ!」
「そうね。あの3人に勝てれば本物よこのOSは」
「・・・絶対勝つ!」
こちらもこちらでやる気になっていた。
「――行くぞっ!」
武が言葉を発すると同時に模擬戦が始まった――。

戦闘は熾烈を極めていた。
武たちは新OSのおかげで今までとは比べモノにならないほどの機動を見せていた。
新OSに慣れた千鶴と彩峰もまだムラはあるものの、俊敏な動きで竜馬たちを追い詰めていた。
だが・・・
「くそ!なんて人達だ!!あんな機動を従来OSで出来るなんて・・・!」
「あんな急な方向転換をすれば身体に相当の負担がかかる筈なのに・・・
動きがまったく衰えないなんて・・・!」
「・・・手強い!」
彼らの言うとおり竜馬たちの機動は常人から考えれば無茶苦茶であった。
最大加速状態からの急激な方向転換。普通の身体の持ち主ならばGに耐え切れるレベルではない。
だが、そんな常識外れの機動をもってしても新OSによる恩恵を受けた武たちには、少々難しいものがあった。
「畜生が!正確に狙ってきやがる!!あれでも同じ機体なのか!?」
竜馬がビルの谷間を縫うように進みながら文句を洩らす。
無理やりな方向転換で攻撃はほとんど避けきっているものの、機体の動きには限界がある。
そこをつかれ何発かもらってしまっている状況だった。
「竜馬!お前を挟み撃ちにしようとしているぞ!!弁慶がカバーに入るまで持ちこたえろ!」
隼人も武たちのあまりの動きの変化に驚きを隠せなかった。
こちらは性能を腕でカバーしているものの機体の限界が近い。
無理な機動を連発しているのだからそれは当然だった。
「こちら弁慶!しまった、やられた!!あっちの狙いはオレだったみたいだ。
待ち伏せを喰らっちまった。情けない・・・」
コンソールで状況を確認すると弁慶機が撃破扱いになっていた。
「チッ!ここまで差をつけられるとは・・・。流石は武といった所か」
「隼人!そろそろオレの機体も限界だ!!段々動きが鈍くなってきやがった!
こうなりゃオレがおとりになってやつらを引き付ける。
援護頼むぜ!」
「了解だ!」
竜馬の機体は限界を迎えていたが、それは隼人の機体も同じだった。
彼らの腕は良かった、しかし良すぎた。戦術機の方が追い付けないほどだったのだ。
それは武にも同じことが言えていた。だが武の機体は新OSという解決策を得ていた。
その差が戦闘が長引くことによりハッキリとしてきたのだった。

「うぉおおりゃあ!」
竜馬が単機で空中にいた武に突っ込む。
「くっ!」
武はギリギリでよけるが少しだけかすった。攻撃を外した竜馬、かすった武の両機はバランスを崩しながらも着地に成功。
「よっしゃ!もらったぁ!!」
着地した瞬間に即座に体勢を立て直し、攻撃に移ろうとした竜馬だったが、残念ながら機体がそれに応えることができなかった。
いままでの機動のツケが回ってきたのだ。一瞬だが機体の動きが止まってしまう。
「な!?この、おせえんだよ!!」
そのわずかな隙を武は逃さなかった。竜馬の機体の表面にペイント弾の花が咲く。
「よし!こちら白銀、敵機撃破!」
「くっそー!隼人、ワリい。やられちまった」
「了解、あと残りは1機だけね」
竜馬も倒したことで武たちの士気はかなり上昇している。
「竜馬までやられたか!!まずいな・・・」
そんななか隼人は予想外の事態に困惑していた。
「こちら彩峰、敵機発見!」
「しまった!?見つかったか?」
彩峰の連絡で他の2人はすぐに来た。
3方向からの攻撃を次々に避けていく隼人だが、こちらも竜馬同様機体が悲鳴をあげていた。
「!?やっぱりそうだ!竜馬さんも弁慶さんもおかしなところで隙を見せると思ったら・・・。
委員長、彩峰!隼人さんの機体はいままでのトンデモ機動でボロボロだ!
一気に畳みかけるぞ!」
武はそんな隼人の様子にいち早く気づいた。
だが、隼人もそう易々と落とされるわけにはいかない。
「ちぃ、まずは距離をとって1機ずつ相手をしたほうがよさそうだな!」
隼人は現状が不利と判断し、3機と距離をとる。
しかしジャンプし着地した瞬間、戦術機が前のめりになり、倒れた。
「なに!?主脚がイカれたのか!?やはり今の戦術機ではオレたちの動きについてこれんか・・・。だがここまでヤワだったとはな」
隼人が言うこととは異なり、戦術機は決してヤワではない。
だがゲッターチームにかかれば既存の戦術機では役不足なのは確かだった。
そして模擬演習は隼人機の行動限界という形で終えた。

「・・・やった」
自分が提案した新OSが予想以上の成果をあげたことに、武は頬が緩んでしまっていた。
「まさかあの竜馬さん達まで倒せるなんてすげぇよ。さすが夕呼先生」
そんな武の元に小隊のメンバーが集まってくる。
そして冥夜が開口一番に武に尋ねる。
「だらしなくにやけよって・・・。一体どういうことなのだ?」
「え、何が?」
「戦術機にどのような仕掛けをしたのかと聞いておるのだ!
そなたたちに負けたことは何の不思議もない。ただあの機動・・・。
流たちの機動も驚愕に値したが、そなたたちはそれを超える機動だった」
「そうだよおかしいよ!3機ともいきなりあんな動きするなんて!」
「いつものタケルさんよりも動きが良かったよ!?」
美琴と壬姫も武に食らいつく。そしてそこに竜馬たちもやってきた。
「おう、オレも説明してもらいてぇなあ。タケルだけならまだしも3人一斉に動きが良くなってのはどうにも解せねえ」
「しかもお前たちの機体にはオレたちのように負荷があまりかかってないようだったが?」
「いつの間に3人ともあんな機動できるようになったんだ!?」
今回武たちにやられた全員が武に詰め寄る。
「え?負荷がかかってない?あれ?そこまですごいシロモノだったのか?」
そんななか、武は隼人の一言に引っ掛かりを感じていた。
「そんなにすごかった?」
そこにようやく夕呼が現れる。
「博士っ!?今朝から博士がここに居られたときから何かおかしいと思っていたのです!」
「「・・・」」
今度は夕呼に食らいつく冥夜。夕呼の後ろでは千鶴と彩峰が静かに立っている。
「実はね~、榊たちの戦術機には新しい概念を組み込んの新OSが実装されてるの」
「「新OS?」」
その場にいる武と千鶴、彩峰以外の全員が聞き返す。
「そ、白銀の戦術機の機動がとても奇妙なのは知ってるでしょ?
その集大成が今日の戦術機の動き。今までは制御システムの都合で不可能だったの。」
「何と・・・」
「あんな機動を戦術機にさせようとしてたなんて・・・。タケルに敵わないわけだよ」
「・・・とはー」
冥夜、美琴、壬姫だけでなく、千鶴や彩峰もその事実に驚いていた。
「ほー、あれがタケルの本気かぁ。流石じゃねぇか」
「まったくだな」

竜馬たちはどちらかと言えば驚きというよりは関心しているようだった。
「でもまぁ既存のOSの機体であんな無茶な機動をするあんたたちも十分凄いけどね。
普通なら急激な加速に身体がついていけなくて、下手すりゃ死ぬようなモンしてんだから。
おかげであんたらの戦術機はボロボロよ?戦術機をたった1回の操縦でつぶす人間なんて非常識だわ」
夕呼はそんな竜馬たちに皮肉を飛ばす。
「そうよね・・・。流たちの操縦も半端じゃないわ。強化装備があっても私たちなら気絶じゃ済まない機動だったもの」
「・・・異常」
夕呼の皮肉には全員がうなずいていた。
すると今度は隼人が夕呼に質問する。
「ところで博士。オレたちの操縦が戦術機に負担をかけるということは分かった。
だが、そんな機動についてきた武たちの機体もボロボロになるはずだ。
それなのにオレたちの機体だけ限界が来て、ほぼ自滅に近いかたちとなった。
コレは新OSだけで納得できることではないのだが、ワケを教えてくれないか?」
「流石は神ねぇ。ソコにすぐに気付くなんて」
隼人の鋭い指摘に感心する夕呼。
「そういえばそうね。私たちの機体はあれだけしてもまだ大丈夫だったわね」
「そうだな委員長。オレたちもだいぶ無理したけど機体はガタつかなかったよな」
武たちは隼人の指摘でようやくその事実に気づいたようだった。
「これも言わなくちゃいけないと思ってたんだけど、榊たちの機体が特別なのはOSだけじゃないのよね~。
実は装甲や駆動系もちょっと変わった処理をしてみたのよ。
白銀が理想の機動をできたのもこの処理のおかげでもあるのよ?」
「処理・・・とは?」
冥夜はOSだけでなく駆動系まで手を出されていることに半ばあきれながら、続きをうながす。
「ある特殊なエネルギー線を浴びせたのよ。そしたら耐久値が大幅にアップしてねぇ!
久々に楽しいものが見れたわぁ」
夕呼は本当にうれしそうに語る。しかしその言葉を聞いて隼人は驚愕していた。
「まさかあれを流用したのか!?なるほど・・・、道理で丈夫なわけだ」
「?隼人、どういうことだ?」
「お前も博士になんか提案したのか?」
ひとり我点がいっている隼人の様子を竜馬と弁慶が不思議がる。
「・・・博士、他の連中にも教えてやってもらえるか?」
「いいわよぉ。実は白銀以外にも神も戦術機の性能向上の提案をしてきてねえ。

あまり世間には知られてないんだけど、ゲッター線ってのが最近発見されたの。
そんでそれを有効活用するエネルギー機関を神が設計してね、私に組み立ての依頼をしたのよ。
そしてそのエネルギー機関の組み立てがこないだ終ったんで、その機関を用いて戦術機の装甲と駆動系にゲッター線を浴びせたの。結果は見ての通りよ」
もう全員が驚きを通り越したかのような顔をした。
そして竜馬と弁慶に隼人が小声で伝える。
「詳しいことは後で伝える」
「おう、俺らにもわかるようう説明しろよ?」
「弁慶の言う通りだ、頼むぜ?」
「ま、そういうことだから。
あと、新OSとゲッター線処理は全員の機体に施すから、あんたたちの隊は次世代戦術機の開発部隊よ。
心して任務をこなして頂戴。いいわね?」
「「了解!!」」
全員が驚きっぱなしのまま、207小隊は新たなスタートをきったのだった。

PXで部隊のこれからについて隊の全員で意見と感想を言い合ったあと、竜馬と弁慶、そして武は隼人の部屋に来ていた。
「隼人さん、どういうことなんですか今日のこと」
「そうだ、早く説明しやがれ!」
「まぁ竜馬、落ち着けよ」
もう待ちきれないといった様子で3人が隼人に詰めよる。
「博士にゲッター炉心の組み立てを頼んだのは確かにオレだ。
だが完成した炉心の出力はまだ低くてな。戦術機の装甲やらを処理する程度にしか使えんのが現状だ。
まぁそれでも戦術機の相当の高性能化が図れたんだから、良しとしよう。
これはゲッターの修理のために必要だったから開発したんだが、まさか博士がそれを利用するおはな・・・。
まったく、喰えない人物だ」
博士の予想外の行動が愉快でたまらないといった様子の隼人。
「じゃあ、肝心のゲッターの方はどうなんです?」
「修理は完璧だ。だが、相変わらず炉心が作動しない。原因は未だ不明だ」
「だけど、戦術機はそうとうパワーアップしたんだろう?いいじゃねえか!」
「そんなことより隼人、てめぇいつのまにゲッター炉を作れるようになったんだ?」
竜馬が持っていた最大の疑問をぶつける。

「ああ、そのことか。前から早乙女研究所で図面だけは見ていてな。その知識をつかった。
あと、この世界に来てからなぜか閃くというか、情報が流れ込んでくるような現象が何度かあってな。
それも大きく関係してはいる。お前たちもそういうことないか?」
「情報が流れ込む・・・。言われてみればあるような」
「タケルもか!?そういや俺もそんなことがあるなぁ」
「俺だけじゃなかったんだな。まさか竜馬もとは。これは何かと関係があるのか?」
隼人の言ったことに思い当たる節がどうやら全員あるようだった。
その結果に隼人はひとりうなずく。
「やはりか・・・。どうやらオレたちがこの世界に居ることに何か関係はあるようだ。
このことについてはまた考えておこう。
今日のところはこれでお開きだ。明日からの新OSと新装甲のデータ収集をこなすのが当面のオレたちの目的だろう」
「だな。オイ、タケル!次は負けねえから覚悟しとけよ?」
「はは、お手柔らかに頼みますよ?竜馬さん」
「はっはっは!すっかり自信をつけさせちまったな!だが今回ハジをかいた礼は絶対返すからな?」
最終的には和やかな雰囲気となり、そして解散していった。
そんななか、ゲッターが格納されている地下ハンガー内では、ゲッターの目にぼんやりと光がともり、そして消えていった。