Getter ALTERNATIVE 03

Last-modified: 2008-12-09 (火) 02:07:07

その日、突如帝国本土防衛軍帝都守備第1戦術機甲連隊所属の沙霧大尉を首謀者としたクーデターが起こった。
この事件は国連軍ではあるが帝国内に居を構える横浜基地に大きな影響を与え、戦術機を含む全部隊が任務にかりだされていた。
それは207小隊も例外ではなかった。
が、207小隊が配備された任務は箱根での後方警備というものだった。
この任務で戦闘が起こることは誰も考えてはいなかった。
しかし、この箱根こそが帝都から脱出した悠陽の回収ポイントであり、その任務を207小隊が行うことになっていたのだった。
途中までは決起軍からの追撃を米軍の増援などで防ぎ、任務は成功するかに思えた。
だが、強化装備なしで武の機体に同乗し、実戦機動で移動を続けたことによる悠陽の体力の消耗。
予想外の決起軍の空挺作戦など、イレギュラーな事態が続き、結果として決起軍に取り囲まれることになってしまった。
この事態を打破するために悠陽が己が囮となり決起軍を引き付け自身が沙霧を討ち取るという提案をした。
が、これはあまりに危険すぎた。
最悪、将軍を捕えられた挙句、全滅の可能性があったからだ。
それに悠陽はあまりに体力を消耗していた。たとえ強化装備を用いても沙霧に勝てる可能性は低い。
そこで悠陽と瓜二つ(実際双子なのだが)である冥夜が、武機に同乗し沙霧と交渉、時間を稼ぐ案が冥夜から出された。
この案も始めは反対が多かったが、月詠中尉や竜馬たち、そして最終的には米軍指揮官からも賛成を得た。
そして作戦は実行に移された。
はじめは成功するかに思われたこの作戦だったが、米軍に紛れ込んでいた工作員の発砲により交渉は決裂。
現在は決起軍との戦闘状態に移行してしまっていた。

決起軍の錬度は非常に高いものだった。
その操縦、連携、すべてが一流だった。
だがそれにおくれをとるゲッターチームではない。こちらも超速機動と連携で次々と敵機を落としていた。
「竜馬!!お前は先に武の所へ行け!」
高速機動をしつつも敵の正確に四肢を打ち抜き一機仕留めた隼人が叫ぶ。
「てめぇらだけで大丈夫なのかよ!?」

こちらは戦術機用に隼人が調整したゲッタートマホークで敵機を袈裟斬りにしつつ応える。
「バカヤロウ!ちったあオレらを信用しやがれ!!いいから行けぇ!」
背後から近付いてきた敵に即座に振り返り、大雪山おろしを喰らわせながら弁慶が早く行くよう叱咤する。
「わかった!じゃあココは任せたぜ!」
「「応っ!」」
2人の返事を聞きつつ、竜馬は跳躍ユニットを吹かす。

竜馬が向かうなか、武たちは沙霧に追い詰められつつあった。
機体性能差では圧倒的に不利であったはずのF-22を落とし、千鶴や彩峰、武の攻撃をすべて避けきっていた。
「クッソォーーー!!なんで当たらねえ!?速すぎるッ」
「タケルっ、落ち着け!」
冥夜に制するも、沙霧との圧倒的の差を見せつけられどんどん焦る武。
そんな武に沙霧機がどんどん近づいてくる。
「――うおおぉぉぉぉ!」
そんな沙霧に千鶴が突っ込む。
「委員長ォ!?ムチャだ!!」
武が叫んだ瞬間には、もう千鶴機は沙霧に片腕を切断されてしまっていた。
「きゃああああぁあ!?」
そして千鶴機にとどめを刺そうと沙霧が迫る。
「もうやめて!!」
そんな両機の間に彩峰が割って入る。
だが沙霧の勢いは衰えることがない。そんな様子に武はただ叫んだ。
「大尉やめろォ!その機体には彩峰が乗ってんだぞ!!!」
「―――ッ!?」
武の叫びが回線から聞こえたのか一瞬沙霧の動きが止まる。
そして次の瞬間。
「トマホォォーーック、ブゥメランッ!」
竜馬が投擲したゲッタートマホークが沙霧の機体の肩に突き刺さる。
そして竜馬の後ろから月詠が射撃を行っている。
「207各機下がれ!」
「月詠さんっ!」
「月詠!?」
月詠が来たことに冥夜が驚いていた。そんななかで竜馬からも通信が入る。
「逃げるぞテメェら!榊と彩峰は大丈夫か?」

「・・・なんとかね」
千鶴が応答する。
「彩峰も大丈夫だな!?おいタケル!榊はオレがカバーするからてめぇは彩峰のカバーだ!
戦域から脱出するぞ!目標ポイントは神宮司軍曹からデータが送られてるハズだ。
行くぞッ!!」
「りょ、了解!」
こうして無事に離脱していく武たちの後ろで、沙霧と月詠の勝負が決していた・・・。

戦闘は終結し、悠陽は無事海路で横浜基地に向かうこととなった。
そしてその前に悠陽みずから、207小隊に感謝をしたいということとなった。
「此度のそなたたちの働きに、この悠陽、感謝この上なく思います」
「「「ありがとうございます!」」」
悠陽は今回の事件えを戒めとし、そして自分がかならずこの国を良い方向へ導くことを207小隊に誓った。
悠陽の言葉ひとつひとつが小隊員全員の心に染み入っていた。
悠陽はおそらく全員の素性を知っているのだろう。
武はそう思わずにはいられなかった。
「最後に・・・人類の未来を宜しくおねがいします」
「「「はい!」」」
そして悠陽は去っていった。
この事件での犠牲や影響はあまりに大きすぎた。

「タケル。お前、この戦いで何か得たものはあるか?」
横浜基地への帰還の途中で竜馬が武に尋ねた。
「・・・ええ。きっとたくさんのモノや思いを得たと思います」
「・・・そうか」
「竜馬さんは何か得たんですか?」
「オレか?さあな。ま、この世界の連中の多くがそれなりに芯のある連中だってことがわかったぜ?
クーデター起こした連中も。小隊のあいつ等もな」
「そうですか。オレはしっかりとした芯を持たないといけないって思い知らされましたよ」
「まぁ、そういうモンは自分で探せ。それがねぇといざって時に踏ん張れねぇぞ?」
「分かりました。肝に銘じておきます」
この時、武はこの質問の重要さを本当も意味では理解しきれていなかった。
それを竜馬は感じていたのかもしれない。

12月10日。
横浜基地では新型OS及び新型装甲材のトライアルが行われていた。
この日までに第207小隊は訓練課程が終了し、武たちは晴れて衛士となり、
そして全員がそのままA207小隊として横浜基地所属となっていた。
それ以外にも武が並行世界からの00ユニットに必要な数式を回収し、全てが上手くいっていた。
もちろんゲッターの修復も順調に進んでおり、ゲッターから戦術機への技術のフィードバックも進められていた。
――このままいけばこの世界を救うことができる――。
この時点で武はそう信じていた。

そしてトライアルは進み、旧OS搭載の4機編成の小隊とXM3搭載機3機編成の小隊との模擬戦闘となった。
旧OS機の衛士は全員が出撃回数20回以上の熟練衛士。
これに勝利することこそがXM3の有用性を示す最大の手段である。
A207小隊は武・美琴・慧、冥夜・千鶴・壬姫、そして竜馬・隼人・弁慶の3小隊に分かれ、順番に模擬戦をこなしていた。
はじめの武たちは少々苦戦したものの、敵をなんとか全滅させた。
最後は美琴の武に対してフレンドリーファイアをしてしまうという失態があったが評価はAであった。
次の冥夜たちは2機取り逃したものの、無力化には成功し、Aマイナスの評価を出していた。
そして竜馬達の出番である。
「こちら竜馬。どうやら敵はうまいこと隠れてるようだ」
模擬戦が始まってからしばらくたつが、敵は竜馬の言うとおり遮蔽物を利用し姿を隠していた。
「そうか。流石はエースということか。弁慶、今からオレが陽動をかける。
カバー頼むぞ。竜馬はそのまま敵の捜索だ」
「了~解」「了解」
このままでは時間切れで逃げられてしまうため、隼人は陽動作戦をとることとした。
集中攻撃される危険はあったがXM3とゲッター線で強化した機体の性能ならば避けきれると判断したからだろう。
そうして隼人機がビルの屋上に立つ。その瞬間、3方向から一斉にペイント弾が飛んでくる。
「敵機発見した!竜馬はポイントFへ!弁慶はDだ!!オレは正面の奴をヤる!」
「へっ!待ってましたぁ!!」

「よしきた!全弾ぶちこんだるぜ!」
隼人の支持のあとの各機の動きは素早いものだった。
障害物となるはずのビル群を易々と避けながらそれぞれの目標に接近してゆく。
最初に接敵したのは竜馬だった。
敵は接近してくる竜馬機をその正面に捕え、36mmで狙い撃つ。
「おぉっと!そう簡単に当たってやるものかよ!」
それを右に左に、両側にあるビルで狭くなっている所を器用に避けていく。
弾は外れ、ビルの外壁を削ってゆくばかりである。
「なんだよそれ!?――あんな機動が!?」
敵は弾をすべて避けきっていく竜馬の動きに驚愕するしかなかった。
そしてあっという間に竜馬は小型の近接用のゲッタートマホークで敵を仕留めていた。
竜馬が接敵してすぐあとには、隼人、弁慶もそれぞれの目標をとらえていた。
だがこちらは1対1は不利と判断してか、残る1機と合流しようと後退しつつ応戦してきていた。
「弁慶、合流されると面倒だ。ありったけの弾を奴らの周囲にばらまいてくれ。接近して落とす」
「了解だ!巻き込まれんなよ?じゃあいくぜえ!」
敵に突っ込む隼人、そして弁慶はジャンプしつつ、敵の周りに文字通り弾をバラまく。
「嘘だろ?!あれじゃオレたちだけじゃなくて味方にも当たるぞ!」
敵にとっては隼人たちの行動は自殺行為にしか映らなかった。
銃弾の雨に自ら突っ込み、そしてそれを避けながら近づいてくるなど予想、いや想像できなかった。
敵は被弾せぬようバラまかれた弾に対して回避運動を始めた。
が、避けた方向にはすでに隼人が予測射撃をしており、敵は一気にペイントまみれとなってしまった。
そうして敵を発見してから即座に3機落とした竜馬たちだったが、残念ながら最後の1機には逃げ切られてしまった。
結果、評価はAマイナス。
そして基地に帰還し午前のトライアルは終了となった。

「ふぅ~、流石は実戦経験が豊富なだけはあらぁ。いい動きしてたぜ」
帰還するとすでにA207小隊の面々が顔を揃えていた。
「うむ。だが我らはそれに勝てたのだ。自信をもっていいと思う」
竜馬の意見に冥夜が相槌を打つ。
「この間まではまだ訓練兵だった私たちが勝てちゃうんだから、タケルさんはすごいですよね~」

「たまの言う通りだぜ。あれ?そういやその白銀はどこだ?」
「白銀なら相手側の衛士に褒められてたよ?」
武の所在地を弁慶に慧が教える。
「そうか。あいつも頑張ってきてるからなぁ」
「ま、てめぇよりゃ頑張ってたわな」
竜馬が弁慶に対して軽口をたたく。
「リョウマ、ベンケイも結構頑張ってるよ?」
「そうかぁ?まぁ鎧衣が言うんならそうしておいてやらぁ」
「まーたリョウマさんはそんなこと言ってー」
「珠瀬の言う通りね。流は弁慶を少し軽く見すぎじゃない?」
「なんだよ。榊まで言うかぁ?藪蛇じゃねーか」
思わぬ攻撃に竜馬が頭を掻く。それに対し、全員が笑顔を見せていた。
「そういえば神はどこに行ったのだ?武と同じように他の衛士に呼び止められているのだろうか?」
「そうね。神も機体の性能向上に大きく貢献している人物ですもの。たぶんそうなんじゃない?」
「隼人か?隼人なら博士んトコ行くって言ってたぜ?」
「はー、やっぱり隼人さんはすごいですねぇ。あの博士と1対1で話せるのはすごいですよ~」
「壬姫さんの言う通りだね。まさに天才だよ。ホントうちの小隊はタケルといいすごいよねー」
「誰が天才だって?鎧衣」
全員が話し込んでいるとそこに隼人が突然現れる。
「わっ!びっくりしたなぁ、もぉ。」
特に後ろから声をかけられた美琴はかなり驚いているようだ。
「なに。少し神のことを話していただけだ。武といい、神といい、207小隊には逸材が多いとな」
「そうか。だが御剣、207小隊は全員がかなりのモノだと思うぞ?」
「だな。おめえらも相当なモンだぜ?武と隼人が凄すぎるだけよ」
隼人の意見に竜馬が賛成の意思を示す。
「そういうあなたもね。さて、午後からのトライアルがもうすぐ始まるわ
続きはまた後にしましょう。早くしないと評価が下げられちゃうわ」
この千鶴の掛声とともに各自が自分達の機体に戻っていく。
そんな中隼人が秘匿通信で竜馬に連絡をとる。
「竜馬。お前はトライアルが始まる前に実戦用のトマホークを持って行け」
「あ?なんでだよ?模擬戦には使えねーだろうが」

「いいから持っていけ。必ず必要になる」
「・・・?まあ、いい重りになるか。了解、ゲッタートマホークを装備しておく」
隼人の言うままに近くの作業員にトマホークを装備させる。
このとき竜馬は隼人の言葉の真意をつかみきれてはいなかった。

午後からの模擬戦も順調に進む。
終始XM3搭載機側が有利な結果が出ていた。
しかし事件は最後の武たちの模擬戦中に起こった。
突然の市街地外れでの爆発。
「なんだ?爆発?」
最初に異変に気づいたのは武だった。
「エリア2からだな・・・」
竜馬もその異変に気づく。あまりに唐突すぎる爆発だ。
実弾を使っていない模擬戦でのあおの規模の爆発は不自然すぎる。
「状況を問い合わせてみよう」
冥夜が本部へ確認を取ろうとした次の瞬間、全機にコード991が発令された。
「――ッ!?」
――コード991。BETA出現の知らせである。

「HQより各部隊へ。防衛基準1に移行。繰り返す防衛基準1へ移行」
HQより各機に命令が下りるが、模擬戦に参加している機体はほぼ全てが模擬戦用の装備でしかない。
いわば丸腰同然である。
そしてその混乱で次々と戦術機が落とされていく。XM3を搭載している機もいわずもがなである。
その様子を武たちはただ呆然と眺めるしかなかった。
「オイてめぇら!ぼうっとしてんじゃねぇ!!HQからの合流命令が聞こえてんのか!?」
それをといたのは竜馬の怒声だった。
その一声で全員が各々の状況判断をはじめる。
「シャーク1よりHQ。合流完了。A207小隊を指揮下に編入する」
「HQよりシャーク1。換装の終了した部隊に武器を運ばせる。待機せよ」
「っち。むこうから来てくれちまったじゃねぇか」
今まで模擬戦の相手だった部隊がA207小隊に合流する。
その直後、基地からの支援砲撃が市街地に到着。
次々と巻き起こる爆炎。あたりをつつみこむ粉塵。
すでにそこは完全に戦場だった。

やっときた支援砲撃はすさまじいものだった。
しかし、これだけでBETAは殲滅されてはいない。
「シャーク1よりA207各機へ。貴様らは後ろにまわれ」
「りょ・・・了解・・・。ぜ、全期移動開始・・・」
「「了・・・解」」
「「了解!!」」
竜馬、隼人、弁慶以外は全員が未だ混乱し、声もとぎれとぎれ。
突然の実戦。しかも相手はBETA――。
混乱するなという方が無理であった。
「シャーク1からHQ。新任どもに処置の必要がある。許可を――。了解、処置を開始する」
そんな小隊の様子を見かねて、シャーク1が後催眠暗示の処置を施し始める。
これはかなり強力な催眠暗示であり、本人の意思とは無関係に気持ちを落ち着かせる効果があった。
その処置のあとは興奮剤の注入。
これによりA207小隊の戦意は維持されるはずである。
「っケ!こんなもんなくとも俺らは闘えるっての」
催眠や興奮剤の注入に竜馬が不満を洩らす。
「竜馬、文句は後だ。今は目の前の敵に集中しろ」
竜馬と隼人のやり取りを聞いていたメンバーもそれぞれ意識を集中し始める。
そこにシャーク1から命令が下る。
「ここはあたしらがカバーする。貴様らは37番ハンガーまで後退し突撃砲をありったけ持って来い!」
それに武が喰ってかかる。
「――中尉どの!ここは全隊で下がりましょう!いまは戦力の分散は―」
「バカヤロウ!だったらここは誰が護るんだ!?」
「自分たちは戦力にならないんですか!?そっちの激震は――」
「タケル!!いい加減にしやがれ!」
そんな武を弁慶が怒鳴りつける。
「興奮剤が効きすぎたか、このラリパッパめ!」
さらに国連衛士が呆れたように言う。
「いいか、てめえらと議論してるヒマはない!足の速い貴様らだから任せるんだ!
さっさといけ!!」
「・・・了解!」
内心、国連軍衛士に対する不満だらけではあったが命令に従うことにした武。
竜馬はそんな武の様子に不安を感じずにはいられなかった。

榊の全員への命令のあと、37番ハンガーに急ぐ207小隊。
だがその行く手を突如出現したBETAがふさぐ。
「――ッ!全機散開!全速退避!!」
突然の出来事だったがなんとか千鶴は命令を出す。
ところが、武機だけがBETAに突っ込んでゆく――!
「なにやってんだ、あの馬鹿!」
竜馬は武のおかしな行動に自分の不安が的中してしまったことを知った。
「うわぁああああぁあぁあ!!!!」
めちゃくちゃな機動でBETAを撃ちまくる武。だがそれはペイント弾でしかない。
しかし今の武にはそれを正常に判断できていなかった。
「やめろタケルッ!退け!!退かんか!」
「てめえらのせいで!てめえらのせいでぇーーー!!うおおおおぉぉ!」
冥夜が叫ぶが、まったくその叫びは武にとどかない。
そしてそんな武を取り囲むようにBETAがどんどん展開していく。
「――私が助けに!」
「いかん!今は武器を待つ衛士を見殺しには出来ん!!」
慧の提案を隼人が即座に却下する。
BETAの動きは予想以上に早く、このままでは武は完全に囲まれてしまう。
「じゃあどうするんだ隼人!このまま白銀を見殺しにするのか!?」
隼人の非情な発言にかみつく弁慶。
すると冥夜が発言する。
「ここは副隊長の私が戻る!そなたたちは任務を果たせ!いいな榊!?」
「どうする気?」
「強化装備の鎮静剤を遠隔注射する。危険だがやむをえまい」
「――わかった。お願いよ?」
冥夜の提案を受け入れ、許可をする。
「オレも行かせてもらうぜ!」
そしてそこで竜馬も武の救出に向かうと言い出した。
「流!?ならん、そなたは――」
「偶然にもオレの機体には近接用の武器が装備されてんだよ。御剣の支援くらいなら出来るぜ?」
冥夜の言葉を遮り、自機にゲッタートマホークが装備されていることを告げる竜馬。
その言葉を聞き、千鶴は一瞬思案したあと、
「わかった。流も行って。くれぐれも慎重にね!?」
「わかってるよ。隊長」
そして冥夜と竜馬は小隊を離れ、武の救出に向かうのだった。

「うおおおおおおおーーー!!」
冥夜たちが戻ってきた時、武は未だにBETAに無駄な攻撃を続けていた。
そんな武をあざ笑うかのようにどんどん距離をつめるBETAたち。
いくら優れた機動であってもこのままでは撃墜は時間の問題だった。
「くっそ!なんつう数だ!!斬っても斬っても一向にへらねえぞ!」
竜馬は必死にBETAを切り刻み続けるが、2本の腕では相手にできる数には限度がある。
徐々にではあるが敵の数は減ってきている。
だが今のペースでは間に合わない。
そしてついにペイント弾が尽きた瞬間に、武は隙を見せ、そこにBETAの一撃が入る。
「がぁあぁ!」
「御剣!さっさとあいつを正気に戻してやれ!敵はこっちで引き付ける!」
それを見た竜馬は冥夜に武に早く鎮静剤を打つことを促す。
「わかった!タケル!今、正気に戻してやる!」
「なんだ、また注射かよ!?てめぇらちょっと当てたからって調子に――!のうわぁっ!!」
鎮静剤の痛みに気をとられ、動きを止めた武機に対して、さらにBETAの攻撃が二撃、三撃、と次々に入る。
「な!?どうした!動け!!動けよ!うご―――」
そして武との通信が途絶える。
「タケル!?タケル!!」
「あぶねぇ御剣!」
武との通信が途絶え、動揺した冥夜の機体の背後を狙うBETAにトマホークを投げつける竜馬。
トマホークは見事に命中し、BETAは撃破された。
が、トマホークを投げた瞬間、伸びきった左腕を他のBETAに粉砕されてしまった。
「なっ!?」
「流!大丈夫か?!」
「大丈夫だ!それより武は?」
片腕になりつつもなんとか敵を屠りつづける。
だが片腕を失ったことで重量バランスは崩れ、機動に乱れが生じていた。
そこに少しづつBETAの攻撃がかすり始め装甲にダメージを蓄積させていく。
「わからん!だが、装甲のおかげであと少しはもつと思う。救援を待つしかない!」
「そうか・・・。それまでトマホークがもつか・・・?」
冥夜がペイント弾で敵の気を竜馬から反らしてはいるが、その効果はいま一つだった。
武だけでなく自分たちももう終わりかと思った冥夜だったが、そこに弾丸が飛んできた。

その弾丸はBETAを的確にとらえ、数をどんどん減らしていく。
「貴様ら大丈夫か?」
隊長と思われる機体から通信が入る。どうやら女性のようだ。
「た、助かりました!こちらはもう大丈夫です」
「手斧と機動だけでこれだけのBETAを相手にしたか・・・。
よし、それじゃあそこの大破した機体はどうか?」
その機体は武に対して通信を試みるが、どうにも繋がらない。
「先ほどから通信が途絶しておるのです。まだ生きているとは思うのですが・・・」
「なら、メインハッチをこじ開ける。すこしどいてろ。」
冥夜の指摘を受け、ハッチをこじ開け始める。
「ぎゃああああああああっっ!!」
すると中から武の叫び声が聞こえてきた。
「――貴様、生きているな?」
「え・・・あ・・・」
どうやら武は恐怖からか、正確な状況判断がまだできていないらしい。
「安心しろ。ここらのBETAはもう片付いた。貴様の僚機も無事だ。感謝しておけよ」
それだけ伝えるとその戦術機は他のエリアへと飛び去って行った。
「ま、待ってくれ。おいてかないでくれえ」
「タケル・・・。無事だったみてえだな・・・」
「ああ。だがあの様子だと・・・」
「皆まで言うな御剣。あいつが生きてたんだ。まずはそれでいいじゃねえか」
「そうだな。タケルが生きていてくれたんだ」
武の身を案じる竜馬だったが、自分の機体ももう限界ギリギリだった。
粉砕された左腕はもちろんのこと、攻撃がかすったことによるダメージの蓄積もひどかった。
各部装甲表面はえぐられたあとばかり。トマホークの刃もボロボロだった。
だが、武が生きている。
それだけで今は満足するほかないと竜馬は自身を納得させるのだった。

「神宮司軍曹が戦死だと!?どういうことだ隼人!!」
医務室に竜馬の声が響く。
先の戦闘終了後、竜馬はBETAとの戦闘による負傷を調べるために医務室に行くように命令されていた。
医務室で一通りの検査を受けた後は、そのまま医務室でしばし休憩していた。
が、そこに隼人と弁慶がやって来たのだった。
始めはガラにもなく見舞いにでも来たのかと思ったが、隼人の口からにわかに信じられぬ言葉が発せられた。
“神宮司軍曹が戦死なされた”
何故、まりもが死んだのか。
今の竜馬はそれを知りたかった。
「そのままの意味だ。残念なことだが、軍曹はBETAにやられてしまった」
「オレが聞いてんのはそういうことじゃねえ!どうして軍曹が死ななきゃいけなかったかだ!」
「落ち着け竜馬!それについては今から説明してやっから!」
熱くなりすぎていた竜馬を弁慶が押さえる。
「いいか?さっきの戦闘の後、白銀が大破した戦術機のそばでヘコんでたのはおぼえてるだろ?」
「ああ。ああいう時は一人にした方がいいってことで置いてきたんだよな・・・」
「そうだ。あの時はヘコんだ白銀を立ちなおせるような気の利いた言葉をかけれんかった。
情けない話だぜ、まったく」
「てめぇの話はいいから早く続きを話せ」
「ああ、悪い。そこでただ一人だけ白銀を勇気づけに行った人がいるんだが・・・」
「・・・それが神宮司軍曹だったというワケか。
だけどよ、それじゃあ戦死の理由が分からねえ。あん時にはBETAは殲滅されたはずだろ?」
竜馬は未だに納得した様子ではなかった。逆にさらに分からなくなったといった様子だ。
「大型種はな。だが小型の奴はまだ生き残っていたらしい。
演習場が市街地だったこともあり、小型種で上手いこと隠れてた奴がいたんだ。
そいつに軍曹はやられた。武の目の前でな・・・」
「なっ――!!タケルの目の前でだと!?」
あまりの事実に驚かざるを得ない竜馬。
そんな竜馬の様子を見つつも隼人は続ける。
「あんな状態でさらに軍曹の死。もしかしたら奴は逃げるかもな」
「隼人!白銀が逃げるってのかお前は!!」
隼人の言葉に弁慶がくいつく。

「よせ弁慶。隼人に当たっても仕方ねーよ。今夜だ。今夜分かるはずだ」
そんな弁慶を今度は竜馬が押さえる。
今の竜馬には何故かは分からないがそういった確信があった――。

夕呼の研究室へ続く廊下を武は歩いていた。
その目には今まであった覇気はない。
この世界は狂っている。自分はもうやるだけのことはやった。
今はそれだけしか武は考えられなかった。
「ようタケル。シケた面してどうした?夜の散歩か?」
突然、声を掛けられた。声をする方を見るとあの3人がいた。
「竜馬さん・・・。隼人さん。それに弁慶さんも・・・」
「どうやら竜馬の感はあたってたようだな」
「竜馬さんの感?」
「白銀・・・。まさかこの世界から逃げるワケないよな?」
弁慶の問いに武は、なんだそういうことか、と納得した。
「そうですよ・・・。もうオレには無理だ。こんな狂った世界、オレには耐えられない!」
武は叫ぶ。もう止めても無駄だ、自分は元の世界に戻る、そんな思いを込めて。
「ならオレは止めねえぜ。おめえの選んだ行動だ。好きにすりゃいい。
黙って行かれちゃ敵わねえから確認しに来ただけだ。止めに来たワケじゃねえ」
あっさりと竜馬が告げる。好きにしろと。
止められるとばかり思っていた武は少し拍子抜けした。
「オレもお前の行動を止めるつもりはない。ゲッターもやっと動かせるようになる。
お前がいなくてもBETAは殺しといてやる。安心して行け」
隼人も止めるつもりはないようだ。そして残る弁慶も、
「お前はもっと根性のある奴だと思ってた・・・。だが戦う気のないやつを戦わせる気はない。
オレもお前がどうしても行くってんなら止めはしないさ」
納得はしてないようだが止める気はないようだ。
「それじゃあ、行かせてもらいます・・・。今までありがとうございました」
これが最後だ、そう思い武は頭を下げる。
「別に礼を言われる筋合いはない。こっちが勝手にやってきたことだ。
それにこれから先はさらに辛い戦いが待っている。
ここで降りたい奴がいるなら、今降ろしてやった方が親切だからな」
しかしそんな武に隼人は冷たく突き放す。
「そういうことだタケル。あばよ」

竜馬はそれだけ言って立ち去っていった。隼人と弁慶もそれに続いていく。
残された武は頭をあげ、そして夕呼の元に向かった。
そしてこのあと、武は並列世界へ逃亡した。

基地の屋上。
武が逃げた次の日、竜馬はここで空を眺めていた。
するとそこに意外な人物がやってきた。社霞、彼女だった。
「よう社。しばらくぶりだなぁ」
竜馬は気さくに挨拶する。向こうも警戒はしてるようだがぺこりと挨拶を返した。
「何だ?そんなとこに突っ立ってねえでこっち来いよ」
竜馬の誘いにおずおずと従い、近くに腰掛ける。
そのまま少しの静寂が過ぎる。
相変わらず寝ころびながら空を眺めている竜馬。すると霞が口を開く。
「なんで・・・流さんたちは白銀さんを止めなかったんですか?」
それは霞が昨日から気になっていたことだった。
竜馬たちと一緒だったのは数式回収のために武との関係を良好にするとめのわずかな間だった。
しかしそれでも、彼らが逃げるという行動を簡単に許すような人物ではないくらいは彼女には分かっていた。
だからこそ、武を止めなかったことの理由が知りたかった。
彼女の能力であるリーディングで心を読むのではなく、彼ら自身の言葉で。
「戦う意思のねえヤツがこの世界じゃあ生き残れねぇと思ったのさ。
オレたちは一人で立ち上がれねえ奴を助け起こしてやるほど親切じゃねえ。
それに軍曹が死んだのは辛えが、これから先、もっと残酷な未来が待ってるのは間違いねえ。
そんな中であの状態のタケルが生き残れるワケがない。最悪他の連中を巻き込むかもしれねぇ。
だから親切心で逃がしてやっただけさ。それにな・・・」
「それに・・・?なんですか?」
言葉を途中でとぎった竜馬のその先を聞こうと霞が尋ねる。
そんな霞を一瞥したあと体を起こし、答える。
「あいつが立ち直るには一度向こうに戻る必要があるような気がしたんだよ。
逃げても逃げられねぇもんがあるもんさ。それに立ち向かうかはあいつ次第だ。
あと、他人に止められて思いとどまるなんざカッコわりいだろ?」
「カッコ・・・わりい・・・ですか?」
「ああそうだ。カッコわりい、だ。オレならカッコつかなくなるぜ」

そういって笑いだす竜馬。それを見て霞がぽつりともらす。
「それじゃあ、流さんたちは白銀さんに愛想つかしたんじゃないんですね」
「ん?まぁ愛想尽かしたわけじゃないな。あいつがここまでならそれだけの話さ。
っと、ちょっと寒くなってきたな。」
「そうですね」
竜馬の意見に霞が同意する。
「これから大変だろうけどよ。社も頑張れよ?」
「はい。流さんたちも頑張って下さい」
そして霞が戻るのを確認してから、竜馬も自室へと戻るのだった。

その夜。
竜馬は夢を見た。
そこで武が戻った世界で辛い運命にさらされていることを知った。
またこの世界の構造がどんなものか分かり始めていた。
因果情報の流出、流入、他世界への干渉。
だがこの夢を見せている存在が自分に何をさせたいのかは全く分からなかった。
その存在は竜馬にこう告げるだけだった。
『目覚めの時は近い。その時にそなえよ』
それにたいし竜馬は叫ぶ。
「てめえは一体なにもんだ!武の様子を見せたりして、何が目的だ!?」
未知の存在はこたえる。
『それも全て近い内に分かる』
その言葉のあと、一瞬にして景色が変わり真っ暗になった。
気がつくともう朝になっていた。
「ったく。なんだったんだ?ワケが分からんぜ・・・」
自分は一体どうなってしまっているのか、竜馬は疑問を抱かずにはいられない。
憶えのない記憶。まるで未来を予知しているかのような自信の感。
そして今回の夢。
何かが自分の知らぬところで動いている。そう感じずにはいられなかった。