10スレ/クリスマスプレゼント

Last-modified: 2014-04-08 (火) 00:54:54
943 : 「クリスマスプレゼント」 : 2011/12/25(日) 03:56:40.33
カランコロンと鈴の音が響く。
両手に持ちきれないほどのプレゼントを持って、サンタクロースの衣装を纏って、私はとある家の前にいた。
ここしばらく毎年の事になっていたこの行事。
どうしてもこの瞬間だけは慣れることができない。
震える指でインターフォンを押すと、中からどたばたと足音が聞こえて、ドアが勢い良く開けられた。
「サンタさん!」
「今年も来てくれた……」
「早く入ってーご馳走作ってあるから!!」
「うん、メリークリスマス、いい子の皆にプレゼントを持ってきたよ」
精一杯の笑みを浮かべて、割れんばかりの歓声を受け取った。
ここは孤児院。
魔獣によって両親などの身寄りを失い、生きていけなくなった子供達を引き取って育てているところ。
彼ら彼女らのためにと巴マミの提唱によって作られたここは、その役割をほぼ果たしてくれている。
だが、それでも彼らはまだ子供だった。
こうして定期的に心を支えてあげないと、簡単に折れて、魔獣のエサにされてしまいかねなかった。
そのための手段として、私はこうして、サンタに扮する役を買って出ている。
子供達が喜んでくれるのは、悪い気は勿論しない。
でもどこか騙してしまっているようで、罪悪感がないと言えば嘘になる。
ただ子供達は敏感だから、そんな負の感情を外に出すわけにはいかなかった。
今日だけは、陽気なサンタクロースの役目を、しっかりと演じなければならなかった。
「サンタさん、あたしたち絵描いたんだよ」
「すげー頑張ったんだから見てってよ!」
「あんた途中で絵の具こぼしたよね」
「悪かったって、悪かったって言ってるじゃんつねんないでよ!」
「ほらほら、ケンカは悪い子だぞ。泣かせちゃってるじゃない」
「う、ご……ごめん」
「いいよ、こぼしちゃったのはほんとだし」
「うん、二人とも偉い」
子供は子供だった。
ほんのちょっとの言動がトリガーになって、繊細な感情を振り切れさせてしまう。
そんな思春期の彼ら彼女らが、ここでちゃんと育ってくれるのか、心配は尽きない。
でもそれは表情に決して出さず、笑顔の仮面を決して外さず、クリスマス色に飾られた食卓に入ってみると。
子供達の渾身の一作が目に飛び込み、心を波立たせ、あっさりと堤防を決壊させてしまった。
「上手、だね…………」
「サンタさん泣いてる!?」
「ちょっと、泣かしたの誰よ!」
「サンタさん、どこか痛いの、大丈夫……?」
「大丈夫、大丈夫だよ。すごく上手でね、感動しただけだから」
絵には私と、もう一人の登場人物がいた。
桃色の髪を短く二つにまとめ、フリルでふわふわの衣装を纏い、両手に弓と矢を持つ、不思議な物語の登場人物。
それはとても、とてもとても、記憶の彼方に眠るあなたに、そっくりだった。
メリークリスマス。
クリスマスプレゼント、確かに受け取りました。
涙でぐちゃぐちゃになった顔はもう誤魔化しきれないけれど、私はとても幸せに子供達と一晩を過ごします。
あなたのいない、あなたであふれた、この世界で。 .

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