19スレ/紫色のリボン

Last-modified: 2014-04-15 (火) 08:40:20

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連休の中日に、私はほむらちゃんの家に泊まりに来ていました。
先にお風呂を貰って、ゆったりとした時間を満喫。
こんな連休なら、いつまでも続けばいいのになぁ。
そんなことを考えていたとき、ふと目にあるものが止まったのです。
「これは…リボン?」
いつもカチューシャをしているけど、前はこのリボンを使ってたのかな?
ほむらちゃんは綺麗だから、きっとリボンも似合うんだろうな。
手で触ってみるとすごくやわらかっくって、少しだけ、ほむらちゃんの匂いがしました。
「まどか、上がったわ」
「あっ、ほむらちゃんお帰り」
バスタオルで髪を拭きながら、ほむらちゃんが戻ってきた。
その仕草はとってもセクシーで…って私は何を考えてるんだろ。
「ええ…それがどうかしたの?」
私の持っていたリボンに気がついたみたい。
なんだかちょっとだけ、眉をひそめた気がした。
「今偶然見つけちゃって…可愛いなぁって思ってたの」
「…貴女に似合うかわからないけれど、欲しいならあげるわ」
「ううん、そうじゃないんだけど…」
「私にはもう、必要の無いものだから」
少し困ったような笑顔。もう捨てるつもりだったのかな。
「えぇーもったいないよ」
「そうは言ってもね…」
あ、そうだ。どうせ捨てちゃうんなら…。
「せっかくだから、これで髪を結ばせてよ!」
「え、いやでも…」
「いいからいいからー♪」
ほむらちゃんを椅子に座らせて、長い髪を拭いてあげる。
ドライヤーをかけてきたのか、もうほとんど乾いていました。
洗面所から卓上鏡を持ってきて、ほむらちゃんの顔が映るようにセットして…。
「えへへ、じゃあまずはね…」
「もうっ、強引なんだから…」
「気にしない気にしないっ♪」
後ろ髪を纏めて上げて、うなじより高いところで結んでみる。
「じゃーん。ポニーテール!」
いつもよりも少し活発そうなほむらちゃんになっちゃった。
「な…なんだか変じゃないかしら…」
「ううん、そんなことないよ!スポーツ選手みたいですっごく似合うよ!」
「そうかしら…ありがとう…」
照れちゃったのか、少しだけうつむくほむらちゃん。
うぇひひっもっと見たくなっちゃったよ。
「じゃあ次は…」
リボンを一旦解いて、髪を整えながら下ろす。
今度は二本とも使っちゃおう。耳より上のところで結んで…。
「うぇひひひひ…」
「ま、まどか?」
「見て見て!ほむらちゃん、お揃いだよ!」
自分の髪も結って、ほむらちゃんと並んでみせる。
長さは違うけど、おんなじ結び方をした二人が鏡の中に映ってる。
「お…おお…」
「どうかな、ほむらちゃん…?」
「…やっぱりまどかの可愛さには敵わないわね」
「へへへ、ほむらちゃんだって可愛いよ!」
「ふふふっ…でもなんだかこうしていると、私たちって姉妹みたいね」
「え?うーん、そうかなぁ…」
「まどかは何に見えるのかしら?」
「え、ええと…その…」
「なあに?」
「えっと…あの…」
「教えてよ、まどか」
「こ…恋人っぽいかなぁって……」
私は何を言ってるんだろう…なんだかすごく恥ずかしい…。
「なるほど…ペアルックみたいなものかしら。それはそれでいいわね」
「ううう…もっもうこれはおしまい!」
「あら、もう解いちゃうの?せっかく恋人…」
「あうぅ…いいの!次にいくよ!」
自分のリボンを解いて、ほむらちゃんのも取る。
嬉しいけど、やっぱり恥ずかしいよぉ…。
「顔真っ赤にしちゃって、やっぱり貴女のほうが可愛いわよ」
「いっ言わないでよ!」
「うー…次は…」
早く話題を逸らさないと…どうしよう…結び方…結び方…あっそうだ!
リボンをうなじから耳の上を通して、ちょうちょ結びして…。
「カチューシャ代わりにこんなのはどうかな?」
ちょうどこめかみくらいにちょうちょが来るように結んでみた。
「これはちょっと…リボンが目立ちすぎて私には似合わないような…」
「ぜんぜん!負けてないよほむらちゃん!」
普段からアクセサリーとか着けてないからかな、なんだか落ち着かないみたい。
「すっごく似合ってるよ!私が保証するよ!」
「そ、そう?本当に?」
「うん!いつもより可愛く見えちゃうよ!」
「あ、ありがとう…」
またうつむいちゃった。今度は耳まで赤くなってる。
ほむらちゃんだって照れてるときはこんなに可愛いのにね…でも、言わないんだから。
私だけの秘密にしちゃおっと。
「じゃあ次はねー…」
「ま、まだやるの?」
「当然だよ!えーっとね…」
よーし、今度は思い切って難しいのをやっちゃおう。
たしか三つに分けて、右、左、真ん中、右、左、真ん中…。
「えっ!?まっまどか!?」
「ゴメンねほむらちゃん、ちょっと時間かかっちゃうから…」
ふう、右側終了。後は左側を…
―――あれ?
この髪型、どこかで…………。
右、左、真ん中、右、左…
よし。これで左側も出来上がり。
「ほむらちゃん、できたよ………」
鏡の中に映ったほむらちゃんを見て、一瞬、息が止まる。
―――私は、このほむらちゃんを、知っている、ような…。
鏡の中の自分を見ながら、やっぱり止めておけばよかったと思った。
弱い頃の自分。また、この姿を見ることになるとは。
「ほむらちゃん、できたよ………」
まどか、貴女はなんて言うのかしら。
こんな私でも、きっと可愛いとか言ってくれるんだろうな。
できることなら、見せたくはなかったけれど…。
鏡の中の自分と、しばらくにらめっこが続く。
まどかは、何も言ってこなかった。
「…?」
ふと、鏡の中のまどかを見やる。
酷く驚いたような、それでいて怯えているような顔をしていた。
「まどか…?」
振り返って真正面から向き合う。
目線が合うと、まどかの表情が一段と硬くなった。
「そ、そんなに変かしら?」
笑いながら、努めて明るく言ってみた。
だけど、まどかの表情は変わらない。
「ほ…ほむらちゃん…わたし…」
何かを言おうとしているが、言葉が続いて出てこない。
無理に促すわけにもいかず、私はただ待つしかなかった。
―――なんだろう。この気持ち。
―――初めて見るはずなのに、なぜか懐かしくて。
―――それでいてすごく、悲しくて。
―――なんで?なんでなの?
―――ほむらちゃんは今、笑いかけてくれたのに。
―――なんで、泣いている顔ばかりが浮かぶの?
「………さい」
「え?」
「………なさい」
「まどか…!?」
それはあっという間だった。
急にまどかの瞳が潤いだしたと思ったら、次の瞬間にはもう頬を涙が伝っていた。
「まどか!?どうしたの!?」
立ち上がり、まどかの肩を掴む。
溢れる涙は留まることを知らず、床の上に水滴となって落ちていく。
「ごめんなさい…」
「ごめんなさい……ほむらちゃん………」
「なぜ謝るの…?」
「わかんない…わかんないけど……」
「私…このほむらちゃんを知ってる……このほむらちゃんに…ひどいことを……」
そこまで聞いて、ほむらの記憶がフラッシュバックする。
弱い頃の自分が、まどかと約束を交わした、あの時の映像が脳裏に蘇った。
「ごめんなさい…ほんとうにごめんね……ほむらちゃん…」
掴んでいた手に伝わってくるほど、まどかは震えていた。
どういった因果かはわからないが、きっと、まどかはあの時のことを―――
「いいのよ。まどか」
そっと、まどかを抱き寄せる。
優しく包むように、まどかを迎え入れる。
「でも……っでも……」
「あの時はたしかに辛かったけれど、貴女との約束があったから私、ここまで頑張れたのよ?」
「まどかがあの時私を助けてくれなかったら、一緒に魔女になってたのよ?」
「そしたら、今のこの幸せな時間も手に入れられなかったんだから」
「まどかが謝ることなんて、無いんだよ」
「うぅっ…うぅぅ………」
まどかが痛いくらいに私を締め付けてきた。
呼吸が、涙が、鼓動が、物凄く近く感じた。
「…ありがとう、まどか。ずっと一緒だよ」
「うううぅぅぅぅ……うんっ………」
捨ててしまおうと思いながら、捨てられなかったリボン。
だけど、捨てなくて正解だった。
過去があるから、今の私がいて。辛い過去があるから、幸せな今があって。
まどかと一緒なら、どんなに辛い過去も、どんなに苦しい未来も、きっと大丈夫。
そう教えてくれた気がした。