本格水冷とは
本格水冷は、概要欄でも説明した通り、チューブや水枕、ラジエーターなど、自分で用意し、加工しなければならない。
よって、基本的な工具の知識やモノづくりに関する知識が必要とされている。
また、工具類も増やさなければならず、より難易度が高いと言わざるを得ない。
ただし、それに見合った冷却性能で、空冷のハイエンドクラスクーラーが及ばない域まで冷却させることが可能。
部品の名称
まず、基本的な部品やパーツを紹介したい。
基本的に、熱源(CPUやGPU)から冷却水を通してラジエーターで放熱。ポンプで放熱後の冷却水をタンクへ戻す。
これが本格水冷の最小構成部品となる。
下の写真は水枕*1と呼ばれ、CPUやGPUに密着し、熱を移動させる役割を持つ。写真はGPU用だが、M/B用やCPU用、電源ユニット用などといった水枕も開発されている。
また、視覚的に優れたスケルトン構造、アクリルで覆ったものや、シックな黒で塗装されたものなど、様々な製品が発売されている。自身のPCの雰囲気とマッチしたものを選べる。
下はラジエーターで、水枕、冷却水が奪った熱を空気に発散する役割を持つ。
これがないと、配管やタンクの中で冷却水が高熱になり、いたるところにダメージが及ぶ。
また、勘違いが無いように捕捉するが、冷却水が沸騰したからと言って火災になることはない。大抵の場合、電蝕と呼ばれる化学反応と勘違いしている。
これはポンプ一体型のタンク。
容量に制約が出るものの、タンクを置くスペースを考えなくてよいことから、ラジエーターを巨大なものにしたり、凝った配管をすることができる。
また、横置き可能タイプや5インチベイ格納タイプが過去に販売されていたこともある。
基本的に容量が大きいものほど巨大になる。
基本的に、タンクとポンプは別々で販売されている。これは、回転数制御の有無やPCの大きさによっては、タンクやポンプを別々にしたほうが都合がいいためである。
ただし、近年では、PWM制御*2をポンプの流量制御に使用している製品がほとんどで、あまり気にせずともよくなった。そのため、一体型タンクを販売しているメーカーも多い。
またそれ以外にも、フィッティング(継手のこと、水枕と配管をつなぐ役目)などが必要になる。
温度センサーや流量計など、計器類もあれば便利。後述するねじサイズに合ったものを買おう。
フィッティングにはソフトチューブ用とハードチューブ用の二つの種類がある。
それぞれ見た目的には同じだが、内部のパッキンの構造が違っていたり、部品点数が違う場合もある。
ソフトチューブとハードチューブをPC内に混在させる場合、注意しなければならない。
当然だが、水枕やラジエーターにはねじのサイズやピッチがあり、間違えるとねじ山の破損や漏水のリスクがある。
基本的にはインチねじサイズで表されており、ミリねじ-インチねじでは噛み合わない。
また、フィッティングと配管サイズは合わせる必要がある。
ハードチューブの場合、内径/外径で表示されている場合がほとんど。
しかし、メーカーによってはハードチューブでも内径しか表示されていなかったり、ソフトチューブなのに内径/外径で表示されていることもある。注意したい。
なお、配管によってはUVMOD(紫外線反応塗料を溶かし込んだ冷却水を使用し、UVライトで光る演出)と絶望的に相性が悪い素材があり、気にせず使用を続けていると漏水や故障の原因となるものもある。
配管にはPETGやアクリル素材でできたハードチューブ、PVC素材でできたソフトチューブの2種類がある。
| ソフトチューブ(PVC) | ハードチューブ(PET、アクリル) | メタル | |
| 加工難度 | 簡単 | 難しい | 最高難度 |
| 価格 | 低 | 比較的高 | 高 |
| UV耐性 | 無 | 有 | 有 |
| 耐久性 | 2-3年 | 5-7年 | 10年以上持つ場合もある。 素材による。 |
| 入手難易度 | 中(ホームセンターやインターネット通販) | 難しい(専用サイトで輸入) | |
| 総合難易度 | 易しいがUVを使用する際は要注意 | 難しいが透明度の高さにより 美しく仕上がる | 冷却水が見えないがメタリックな仕上がり |
工具類
- リーマー
- パイプカッター/万能カッター
- つぶれ防止チューブ
- ヒートガン
- 角度付きベンダー
部品選定
選定方法
ここでは基本的な選定方法について解説する。
水枕(ウォーターブロック)
水枕は、CPUやGPUにあったものを選ぶ。
CPU用水枕はソケットや年代によっては若干の大きさの違いや、M/Bバックプレートの有無で高さが変わっていることもある。メーカーホームページで確認しよう。
GPU水枕は最も気を付けなければならない。というのも、GPUチップは同じでも、VRAMやコンデンサなどの配置はメーカーによって十人十色であるためだ。ASUS社とMSI社のボードを見比べると一目瞭然だが、電源チップやVRAMの配置がかなり違うのだ。
たとえ同じチップでも、水枕が電子部品と干渉して取り付けできないことはざらにある。これもメーカーホームページで確認しておこう。
当然だが、ビデオカードを分解するとメーカー保証外となる。つまり、初期不良があったとしても、分解している時点で修理・交換はしてくれない。
また、きれいに組み立て、再シュリンクしたとしても、封印シールであっさりバレる。
水冷化する際は、動作確認してから分解したほうが良い。
ポンプ、タンク
何でもよい・・・と言いたいが、PC停止時(ポンプ停止時)はタンクに冷却水が戻ってくる。当たり前だが。よって、容量が少ないものだと、冷却水補充口から逆流してあふれたりするので、冷却水総容量の10%ほどの余裕を持った大きさにしておこう。
またポンプは、流量や揚程を気にするべき。
能力が不足していると、流量は少ないしラジエーターまで水が回らないし、なんてこともある。
流量や揚程の解説は下の折り畳みから閲覧してほしい。
流量とは、ある時間当たりで冷却水がどのくらい流れるかを表す。*3
揚程とは、ポンプがどのくらいの高さまで水を押し上げることが能力があるかを表している。
次のようなポンプがあったとしよう。
- 定格電圧:12V DC
- 消費電力:20W
- 最大揚程:5.2m
- 最大流量:1000L/h
- 最高液温:60 °C
- 電源コネクタ:SATA電源、4ピンPWM FANコネクター
この場合、最大揚程5.2m、一時間当たり1000l*4も冷却水を送り出すことが可能、と読み取ることができる。ただし、極端な例ではあるが、5.1m付近にパーツ設置しても、ポンプはそこまで冷却水を押し上げることはできない。途中のロスがあるので、実際はもっと低い位置が限界値となる。
例えば、配管が太く、高低差も大きい場合は、揚程、流量が大きいポンプを選ばなければならない。
また、細い配管で、高低差も小さい場合はそこまでの能力は不要。なので、比較的小型のポンプでも使用できることが多い。
選定基準としては、ポンプから最も高いパーツまでの高低差と、配管太さで選ぶ。
| 配管径/高低差 | 高い 500mm以上 | 中くらい 300-400mm程度 | 低い 300mm以下 |
| 太い 内径12mm以上 | 流量:大 揚程:大 | 流量:大 揚程:中 | 流量:大 揚程:少 |
|---|---|---|---|
| 中くらい 内径8-12mm程度 | 流量:中 揚程:大 | 流量:中 揚程:中 | 流量:中 揚程:少 |
| 細い 内径8mm以下 | 流量:中 揚程:大 | 流量:少 揚程:中 | 流量:少 揚程:少 |
配管
ラジエーター
選定の例

一般的なパソコンで行けば、次のような配置になるだろう。*5
- CPU用水枕
- GPU用水枕
- 配管(ソフト/ハード)
- ラジエーター
- ポンプ、タンク
またこれ以外にも、グリスやサーマルシートといった熱伝導用の小物や、フィッティングが必要になる。
もし仮にATXサイズでこのような配置の場合、次にような材料になる。もし中間に流量計を付けたい場合、フィッティングは+2個必要になる。部品 個数 備考 CPU用水枕 1個 銅(ニッケルメッキ) GPU用水枕 1個 銅(ニッケルメッキ) ラジエーター(360mmサイズ)
t=25mm1個 真鍮製 ポンプ一体型リザーバータンク 1個 ハードチューブ
(内径12mm(W1/2)/外径16mm(W5/8))
定尺500mm4本 予備含めず フィッティング 10個 内径12mm(W1/2)/外径16mm(W5/8)用 ドレンコック 1個 内径12mm(W1/2)/外径16mm(W5/8)用 クーラント原液(100cc)
(希釈タイプ、倍率1:10)2本 赤色
また、それ以外に温度計やデジタルセンサー、フィルターを付ける場合、パーツ一個につきフィッティングは+2個増える。

例として、配管と水の流れを意識した配置図。
水は高いところから低いところに向かって流れるので、ラジエーター内はPC停止中は空になるレイアウト。冷却水交換時やメンテナンス時は下部ドレンコックより冷却水を抜きやすい。
ただし、エア抜きに時間がかかるほか、漏水時のエアがラジエーター内にたまるため、目視確認しにくくなる。




