スーパーの理論は、最も包括的であるといえます。
生涯を通じて個人がどのようなキャリアの階段を踏んでいくのか、ある時点において、個人のキャリアはどのような場面でどのような役割を果たしているのか、そして、個人のキャリア選択につながる内的・外的な力は何か、などを取り上げています。
1953年米国心理学会で最初の理論を発表後、1957年にキャリアの心理学を出版
ライフキャリアレインボー、キャリア決定のアーチ、仕事の重要性研究
>仕事の重要性研究・・・さまざまな文化における、個人にとって重要な仕事価値を特定する試みで、10カ国以上にわたる広範な研究が行われた。
自己概念
キャリデベロップメントにおいて最も重要な要素は自己概念である。
キャリアデベロップメント(職業的発達)の過程とは・・・自己概念の形成、発展と受容、探索と現実吟味、自己概念への実現(職業的自己実現)へと順次進展する過程
自己概念とは「自分は何者であるか」「どういう存在であるか」という自己イメージのこと。
自己概念は「自分をどのように見るか」、「自分はどうありたいか」、「他人は自分をどう見ているか」が融合してできている。
プラスの強化、高い自己概念をもつ強化=刺激と反応(行動)との新しい結合関係を操作する(強める 弱める)
マイナスの強化 自己概念は低い物になる
##スーパーの理論における自己概念と職業選択について述べよ。
否定的な自己概念を持つと、行動は消極的となり、職業選択は不適切で不満足な結果に終わる。一方、肯定的な自己概念を持つと、行動は積極的となり、職業選択は適切なものとなり満足な結果が得られる。肯定的な自己概念を形成するためには、周囲の人から与えられるプラスの強化が重要である。
自己概念と自己認知
認知(percept)=自己が知覚したもの、観察したもの、印象づけられたものの映像
概念(concept)=認知が組織されたもの
知覚に基づいて構成されるのが、その人の概念。
つまり、
自己概念、とは自己について知覚されたものが統合され組織化されたものなのである。
自己概念の形成
自己概念の形成は、乳児期から始まる。
第一過程(分化)・・・乳児期 周りの他者や世界そのものから、自己を独立した存在として理解していく。
第二過程(分化した対象との同一化)(同一視)・・・同性の親のほうに無意識にイメージを重ね合わせ、行動や感情を模倣する。2-3歳
第三過程(具体的な職業名を伴った同一化)・・・役割モデルに自分を置き換える。
たとえば・・・父親がパン屋であればパン屋に、母親が教師であれば教師という役割モデルに
こうして人は、環境や経験の影響を受けながら一生を通じて独自の自己概念を形成し、発展させていく。
職業的自己概念
スーパー理論の中心テーマは、個人は職業選択を通じて自分の「職業的自己概念」を実現しようとする、というものである。
職業的自己概念とは…
ある職業の一員としての自己概念→つまり、ある職業に関連していると考える自己像のこと
職業的自己概念は職業の選択や職場への適応のプロセスで変化していきます。この変化が職業的発達です
肯定的自己概念と否定的自己概念
人は誰でも、肯定的な自己概念と否定的な自己概念を持っています。
肯定的自己概念とは?
人を積極的に行動させる力となり、次のステップや未知の課題や変化に対しても積極的に自分を開いていくことを動機づけるエネルギーとなる
否定的自己概念とは?
自己に対する自信を失わせ、自尊感情を低下。そのため変化に対して前向きに受け入れることができず、未知なものに対しては怖れのほうが強くなる。よって 行動はおのずと消極的で意欲も低いものとなる。
否定的自己概念は職業選択も不適切なものになったり、不満足な結果をもたらすことにもなる。
妥当な映像と現実吟味
妥当な映像=現実によく合致した自己概念
妥当なとは…
現実吟味に耐えたという意味
現実吟味とは…
現実に照らしてどうであろうかと吟味すること
キャリアカウンセリングを行う過程において、絶えずくり返して行われるもの。
現実吟味される段階は、
第1の現実吟味段階・・・自己認知から自己概念が形成されるとき
第2の現実吟味段階・・・自己概念の明確化に伴って、実際に行動に移すとき
第3の現実吟味段階・・・探索的な行動をとることによって、その人の自己概念が現実妥当なものであるかどうかがはっきりしてくるとき
職業的成熟
職業的成熟とは・・・
仕事の価値観やキャリア選択を行うスキルのレベル
##職業的成熟について述べよ。
職業的成熟とは、自分に適切な職業を選択するスキルのレベルを意味する。各年齢段階で期待される職業行動(職業の選択・意思決定と適応)と、個人の行動の比較によって測定される。
職業的成熟の側面と指標
第1側面 | 職業的選択への方向づけ(職業への関心・方向づけ) |
第2側面 | 好きな職業に関する情報と計画性(知識・計画の明細さ) |
第3側面 | 職業上の好みの一貫性 |
第4側面 | 諸特質の結晶化(興味の成熟) |
第5側面 | 職業上の独立性(労働経験の独立性) |
第6側面 | 職業上の好みの一致 |
自己概念と職業選択
- 自己概念が不明確もしくは低いものであると、職業選択も不適切であったり不満足なものになる。
- 仕事とは「自分の能力(最も得意なこと)」や「興味(最もやりたいこと)」、「価値(本当に重要だと思っていること)」を表現するものである。そうでなければ、仕事は退屈で無意味なものになる。
- 適切な職業選択には肯定的な自己概念が必要である。この肯定的な自己概念を形成するためには、日常接している周囲の人から与えられるフィードバックが極めて重要。
ライフステージとライフロール
キャリアの長さ = ライフステージ(キャリアの段階)
キャリアの幅 = ライフロール(キャリアの役割)
ライフステージ キャリアの長さ [#r820ec34]
(1)ライフステージ
☆それぞれの段階に職業的発達課題を対応させている。ビューラー(1968)の人生階段説に従って5段階に区分
第1期 | 成長期(0~15歳) | 身体的成長。自己概念の形成が中心。興味や能力の探求が始まる |
第2期 | 探索期(16~25歳) | さまざまな分野の仕事やその必要要件を知る。徐々に特定の仕事に特化していき、そのための訓練を受け、その仕事に就く。 |
第3期 | 確立期(26~45歳) | ある特定の職業分野にしっかりと根を下ろす。その職業分野に貢献し、生産的に活躍し、より責任のある地位を求める。 |
第4期 | 維持期(46~65歳) | 現在の職業的地位を維持し、若い世代に負けないように、新しいスキルを身につける。この時期の終わりに、退職に向けての計画を立てる |
第5期 | 下降期(66歳~) | スローダウンし、少しずつ有給の雇用から遠ざかる。より余暇や家族、地域活動とのつながりのある新しいライフスタイルを始める。 |
(2)新しいライフステージ・モデル
成長期→探索期→確立期――探索期(新たな職業選択) 維持期に達しないことが普通になるかもしれない。
ダウンサイジング(規模の縮小)
ライトサイジング(規模の適正化)
スーパーは従来の5段階のライフステージを
マキシサイクルと呼び
そして各ステージから各ステージへの移行の時期にはかなりの幅があり、それぞれのステージにおいて
「成長期」から「下降期」のミニサイクルがあるとした。
ライフロール キャリアの幅 [#s5c59b3c]
- スーパー曰く
- キャリアを人生のある年齢や場面のさまざまな役割の組み合わせであると定義
この概念をレインボーにたとえている。
人生における役割は、さまざまな“場面”、つまり家庭、学校、職場、地域社会などで演じられ、この「場所」を、役割が演じられる人生空間をアリーナと呼んだ。
☆ライフキャリアレインボー
代表的な役割。
1.息子、娘
2.学生
3.余暇を楽しむ人
4.市民(無給のボランティア活動等)
5.職業人
6.ホームメーカー(スーパーの定義では、料理や買い物、家具選び、家屋の修理等)
さまざまな役割は、重なり合ったり相互に影響し合ったりしています。ほとんどの人は、多くの場面で複数の役割を同時に行っている。
人生やキャリアとは、「人生における役割をいくつか選んで組み合わせることで、自己概念を実現しようとする試みである。」と捉えることができる。
価値観の大切さ
14の労働価値 それら価値の重要性が文化によって異なる。
能力の活用 | 自分のスキルや知識を発揮できること |
達成 | 良い結果が生まれたという実感 |
美的追求 | 美しいものを見出し、または創り出すこと |
愛他性 | 人の役に立てること |
自律性 | 自律できること |
創造性 | 新しいものや考えを発見したりデザインできること |
経済的報酬 | お金を稼ぎ、高水準の生活をすること |
ライフスタイル | 自分の行動を自分で計画し、自分の望む生き方ができること |
身体的活動 | 身体を動かす機会を持つこと |
社会的評価 | 成果を認めてもらうこと |
危険性 | 危険な、またはわくわくするような体験をすること |
社会的交流性 | ほかの人といっしょにいてグループで働くこと |
多様性 | 活動をたびたび変えることができること |
環境 | 仕事そのほかの活動にとって環境が心地よいこと |
役割特徴目録 SI: The Salience Inventory 学生、職業人、市民、ホームメーカー、余暇を楽しむ人-役割特徴を明ら
職業(労働)価値尺度 VS: The Values Scale 人生役割との関連において職業価値観の測定する尺度21の下位尺度(日本20)
しかし、仕事において見いだせない労働価値であっても、他のライフロールを遂行する間、その労働価値の重要性を認識出来る。このように個人は、自分にとって重要な価値観をそれぞれのライフロールにおいて達成しようとする。
5の役割:勉強、仕事、社会的活動、家庭や家族、趣味やレジャー
日本人男性:仕事と趣味レジャーが高い、その他が相対的に低い 仕事重視
日本人女性:仕事の重要性が低い、趣味レジャーが高い点が特徴 家庭重視 職業(労働)価値を低く認識、一方米国カナダ女子は、男子とは異なった側面に於いて積極的に価値を見出。
##欧米のキャリアカウンセリング理論を日本に適用させる可能性を調べるための方法について述べよ。
大量の調査データに基づいて統計的に検討する方法(法則定立的アプローチ)と実践場面においてCDAがクライエントとの関わりの中で記録やデータを検討する方法(個性記述的アプローチ)の二種類がある。
望ましいのは、前者によって一般的な傾向を確かめた上で、後者によってその有効性を検証する。
キャリア決定のアーチ
スーパーが生涯の終わり(1990年)に彼自身のさまざまな理論を一つの図にまとめた。
自己がアーチの構造の要になっている。
キャリアを支える2本の柱は、
左側がその人独自の諸特性(興味、特有な適性、価値観、適正、欲求、知能)→パーソナリティを形成
右側は外的要因(経済情勢、社会の影響、現在の社会政策、労働市場の現状、所属集団や家族、学校、地域社会の影響)…自分の力では変えることのできないもの。キャリアとは、内定な個人特性と外的な社会特性に支えられている。