プロローグ: 戦いの舞台
ウルセナの空は、かつての黒煙と硝煙の匂いを洗い流し、澄んだ青色を取り戻していた。奪還から数年の歳月が流れ、街は瓦礫の中から力強く再生を遂げた。しかし、建物の壁に残る無数の弾痕や、時折吹き抜ける風が運ぶ鉄の匂いは、この地で繰り広げられた死闘の記憶を決して風化させはしなかった。
そして、その復興した街の地下深くに、反乱軍の新たな心臓部が存在した。
この数年、帝国軍の目を欺きながら建設された巨大な地下施設。それは、反乱軍にとって最後の砦であり、最初の希望でもあった。
第一章: 巨大地下施設
地下施設は、単なる基地ではなかった。訓練施設、居住区、医療施設、そして兵士たちの心を癒すための娯楽施設までを備えた、一つの巨大な都市だった。ここで兵士たちは過去の戦いで負った傷を癒し、次なる決戦の日に備えていた。帝国の圧政で家族や故郷を失った者たちにとって、この場所は夢にまで見た理想郷(ユートピア)そのものだった。
施設のセントラルプラザで、モニターに映し出されたトルティヴが、静かに、しかし力強く語りかける。
「諸君、思い出してほしい。我々が地上で何を見てきたかを。帝国の理不尽な支配によって、どれだけの涙が流されたかを。だが、ここでは誰も飢えることなく、怯えることなく、明日を信じることができる。この地下施設は、我々が自らの手で勝ち取った新たな希望なのです。ここで力を蓄え、必ずや帝国を打ち破り、この光を地上に取り戻すのです」
彼女のリーダーシップのもと、反乱軍は着実に勢力を拡大していた。そして、この希望の地には、様々な過去と目的を持つ者たちが集っていた。伝説の戦士ネクワ、若き指導者トルティヴ、そして、リクティとカトルプという、新たな時代の反乱を担う仲間たちも。
第二章: 不老不死者たち
ネクワは、地下施設の訓練場で一人、神器「エーティミア・リピーター」を構えていた。ウルセナ奪還から数年。周囲の兵士たちは逞しく成長し、あるいは新たな兵士が入隊してきた。だが、ネクワの時間は、まるで10代半ばで凍り付いたかのように、その姿を変えることはなかった。
「この数年で、本当に頼もしい仲間が増えた。私たちの力は、着実に強くなっている……。あの日々を思えば、夢のようだ」
彼女の呟きは、誰に聞かせるでもなく宙に消えた。不老不死。それは祝福か、呪いか。仲間たちの成長を喜びながらも、自分だけが変わらないことに、彼女は時折、言いようのない孤独を感じていた。
同じく、指導者であるトルティヴもまた、その身に悠久の時を宿す不老不死者だった。彼女は司令室の窓から、施設の活気を眺めていた。
「我々はこの地で力を蓄え、再び帝国に立ち向かう時を待つ。だが、焦ってはならない。時は、我々の側にあるのだから…」
彼女は常に遥か未来を見据え、反乱という長大な計画を着実に進めていた。
そして、この反乱軍の中核には、カトルプとリクティという二人の不老不死者が加わっていた。
「ねえ、リクティ。ここのカフェの新作ケーキ、食べた?まさに理想郷の味だよ!こんな生活が続くなら、もう地上に戻れなくなっちゃうかもね!」
屈託なく笑うカトルプ。
「馬鹿言え、カトルプ。浮かれてるんじゃないよ。私たちはまだ、何も成し遂げちゃいない。帝国を打ち破って、本当の未来を築くまで、戦いは終わらないんだ」
ぶっきらぼうに返すリクティ。対照的な二人だが、その瞳の奥には、同じ揺るぎない決意が宿っていた。
第三章: リクティ=クレッシェンドとの出会い
ネクワがリクティと初めて言葉を交わしたのは、模擬戦闘室でのことだった。リクティは、かつて帝国に対し単独で反乱を起こし、その圧倒的な力で鎮圧され、左目を失った過去を持つ。だが、その瞳の光は少しも衰えてはいなかった。
「あんたがネクワか。噂は聞いてるよ。空間神の力を持つ伝説の英雄、だっけ?」
汗を拭いながら、リクティが挑発的に笑う。
「……噂は当てにならない。あなたはリクティ=クレッシェンド。あなたの戦いも聞いている」
「ふん。失敗した反乱なんて、ただの笑い話さ。でも、私は諦めたわけじゃない。絶対にだ」
彼女の左目には、金属質の眼帯が装着されている。その中心には、かつてウルセナを焼き尽くした帝国軍の超兵器「レーザーアイ」のコアの残骸が、紅く妖しく輝いていた。それは今や、彼女の相棒であるAI「B-IV」の器となっていた。
『リクティ。心拍数の上昇を検知。アドレナリンの過剰分泌が確認されます。ネクワとの対話は、あなたに戦闘シミュレーション以上の興奮を与えていると分析』
左目から、合成音声が響く。
「うるさいぞ、B-IV!余計な分析はいいから、黙ってな!」
リクティは顔を赤らめて怒鳴る。
B-IVは、今や高出力のレーザーを放つことはできない。だが、リクティの戦闘を補助する小型レーザーや、精密な戦況分析能力は、彼女にとって唯一無二の武器であり、心を許せる話し相手でもあった。
「B-IVがいる。だから、私はもう一人じゃない。今度こそ……必ず帝国を叩き潰してやるんだ」
ネクワを見つめるリクティの瞳には、過去の失敗を乗り越えた、鋼のような意志が宿っていた。
第四章: 地下施設の新たな希望
地下施設では、兵士たちが日々訓練に明け暮れていた。
「うおおっ!シミュレーションのレベルを上げろ!帝国軍なんかに、これ以上好き勝手させてたまるか!」
最新鋭のVR訓練機器が、兵士たちにリアルな戦場を体験させ、その戦闘技術を飛躍的に向上させていた。
訓練の合間には、娯楽施設で羽を休める。
「はぁー、生き返る!地上にいた頃は、明日の食事の心配までしてたのによ。こんなに自由に笑える場所があるなんて、信じられないぜ」
「ああ。ここは間違いなく俺たちのユートピアだ。この平和を守るためなら、どんな戦いだって乗り越えられる」
その光景を、トルティヴは司令室から満足げに眺めていた。
「我々は必ず帝国軍を打ち破る。このウルセナを拠点に、反撃の時は、すぐそこまで来ている…」
隣に立つネクワも、静かに頷く。
「ああ。準備はいつでもできている。今度こそ、決着をつけよう」
第五章: 新たな仲間との出会い
ある日、ネクワは施設の最奥にある工廠区画を訪れていた。そこは、油と金属の匂いが立ち込め、無数の機械や設計図が山のように積み上げられた、天才技術者の城だった。
城の主は、一人の女性。カトルプ=エクスタシー。見た目は20代前半だが、その瞳は全てを見透かすように深く、そして悪戯っぽく輝いていた。
「やあ、あなたがネクワ?噂の英雄様が、こんなガラクタ置き場に何の用かな?」
工具を片手に、カトルプが振り返る。
「君がカトルプか。その腕は本物だと聞いている」
「ふふん、お目が高いね。で、その伝説の戦士様が、この私に何かご用件?」
ネクワは背負っていた神器「エーティミア・リピーター」を静かに差し出した。
第六章: エーティミア・リピーターの強化
「この神器を、もっと強くすることはできるか?」
ネクワの真剣な問いに、カトルプは目を輝かせた。
「ホー、『エーティミア・リピーター』!本物は初めて見たよ!空間を操る神の武器……なんてそそられる素材だろうね!もちろん、やってやるさ!私の技術を信じな!」
カトルプは元々、帝国の高官を務めたこともある政治家だった。しかし、皇帝の作る歪んだ法律と、それに苦しむ民衆の姿に絶望し、全てを捨てて反乱軍に参加した異色の経歴を持つ。彼女の頭脳と技術は、今や反乱軍にとって何物にも代えがたい財産だった。
カトルプは早速作業に取り掛かった。
「ふむふむ、この構造は……面白い!空間そのものをエネルギーに変換しているのか。だったら、ここに空間の歪みを増幅させる『空間アンプ』を組み込んで……エネルギー効率も見直して、燃費を改善。よし、ついでに新機能も追加しちゃおう!空間に微小な亀裂、つまり『ワームホール』を無数に発生させて、広範囲の敵を別次元に吹き飛ばす『ディメンション・ゲイザー』なんてどうかな!?」
数日後、カトルプは目の下に隈を作りながらも、満足げな笑みを浮かべて改良版のリピーターをネクワに手渡した。
「はい、完成!『エーティミア・リピーター・カスタム』!以前とは比べ物にならない怪物になったはずだよ」
「感謝する、カトルプ。これで、次の戦いも必ず乗り切れる」
第七章: 帝国軍の襲来
その言葉が現実になるのに、時間はかからなかった。
ウウウウウウウウッ!
施設内に、けたたましい緊急サイレンが鳴り響いた。
『緊急警報!ウルセナ上空に、帝国軍の大艦隊を確認!これは演習ではない!総員、第一級戦闘配置!繰り返す、総員、第一級戦闘配置!』
帝国軍が、失われた鉱山都市ウルセナを取り戻すべく、満を持して大規模な攻撃を仕掛けてきたのだ。ネクワとカトルプは顔を見合わせ、すぐさま防衛ラインへと疾走した。
「来たか!最高のタイミングじゃないか!」
ネクワは、生まれ変わったエーティミア・リピーターを手に、不敵に笑う。
「ネクワ、私も支援するよ!私の可愛いドローンたちと、この施設の防衛システムをハッキングして、帝国軍に目に物見せてやる!」
カトルプもまた、腕の端末を凄まじい速さで操作し始めた。
第八章: 改良版エーティミア・リピーターの力
地下施設の巨大なゲートが開き、反乱軍が帝国軍を迎え撃つ。だが、帝国軍の物量は圧倒的だった。
その時、ネクワが最前線に躍り出た。
「これが、私とカトルプの力だ!」
彼女が構えたリピーターの銃口が空間を歪ませる。
「ディメンション・ゲイザー、発射!」
撃ち出されたのは、目に見えない空間の裂け目。それは帝国軍の先鋒部隊の上空で弾け、無数の微小なワームホールを発生させた。兵士も、戦車も、戦闘機も、悲鳴を上げる間もなく異次元へと吸い込まれ、消滅していく。
「な、なんだ、あれは!?敵が……消えた!?」
帝国軍に動揺が走る。
「私も負けてられないね!行け、私のハチドリたち!敵のシステムの制御を奪っちゃえ!」
カトルプが放った無数の小型ドローンが帝国軍の兵器に取り付き、次々と内部システムを掌握。敵の戦車が味方を砲撃し始め、戦場は大混乱に陥った。
第九章: ウルセナの防衛
ネクワの圧倒的な攻撃力と、カトルプの天才的な技術支援。二人の力が噛み合った時、反乱軍は帝国軍の物量を凌駕した。
「いけるぞ!敵が混乱してる!押し返せ!」
兵士たちの士気は最高潮に達し、ついに帝国軍の艦隊は撤退を開始した。
「やった……!やったぞ!我々の勝利だ!」
歓喜の声がウルセナに響き渡る。
「ああ。これでウルセナは守られた。でも、気を抜くにはまだ早い」
ネクワは空を見上げ、遠ざかっていく敵艦隊を睨みつけた。
防衛に成功した反乱軍は、この勝利を噛み締めながらも、次なる戦いへの決意を新たにする。
「ねえ、ネクワ。最高のデビュー戦だったんじゃない?」
駆け寄ってきたカトルプが笑う。
「ああ、君のおかげだ、カトルプ。これからもよろしく頼む、相棒」
ネクワが差し出した拳に、カトルプは笑顔で自分の拳をこつんと合わせた。二人の戦いは、そして反乱軍の戦いは、まだ始まったばかりだった。
