Etherpunk/Chapter4

Last-modified: 2025-08-02 (土) 00:46:42

プロローグ: 新たな目標

ウルセナの司令室。中央のホログラムテーブルに、帝国の広大な支配領域が映し出されていた。その一点が、赤く点滅している。

「諸君、我々の次なる目標は、ここだ」
トルティヴが指し示したのは、ウルセナから遥か12,500km彼方にある工業都市「メルベロム」。

「メルベロム……帝国の軍需産業を支える心臓部。あそこには、帝国艦隊の主動力源である希少鉱物『ヘリオス・クリスタル』の、唯一の採掘プラントがあります」
彼女の言葉に、司令室は静まり返った。
「しかし、トルティヴ様。12,500kmもの長距離遠征はあまりにも危険です。ウルセナの防衛が手薄になるリスクも計り知れない」
古参の司令官が懸念を示す。

「リスクは承知の上だ。だが、このままウルセナで待ち続けても、帝国を打倒することはできない」
ネクワが静かに、しかし断固として言った。その時、カトルプとリクティが前に進み出た。

「そのリスクを、私とリクティの技術が解決するよ!」
カトルプが自信満々にホログラムを操作する。現れたのは、雲を突き抜ける巨大な船団の設計図だった。
「名付けて、『アルゴノーツ計画』。5,000人規模の兵員を収容可能な超長距離航行艦を20隻建造。ウルセナの全戦力を、一気にメルベロムへと送り込む大遠征計画さ」
「ナビゲーションと制御プログラムは私が担当する。帝国の監視網を潜り抜け、メルベロムへ到達する航路は、すでに計算済みだ」
リクティが冷静に付け加えた。その壮大な計画に、司令室は驚嘆と期待のどよめきに包まれた。

第一章: 大型飛行船の制作

アルゴノーツ計画は、直ちに実行に移された。ウルセナの地下に広がる巨大な建造ドックは、24時間体制で稼働を続けた。何千人もの兵士や技術者が、巨大な船体のパーツを運び、溶接し、組み立てていく。

「もっと急いで!船体の装甲が設計図より3ミリ厚いぞ!そんな妥協は私の美学が許さないね!」
カトルプはメガホンを片手に現場を飛び回り、自ら工具を手に檄を飛ばす。一方、リクティは管制シミュレーションルームに籠り、複雑怪奇な制御プログラムのバグ取りに昼夜を問わず没頭していた。

「…よし。これで自動航行システムの安定性が99.8%を超えた。B-IV、バックアップは取れているな?」
『了解、リクティ。あなたの脳波パターンに疲労を検知。3時間以上の休息を強く推奨します』
「うるさいな。この船団が完成するまでは眠れないんだよ」

兵士たちは一丸となっていた。
「こんな化け物みてえな船、本当に飛ぶのかよ?」
「当たり前だろ!カトルプ技術長とリクティ様を信じろ!これが完成すれば、俺たちの手で帝国を終わらせられるんだ!」

そして数ヶ月後。ウルセナの空に、雲を突き抜けるほどの巨体を誇る20隻の飛行船「アルゴノーツ船団」が、威容を誇示するように浮かんでいた。ドックから見上げる市民たちの万感の拍手と歓声の中、トルティヴが全軍に告げた。
「これより、我々はメルベロムへと進撃する!帝国の圧政に終止符を打つ、歴史的な旅の始まりだ!全員、準備を整えよ!」
「ついにこの時が来たか」
旗艦のブリッジで、ネクワは眼下に広がるウルセナの街並みを見下ろしていた。
「行こう、メルベロムへ。そして、その先へ」

第二章: メルベロムへの飛行

10万の兵士を乗せたアルゴノーツ船団は、静かにウルセナを離れ、果てしない雲の海へと乗り出した。リクティのナビゲーションシステムは完璧に機能し、船団は帝国の監視網を巧みに避けながら航行を続けた。

だが、長い旅路は平穏ではなかった。
「前方、強力な磁気嵐を検知!このままでは航行システムがダウンします!」
オペレーターの悲鳴に、リクティが冷静に応じる。
「慌てるな。手動操舵に切り替え、嵐の最も磁場の弱いポイントを突っ切る。B-IV、最適ルートを3秒で算出しろ!」
『算出完了。進路を7度右へ』

またある時は、帝国軍の無人偵察機の編隊に遭遇した。
「チッ、ハエどもが嗅ぎつけてきたか。リクティ、電子戦で黙らせられるか?」
カトルプの問いに、リクティは不敵に笑う。
「任せろ。敵の制御プログラムを乗っ取って、同士討ちさせてやる」
彼女の指がコンソールの上で踊ると、偵察機は混乱し、互いにレーザーを放ち始めた。

船内の兵士たちは、来るべき決戦に備え、訓練に励み、あるいは束の間の休息を楽しんでいた。ネクワは展望デッキで一人、流れゆく雲を眺めていた。
(多くの仲間が、この空のどこかで眠っている。この旅は、彼らの思いも背負っているんだ……)
彼女の心に、125年分の出会いと別れが静かに去来していた。

第三章: メルベロムへの到達

幾多の困難を乗り越え、アルゴノーツ船団はついにメルベロムの宙域に到達した。眼下に広がるのは、無数の工場とプラントが林立する巨大な工業都市。都市全体が強力なエネルギーシールドで覆われ、空には無数の自動迎撃衛星が光っていた。

「これがメルベロム……。壮大な、そして厄介な都市ですね」
トルティヴが呻く。
「だが、どんな要塞にも必ず弱点はある」
ネクワが静かに言った。作戦は、すでに始まっていた。

「リクティ、やれるか?」
「当然だ。メルベロムの防衛AI『ケルベロス』……面白いプログラムじゃないか。私とB-IVの敵じゃない!」
リクティの指先から放たれる膨大なデータが、ケルベロスの鉄壁の防御に猛攻を仕掛ける。

そのサイバーバトルの隙を突き、カトルプが開発したステルス突入艇が、ネクワとマルト率いる特殊部隊を乗せてメルベロム内部へと潜入する。
「よし、内部に侵入成功!ここからは私たちの出番よ!」
マルトが駆る黄金の機体『ゴルディアス』が、シールド発生装置を内部から破壊していく。
「全軍、突撃!メルベロムを解放せよ!」
ネクワの号令と共に、アルゴノーツ船団から無数の兵士たちが降下し、帝国軍との激しい市街戦が始まった。

反乱軍の奇襲は完璧に成功した。激しい戦闘の末、都市の主要施設は次々と制圧され、帝国軍は降伏。メルベロムは、反乱軍の手に落ちた。

「やりました……!これでメルベロムは、我々のものです!」
「この勝利は大きい。だが、本当の戦いはこれからだ」
トルティヴとネクワは、司令室で固い握手を交わした。

第四章: メルベロムでの新たな展開

メルベロムの制圧は、反乱軍に新たな力をもたらした。まず動いたのはマルトだった。彼女はその卓越した交渉術で、帝国に不満を抱いていたメルベロムの有力者や技術者たちを次々と説得し、反乱軍へと引き入れた。
「ようこそ、皆さん。共に帝国の支配を終わらせ、新しい時代を築きましょう!」
彼女のカリスマ性に、メルベロムの民衆は熱狂し、反乱軍の新たな仲間となることを誓った。

そして、反乱軍はついに念願の『ヘリオス・クリスタル』を手に入れた。
クリスタルの膨大なエネルギーを前に、カトルプはその瞳を爛々と輝かせた。
「すごい、すごいよこのエネルギー!これさえあれば、私の長年の夢だった『次元跳躍エンジン』……つまり、究極のワープエンジンが作れる!」
リクティも頷く。
「ああ。それがあれば、帝国の首都まで、一瞬だ」

メルベロムを新たな拠点とし、新たな仲間と究極の力を手に入れた反乱軍。彼らの目は、すでに帝国の心臓部、帝都を見据えていた。帝国の長きにわたる支配に、今、終わりの時が近づいていた。