Etherpunk/Chapter6

Last-modified: 2025-06-21 (土) 22:11:33

プロローグ: トルティヴの葬儀

フォーボシアの空に、反乱軍の勝利の旗が翻っていた。だが、その勝利の代償はあまりにも大きかった。司令室の喧騒も、兵士たちの歓声も、彼らの心に深く突き刺さった喪失感を埋めることはできなかった。

反乱軍は、彼らの英雄であり、光であったトルティヴの亡骸を、彼女が愛した故郷ウルセナに埋葬することを決意した。それは、ひとつの時代の終わりであり、そして、彼女の遺志を胸に刻み、次なる戦いへと進むための、悲しくも神聖な儀式だった。

「トルティヴを、ウルセナに帰してあげよう。あたたかい土と、穏やかな光の中で、彼女の魂が安らかに眠れるように」
ネクワは、静かにそう告げた。
「ええ。彼女は私たちのために、その命の全てを懸けてくれた。だからこそ、最大の敬意を持って、彼女を送り出してあげたいの」
マルトが、固い決意を込めて頷いた。

「…B-IVも、同じ気持ちのはずだ。あいつのために、私たちができる最善を尽くそう」
リクティの声は、いつになく弱々しかった。
『リクティ、その通りだ。トルティヴの遺志を胸に、私たちも力を合わせ、彼女を送り出そう』
カトルプはただ、黙って涙をこらえるだけで精一杯だった。

第一章: ウルセナへの帰還

トルティヴの亡骸を安置した棺を乗せ、一隻の飛行船が、静かにフォーボシアを離れた。ウルセナまでの12,500km。それは、あまりにも長く、そして危険に満ちた葬送の旅だった。

船内は、重い沈黙に支配されていた。
「この一隻だけでウルセナに向かうのは、自殺行為に近い。でも、彼女を一日でも早く故郷に戻すためには、仕方がない…」
ネクワは、窓の外を流れる雲を見つめながら呟いた。

「B-IV、船の全システムを常に監視して。どんな些細な異常も見逃すな」
リクティは、憔悴しきった顔でコンソールに向かう。
『了解、リクティ。全システムを監視中。問題が発生した場合、即時に対応する。君こそ、少し休むべきだ』
「……いらないお世話だ」

その時だった。追悼の静寂を切り裂くように、甲高い警報が鳴り響いた。
「敵襲!帝国軍の高速戦闘機部隊です!数、およそ50!」
オペレーターの悲鳴。まるで、英雄の亡骸を穢すことに喜びを見出すかのように、帝国軍は執拗で悪意に満ちた攻撃を仕掛けてきた。

「ネクワ!全員、衝撃に備えて!」
「飛行船の左翼エンジンがやられたわ!このままでは墜落する!」
「くそっ、システムがめちゃくちゃだ!カトルプ、何とかならないのか!?」
「やってるよ!でも、損傷がひどすぎる!」
『リクティ、システム修復を試みる。しかし、被害甚大。完全な修復は……困難だ』

反乱軍は、必死に応戦した。トルティヴの眠るこの船だけは、絶対に守り抜かなければならない。その一心で、彼らは帝国軍の猛攻を耐え抜いた。だが、無数の傷を負った船体は限界に達し、ウルセナ郊外の平原へと、黒煙を吹き上げながら不時着した。

「……なんとか、ウルセナに……たどり着いた……」
ネクワは、大破した船体から這い出し、故郷の空を見上げた。
「飛行船は、もう使い物にならないな…」
「ええ。でも、まずはトルティヴを……彼女を、埋葬してあげないと」
マルトが、涙をこらえながら言った。

第二章: ウルセナでの埋葬

不時着の報を受け、ウルセナの民衆が平原へと集まってきた。彼らは、黒焦げの飛行船と、そこから静かに運び出される英雄の棺を見て、誰もがその場に膝をつき、静かに涙を流した。道が開かれ、トルティヴの棺は、街の中心地にある、丘の上の最も日当たりの良い場所へと運ばれた。

新しく掘られた墓の前で、仲間たちが、一人、また一人と、最後の別れを告げる。
「お前は、いつもそうだ、トルティヴ。一番危ない場所に飛び込んで、さっさと先に行っちまう。……少しは、残された奴らの身にもなれよ、馬鹿野郎…」
ネクワは、憎まれ口の中に、拭いきれない悲しみを滲ませた。

「あんたの無茶な要求に応えるのが、私の生きがいだったのになあ。これから私は、何を楽しみに技術を磨けばいいんだよ…」
カトルプは、子供のように泣きじゃくった。

リクティは、ただ一言、「…ゆっくり、休めよ」とだけ呟き、深く頭を下げた。

『記録します。司令官トルティヴは、反乱軍の歴史における最も偉大な英雄の一人として、後世に語り継がれるでしょう』
B-IVなりの、最大限の敬意だった。

トルティヴの墓に、彼女が愛用していた指揮棒が供えられる。彼女の魂が、ウルセナの大地で安らかに眠ることを、誰もが心から祈っていた。

第三章: 次なる戦いへの準備

葬儀から数日後。反乱軍のメンバーは、大破した飛行船の残骸の前に立っていた。
誰もが、その惨状を前に言葉を失う。だが、その沈黙を破ったのはカトルプだった。

「……メソメソしてても、船は飛ばないよ!」
彼女は涙で腫れた目をこすると、不敵に笑って宣言した。
「見てな!このガラクタを、トルティヴも天国でびっくりの、不死鳥(フェニックス)に変えてやるから!」

その言葉が、凍り付いていた仲間たちの心を溶かした。
「そうだな。いつまでも下を向いてはいられない」
リクティが顔を上げる。
『僕が損傷データを完全に解析し、修復および強化プランを提示する。必要な部品リストだ』
B-IVが膨大なリストを表示すると、マルトが力強く応えた。
「このリストの部品なら、私のルートで世界中から集めてみせるわ。大丈夫、必ず間に合わせる」

彼らは、トルティヴの死を乗り越えるために、前を向くことを選んだ。彼女の遺志を継ぐ。その誓いを胸に、絶望的な修復作業が始まった。

第四章: 新たな始まり

飛行船の修復作業が進むドックの傍らで、ネクワは一人、トルティヴが遺した作戦日誌を読んでいた。そこに記されていたのは、帝都攻略後の、新しい世界の姿。全ての民が平等で、自由に生きられる未来の構想だった。

(お前は、こんな先のことまで考えていたのか……)
トルティヴの偉大さを改めて痛感し、ネクワは決意を新たにする。この夢を、絶対に実現させなければならない、と。

やがて、朝日がウルセナの地平線を照らし始めた。その光は、修復が進む飛行船の新たな骨格と、そして、丘の上のトルティヴの墓を、等しく優しく照らしていた。

墓の前に、いつの間にか仲間たちが集まっていた。
誰も何も言わない。ただ、朝日を浴びる飛行船のシルエットを、静かに見つめている。

やがて、ネクワが呟いた。
「……行くか」

「……ああ」
リクティが応える。

それは、悲しみを乗り越えた者たちの、力強い新たな始まりの合図だった。彼らの戦いは、終わらない。未来への希望を胸に、反乱軍は、再び立ち上がる。