Etherpunk/Chapter9

Last-modified: 2025-06-21 (土) 22:16:41

プロローグ: ナァシュギ制圧の勝利

帝国の皇帝が降伏し、1000年続いた戦火は、ついに消えた。
その報は全宇宙を駆け巡り、帝都ナァシュギには、解放を喜ぶ市民と反乱軍兵士たちの、地鳴りのような歓声が響き渡っていた。兵士たちは銃を地に置き、肌の色も、生まれた星も関係なく、泣きながら抱き合っていた。

「……終わった……。ついに、ナァシュギを……私たちの手で……」
ネクワは、皇居のバルコニーからその光景を見下ろし、噛み締めるように呟いた。長すぎた戦いの終わりに、実感はまだ湧いてこなかった。

「B-IV、本当に……これで私たちは、勝利を手にしたのね?」
リクティの声も、どこか夢見心地だった。
『ああ、リクティ。全ての戦闘行為は終結した。ナァシュギの完全制圧を確認。我々、反乱軍の…完全な勝利だ』

「やった!やったよー!トルティヴも、マルトも、みんな見てる!?私たちが勝ったんだよ!」
カトルプは、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、空に向かって叫んだ。その屈託のない歓喜の姿に、ネクワもリクティも、ようやく頬を緩めた。

第一章: 暗殺の瞬間

勝利の祝賀ムードが最高潮に達した、その時だった。
仲間たちと未来の平和な世界の設計図について語り合っていたカトルプが、嬉しそうに言った。
「これからは戦争の道具じゃない、みんなが笑顔になるような、楽しいものだけをたくさん作るんだ!私の技術で、この星を本当のユートピアに…」

その言葉は、乾いた一発の銃声によって、無慈悲に中断された。

歓声が悲鳴に変わる。仲間たちの輪の中心で、カトルプの胸が赤く染まり、彼女は糸が切れたようにゆっくりと崩れ落ちた。

「銃声……?まさか……!」
ネクワが叫ぶ。
「カトルプ!?おい、しっかりしろ!冗談きついぞ!」
リクティが駆け寄り、その体を揺さぶる。だが、カトルプの瞳からは、急速に光が失われていた。

『カトルプが狙撃された。バイタルサイン、急激に低下…』
B-IVの冷静な声が、悪夢のような現実を突きつける。

カトルプは、リクティの腕の中で、か細い声で呟いた。
「……なんだ…私の作った、最新の防御フィールドも…大したこと…なかったな…。せっかく…これから楽しいものが…たくさん作れると…思ったのに…」
それが、天才技術者の最期の言葉だった。

「カトルプ……!うそだろ……!」
「彼女を撃ったのは誰だ!?どこから!」

『狙撃ポイントを特定。皇居向かいのビル屋上。……だが、熱源反応、消滅。犯人は、自決した模様』
B-IVが続ける。
『犯人の所持していた紋章から身元を割り出す。旧貴族派の残党…カトルプが過去に失脚させた政治家の関係者と見て、間違いない』

過去の因縁。戦いが終わっても消えることのなかった憎しみが、未来への希望に満ちていた彼女の命を、あまりにもあっけなく奪い去ったのだ。

「許さない……」
ネクワの静かな声が、凍てつくような怒りに満ちていた。
「戦いが終わっても、憎しみは終わらないというのか……。こんな理不尽、絶対に許さないッ!」

第二章: 悲しみと決意

カトルプの葬儀は、ナァシュギの中央広場で、反乱軍とナァシュギ市民による国葬として執り行われた。彼女の技術が多くの命を救い、この平和の礎を築いたことを、誰もが知っていたからだ。広場は、彼女の死を悼む無数の花で埋め尽くされた。

ネクワは、弔辞を読み上げた。
「彼女は、多くの武器を作りました。しかし、誰よりも平和を願っていました。その矛盾を抱えながら、彼女は戦い続けた。我々はこの事実を、決して忘れてはならない。彼女が本当に作りたかった未来を、我々の手で完成させる。それが、残された我々の使命です」

その夜、ネクワとリクティは、カトルプが遺した研究室を訪れた。そこには、彼女が夢見た未来の設計図が、山のように遺されていた。環境再生システム、高度医療ナノマシン、子供たちのための教育プログラム……兵器の設計図は、どこにも一枚もなかった。

「あいつ……こんなものを、ずっと一人で……」
リクティは、設計図を抱きしめ、声を殺して泣いた。

「カトルプ、お前の遺志は、必ず私たちが引き継ぐ。お前が夢見た、誰もが笑える優しい世界を、必ずこの手で創り上げてみせる」
ネクワは、空になった友の椅子に、静かに誓った。

第三章: 新たな始まり

カトルプの死という最後の悲劇を乗り越え、反乱軍は、帝国の再建と新しい秩序の構築という、新たな戦いを始めた。それは、武器ではなく、対話と協調による、本当の意味での平和を築くための戦いだった。

ネクワは、反乱軍の最高指導者として、全宇宙に宣言した。
「これからは、戦いではなく、平和と繁栄を築くために全力を尽くす。我々は、過去の過ちを繰り返しはしない」

リクティは、カトルプの遺した技術を基に、B-IVと共に世界の復興を指揮した。
『リクティ、カトルプの遺志を胸に、我々は新たな秩序を築く。それが、我々の最後の使命だ』

数年の歳月が流れた。
再建が進むナァシュギに作られた、カトルプの名を冠した公園のベンチで、ネクワとリクティは、平和になった街を駆ける子供たちの姿を眺めていた。

「なあ、リクティ。俺たちは、ちゃんとやれてるかな。天国にいるあいつらに、胸を張れるかな」
ネクワが、ふと呟く。

リクティは、どこまでも青い空を見上げた。
「さあな。だが、やるしかねえんだよ。あいつらが夢見た未来が、本当に完成する、その日までは」

『新秩序の安定化レベルは、現在78.4%。目標達成まで、まだ道は半ばです。我々の戦いは、まだ終わっていない』
B-IVの静かな声が、二人の傍らで響く。

彼らは、大切な仲間たちの犠牲の上に築かれた平和を、未来永劫守り抜くことを、心に固く誓っていた。1000年の戦いは終わった。そして、永遠に続く、平和を守るための戦いが、今、始まったのだ。