Etherpunk/ChapterI

Last-modified: 2025-06-21 (土) 22:07:53

プロローグ: メルベロムの拠点バー

メルベロムの制圧から数日が過ぎた夜。反乱軍の中核を担うメンバーたちは、街の一角に急遽設けられたバーに集まっていた。そこは、資材を再利用して作られた簡素な店だったが、戦士たちにとっては砂漠のオアシスだった。古風な木製のカウンターに、アンティーク調の照明が暖かな光を投げかけ、スピーカーからは静かなジャズが流れている。壁に掲げられた反乱軍のシンボルだけが、ここが戦いの最前線であることを静かに主張していた。

兵士たちの喧騒と笑い声が満ちる中、カウンターの一角で、彼女たちはグラスを傾けていた。

第一章: プライベートトーク

「メルベロムを制圧できたのは、予想以上の成果です。帝国もまさか、我々がこれほどの長距離遠征を敢行するとは思っていなかったでしょう」
トルティヴが、満足げに琥珀色の液体を揺らす。

「だねー!私の『アルゴノーツ船団』も、リクティのナビも完璧だったし!この勢いに乗って、次は帝国のどの喉元に噛みついてやろうか!」
カトルプが楽しそうに言う。

「待って、カトルプ。焦りは禁物よ」
マルトが冷静に制する。
「私の財閥のネットワークで、帝国の内部情報を探らせているわ。経済を混乱させ、内部から崩壊させるのが最も効果的よ。物理的な攻撃は、その後でも遅くない」

「ふん、まどろっこしいな。情報戦なら私の専門だ」
リクティがグラスを置き、口を開く。
「B-IVと新しい戦術プログラムを開発中だ。帝国の通信網を完全に掌握し、全軍を麻痺させる。そうすれば、血を流さずに勝てるかもしれない」
『私も全力を尽くす。共に、よりスマートな勝利を目指そう』
リクティの左目から、B-IVの合成音声が響いた。

真剣な議論が続く中、張り詰めた空気をほぐすように、カトルプがニヤニヤしながらリクティの肩を叩いた。

「そういや、この前の戦闘でさ!リクティが敵の防衛AIにハッキングした時、傑作だったよね!」
「ああ、あれか」

「敵のAIが突然、『おかえりなさいませ、ご主人様!今日は何をお手伝いしましょうか?』なんて、メイドさんみたいな声で話しかけてきたんだよ!帝国兵、みんなポカーンとしちゃってさ!」
カトルプが腹を抱えて笑うと、リクティも口の端を上げた。
「あれはちょっとしたお遊びだ。敵のシステムが、ずいぶんと家庭的な設計思想だったんでな。最後は反乱軍のテーマソングを大音量で流してやった」

その話に、それまで静かだったネクワも、くすりと小さく笑った。仲間たちのいるこの空間が、彼女にとって何よりも心安らぐ場所だった。

第二章: ネクワの思い

和やかな会話が続く。だが、ふと窓の外の星空を見上げたネクワが、ぽつりと呟いた。その声は、バーの喧騒の中では消えてしまいそうなほど、か細かった。

「……私、お姉ちゃんに会いたいんだ」

一瞬、時が止まった。カトルプの笑い声も、兵士たちのざわめきも、全てが遠のいていく。仲間たちの視線が、一斉にネクワへと注がれた。

「……お姉さん?ネクワ、君に家族がいたとは…初耳ですよ」
トルティヴが驚いたように聞き返す。
「うん。ずっと昔……私が、まだただのネクワだった頃に、別れ別れになってしまって。それ以来、一度も……」
ネクワは俯き、自分の手の中のグラスを見つめた。

「会えて、いないんだ。会いたい。でも、とても難しいことなんだ……。彼女は……帝国の、とても遠い場所にいるから。私たちがいる自由な空の下じゃなく、美しく飾られた『鳥かご』の中にいるから」

その言葉に含まれた深い悲しみに、誰もが息をのんだ。
「それは……辛いわね。でも、きっと方法は見つかるわ」
マルトが、自分のことのように顔を曇らせる。

リクティが、ぶっきらぼうだが優しい声で言った。
「……俺も、親父や袋がどこでどうしてるかなんて、もう何年も知らねえ。でも、どこかで繋がってるって信じてる。だから、あんたも諦めんな。鳥かごだろうが何だろうが、ぶっ壊しゃいいだけの話だろ」
『私も協力しよう。全銀河ネットワーク上の血縁者データをスキャンし、該当者の捜索を開始する。成功確率は…いえ、必ず成功させる』
B-IVの声が、リクティの言葉を後押しした。

ネクワは、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、涙が滲んでいた。
「……ありがとう、みんな」

その一言に、仲間たちの心が一つになった。
カトルプは悪戯っぽく笑うと、ネクワの背中をバンと叩いた。
「なーに暗い顔してんのさ!見つけたら、あとは簡単!どんな頑丈な鳥かごだろうが、私の作った『次元カッター』で風穴開けて、盛大なパレードで迎えに行ってやるよ!」

マルトも力強く頷く。
「私の財閥の情報網を総動員させるわ。どんな秘密の場所に隠されていようと、必ず突き止めてみせる。費用なんて、1セントも気にしなくていいから!」

そして、トルティヴが静かにネクワの肩に手を置いた。
「ネクワ。あなたはこの100年以上、その重い想いをたった一人で抱えて生きてきたのですね。……もう、一人ではありません。我々がいます。我々が、あなたの新しい家族です」

その言葉に、ネクワの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。
トルティヴは、全員のグラスを掲げるように促した。

「さあ、皆。グラスを。ネクワの姉君との再会と、我々が築く新しい未来に!乾杯!」

「「「乾杯!」」」

グラスがぶつかり合う澄んだ音が、バーに響き渡る。それは、戦友として、そして家族として、互いの魂を支え合う、固い絆の音だった。彼らの決意は、メルベロムの夜空で、ひときわ強く輝いていた。