プロローグ: 新たな旅の始まり
ナァシュギに平和が訪れ、1000年の長きにわたる反乱の歴史は、ついに幕を閉じた。世界は再建され、人々は新しい時代を謳歌していた。しかし、その平和の中心に立ちながら、ネクワ=エーテルムの心だけが、満たされることはなかった。彼女にはまだ、果たさなければならない、たった一つの個人的な使命が残っていたのだ。
「反乱軍としての、私たちの戦いは終わった。でも……」
ネクワは、平和になったナァシュギの空を見上げながら、もう一度リクティにだけ打ち明けた。
「私の本当の旅は、まだ終わっていないんだ。姉さんに会うこと……それが、私の最後の願いだから」
その瞳には、英雄のそれではない、ただ一人の妹としての、深い渇望と悲しみが宿っていた。
第二章: 新たな手がかり
戦後、数十年の歳月が流れた。ネクワは、仲間たちと共に世界の再建に尽力しながらも、水面下で姉の行方を追い続けていた。そして、ついに一つの情報にたどり着く。それは、滅びた帝国の皇帝が、その生涯をかけて研究していた禁断の技術――『次元超越』。
「次元超越……。異なる次元の扉を開き、あらゆる可能性の世界へアクセスする技術……。これがあれば、姉さんに会えるかもしれない…!」
ネクワの声は、数十年の時を経て初めて、希望に震えていた。
「それが本当なら、話は早い!全力でサポートするに決まってるだろ!」
リクティは力強く応えた。だが、B-IVの解析結果は、その希望に冷や水を浴びせるものだった。
『待ってほしい、ネクワ、リクティ。次元超越のデータを解析した。この技術は、世界の理そのものを書き換えるほどの危険性を孕んでいる。そして、起動するための鍵は……滅んだはずの、皇帝の精神そのものと強くリンクしている』
皇帝は肉体的には滅んだ。しかし、その強大な精神は、次元超越システムの中枢で、最後の番人として生き続けていたのだ。
「皇帝の亡霊を倒さなければ、技術は手に入らない、か……」
ネクワは、覚悟を決めたように呟いた。
「望むところだ。あいつには、まだ借りを返せていないからな」
第三章: 決断と覚悟
ネクワは、姉との再会を果たすため、最後の戦いへの決意を固めた。だが、B-IVはさらに残酷な事実を告げる。
『この技術には、起動と引き換えに支払うべき、巨大な代償が存在する。それは、我々が今いるこの天空の国…平和になったナァシュギそのものの存在エネルギーだ。システムを起動すれば、この国は崩壊し、地に落ち、過去の全てが海に沈むだろう』
その言葉に、リクティは激昂した。
「ふざけるな!あんた一人のエゴのために、トルティヴもカトルプも、みんなが命を懸けて築いたこの平和を、お前の手で壊すって言うのか!?」
「……分かっている」
ネクワは、苦悩に顔を歪ませた。
「私に、そんな資格がないことくらい、分かっているさ。でも……姉さんは、私が反乱に身を投じることになった、全ての始まりなんだ。彼女を犠牲にしたこの世界で、私だけが平和を享受することなんて、できないんだよ…!」
その悲痛な叫びに、リクティは言葉を失った。1000年以上もの間、ネクワが一人で抱え込んできた、あまりにも重い十字架。その苦しみを知るリクティに、彼女を止めることはできなかった。
「……分かったよ、クソッたれ。あんたの決意が、そこまで固いってんならな」
リクティは、涙をこらえながら言った。
「だが、一人で行くなんて思うなよ。あんたの罪も、覚悟も、築き上げた平和も、全部あたしたちが一緒に背負ってやる。地獄の底まで、付き合ってやるよ!」
『リクティの判断を支持する。ネクワ、君の選択を尊重し、我々は最後まで君と共にいる』
B-IVの声が、二人の最後の絆を繋ぎとめた。
第四章: 最終決戦
ネクワたちは、ナァシュギの旧皇居の最深部、次元超越システムが眠る聖域へと足を踏み入れた。ネクワがシステムの中枢に触れた瞬間、彼女の意識は光に包まれ、精神データとなってシステム内部の世界へと引きずり込まれた。
そこにいたのは、玉座に座る、全盛期の姿をした皇帝の精神体だった。
『来たか、反逆者よ。姉に会いたいか?ならば、お前が築き上げたその偽りの平和を、お前の手で自ら否定してみせよ』
皇帝の囁きと共に、ネクワの目の前に、死んだはずの仲間たちの幻影が現れる。トルティヴ、マルト、そしてカトルプ。彼らは口々に、ネクワを罵り、その罪を責め立てた。
精神が砕け散りそうになった、その時。
(しっかりしろ、ネクワ!)
(君は一人じゃない!)
現実世界から、リクティとB-IVの声が、ネクワの心に直接響いた。
(そうだ……私は、一人じゃない……)
ネクワは、仲間たちの思いを力に変え、最後の力を振り絞って叫んだ。
「黙れ、亡霊がッ!お前が終わらせた過去に、俺たちの未来を縛らせはしない!」
彼女の魂の叫びが、皇帝の精神を打ち破り、システムはついにその制御を解き放った。
エピローグ:
現実世界で、次元超越が発動した。天空都市ナァシュギが、静かに光の粒子となって崩れ始め、ゆっくりと眼下の雲海へと沈んでいく。リクティは、その幻想的で、あまりにも悲しい光景を、ただ見上げていた。
「行け、ネクワ……。そして、必ず……どこかでまた会おう」
ネクワは、次元と次元の狭間を繋ぐ、光のトンネルを抜けていた。
[此処から先は、誰にもわからない。唯一わかるのは、少女のみ。]
