ポイゾニック・フィールド

Last-modified: 2021-12-09 (木) 02:12:21

 ブラック・ジャックからスタンドの使い方を教わった後、
 彼の医療道具の為に病院へと向かうため商店街を歩く三人。
 途中休憩を挟んだりもしているので、朝も近い時間の割にまだD-3だ。

「誠。」

「何…ってうわっ!?」

 呼ばれて視線を向ければ、分離した右腕を左腕で持つ透に驚かされる誠。
 スタンドで外せるのは知ってたが、腕だけがそこにあるとはっきり言って怖い。

「孫の手。結構便利かも。」

 言葉通り孫の手感覚で背中に右腕を当てる。
 そうは言うものの彼女はアイドル。
 レッスンで鍛えられた身体で手が届かない、
 なんてことになる身体ではないのであまり意味はなかったりする。

「心臓に悪いって…」

 分離した腕を見て気分がいいと言える人はそうはいないだろう。
 断面図は謎の空間がうごめいているのでよくは見えないのが少ない救いだ。
 色んな意味でぶっ飛んでる彼でも、その辺は人間らしくもある。

「私は遊ぶために教えたんじゃあないんだが?」

 二人のやり取りを後目に見ながら先を歩くブラック・ジャック。
 命のやり取りと言うこの状況下では自分が一番立ち回れるので、
 何かあったときのことを考えて彼が先頭になるのは当然だ。

「スタンドの応用ってことで、ダメですか。」

「スタンドと言うのは私にとっても初めての経験になる。
 運動や食事同様、過剰の際に起きるリスクは考えておくことだ。」

 医者らしい、至極まっとうな発言。
 精神の具現化である以上無暗に使えば疲れてしまう。
 これを理解しているわけではないが、ある意味的を射た言葉だ。

「それに、腕を投げるよりもダーツやナイフを投げた方がいいさ。
 私はダーツ投げが得意だから、と言うのもあるだろうが。」

「はーい。」

 いざと言うときに腕を落としたら大変だしね。
 ある意味そうなのだがどこか斜め上な考えと共に、
 腕を元の場所へと戻しておく。

「殺し合いと言っても、思ったより何も起きないんだな。」

 この道を歩いて長い時間が経過するが、
 敵と思しき姿は一切見えてこない状況。
 最初こそ死にたくないと焦ってはいたが、
 まともに会話できて同行できる相手がいると、
 どこか気分が緩み始めてしまう。

「そうだね。」

 起きない方がいいのは事実だが、
 こうも何も起きないと疑問すら感じてしまう。

「だが警戒しておくに越したことはないさ。
 約四十人、凡そ学校の一クラス分以上の人数だ。
 クラスメイト全員が問題児ではないクラスも、そうはないだろう。」

 問題ありな生徒。
 そう言われると誠は心当たりはある。世界がその筆頭だ。
 幾ら対応が悪かったとは言え何も殺しにくることはないだろう。
 あのはt具現でクラスで孤立することになったし、勝手に子供作るなんて。
 病院も紹介したのだからいいのに意味が分からないとさえ思っていた。
 問題児はお前だろとは、彼を知ってれば満場一致で言われるだろう。

「君達のような一般人もいるんだ。
 優勝してでも生きたいと思うはずだ。
 この殺し合いにはあの死神も参加してる以上、
 何処から呼んだか分からないようなのがいるかもしれない。」

「し、死神って…」

「名簿ではDr.キリコと書かれてる。奴は私の知り合いになる。
 不治の病の人間を安楽死させる医者だが、私からすれば奴はただの人殺しだ。」

 名簿にはあのナイチンゲールもいることは気掛かりではあるが、
 少なくともキリコがいることについては間違いはないだろう。
 ピノ子とかならまだしも、あいつを探して歩き回ったり何かするか、
 と言われたら治療に関することでもない限りは基本的にお断りだ。
 態々自分の知り合いの名前を偽って書くとは思えないし、
 そも今いる三人とも名簿に名前がある。嘘ではないのだろう。
 ナイチンゲールは同姓同名なのか、スタンドで蘇らせたのか。
 その程度に留めておいて今はさほど興味はない。

「すごい知り合いがいるんですね。」

 曲がりなりにも死神と人殺しと言う、
 不穏なワードが聞こえたが浅倉はいつも通りだ。
 不安な表情とかをせず、淡々と会話を続けている。
 勿論ないわけではないのだが、そんな雰囲気を感じさせない。
 それが浅倉透と言う人物でもあった。

「一方であいつは腐っても医者の端くれだ。
 この殺し合いにもきっと乗らないから協力は───」

 会話の途中、彼の言葉を遮るような謎の音。

「イッツ!?」

「イタッ。」

 同時に誠が声と共に手を抑えだす。
 何が起きたかなど、言うまでもない。
 これは銃声の類にして敵との遭遇の警鐘が鳴り響く。

 ブラック・ジャックは敵への警戒を優先としていたので、
 咄嗟に浅倉が率先してスタンド能力を行使していく。
 即座に近くの店へとジッパーをとりつけて、
 向こう側へ続く穴をあけて壁の向こうへ三人は逃げ込む。

 浅倉達が逃げ込んだのはレストラン。
 テーブルが二つしかないこぢんまりとしているが、
 洋食を出しやすそうな雰囲気が出ている店だ。 

「すまないが私は彼を診る。君は敵を探してくれ。」

「分かった。」

 ジッパーを少しだけ横に開けて壁の外を窺う。
 しかし、壁の外に人の姿は何処にもない。
 自分がの壁側にいて誠が撃たれたことから、
 道路の向かい側の茂みに隠れてるものだと思うも、
 それらしい姿でさえどこにも見られない。

「あれ、どこだろ。」

 短時間で逃げられるのか。
 注意してたわけではないにしても、
 ろくに音もしなかったのに何故。

 ある意味当然だ。
 相手はそんな小柄なんてものではない。
 小動物と呼ぶには憚られるであろう小さな怪物(ポケットモンスター)。
 茂みから殺意を忍ばせる怪物…コラッタなのだから。

「なんで俺ばっかりこうなるんだよ…!」

 何度もめった刺しにされて殺されて、
 今度は撃たれる。いったい俺が何をしたって言うんだ。
 (悪意はないが、首も斬り落とされたと実は死体蹴りもあったりするが)
 そんな風に嘆きたくなるものの、今度は助けてくれる人がいる。
 さっきまで警戒心剥き出しだったのに飛んだ手のひら返しだが、
 伊藤誠とはそういう男である。

「撃たれた弾丸は針か。音の割に9mm弾丸未満で、貫通どころか画鋲程度の───」

 軽く傷を見ていると、
 突然ブラック・ジャックはスティッキィ・フィンガーズを使う。
 針の周辺ごとジッパーで分離する形でくりぬいて、
 そこから更にジッパーで皮膚を強引につなぎ合わせる。

「イダダダダダ!! いきなり何するんだよ!?」

 皮膚どころか肉ごとくりぬかれて、
 無理矢理すぎる縫合。痛いに決まっている。
 本当に医者なのかと疑いたくなってしまう程の荒療治で、
 痛みと同時に苦言の一つも言いたくなってしまう。
 勿論医療道具もなしに此処までやってくれてるので、
 仕方ないし感謝の意がないわけでもないが。

「悪いが、荒っぽい縫合だけをさせて貰う。
 本当なら医療費も請求するところだが
 今は急いでるから特別にただにしておく。
 それよりも、君の方に異変は何かないのか?」

 先ほどの銃声は一発だったはずだが、
 痛みを訴えたのは誠だけでなく浅倉もだ。
 一発でも二人に被害が出る可能性は今此処にある。

「異変? 特に…」

 一旦ジッパーを閉じて、自分の身体を見やる。
 どこも別段おかしくないように見えていたが、
 左手の違和感を感じて見やると、小指だけ液状に溶け出している。

「小指、解けて───イッツ。」

 言葉を紡いでる間に鮮やかな動きで、
 誠と同じように小指をジッパーで分離された。
 同じようにジッパーによる強引な縫合で止血はしておいたが、
 普段何をしててもまともに顔に出てこない浅倉でも、
 流石にこれの痛みには顔をしかめざるをえない。
 指が切断されるとか普通は経験するはずがないのだから。
 もっとも切断の時の痛みは殆どないので、
 軽い痛みで済んでいる程度だ。

「え、でもなんで透の指が…」

「君のスタンド能力を思い出すんだ…つまりは、そういうことだ。」

 これについては単純な話だ。
 ドリー・ダガーの反射が偶然浅倉のほうに向いてしまっていたから。
 勿論誠もそんなことはわざとやったわけではない。短剣に映ってたのが彼女、
 それだけでしかない不慮の事故だが、誠の顔は青ざめてしまう。
 間接的にとは言え、人の指を切り落とすきっかけを作ってしまったのだ。
 精神的に人を傷つけることについては思慮に欠けに欠けてるが、
 こうして目に見えた形で出されると自分が原因だと言う実感がわいてくる。

「いや、ちが、違うって! 俺じゃあない!」

 俺のせいなのかと、
 二人の視線に戸惑う誠。

「分かってる。」

「不慮の事故だ。今度からは反射を気にしてくれればいいだけだ。」

 わざとではないことは分かっている。
 二人とも責めるつもりもなければ怒ってもいない。
 ブラック・ジャックは元々仏頂面ではあるのでそれは伝わる。
 だが浅倉はそれが顔に出ない。何を考えてるかわからず、
 場合によっては達観してたりと人に誤解されやすい人物。
 怒ってないと言えども、怒ってるように受け取れてしまう。

「だがこれは何らかの毒の類、
 それも恐らくはスタンド能力…治療不可能だ。」

 都合よくこの短時間で、
 塩酸以上の自分でさえ見たことのない毒を用意する。
 とてもできるものではなくスタンドだと暫定できるものだ。
 治療不可能と言う言葉を聞いて、誠は浅倉をもう一度見やる。
 小指がないアイドルが業界にいられるだろうか? 断じてあり得ない。
 アイドル生命さえも自分が断ち切ったことへの責が強くのしかかる。
 自分ではなくこんなスタンドを与えたプッチが悪いのだと、
 内心責任転嫁をしているが。

「勿論、治せるようなスタンドがあれば別だがね。
 その相手を探す余裕もなければ、此処にいるかもわからない。
 加えて溶解した指では、神経を繋ぎ合わせた私でも恐らく無理だ。」

 小指を失った手を浅倉は眺める。
 やはり表情には出ず、何を考えてるか分からない。
 アイドル生命を絶たれたことを考えているのだろうか。
 それとも元凶となった相手や誠に対して憤りがあるのか。
 ただでさえプロデューサーも彼女の理解には難儀してるのだ。
 今回が初対面である二人には、全くその感情が見抜けないでいる。

 顔には出なくとも、浅倉自身もショックは大きい。
 殺し合いに拉致されて、小指を失うなんてフィクションだ。
 自分がその対象になっていることは、痛みと共に理解させられる。
 小指はいわば手のグリップ。失えば握力も著しく低下してしまう。
 痛みもあわせてか、拳を作ろうとすると左手が震えていた。

「荒唐無稽だが、本体を倒せば毒の侵攻が収まる可能性もある。
 その場合に指が元に戻せるように尽力は尽くす。指は保存しておくように。」

「可能性って、本当に無茶苦茶すぎるだろ!?」

「どうだろうか?
 スタンドは精神エネルギーの具現化と神父は言っていた。
 言い換えれば、精神を断ち切る…穏やかな言葉ではないが、
 殺すことで精神力の繋がりは消えて、毒も止まる可能性はある。」

 確かに精神的な繋がりというものはよくわからない。
 今までもよく分からない奇病や相手に立ち向かってきた。
 確証を持てたものもなければ、組織委縮症のように治せなかったのもある。
 誠の言う通り、そんな曖昧なものでなんとかできるかどうかは怪しい。
 もしかしたら毒だけは残留するなんて可能性だってありうるのだから。

「どちらにせよ、此方には本体を倒す以外の選択肢は残されていない。」

 これが本当に最適解かどうかは分からないにしても、
 問答無用で攻撃を仕掛けてくるような相手。
 話し合いどうこうの段階はもうすでに終わっている。
 相手は優勝を目指す危険人物。共に脱出は望めないだろう。
 本当の殺し合いが始まる事実に、二人は言葉が出ない。

「余りお守をするつもりはないが、
 固まって的を大きくするのも悪手だ。
 私が奴の相手をするが、こっちに来る可能性もある…気を付けるんだぞ。」

 子供に危険なことをさせるのもあれだからな。
 ブラック・ジャックはそう思いながら立ち上がる。

「…分かった。」

「君も、スタンドの取り扱いは気を付けてくれ。」

「わ、わかってるよ。」

 釘を刺されたことに動揺する誠を後目に、
 今度は自分がジッパーで壁の向こう側へと出ていく。
 外は静寂。動いてないのか忍び足かまでは判断がつかないが、

(おそらく相手は動物だな。)

 ブラック・ジャックはすでに敵の姿をある程度絞っている。
 何故あの一瞬だけで判断できたのか。それは誠が受けた針だ。
 針の向きは下から上に向いた状態で手の甲に刺さっていた。
 このような当て方をするには撃つ角度の都合、絶対に低くなる。
 敵の近くで態々屈んで撃つような狙撃手は普通はいない。
 浅倉が人影を見つけられなかったことと撃った角度から、
 相手は小柄…それも子供どころではない、小動物の類だと。
 動物のスタンド使い…否定できる要素は今のところない。
 あると思って警戒に越したことはなく、轟く銃声。

(来たか!)

 振り向くと同時に彼へとめがけて飛来する弾丸。
 狙いは胴体だが、回避はそう難しいことではない。
 医者だが非合法故に修羅場を何度もくぐる彼に、
 回避不可能と言うレベルの代物ではないので転がって避けていく。
 弾丸は少し離れた街灯を破壊して周囲を少しばかり暗くする。
 街路灯の明かりに照らされながらも動くコラッタの姿を、
 微かにだが捉えた。

(相手が鼠とは、ある意味宿命なのかもしれないな。)

 人の医療は多くがモルモットなどの動物実験によって発展した。
 繁殖力の高さ、成長の速さ、老化の短さ、人と同じ哺乳類が故。
 そんな彼らの屍の上に立つ医者と相対するのが鼠。
 ある意味この対決は因果なのかもしれないな。
 命の危機でもあるのに、少しセンチな気分になる。
 …厳密にはポケモンなので違うのだが。

「君達には感謝しなければならないが、
 同時に謝罪も必要になるだろうな。
 そして、私は医者ではあるが善人でもないんだ。」

 医者である以上人を死なせることはあるが、殺すことは基本的にない。
 (あくまで基本的であり、遠因での死亡や正当防衛は数知れず)
 だが、母の死因となる連中へと復讐をするための活動もしている。
 防衛の必要に追われれば、動物でも人でもそこに変わりはしない。
 スティッキィ・フィンガーズを構えて、肉薄を始めた。

「戦ってるのか?」

「みたい。指どうしたの?」

「冷凍庫。何もしないよりは長持ちするだろ?」

「……そうだね。」

 壁にジッパーを付けて戦いを覗き見する透。
 またドリー・ダガーで反射させては身の危険を感じてか、
 誠は音だけで何が起きてるのかを判断するしかない。
 できることは、精々店の冷凍庫に透の指を入れて保存するぐらいだ。
 戦い方は一方向から見てるだけなのでよくは分からないが、
 医者とは思えない優れた動きで躱し続けており、

「やば。」

 こっちに弾丸が来た瞬間顔を逸らす。
 背後の白い壁へと当たり、ゆっくりと溶け出していく。
 やばいの一言じゃすまないだろ、誠には異常に見える光景だ。

「な、なあ透。このまま逃げないか?」

 殺されるなんてのはもういやだ。
 死ぬ感触を二度と味わいたくない。
 殺し合いとの雰囲気から離れていただけに、
 叩き落されたことで性欲以上に恐怖がまとわりつく。
 元々ブラック・ジャックに大して印象はよくない。
 このまま見捨てて安全な場所に逃げたくもあるが、
 邪な目的と同時に僅かな道徳もあって彼女も誘う。

「なんで?」

 これは『なんでそんなこと言うの?』と言う憤りか、
 『なんで逃げなくちゃいけないの?』と言う疑問なのか。
 少し首を傾げたので、恐らく後者だと思いながら話を進める。
 浅倉の本心としては後者であるので正解だ。

「なんでって…俺達が此処にいたって何もできないだろ!」

 逃げる選択肢がないのか。
 こんな状況でも浅倉は変わらない。
 容赦なく人を殺そうとするような相手に、
 なんでこんなに平静でいられるんだ。
 今のは多少判断できた気はしたものの、
 理解には程遠い。

「あるよ。」

 また清々しい発言。
 信じて疑ってないかのような、
 謎の自信に満ちているかのような表情。
 いったい何を根拠にと内心思っていると、

「今はまだわかんないけど、きっとある。」

 心の言葉に答えるかのように返す。
 だからその根拠は何処にあるんだよ。
 嘆かずにはいられない誠ではあったが、
 同時に一人で逃げ出すこともできなかった。

 コラッタとブラック・ジャックの戦いは意外と単調だ。
 コラッタは物陰からの射撃を行い、そこから移動して逃げる。
 ラットの本来の持ち主の一体が行ってた同じことを戦術としていた。
 ブラック・ジャックは射撃を避けた後撃った場所にスタンドで拳を叩きこむ。
 とは言えこの暗さと相手の小柄な相手に、特定できてもその一撃は中々命中しない。
 深追いすれば回避できない距離で撃たれる可能性もあって追撃さえできなかった。
 擦過傷等であれば治癒力、出血も輸血によってまだ希望はあるだろうが、
 スタンドの毒となれば受けた時点で致命傷となりうるだろう。
 受けるわけにはいかず、どうしても消極的な動きになる。

 確かに暗さと言う時間をコラッタは味方につけてはいる。
 だが、本来の持ち主の状況と違って地の利はかなり厳しいのだ。
 整然された道路と言う平地。遮蔽物は街路樹や植え込みがあれど、
 攪乱に至れるものはなし。スタンドのステータスも高くはなく、
 精密動作性はEと最低評価を受けるなどの苦難の山盛りとも言うべきか。
 だから持ち主であるコラッタ本体に割と左右されているものだ。
 不利を五分へ持ち込めてるのは、ハッサムやエアームドなどよりもある素早さか。
 いっそ杉元の時のように近づけば…と言いたいところだが、これまたそうはいかない。
 スティッキィ・フィンガーズのスピードはA。杉元のリトル・フィートのスピードを超えており、
 破壊力に至ってはAと雲泥の差。あれを避けられる自信が今の彼にはないのだ。
 相手を観て相手を聴く。最早鼠が持つ思考からかけ離れた優れた思考能力を持つ。
 ではどうやってなんとかするべきか。それは───

「何!?」

 油断はしていなかったものの相手の出方を窺う。
 少しそれに注意しすぎた結果が予想外な展開を生む。
 攻撃を避けられた瞬間、コラッタがついに別の動きを始める。
 異常なレベルで速く、スピードA判定のスタンドでさえ捉えられない。
 捉えられずカールを巻いたようなしっぽで思い切り顔の側面を叩かれる。
 三十センチ程度の小柄では出せないような強烈な一撃は姿勢を崩し、
 派手に転ばされてしまう。

 ふいうち。相手が攻撃をしていれば先制攻撃が可能なあくタイプの技。
 攻撃以外の時のふいうちは失敗するが成長したコラッタにとって、
 見極めは容易で不意打ちを失敗する可能性は既にゼロに等しいだろう。
 此処で信じるべきはスタンドではなかった。己の肉体だったのだ。
 ポケモントレーナーは捕まえなければ使役できない…それは何故なのか。
 モンスターボールと言う首輪がなければならない程の存在がポケモンなのだと
 考えれば当たり前のことではないか。自分は強い、人間たちよりもずっと。
 そんな貧弱な存在にコラッタは追いやられたのか。今思うとより納得がいかない。
 コラッタの繁栄…そのためならば何人だろうと殺そう、この弱い人間どもを。
 ふいうちは文字通り不意打ちだ。受け身を取れるわけなく転ぶブラック・ジャック。
 確かに肉体の強さを知った。だが此処でとどめを刺すのはスタンド能力である。
 ヤングースに追い込まれたように、毒によって自分も死に追い込まれるがいい。
 着地地点にスタンドを出し、着地と同時にぶっ放す。
 USBの向きをしっかり正確にしたうえで挿すかのようにピッタリの場所に。
 動かない的を狙うなど造作もない───

「あ。」

 何とも間抜けな声が戦場の路上へ響く。
 同時に、コラッタは何が起きたか理解できない。
 五メートル近くは離れているであろう店を背にした少女。
 彼女に今、コラッタは『殴られた』のだ。黒い男と同じスタンドなのに。
 同じ見た目で能力が異なる? そんなことがありえるのか。
 能力はジッパーをものにつけて開閉できる能力。スタンドの間合いも一、二メートル。
 先の少女の使い方と黒い男の立ち回りで、その概念を理解していた筈。
 何が起きたかわからないまま、男と同じように吹き飛ばされる。

「…ぶっつけ本番で当たった。」

 確かにその認識は間違ってはいない。
 この使い方自体がある意味の反則技にあるからだ。
 浅倉は何をしたのかと言うと自分の腕を取り外した。
 腕を外すとスタンドの腕も外れると言うことに気付き、
 ジッパーの歯をワイヤーとしてくっつけて飛ばしたのだ。
 スティッキィ・フィンガーズの射程は近距離パワー型特有の短さだが、
 これを使うことで四、五メートル近くの相手だろうとその破壊力で殴ることができる。
 この応用はかなり特殊で、普通は考えつかないような能力だし当然説明も受けてない。
 浅倉は腕を外した後に『なんとなくこういうことができそう』と思ってやってみたものだ。
 ぶっつけ本番だし当たるかどうかも分からなかったが、ある意味スタンドの本質である、
 できて当然と思うこと、嘗てスタンドの概念を説明した老婆の言葉…それが彼女にあった。
 だがやはり本来の持ち主のように慣れ親しんだ操作をできているわけでもない。
 言ってしまえば生まれたての赤子であり、まだ動きを覚えていく段階である。
 ブラック・ジャックからもある程度手ほどきを受けても、彼もなりたてのスタンド使い。
 本来の持ち主であれば、この攻撃を当てた時点で相手をバラバラにして戦闘不能にできた。
 詰めの甘さと言うよりは、そこまで頭は回っていないだけなのは浅倉らしいと言えばらしいが。

「腕を飛ばすとは、ロボットアニメか何かか?」

「スタンドの応用って、言いました。」

「…少し、君に学ぶべきかもしれないな。」

 先ほど腕を取り外したときと同じセリフ。
 意趣返しをしながら腕を元に戻していく彼女は、
 少なくとも守らなければならない程ひ弱でもない雰囲気がある。
 実際はそんなことないのだが、そう思わせてしまうオーラを持つ。

「!」

 眩い光が夜の闇に広がっていく。
 先ほど鼠を吹き飛ばした方向から広がる光に二人は警戒するように身構えた。

 相手の能力を見極めれなかった。
 でなければあのような不意打ちは受けない。
 プライドも捨てきれなかった。
 同じ苦しみを味わえとは、未練にまみれている。
 だから人に追われたのだ。反省しなければならない。
 小柄と言う有利を捨てる。成長しなければ我らの栄光は…ない!!

 光が消えると、そこにコラッタの姿はない。
 代わりにあったのは、コラッタの二倍はあるであろう巨躯。
 丸みを帯びていてハムスターのような膨れた頬と言う肥満体。
 色合いとか目つきに面影はあれど、もはやその姿は別物だ。

 ポケモンには進化と言うものが存在する。
 個体の中には条件を満たして新たな姿へと変貌していく。
 もうこの殺し合いの舞台にコラッタと言う個体は存在しなくなった。
 今この場にいるのはコラッタの進化形態───ラッタなのだから。

「まさか、鼠が変態したのか!?」

 甲殻類や昆虫類で見受けられる変態。
 それを哺乳類である鼠がするとは驚かされる。
 ラッタは進化を終え、肥満体とは思えぬ機敏さで逃げる。
 見た目はこんなではあるが、素早さは微量ながらコラッタよりも上。
 いくら体躯がでかくなったと言えども、姿を見失えば厄介だ。
 見た目が変わったことも何かできることが増えた可能性もある。
 逃がすわけにはいかずブラック・ジャックが先行するように追うも、

「よっと。」

 ジッパーを地面につけて、チャックを掴んで開閉の勢いで滑るように動く。
 走るよりも圧倒的ローコストかつ速度も上で、あっという間に追い抜いてしまう。
 すぐさまラッタも追い抜きながら回り込んで挟み撃ちの形へと持ち込むことに成功する。
 ラッタは歩みを止めてスタンドを展開すると、巨躯のラッタに合わせてサイズも変動。
 二倍以上の、小型の戦車のようなビッグサイズへと進化していた。
 砲口から撃たれると思って先に地面に潜る形で逃げ込むと同時に放たれる弾丸。
 弾丸、とは言うが先程とは違う。注射器レベルの、視認が容易なほどの巨大な弾丸だ。
 直感なくしては避けれなかったであろう攻撃はギリギリ潜る形で回避。
 回避できたことで難を逃れて、適当な壁に弾丸は当たるが…

「やはり成長しているッ!」

 コンクリートでできてるであろう壁は、
 まるで時を戻したかのように液状に崩れていく。
 さっきまでの速度の緩やかさなら強引な縫合で済ませたが、
 今度のはもう当たること自体が一切許されない。一発の威力が段違いだ。
 塩酸やニセクロハツの威力を超えた溶解能力は、当たれば問答無用で即死だろう。
 先ほどのように一部斬り落として難を逃れると言う術は最早通用しない。
 此処からは当たらないように立ち回りを徹底させなければならないかった。
 背後から先程の浅倉と同じ要領で拳を飛ばすブラック・ジャック。
 拳を飛ばすと言うのは彼にとって初めてと言うことはあったかもしれないが、
 既に一度受けた攻撃。学習したラッタには通用せず避けられてしまう。

(明らかに肥満体なのに動きが鈍くならないのか…!)

 ポケモンの生態の多くは、進化すればすべての能力が向上する。
 本来ならば衰える部分は全く衰えることがない、不思議な生き物。
 獣医ではなくとも興味はあるが、もうこれは人の手には負えない生物。
 プッチからスタンドを得なければこんなことにならなかっただろうに。
 怪物へと変わっていくラッタを哀れに思いながら、次の一手を模索する。

(もっとやばくなってるじゃないか!?)

 謎の溶解する音が出て、
 二人が気になって店から顔を出す誠。
 見やれば透の姿はなければ、先程とは桁違いの溶解っぷり。
 スタンドと言う超能力だけでも驚きなのに、本体は巨大な鼠。
 もう透も放って逃げ出したい。そう思っていても逃げられない。
 足がすくんでるのはあるが、何より怖いのはこの先にも敵がいる可能性だ。
 あんな怪物が一匹だなんて誰も言ってない。残り他の三十七名の中に、
 未知なる存在がいたっておかしくないのだ。
 逃げ場なんてありはしない。いつかは出会う。
 どこへ逃げても同じだ。いつ来るか分からない恐怖が待つ。

「…鼠って確か…」

 誰から聞いたか、何で見たかは忘れた。
 だがあの巨大な鼠が鼠であるのなら。
 誠は店の厨房へと足を踏み込んだ。

(当たらない!)

 何度か同じ攻撃を試したが、明らかに予測されてる。
 地面から浅倉が出て地面に引きずり込もうとしても、
 これも既に見られたせいでまるで決められない。
 先ほどと同じように二人が並び、ラッタと相対する。

「もうこの手もダメかな。」

「恐ろしい鼠だ。スタンドには知能を成長させる効果でもあるのか。」

「でも近づきすぎると…」

「あの砲台を避けることができ───」

 会話を遮るような射撃音に二人は散開。
 外れた弾丸は別の街路灯をじゅわりと溶かす。
 二人とも避けてはいるが、時間が経てばたつほど不利になる。
 なぜならば弾丸は毒『当たった』ではなく『触れたら』溶けるのだ。
 どんなに弾丸を掴めるような素早いスタンドだろうと、掴むだけで毒が通る。
 もしかしたら溶解してる部分も触れれば毒が伝播する可能性だってあるのだ。
 ネズミが持っていたラットであればボールペンを刺してもそうはならなかった。
 だが今や本来のラットとは名ばかりの別物のスタンド。そうとは限らない。
 つまり弾丸を撃たれれば撃たれるほど、触れてはならない箇所が増えてしまう。
 そうなったら逃げ場所はどんどん減っていくし、連携も取れなくなる。
 二人ともこのことには気づいているが、同時にどうしようもなかった。

「こっちの応用は…!」

 ジッパーに地面を取り付けるまでは同じだが、
 これを相手まで伸ばして地面と強引に縫合させる。
 足止めとしての用途を狙った一撃。

 しかしこれもジャンプする形で回避と同時に浅倉へ向けての一撃。
 地面につけて回避する暇はないので自分の身体にジッパーを付けて、
 身体を縦真っ二つに分解する形でぎりぎり避けて背後の店を溶かす。
 僅かにでも掠ってたらと思うと洒落にならないので、
 戻った時の浅倉も冷や汗が見受けられる。

「本当に今のやばかったかも…」

「無理をするな! 危険と思ったら逃げろ!」

 逃げろとは言われたが、
 二人で何とか拮抗してる中見捨てれば間違いなく彼は死ぬ。
 このまま放っておくわけにはいかなかった。
 どうするべきか悩んでいると、

「この、やろぉ───!!」

 やけくそな声色が商店街に轟く。
 透の後方より少し離れた位置から、まさかの誠が姿を見せた。
 突然の存在に三者ともに反応と同時に誠は空へと何かを複数投げる。
 放物線を描きながら、ラッタの周囲へと飛んでいく。

「どっちでもいいからそれをスタンドで開けてくれ!!」

 何の目的があるのか分からないが、
 何か考えがあっての行動かもしれない。
 彼を信じて浅倉は空の投擲物を狙って拳を飛ばす。
 勿論それを見逃さないラッタは、彼女に向けて弾丸を放つ。

「私も忘れないでくれ。」

 その前にブラック・ジャックが拳を飛ばし、それの回避を優先。
 一瞬ではあったがその一瞬で浅倉の飛ばした拳がそれに当たる。
 今度はジッパーを付けて、中に入っていたゼリーが空から降り注ぐ。

「!?」

 降り注いだ瞬間、ラッタはとてつもない悲鳴を上げながら悶絶しだした。
 何が起きたのか困惑していると、浅倉は投げたものもついでに回収する。
 回収したのは───

「ネズミ駆除?」

 誠が投げたのは所謂ネズミ忌避剤のゼリー。
 ハッカやワサビ等、鼠が嫌うものが混ざったものだ。
 あの後、多くの恐怖や不安に苛まれていた誠だが、
 一周回って限界を迎えて、どこかキレてしまった。

(もう、二度も殺されてたまるか…!!)

 このまま何もせず殺されるぐらいなら、いっそ殺す。
 誤解されそうな思考だが、殺し合いに乗ってるとは違うのが救いか。
 その結果誠は近くの店から今の状況で使えそうなものを探して、
 今のアイテムを持ち込んでいた。

 ラッタはねずみではあるが同時にポケモン。
 劇的に通じるものではないが、アローラのラッタでは話が別となる。
 通常のラッタと違い、アローラのラッタは嗅覚がかなり発達しているのだ。
 食材の鮮度を見極めるためにコラッタやラッタを連れてる人もいる美食家ポケモン。
 レストランの近くにラッタがいれば、その店は当たりと保証できる目安にすらなる程。
 そのため優れた嗅覚が仇となって、刺激臭を嗅がされれば通常の鼠の比ではない。
 しかもそれを撃ち落とした結果自分の全身の浴びたようなもので、
 呼吸すら辛いものへと至らせていた。

「透。これを先生に…」

「え?」

 気を取られた隙にたまらず逃げ出すラッタ。
 目指すは水辺。この状態では参加者を探す嗅覚は死んだも同然。
 逃げ足が速いが、このラッタのとくせいはにげあし。
 戦闘から離脱する場面では非常に強い性能を発揮する。
 この状態では完全な離脱は難しいにしても、十分可能なレベルだ。

「クッ、やはり鼠か…!!」

 一足先にジッパーによる追跡をするが、
 距離は中々縮まらない状態でいる。
 辛うじて追えてるだけあって、この移動方法は非常に便利だ。
 彼女の方が余程使いこなせていることが伺えた。

「先生!」

 浅倉の叫び声と共にラッタの周囲、
 同時にブラック・ジャックの前方へと何かが転がる。

(ナイフ?)

 コンクリートに音を響かせながら転がるのは折り畳みナイフ。
 これも誠が適当に物色して持ってきたものだ。
 誠は別段運動能力が高いわけではないため、
 浅倉のスタンドに投げてもらっている。

「確か得意って言ってたよな、ダーツ投げ!」

 先ほどの何気ない会話での一言。
 この状況を意図したわけではないが、
 あの人なら活用できる気がして誠は持ってきていた。
 尚、ドリー・ダガーは射程距離がCであるため流石に届かない。

「…礼を言わなくてはな。」

 余りいい印象はなかった男だが、
 此処まで活躍するとは思わなかった。
 微笑を浮かべながらナイフを拾い上げ、いつものメスのように投げる。
 重量は大分違うが、スタンドでの投擲なのでいつも以上に正確無比。
 パワーの高さも相まって、弾丸のようなスピードでラッタを襲う。
 逃げることに終始していたラッタはこれに気づけず、
 悲痛な叫び声をあげながらナイフに貫かれた。

「先生、無事ですか。」

 先にジッパーで移動しながら浅倉が追いつく。
 死亡の確認の為、彼はラッタを診ている。

「未知の生命体だっただけに、興味はあったんだがな。」

「どうにも、できませんよね。」

「ああ。」

 息がないことを確認し、目を閉じさせる。
 勝ったとはいえ、余り気分はよくない。
 それが生きるためにしたことだとしても。

「しかし、まさか彼に助けられるとは思わなかったな。」

 この戦いにおいてスタンドを一切使ってないのに、
 一番頑張ったのは彼だと言わざるを得ない。
 寧ろ使ってないだけに印象はより強いものだ。
 手を振りながら追ってくる姿を二人で眺める。

「ネズミは倒せ───」

 パリン。

「え?」

 何かが割れる音が商店街に響く。
 何かガラス片でも踏んだのかと足元を見るも何もない。
 気のせいかと思っていたが、

「え、何…これ…」

 振っていた右手に何か吹き出物ようなものができていた。
 ボゴボゴと熱湯のような音を立てながら指が溶解。
 瞬く間に全身が溶け出し、声にもならぬ絶叫を上げる。

「誠!」

 異変に気付き、浅倉が走り出す。
 腕の溶解程度なら自分と同じ程度でまだ間に合う。
 腕を失うのは自分以上に辛いとしても、
 ただ見殺しにすることはできなかった。

「近づくな! 反射が残っている上に周りを観ろ!」

 ブラック・ジャックの怒声と共にスタンドで引き止められ、
 彼に言われて周りに注意を向ければ、そこは地獄絵図だ。
 ドリー・ダガーによる反射の弾丸が次々と周囲へと飛び交う。
 羽休めをしていた鳥が吐瀉物をまき散らしながら落ちていき、
 少し離れていた猫などの生物も反射を受けて同じような症状で横たわる。
 あのようなパニックを起こしている中、スタンドを止めるように言っても無理だ。
 例えるならばあれは嵐…災厄と言う雨風が吹き荒ぶかのような状況。

「もっと彼から距離を離れるんだ…射程距離の外までだ!
 運よく『君には』当たらなかったみたいだが、離れないと巻き添えを喰らうぞッ!」

「だけど…!!」

 強引にスタンドで距離を一気に取らされる。
 見捨てろと言ってるようなもので反論もしたくなるが、
 どこか意味深な言葉に疑問を持ち、彼を見やれば脂汗が酷い。
 まさかと思って全身を見れば───ない…ブラックジャックの右手が。
 周囲を見れば遠くのところに、既に骨すら溶け始めた右手があり、、
 誰のものなのかは一目瞭然だ。

「一部反射でこの威力だ。
 二発、三発受ければ命はもうない。」

「せ、先生、助け…」

 距離を取る二人に必死に近づく誠。
 だがそれは叶わず遠のいていくばかり。
 無意識に。あたりにスタンドで殺戮をばらまくだけだ。
 形は歪んでこそいたが前向きな行動ができた少年は、
 今もう一度終わりを迎える。

 学校で孤立して、
 関係を持った女の子からも罵られて距離を置かれて。
 その上最期は元恋人に惨殺されると言う顛末を迎えた彼に、
 人が離れていく光景を見ながら消えるのはある意味因果応報でもあった───

 騒がしかった。人気のない場所、何かあれば容易に気づく。
 見つけた。透と堅気じゃない人と、ナイフを持った人の三人。
 透に向かって歩いてたのと、射程距離にいた。
 理由は…それだけ。すんなりと殺せた。
 殺した感想も…その程度でしかない。

「見つけた…」

 伊藤誠と言うウイルスの嵐は、災厄を見事にばらまいた。
 自分以外の誰かに七割のウイルスをばらまいたおかげで、
 ブラック・ジャックを含む多くの生物が被害に遭わされる。
 だが三割は残る。殺人ウイルスが一割でもあればアウトだ。
 何ら意味はなく、無差別にウイルスをばらまくだけに留まった。
 彼が人としての形すらなくなった後、街は静けさを取り戻す。
 周囲の生物が一気に死滅した中、声と共に足音が響いた。
 頭の中で告げてくる。違う…彼女じゃない。そう現実逃避したくなる警鐘。
 嘘だと言ってほしい。だって、

「…なんで?」

 目の前で仲間を殺したのは。
 余りにも無惨な方法で消し去ったのは。
 傍で凶悪な傍に立つ者を従えているのは。

「樋口…?」

 殺人と言う道に一歩踏み出してしまったのに、
 何食わぬ顔でいた自分の友人だったのだから。
 夜明けを迎えつつある空の下。
 蟲毒の物語はまだ続く───

【コラッタ/ラッタ@ポケットモンスター サン・ムーン】 死亡
【伊藤誠@SchoolDays】 死亡
【残り 35/41】

【D-3/商店街/一日目・早朝】

【浅倉透@アイドルマスター シャイニーカラーズ】
[状態]:疲労(中)、左手小指切断(ブラック・ジャックのスタンドによる切断、縫合、止血済み)、困惑
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[スタンド]:スティッキィ・フィンガーズ
[思考・状況]基本行動方針:生きて帰る。(noctchillのメンバー全員を含めて)
1:樋口…?
2:ブラック・ジャックと廃病院へ向かう。
3:noctchillの皆と合流したい。
[備考]
※参戦時期、基プロデュース時期は共通コミュ「ていうか、思い込んでた」中、
 日誌に「旅に出ます」と書く前。
※「夢」だと思っていたスプラッタが現実であることを理解した。
 名簿を確認して「noctchill」全員がいることを知りました。
※ブラック・ジャックに興味が湧いてます。
※小指がないため左手の握力が落ちてます。

【ブラック・ジャック@ブラック・ジャック】
[状態]:疲労(中)、右手欠損(自分のスタンドで縫合済み)、顔面打撲
[装備]:なし
[道具]:なし
[スタンド]:スティッキィ・フィンガーズ
[思考・状況]基本行動方針:負傷者を(契約書を書かせて)手当てしつつ、脱出を目指す。
1:彼女はまさか…?
2:医療器具類を取得するため、廃病院へ透と向かう。
3:キリコに出会ったら協力を持ちかける(互いに生きて帰るために)
[備考]
※参戦時期は原作からして曖昧なので具体的には決まっていません。
※名簿を確認して「キリコ」が会場にいることを知りました。
※透と同じ「スタンド」であることから、他にも同じ能力のスタンドが支給されている可能性もあると考慮してます。
※透については「アイドル」であることは知りましたが、特に感情は持ち合わせていません
※誠達とも異なる年代の人間であることには気づいていません。
※彼の死亡と同時に浅倉の指の止血も戻ります。

※お互いにジッパーを使った遠距離攻撃、
 ジッパーを用いた高速移動、地面に潜るを覚えました

【樋口円香@アイドルマスター シャイニーカラーズ】
[状態]:疲労(小)、静かな怒り(大)、
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[スタンド]:パープル・ヘイズ・ディストーション ※ウイルス入りのカプセル11/12(使用箇所:右手『2』)
[思考・状況]基本行動方針:noctchill以外の参加者全員SK(すべからく狩りつくす)
1:見つけた…透。
2:noctchillの誰か(できたら浅倉)と合流したい。
3:次、英治に出会ったら問答無用に殺す。
4:noctchill以外の参加は躊躇なくSK…たとえ他のアイドルに出会っても。
備考
※サバイバーの影響を受け、行動と思考が過激になってます
※遠野英治の会話から「白井黒子」の名は深く印象に残ってます…SK対象だが
※「殺し合い」に一歩踏み出した
※ウイルス入りのカプセルの回復が一日かどうかは、
 後続の書き手にお任せします

※D-3商店街の一部のものが溶解してます。
 商店街のトラサルディーの店内に溶解した伊藤誠の肉片、
 冷凍庫に浅倉透の小指が入っています、
 折り畳みナイフの刺さったラッタの死体、伊藤誠の服、
 多数の生物の死骸、未開封のネズミ駆除用ゼリーが数個あります

※コラッタの死亡によってラットの毒を受けた上述の部分、
 及び杉元佐一の毒の侵攻が止まるかどうかは後続の書き手にお任せします