「まったく、ひどい目にあったぞ…」
不貞腐れ気味に、椅子に座って頬杖をつく杉元。
先程まで肘を乗せてる机によじ登ろうとしていた机は、今や自分の体格に合ったものだ。
よもや、スタンドのせいで自分だけがおかしくなっていたとは、思いもしなかった。
体格が戻れば蜘蛛も相手にはならない。すぐに追い払って休んで、今に至る。
机も埃も、何もかもが普通レベルのサイズ。無駄に消耗した体力を回復していた。、
ついでに、道具を確認しつつ名簿に目を通そうとカーテンを閉めてから電気をつける。
(白石の奴もいるが、よくわかんねえのもいるな。)
神父がかき集めた自身を含む四十一名の名前。
日本人は多いものの、あだ名のようなもいくつかある。
白石の名前もあるようだが『いたのか』程度の認識に思えてしまう。
扱いがぞんざいだが、大体白石の扱いは彼らの間ではそれが共通認識に近い。
(と言っても、ほっとくわけにもいかねえか。)
猛者揃いの杉元一味の中でも、最弱筆頭なのは白石だ。
肝心なとき以外は役に立たず、面倒事と言えば彼のせいなんてこともある。
事実、一度彼が捕まった時は殆どが『白石だしな』で見捨てられる程に戦力外。
それでも見捨てないのが杉元と言う男なのだが。
いくらスタンドがあっても、白石一人だとあっさり死にそうだ。
何より、あんな神父の言葉真に受ける男でもないだろうから、
少なくとも信用できると言う意味では、一つのアドバンテージか。
(となれば白石がいそうな場所…刑務所はないか。)
脱獄王が態々刑務所へ行くかと言われたら、ない。
いたとしても、早々に出て何処かへ行ってるだろう。
あいつのことだから、どうせこの場からの脱出一択のはず。
その経歴上目聡い男だ。手掛かりになりそうな場所に向かうのが定石。
となれば、一番気になるところがあるとするならば、北にある謎の施設。
灯台等一部目立った施設が記載されている割に、そこには何も記されてない。
何も書かず、しかし意味ありげに『???』と表記される場所…ではあるのだが、
(いや、開始早々はないな。)
目立つが、逆だ。これはあからさまに目立ちすぎていた。
何かがあると向かう考えをするのは、自分だけではないはず。
無論、殺し合いに積極的な奴だって待ち伏せ目当ての可能性もある。
そんな危険がひしめく可能性が高い場所を、一人で行くとはあまり思えない。
せめて自分や、戦力にたりうる人物と一緒に向かう方が白石らしくもあった。
となれば白石のことだ。安全な場所から人を見て、そこから接触していく。
スタンドのできることによって、この辺は色々否定されたり探しにくいが、
地図的に人が寄る場所で、安全に確認できる場所…主にビルや学校の二つ。
現在地はD-6。どちらも目立つ施設だけあって、今いる場所からでも確認はできる。
土地勘がなくても迷うことはないだろうし、リトル・フィートは小さくなれる。
参加者との接触の際も、敵か味方かを気付かれない状態で確認できる可能性は高い。
状況確認と方針は決まった。一先ず行動を開始しようと席を立つ。
「ん?」
先程埃を探してた箪笥の隅から物音がする。
犬や蜘蛛がいるのだから、別に何かいても不思議ではない。
事実出てきたのは、家庭のどこにいてもおかしくはないネズミだ。
いてほしくない、とも言うが。
「ネズミか? 随分珍しい髭だな。」
普通、ネズミの髭は猫のような細長いものだが、
箪笥から出てきたネズミは、双葉のような髭を持つ。
元々殺し合いの場所に選ばれた場所、こういうのも環境の変化でいるのだろう。
なんて思いながら見てたが、すぐにこれがただのネズミじゃないと気付かされた。
「!?」
突然杉元を見ると、鋭い眼差しを向けると同時に砲台が現れる。
普通ではありえないことだが、それをありえることにする要素。
それがスタンドあり、この砲台───ラットこそがコラッタのスタンドだ。
「このネズミ、スタンドを持っていやがる!?」
こいつも参加者と言うことに気づいて警戒と同時、
装填から間もなく銃声とともに放たれる一発の弾丸。
弾速は速いと言えば早いが、此処にいる男は実物の弾丸と戦った杉元。
銃口を見て避ける動作を既に済ませており、特に何事もなく躱して弾丸は壁を穿つ。
「クソッ!! 話し合い以前の問題だろうが!!」
相手が人なら、和解だって相手次第で十分あり得ただろう。
しかし、相手がネズミでは言葉が通じない以上無駄だなこと。
ある意味、殺し合いを円滑にするために神父が用意した潤滑剤の類か。
確かに最適だ。殺すか殺されるかの選択肢を迫らせてきやがる。
たとえ人間でなくとも、こんなのがいたら早く終わらせて逃げたくもなる。
恐怖をばらまくための存在。此処で倒さなければならない存在…なのだが。
「って、銃剣ないんだけど!?」
肝心なことに今更気付いた。
普段からずっと使ってた銃剣が何故かない。
あれだけトラブルに見舞われたと言う問題はあれど、
デイパックを確認していたのに、今になって気付く。
武器類は参加者問わず没収。無論、銃剣は武器である。
的は小さく、正直得たばかりのスタンドの攻撃で狙うのは難しい。
…銃剣も似たようなものだが、銃剣の剣の方は慣れてるのでましだ。(銃は論外)
仕方がなく、リトル・フィートの人差し指の伸びた爪をナイフのように横なぎに振るう。
まだ使い慣れてない割にはキレのある動きだが、やはり的が小さくジャンプして避けられる。
そのままリトル・フィートの腕を伝って一気に肉薄し、鍛えられた顎から繰り出すはいかりのまえば。
ヤングースやトレーナーから逃げる、或いは倒す為にはこれで体力を大きく削るのがコラッタのやり方だ。
肩まで到達し、そのまま跳躍で一気に飛び込んでその牙を輝かせ、肩へと噛みつく。
「…こういう使い方、ってのもあるんだな。」
コラッタからすればちいさくなるか。
杉元が物凄い勢いで頭一つ分小さくなる。
リトル・フィートの能力で縮むことで、簡単に回避成功。
攻撃は完全に外れ、空中にその身を出した状態で完全な無防備になる。
コラッタは小柄。たとえ小さな傷でも命取りになりかねない。
スタンドも縮んだ状態だが、傷を与えるには十分な大きさだ。
右手の長い爪は、銃剣の突きのごとく下からコラッタへと突かれた。
回避不可能、勝負あり。
杉元もそう思えたが、確信を得た瞬間こそ慢心。警戒は怠らなかった。
その警戒は正しい判断だ。アローラのコラッタはただのネズミではない。
ヤングースは昼にしか活動しないことから夜行性へと環境を変える知恵は、
スタンド使いになったことで、動物とは思えないような行動を取る程成長をしている。
その証拠に、避けられないとでも言いたげな表情だったのが急に変貌し、
まるでトレーナーの指示を受けたかのように空中で身を翻して、攻撃を華麗に回避。
刃はかすりもしない。かすらなければリトル・フィートの効果も発動しないし、致命傷もない。
その上、身を翻しながらそのままラットを出して、弾丸を杉元へと一発放つ。
スタンドでの攻撃ならスタンドに攻撃すれば、ダメージがそのままフィードバックされる。
スタンド使いの常識だが、当然ながらそんな常識をプッチはお互いに教えてくれなかった。
なので、コラッタはスタンドに当てる命中率よりも、致命傷を優先して杉元の眼球を狙う。
「やべえ!」
このままだと眼球に到達してしまう。
開始早々で喪うわけには行かない部分だ。
警戒を怠らなかったことで、咄嗟に左手の甲で弾丸を受け止める。
「イッ…!」
のこぎりのようなギザギザの弾丸で、見た目通り刺されば痛い。
弾は見た目の割に肉は抉れず、眼球との対価としてはかなり安いものだ。
ダメージを受けながらもコラッタを目で追うが、
静かな住宅街に響く、窓ガラスの破れる音。
コラッタは反撃と同時にスタンドを足場にしながら、更に飛んでいた。
最初に杉元が向かおうとしていた机へと降りて、即座に窓ガラスをぶち破る。
そう、まさかの逃亡だ。
「な、逃げるのかよ!?」
あんだけ殺意を煮込んだようなどす黒い眼差しをしてたのに、
まさかの逃走を図るとは思いもせず、杉元はカーテンに手をかけるも外は闇。
此処は明かりでよく見えるからまだいいものの、相手の姿は暗い色合いに小柄。
街灯など明るくはあるが、この闇の中30cm程度の小動物……探せたものではなかった。
しかも此処は殺し合いの場だ。鼠だけに気を付けてたら背後からズガン、なんてのもある。
一先ず止血だけでもしておこう、そう思って左腕を見て自分が深刻な状態に陥ってるのだと気づく。
「なんじゃこりゃあああああ!?」
左手が煮凝りのようなドロドロの状態で溶けていた。
余りの異常事態に、死んだ魚のような目とともに叫ぶ。
爪は二、三本剥がれて床へと落ちて、とても見るに堪えないような状態だが、
そのわりには痛みはなく、出血は(恐らくだが)軽いものだ。
「え、何これ!? 溶けてる!? 全然痛くないんだけど!?」
いや、寧ろろくな痛みもないまま起きているこの状況の方が逆に怖い。
まさかと思って最初に避けた弾丸を受けた壁を見れば、同じような症状が起きている。
弾丸に毒のようなものがあるとすぐに気づき、素手で触れずに抜けるものを探す。
近くに見つけた鋏で弾丸を挟むと、すぐに引き抜いてゴミ箱へと鋏ごと投げ捨てる。
中を覗けば、ちょっぴりだが鋏が溶けており、こんなものを受けたのかと汗が噴き出す。
幸い、今すぐ死ぬことはなさそうではあるが、毒ならば受けたこと自体がまずいのだ。
初見であった以上、気づけなかったのは仕方のないことではあるが、問題はそれだけにあらず。
(冗談じゃあないぞ。あんなの生かしたまま外へやっちまったのかよ!?)
出て行った窓を見やりながら杉元は焦る。
毒を与えて後は死ぬまでほっといて逃げればいい。
だからこそ、あのネズミもすぐに逃げたのだとわかる。
攻撃して後退する。戦場でもよくある戦術の一つだが、
それをネズミがこんなに容赦ない手段でしてくると誰が思うか。
しかも追いかけようにも、迂闊に外へ出ればあいつの独壇場。
下手に動けないし、かといってこのままだと毒が回って死ぬかもしれない。
悪循環に苛まれながら、一先ず窓からは出ないで玄関へと向かう。
待ち伏せからの狙撃。あの砲台ならできてしまうので、無難な行動だ。
追いかけるのは難しいが、他の参加者にこのことを知らせることぐらいはできる。
…生傷だらけの軍服に左腕溶解の男なんて、相手にいい印象を与えるかどうかは別として。
(これ医者に見せれば治せる…か?)
煮凝りのような左手をしかめ面で見やる。
スタンドの毒って医者が治せるものなのか。
正直気になるが、もし治せないと言われたらどうするべきだ。
見たところ進行は緩やかで、毒が回ってる箇所も、恐らく見た目通りだろう。
しかし緩やかなだけで、放って置けばいずれ全身がぐずぐずになるかもしれない。
最悪、腕を切り落とさなければならなくなるだろう。
死ぬよりはましだが、開幕喪うには痛すぎる。
何か対策が分かるまではしない方がいいと決めて、一先ずやめておく。
あんな当たれば負け確定のスタンドあったら勝負にならないだろ。
とは思うが、神父が意図して組み込んだ参加者の可能性が高い存在。
だからこそあんな危険で容赦のないスタンドを渡したのだと思える。
家を出る直前。
せめて何かしら弾丸を防ぐものや武器になりうるものを持っておくべきだと、
杉元は家主には申し訳ないと思いつつも、台所を調べる。
(にしても、なんか技術が発展してるな。)
杉元は日露戦争、つまりは明治末期の人間だ。
未来の日本の台所なんてものは、当然知るはずがなく、
百年以上を経て様変わりした台所で物資調達を始めた。
【D-6 民家の台所/未明】
【杉元佐一@ゴールデンカムイ】
[状態]:左手溶解(痛みなし)、ラットの毒(現在影響は左手のみ)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[スタンド]:リトル・フィート
[思考・状況]基本行動方針:必要以上の殺し合いはしない。危険な奴は別
1:あのネズミ(コラッタ)を追う。放っておけば犠牲者が増える
2:この腕どうするよ…? けど切り落とすのも…暫く様子見
3:白石を見つける為、ビルか学校へ向かう。
4:↑の目的を終えたら、A-6に向かってみる。
5:台所で防ぐ手段(薄い板とか)を探しておく。後武器になるもの。
[備考]
・参戦時期は少なくとも白石が捕縛された以降です(具体的なものは後続におまかせします)
・ラットの毒に侵されました。縮んだ時に受けたせいで、左手は既に原形を留めていません
毒の進みはかなり緩やかで今なら二の腕まで切断すれば、全身に到達はないかもしれません
・ネズミ(コラッタ)をプッチが用意した刺客、或いは優遇させた相手と思ってます
・リトル・フィートの制限は後続の書き手にお任せします
・台所から何を持っていくかは後続の方にお任せします(ただ防具になるものは最低限複数)
窓から逃げおおせた後、コラッタは歩道の植え込みへと身を隠す。
植え込みの奥にはデイパック…と、それに入るはずの基本支給品が転がっている。
コラッタの体躯で人のデイパックなど、当然持てるはずがないのだ。
だからか、支給品となるものは散乱した状態で渡されている。
もっとも、渡されても水と食料以外に彼に必要なものはないのだが。
人を想定して用意された地図と言ったものもまた、使えるはずがなく。
コラッタは思う。今回は勝てたがスタンド能力を計算に入れていなかった。
自分が同じように特殊な力を得たように、相手も同じ特殊な力を持っている。
能力の強さを過信し、相手の能力を見誤ったと言うのは大きなミスだと。
何より、それを扱う人間(杉元)の判断能力によって隙を晒しかけてしまったのだ。
今回は相手の決定打が右手だけなのと、咄嗟に閃いたおかげで勝てただけに過ぎなかった。
勝つために必要なこと。それは、負ける要素を減らすこと。
ポケモンバトルも同じだ。ゴーストタイプにノーマルタイプでは歯が立たない。
ならばあくタイプを得ればいい。そうすることでゴーストタイプの弱点を突きつつ、
此方はゴーストタイプの攻撃を受け付けることは決してない。弱点を減らすとはこういうことだ。
隙を晒さず、虫や鳥ポケモンが持つとんぼがえりのごとく攻撃しては逃げていく、まさにヒット&アウェイ。
卑怯? 外道? そんなもの関係ない。この世は所詮弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ。
コラッタにとってこれはただの殺し合いではない。同胞の想いも背負った、コラッタの存亡を賭けた戦いだ。
そんなちっぽけなプライド、暴食のマングースに食わせてやればいいッ!
このネズミはそう思っている!
スタンドにより、著しく成長を遂げているコラッタだが、
そのスタンドの毒が、人体に与える影響が思いのほか弱いのをまだ理解してない。
先ほど聞こえた杉元の絶叫も、毒のダメージによる悲鳴としか認識していなかった。
ラットの毒は確かに厄介だが、この殺し合いにはその進行を止められる綺麗に切断が可能なスタンドや、
そもそも毒すらも無力化して治す、本来の持ち主のネズミを倒したスタンドが、意外と多かったりする。
【D-6 歩道の植え込み/未明】
【コラッタ@ポケットモンスター サン・ムーン】
[状態]:窓ガラスによる裂傷(軽微)
[装備]:なし
[道具]:なし
[スタンド]:ラット
[思考・状況]基本行動方針:コラッタの楽園の為に、皆殺し
1:ヒット&アウェイ。プライドはヤングースに食わせた
2:相手人間の判断能力を計算に入れて、行動する。
3:敵スタンドの能力を見極めろ。
[備考]
・技はひっさつまえば、かみくだく、ふいうち、いかりのまえばですが、とくせいは不明です
技構成の都合、既にラッタに進化が可能です。何かきっかけ、或いは本人の気持ち次第で進化します
ただし、コラッタの進化条件は夜でしか発生しないため、朝になると夜まで進化ができなくなります
・スタンド能力を得たことで知能が向上してます。コラッタではしないような行動もするかもしれません
・スタンドの説明書は読んで(読めない?)ませんが、殆ど本能で理解しています
・人間(杉元)は殺したと勘違いしています
・杉元との戦いで成長して新しい技、或いは一度に複数ラットの弾丸を撃てることを覚えたかもしれません
レベルアップ、或いはラッタの進化次第でラットも強化が起きるかもしれません
・ラットの制限は後続の方にお任せしますが、
少なくとも一発の毒で今すぐ致命的なレベルには至りません
また、コラッタが死亡した場合、毒の進行が解除されるのかも不明です
・D-6民家の窓ガラスが割れ、ついでに杉元の絶叫がありました
もしかしたら周辺に聞こえてるかもしれません
・D-6の歩道の植え込みに、コラッタの基本支給品が散らばってます
暗がりと茂みの中なので、気付きにくい状態にあります
デイパックもありますが、中身は空です