明日を迎えに行こう

Last-modified: 2021-12-08 (水) 06:38:51

 昭和に、白鳥由栄と言う『脱獄王』と呼ばれる男がいた。
 約七十年と言うの生涯の中で、四回も脱獄に成功している。
 一日に百二十キロと言う、とんでもない距離を走る脚力、
 手錠の鎖をちぎる腕力と、人間離れした能力を有していた。

 

「おいおい、神父様のすることかよ。」

 

 ベッドや洗面所との最低限のものだけが置かれ、
 鉄格子によって出ることが叶わない、狭苦しい一室。
 誰が見ても、これは牢屋だと言うことが、中にいる彼でも理解できた。
 紫の半纏を羽織った、坊主頭の男は呆れ気味に記憶に残った神父を野次る。
 一方で牢屋へと飛ばすと言う発想については、よく分かってる男とも思えた。
 仮にも脱獄王と呼ばれた男だ。もっとも、昭和ではなく明治の脱獄王だが。

「金塊どころの問題じゃあ、ねえよなこれは。」

 彼、白石由竹はただの脱獄囚ではない。
 アイヌから金塊を奪ったのっぺら坊によって、
 金塊のありかを示す入れ墨を掘られた入れ墨囚人の一人。
 彼もその金塊に肖ろうと金塊を求める杉元達に協力してたところ、
 そんなことを言っている場合ではない常軌を逸してる今に至っている。
 仲間の一人に神秘的な能力を用いた人がいたので飲み込みは多少はあったが、
 やはり此処まで大掛かりなことができる奴がいることには、驚かされた。

(こういう戦いは基本杉元の役割だぞ? なんで俺なんだ?)

 白石は脱獄囚と響きは恐ろしいが、戦闘能力は貧弱極まりない。
 殺し合いで勝ち抜くなんてできるとは思ってないし、素直に逃げの一手を選ぶ。
 正面戦闘するよりは、金塊を狙った方がよっぽど生き延びられるというものだ。
 特に戦力は杉元含め手練ればかりを思うと、一人の今と比べれば圧倒的に差が出る。
 ならば、頭を爆破されるのを何とかしなければならない。

「こんなところじゃ情報は集まらねえし、とっとと出るか。」

 となれば、情報が必要になるのは必然。
 白石にとって情報というものはかなり大事なものだ。
 脱獄できるのは、目聡く施設や警備の穴を知ってるからこそでもある。
 杉元一味では情報収集以外では役に立たないので弄られることも多いが、
 彼が提供した情報が役に立たなかった、と言う展開は殆どないのが証拠だ。
 こんな牢屋にいても人が来るとは思えないし、いつものごとく脱獄の道具を探す。
 この程度の牢獄なら、針金で弄れば簡単に出られるのが彼の見立てなのだが───

「あれ?」

 ない。
 針金を隠したはずの場所に針金がなかった。
 いやな予感がして、全部の小道具を探すが、ない。
 喉の奥と言う普通考えない場所にさえスッカラカンだ。
 原因はどう考えても、あの神父だろうことはすぐに気づいた。
 脱獄道具にはカミソリや釘等の凶器もあることを考えれば、
 ある意味没収は必然ではあるのだが、問題はそこではない。
 このままでは此処から脱出することができない。そしてそれは死を意味する。
 禁止エリアに居座り続けると頭が爆発してしまう、と言うこの場の一番の危険。
 神父は発言から円滑に進めるつもりだ。となれば、禁止エリアは確実に増えるはず。
 では、神父は何処を重点的に禁止エリアとしていくか? 答えは決まっている。
 ろくに動かず穴熊、或いは籠城を決めて行動してないやつ、即ち今の白石。

(普通にまずい状況じゃねえか!?)

 事の深刻さに改めて気づき、焦りだす白石。
 得意の関節を弄るのも、今の目の前の牢屋では全く通用しない。
 冗談交じりに力押し。当然だが無理だ。この男にそんな力はないのだ。
 彼の焦りを音にしたように、ガシャガシャと喚くだけで、何も変わらず。
 と言うより、そんな力があれば小細工による脱獄はしないだろう。
 此処で白石の取れる選択肢は三つ。

 一つ、伊達男の白石は突如脱獄方法を思いつく。
 二つ、仲間と言うか、誰かが助けに来てくれる。
 三つ、脱獄できない。現実は非情である。

 はっきり言って、この状況で二番を選ぶことはないだろう。
 此処は殺し合いの場だ。勝手に死んでくれる相手に手を伸ばすのは、
 見捨てないであろう杉元達か、あるいは単純に善人ぐらいだ。
 非協力的な人物もいるらしいから可能性自体はありえなくもないが、
 やはり殺し合いに乗らない奴が来ると言う希望的観測を持ってはいけない。
 選ぶのは一番。どれか一つぐらい残されてるだろうと、再び確認を始める。
 慈悲の一つぐらいあるだろうと思うも、全身くまなく探して、結果はなし。
 答えは一つ、三…現実は非情なり。殺し合いを要求する時点で相手は無慈悲。
 …に見せかけて、一つだけ救いの手段があった。

「そうだ、スタンドだ!」

 スタンド。それが何かは分からないが、
 説明によると精神的なものなのは言葉から察している。
 試しにスタンドが出るように念じれば、すぐに目の前に出てきた。
 出てきたのは白石同様に、人のように手足があるスタンドだ。
 右手の人差し指の爪だけ異様に長く、姿は何処か絡繰りめいた無機物感がある。
 動くように念じてみれば思いのほか動くし、牢屋もすり抜けてしまう。
 物理干渉も可能だと判明し、殴っても反動がないことを確認すると、
 すぐさま折に向かって拳のラッシュを叩きこむ。

「よし、これで脱出…」

 拳の速度は中々に早く、これなら楽勝だと思った白石。
 だが、よく見みると鉄格子は悲鳴をあげていても拉げてない。原形は保ったまま。
 多少歪んでるので続ければいいのだろうが、時間はかなりかかる。
 こういう脱獄するときに限って白石は頭の回転がよいのもあり、
 スタンドを使い続けると疲れると理解しながら一度消し、
 もう一度神父の言葉を振り返った。

「スタンドには戦い以外に得手不得手もあるって言ってたな。
 円滑に進めるってんなら、使い方の一つや二つあるはずだよな?」

 と言うかあってくれ頼む。
 もはや縋るに等しいが、彼の願いは届かのように、
 デイバックの中から出てきた、短冊のような紙が一枚。
 説明書かと思って手に取ってを読み終えると、白石の口角が吊り上がった。

 牢屋の外。デイバックを持った白石が自分がいた場所を見やる。
 まるで白石がそのまま通り抜けたかのように、現場の状態は何も変わってない。
 いや、実際に彼は通り抜けた。この細い鉄格子の隙間を、悠々と歩きながら。

「こいつぁ最高にいいもんだぞ!」

 彼に与えられたスタンドは、リトル・フィート。
 自他無機物含めて小さくさせる能力を持っていた。
 鉄格子に触れないほどに縮むことも可能で、物も縮められるこの能力。
 脱出できた喜びもあるが彼が喜ばしいのは、それが些細なことと思える程にこの先の事だ。

「これならやりたい放題じゃあねえか!」

 小さくなれる。つまりどんな牢獄だろうと抜け出せてしまう。
 鉄格子も、警備も、鍵も何もかもが無意味になるこの能力。
 それどころか、盗みも容易く行えてしまうものだ。
 脱獄の為、小細工を弛まぬ努力をする男ではあるが、
 楽して解決できる方が白石の性にあっているというもの。
 そうでなければ、博打にはまる遊び人ではないだろう。
 この能力をくれた神父には、寧ろ感謝するべきとさえ思えた。
 喜びの余り、子供のようにはしゃいでいるが冷静になって考える。
 普通に殺し合いでも通用する便利なものなのでは? と。

 殺し合いで生き残るにしても、殺すにしても間違いなく使える部類だ。
 小さくなれば暗殺もできる。相手を縮めれば一方的な攻撃もできる。
 武器を運ぶにしても嵩張らない、実に便利な能力。

「…けど、殺し合いは遠慮しとくか。」

 それでも、殺し合いはリスクが大きすぎる。
 小さいと短距離を歩くだけでも時間がかかるし、
 スタンド本体の純粋な戦闘能力も、余り得意とは言えないだろう。
 参加者には、戦闘の経験がある杉元や尾形のような人物もいるはず。
 相手もスタンドと言う対等な立場で、この場合非力なのは間違いなく此方側。
 結局その差を埋めれず、スタンド次第で余計に差が開いてる可能性だってある。
 願いも、はっきり言ってこのスタンドがあれば別に欲しい願いなんて彼にはない。
 金にも酒にも、脱獄の時でさえ困らない能力であることを考えれば必然だ。
 ならばやるべきことは一つ。たった一つのシンプルな思想。
 脱獄あるのみ。

 此処はある意味、地上の牢獄。
 脱出も、易々とさせてはくれないだろう。
 しかし此処にいるのは、昭和の脱獄王以上に脱獄した明治の脱獄王だ。
 何処であろうと、牢獄で彼を縛り付けることはできない。

【名前】白石 由竹
【出典】ゴールデンカムイ
【性別】男性
【人物背景】
脱獄王と呼ばれる、上半身に金塊の在処を示した入れ墨を持った脱獄囚の一人
シスター宮沢と言う同房が描いた女性に恋し、探すために服役しては脱獄してを繰り返し、
元は強盗と泥棒の刑期だった筈が、脱獄による罪の方が重くなるほどの脱獄を繰り返した
(なお後にこのシスターには出会えたが……詳細については原作を参照されたし)
網走脱獄後、アシリパの取引によって金塊の分け前で杉元一味と行動を共にするようになる
博打、酒、女が好きな典型的遊び人で、脱獄するとき以外はドジで調子に乗るタイプ
戦闘能力も一味の中ではかなり低い等で、基本役に立たないと言うのが共通認識
サバイバルにも弱い。冬の北海道であんな恰好でいる辺り意識の低さが伺える
もっとも、一味の能力自体が作中でもかなりの手練れ揃いか知識豊富であり、
彼らと比べるのは、流石に酷というものだが

【能力・技能】
・明治の脱獄王
生まれつき関節が柔らかく、手先が器用で観察眼も鋭い
また脱獄の際には小細工もしっかりしており、喉の奥やら歯の隙間やら、
身体の至る所に脱獄に使えそうな小道具を仕込んでいる
なお、あくまで脱獄、脱出に関して発揮する能力であるので、
捕まるときは物凄く単純だったり、間抜けなことが殆ど
小道具には凶器たりうるものも多いので没収
後、脱獄は一人でするのが信条

・情報通
脱獄できる能力に加えて、
コミュニケーション能力は杉元一味でも一番
本人の遊び人気質もあってか、いろんなところで情報を得られる
白石が杉元一味で役に立てる、数少ない能力

・動物に好かれない
理由は不明だがあまり動物に好かれない
と言うよりは、関わった動物に基本頭を齧られる
多分ここでも齧られるだろう。白石だし

【スタンド】リトル・フィート
【破壊力:D スピード:B 射程距離:E 持続力:A 精密動作性:D 成長性:C】
【能力詳細】
右手の人差し指に長い刃のついた、人型のスタンド。どこかロボットに見える
刃で切られた相手は時間はかかるが、際限なく縮んでいく(身に着けた物も一緒に縮む)
元のサイズに戻すのは一瞬で、言い換えれば一瞬でも意識を失うと元に戻ってしまう
小さくなると体重やそれに伴うパワーだけでなく、敵スタンド自体の力も落ちていく
元に戻る際は瞬発力が発生し、その衝撃で飛んだりと、できることは多い
小さくなるのは自分や非生物も可能な上に、これらは即座に縮む(秒でポケットに入るレベル)
弱点として、縮むとパワーが落ちるのはこっちも同じで普段気にしないレベルの小動物も危険に
破壊力は低いが、その割に小さい状態でタイヤを破裂させることができる程度に強い
スピードもエアロスミスの弾丸を無傷ではじく程度に素早い

縮んで隠れるだけで逃げには余りに強すぎるので、
自分を長時間縮め続けると強制的に戻される制限あり

【備考】
参戦時期は少なくともインカラマッに頼った競馬以降

【方針】
脱獄