ドラゴンと少女の物語 -第4幕 金色の追跡者- (107-724)

Last-modified: 2009-06-02 (火) 23:54:33

概要

作品名作者発表日保管日
ドラゴンと少女の物語 -第4幕 金色の追跡者-107-724、935氏09/03/2309/03/23

 

作品

【神の龍と聖なる少女。彼らの旅路に途中に出会いしは金色の女王。】
 
 
龍が自身の名を知る為に始めた旅。100年の時の先に1人の少女に出会った。
産まれた時も何もかも違う1匹と1人。それが世界を脅かす『闇』に関係するとは誰が思っただろうか。
白き子龍に出会い、そして赤橙と緑の使者と出会って、今龍の生まれた場所に帰ってきた。
そこで鉄の龍王に出会った。
龍王の導きに従い1匹と1人は龍王の記憶を遡り嘗て起こった『神龍と聖なる少女』の事を知る事になった。
 
〔ならお前さん達、この魔晶石に触れてみてくれ。〕
【これにか?】
「触れたら如何なるの?」
〔この中に全ての記憶を移してある。ワシが語ってやるよりも理解しやすいだろうて。〕
【・・・如何する?】
「・・・やるしかないでしょ?その為にここまで来たんだから。」
【そうだな じゃぁやるか】
「うん。」
 
意を決して、龍と少女は魔晶石に触れた。
その瞬間、龍と少女の頭の中に膨大な記憶が流れ込んできた。
遥かなる悠久の時を生きる龍王の記憶。その中でも深く重くそして哀しみに彩られた記憶。
 
遥か昔、人の作り出した強大な国家が存在した。
その国は絶大な魔力をもって成り立ちこの世の全てを支配せんが如く強大に膨れ上がった。
その中心地。天空に浮かぶ中央都市にてある事件がおきた。
人の領分を超え世界の根源に触れようと試みた一人の魔導師により『闇』が呼び起こされた。
『闇』は瞬く間に世界に広がり己が眷属を作っていった。
そして永きにわたる戦が始まった。人も獣も幻獣・魔獣、果ては神や魔王すらも巻き込み世界は
終わりに向かっているかの様であった。
そんな最中、西の都市・ザビュートに『闇』の軍勢が押し寄せた。この地にある魔晶石を狙ったのである。
戦いは7日間続いた、人の軍勢も龍も天使・悪魔も退け『闇』が魔晶石に触れんとした時、一筋の光明が舞い降りた。
その姿は白金に輝く龍の姿。そしてその頭上には蒼と白の衣を纏った少女の姿。
龍の咆哮が軍勢を薙ぎ払い、少女の力は『蒼き巨人』を形取り全てを薙ぎ払った。
形成不利と見た『闇』は魔力を暴走させこの都市を破壊した。しかし龍と少女の力によって皆無事に助け出された。
彼らが『神の龍と聖なる少女』であった。
 
彼らの元に何時しか仲間が集まっていった。そして彼らを中心に神も魔の一つになり『闇』に立ち向かった。
そして永き戦いの果てに遂に『闇』を天空都市に追い詰めた。
戦いは熾烈を極めた。その最中に神と魔王は移し身を失い世界に干渉する術を失った。また多くの種族が滅びていった。
その中にあって神龍と少女は戦い続けた遂に『闇』を捉えた。その瞬間『闇』は彼らを飲み込み朽ちようと足掻いた。
神龍は少女を逃すと自らの身を媒介にし『闇』の封印式を行なった。だが神龍の力をもってしても『闇』の封印は容易ではない。
少女もまたその持てる力を使い、そして共に旅した五大龍王の力を合わせて遂に封印に至った。
しかし、犠牲は大きかった。封印と引き換えに神龍の行方は途絶え又天空都市もその力を失い海の上に不時着した。
こうして多くの犠牲の末に『闇』は封じられた。多くの凱歌が世界中で鳴り響く中何時しか少女は姿を消していた。
まるで神龍も少女も世界を救う為だけに現れたかのように。そうして世界は平穏を取り戻した。
 
 
龍と少女は魔晶石から手を離した。
口伝や僅かなおとぎ話でしか伝えられていない『神の龍と聖なる少女』の物語。
言葉に表せばほんの一刻で終わるようなものかもしれない、しかし龍王の記憶と共にその時感た龍王の心も1匹と1人には流れ込んできた。
共の旅した龍王だけが知り得た語られない物語。神龍と少女は種族を超え愛し合っていた。
その結末は永劫の別れである。
何時もその手の事には鈍感な龍でさえその哀しみを知ることが出来た。ましてや少女に至ってはその姿を自分と龍に重ねずにはいられなかった。
 
「・・・ひくっ・・・くっ・・・・・・ぐすっ・・・・・・」
【・・・・・・ハルヒ ・・・泣いてるのか】
「・・・うるさい、・・・・・・だって神龍とあの娘、あんなに愛し合ってたのに。・・・なんであんな別れ方しないといけないのよ。」
【・・・そうだな】
〔・・・娘さんよ。確かにあの時もワシらはそう思った。他にも多くの犠牲を払った、彼らだけが特別でもないと思いもした。〕
「な!お爺ちゃんそんな言い方。」
〔それでもワシらは諦めきれんかった。世界の為に犠牲になる?どんな大義名分があってもワシらは彼らが幸せに成る事を願っていた。世界を救う一番の功労者が何で一番の報いを受けないのといけないのかとな。そして調べた結果分かったことがあった。〕
【・・・何が分かったんだ?】
〔神龍は死んでおらんかった。その身を媒介にしたとはいえ魂は死んでおらんかった。じゃから神龍は何処かで生きておるんじゃ。〕
「え?じゃぁあの後2人は再会できたのね!」
〔・・・いいや。残念じゃがそうはいかんかった。少女はその事を知って直ぐ姿を消したんじゃ。そしてワシらも神龍の居所を最後まで突き止める事は出来なかった。〕
「・・・そんな。」
【で?俺の名前の件は?何処にいるかもわからね~なら意味ないだろ】
「ちょっとキョン!アンタね!」
〔聞け。見つけは出来なかったが一つ分ったことがあった。それは神龍が何れまた世界に現れることがな。」
【本当か】
〔そしてそれが今から100年程前になる。よってお前さんに旅をしてみろと言ったんじゃ。もしかしたら偶然出会うかもしれんじゃろ?」
【って偶然かよ!】
〔それにな娘さん。〕
「何?お爺ちゃん。」
〔ワシらもあの少女が死んだと感じておらんのじゃ。あの後刻の神が力を使うのを感じた。その後少女の姿を見ておらんのじゃ。〕
「それって、もしかして。」
〔そうじゃ、もしかしたら今の世で再び巡り合ってるかもしれんな。そして再び『闇』が目覚めようとしておる。だったら彼らも又。〕
【しかし それと俺達が何か関係あるのか?】
〔まだはっきりとはしておらんがな。お告げや予言。お前さん方はワシらにとっても重要なんじゃ。なんにせよワシがお前さん方に伝えたいことは大体伝えた。後はその目で確かめることじゃな。〕
【だから確かめるもなにも 何処に行けばいいんだよ】
「もう、キョン分からないの?」
【何が】
「最後に神龍が姿を消した場所。あの天空都市に行けばいいのよ。」
【だからそこは何処だって】
「あたしも知らないわよそんなの。」
【なら意味無いだろ】
〔天空都市は今は海上に浮かぶ巨大国家『央国』になっておる。〕
【・・・マジかよ あそこ行ったが散々な目にあったぞ】
「でもそこに行けばまた何か手掛かりが見つかるんでしょ?でも何で他の国の人はあそこに入れないの?」
〔そりゃ『アンセル』のせいじゃな。〕
「アンセル?」
【金龍王だな それが何かあるのか?】
〔やっこさん実は神龍に気があったんじゃ。しかし神龍には少女がおったから諦めとったんじゃが、あの事の後自ら封印の守番を買って出たんじゃ。少し思い込みが強い奴じゃったからな。もしかしたら封印を守る事を神龍を守る事と思っとるのかもしれんな。〕
【それでアンナ目にあうのは御免だ】
「でも金龍王って変ね~男が男に気があるなんて。」
〔ああ、言い忘れたが金龍王と嵐龍王は雌じゃよ。〕
「・・・あ、そうなんだ。」
【なんだ知らなかったのか?】
「誰も教えてくれなかったでしょ、もう。・・・でも1人の男を2人の女が取り合う・・・うわ~なんかドロドロね~。」
【神話をそんな目でみるな!】
 
嘗ての戦い。その戦いを終わらせる為に身を投じた神龍と聖なる少女。
彼らの伝説はいまは語り継ぐ者もいなくなったが、彼らの存在がこの世界を守り皆に生きる未来を作った。
そしてその果てで龍と少女は出会った。
これからの彼らに待つ受けるものは果たして如何なる試練であろうか。
しかし、龍も少女も感じていた2人ならきっと大丈夫だと。
口の悪く鈍感な龍でも、思いつきで行動し照れ屋な少女も、互いを必要としているのは実は分かっていた。
龍もあの態度も種族の違いから来るものを考えての行動であっても、それすらも超えられる物があると少女は確信していた。
そして龍と少女は一路『央国』を目指す事を決めた。この先にまつ自分達の運命に立ち向かうために。
そして待たせていた3匹の声を掛けた。
 
【・・・・・・何してるんだ?お前ら】
「・・・・・・何?その変なポーズ。」
(・・・いえ御二方が地龍王様の記憶を御覧になってる間暇だったもので。)
(・・・ちょっとゲームしてたんですよ~。負けたらクジを引いてそこに書いてあることをするんです~。)
(・・・最初はコイズミとアサヒナが対戦しアサヒナが勝利。その後私とアサヒナが勝負し結果ドロー。)
【・・・そうか理由は分かった で?そのポーズはなんだ?】
(・・・『ボディーがガラ空きだぜ』のポーズ。)
「ユキ~かっこ悪いからもう止めたら?」
(・・・分かったそうする。)
(それで如何だったんですか~?)
「うん、色々知る事が出来たわ。次の行き先も決まったしね。」
(ほう、でそれはどちらですか?)
【・・・『央国』だ こっからは海を越えた先だな】
(・・・あの~いいんですか~?)
「いいって何が?」
(・・・私が勝手に『央国』に入ったら最悪、氷龍種と色龍種の抗争になる可能性がある。)
「え?そうなの?・・・ちょっとそれは問題ね。」
【・・・うーん 爺何かないのか】
〔ワシに頼るな。まぁアンセルの奴に口聞き易い様に紹介状を渡そうかの。〕
【紹介状?】
〔ほれ、この『龍宝石』を持ってけ。これを見せれば門番やっとる連中も分かるじゃろ。〕
「あれ?それならあたし持ってるわ。」
〔ほう、なんじゃお主これをその娘に渡しとったのか。ふ~んそうか、そうじゃったか。〕
「な、なによ。」
【・・・もういいだろ爺!とっととそれ寄越せ!】
(あの~、それってどんな意味があるんですか~?)
 
以前龍が少女に渡していた希少な宝石。
少女は綺麗な宝石だと思っていただけだが龍達の反応を見て何か感じ取ったようであった。
これを相手に渡すという事は深い意味が含まれているのだ。
龍の態度からは最初は汲み取れなかったが今の反応を見ていると何かある様に見えた。
 
【・・・なんでも良いだろ さっさと行こうぜ】
〔うーん、確か若い地龍の間では求婚のサインじゃなかったかの。〕
【なわけあるか!】
〔違ったかの?〕
【全然違う!】
「じゃぁ何なのよ、教えなさいよキョン!」
【煩い!良いから行くぞ!】
「ちょっと待ちなさいよ!良いから聞かせなさい!」
 
何時も騒ぎをしながらその場を去る龍と少女。
その姿をみて3匹は微笑ましそうに見つめていた。
 
〔あやつら何時もあんな感じなのか?〕
(えぇ地龍王様。御二方は何時もあの調子ですよ。)
(何時も通りの御二人に戻ってよかったです~。)
(・・・何時も通り、呆れるほど仲がいい。)
〔・・・そうか、本当に神龍と聖なる少女に似ておるわい。お前さん方、ワシが言えた義理じゃないがあいつらを頼んだぞ。〕
(勿論です。)
(任せてください~。)
(・・・御意。確かに拝命した。)
 
それから地上におりて3日。一行は地龍達の群れにお邪魔し旅の疲れを癒した。
これから向かう『央国』。もっとも古き国。強大な力をもちながらもその実態は誰も知らない。
金龍王と魔導王が納める国。四大精霊の属性を有する『地』『水』『火』『風』の龍達と異なる
『色』を司る龍達が住まう大地。そこが一行の向かう先であった。
 
地龍達が住まう大地に一行が訪れて5日。彼らは再び旅支度を始めた。
次に目指す所はこの世で最も古い国『央国』。
その不可侵の大地に目指すべき者が居る『金龍王・アンセル』。
五大龍王の一柱にして最も謎多き龍王。嘗て神龍や聖なる少女と共に旅をし密かに神龍を慕っていた女王龍。
一行は迷宮を抜け『狂気の山脈』の外縁に出ていた。
又ここから旅が始まるのだ。
 
「…ねぇキョン。」
【…なんだハルヒ】
「もう一度聞くわ。あんた名前が分かったらその後如何すんの。」
【…そうだな】
 
少女が此処に入る前に龍に聞いた事。あの時は龍は少女との別れを思い冷たく突き放すような事を言った。
3匹をその事までは知りえなかったが今の龍と少女の遣り取りから此処に入る前に彼らに何があったか察しがついた。
3匹が見守るなか龍は口を開いた。
 
【名前が分かれば旅はそこで終わり それは最初から分かってる事だ】
「なっ、キョン
【でも その後又旅を始めるのも自由だ】
「え?それって…」
【名前を知る旅はそこで終わる その後は……お転婆娘の面倒見ながら見聞を広める旅をしてもいいだろうな】
「キョン!」
【特にそいつは目を離すと何を仕出かすか分からないからな 俺みたいなお目付け役がいないと世界が大変になっちまう】
「むぅ。ちょっとキョン?それって一体誰の事?」
【さ~て誰だろうな 少なくても龍の背中に乗っかって世界を旅しようなんて考える奴は普通じゃないよな】
「言ったわね、そんな事言う悪いドラゴンはこうしてやる!」
【ちょ!やめろ『逆鱗』を触るな!】
「なによ、ここが良いんでしょ。ウリウリ!」
【ちょ…おま…やめ…】
 
その龍と少女の遣り取りを見ながら3匹はそっと胸を撫で下ろした。
確かに自分達にはそれぞれ使命がありこの旅に加わった。そこには利害しかなかったかも知れない。
しかし今は違う。純粋に目の前にいる龍と少女の幸せを願っていた。
そうこうしてる内に少女が龍の背中からその肩へと移動した。
そして龍が見詰める先を見渡していた。
 
「…これがキョンが見てる世界なのね。」
【…お前が見てるのとなんも変わらないぞ】
「ううん、全然違うわ。…あたしは此れからもアンタが見てる世界を一緒に見ていきたい。感じていきたい。」
【…龍と生きるのは大変な事だぞ】
「構わないわ。只の人間には興味ないもの。あたしが必要なのはあたしの事を見てくれる奴。上辺じゃない本当のあたしを。」
【やれやれ 全く困った奴だな この先なにがあるか分からないがそれでも良いんだな?】
「勿論よ。だってキョンも一緒なんでしょ?」
【ああ無論だ】
「だったら世界の果てだろうと、そこが神界や天界、魔界や冥界でも大丈夫よ!うん何たってあたし達が揃えば向かうとこ敵なしなんだから!」
 
龍と少女。種族は違う1匹と1人。
その決して結ばれるはずの無い彼らを強く結びつけるものは一体なんなのであろうか。
もしかしたら神話の時代から定められた事なのかもしれない。その導きでこの時代に巡り合った魂。
彼らは魂で結ばれているのかもしれない。
 
しかし世界は決して思い描いた様にはならない。
嘗ての神龍と聖なる少女が悲哀に終わったように彼らにも試練が待ち受けている。
それは今目の前に迫っていた。
 
「やぁ、随分と時間が掛かったみたいだね。お蔭で待ちくたびれたよ。」
「え?誰?」
 
不意に語りかける声。
龍も少女も辺りを見渡した。残りの3匹にも緊張が走る。
迷宮の出口からその先一体は荒野である。動くものがいたら嫌でも目に入る。
しかしその声の主を認識することが出来なかった。否、そこに最初から居たのだ。しかし龍でさえ気付くことが出来なかった。
 
【…な お前は】
「久しぶりだね。君も酷い奴だな。僕みたいなフィアンセを残して姿を消してしまうなんて。」
「な!ちょっとキョン一体如何いう事?」
「言葉通りの意味さ。僕と彼は契りを結んだんだ。」
【…アレは無効だろ そもそもアノ契約自体お前の一方的な事だったじゃないか】
「それでもああでもしないと君は即日のうちに殺されていただろ?」
【まぁそのことは感謝するがな しかしアレは仮初の物で効力は無いはずだ!】
「君が行使する数多の龍語魔法と古代語魔法が何よりの証だよ。あれは今の上位龍でも唱えられない代物だ。」
「ちょっと!黙って聞いてればべらべらと。アンタ一体何者なの!」
「おや?珍しいものを飼ってるね?君のペットかい?」
【違う 一緒に旅をする大事な奴だ】
「…キョン。」
「やれやれ、ちょっと見ない間にそんな不貞を働いていたのかい。困ったやつだよ君は。」
 
行き成り前触れも無く現れた人物。
見た目は少女と同じ年齢に見える。しかしそこから感じるプレッシャーは相当のものであった。
対峙している少女にもう少し魔法の心得があればその歪な魔力を感じることが出来ただろう。
しかし幸いにも少女には其処まで感じる事は出来なかった。かわりに感じるのは自分の居場所を奪われるという危機感であった。
他の3匹はその人物の歪な魔力に驚いていた。明らかに人間のものではない。
 
(…お話しの途中に失礼します。彼女は、いいえアレはなんですか。)
「コイズミ君、アレって。」
(…おかしい。あの人間から感じる魔力は人のそれではない。明らかに異質。)
「ユ、ユキ。」
(な、なんなんですか~。あ、あんな魔力を持った人間が存在するんですか~。)
「ミクルちゃん。」
【…そう感じるのもわけないさ …あいつは】
「無駄なお話は此処までさ。嫌だというなら無理にでも『央国』に来てもらうか。」
【な お前え グハッ!!】
「な!キョン!」
 
その瞬間。前触れも無く地面より光の鎖が現れ龍を絡めとった。咄嗟に龍は少女を自分から引き剥がし絡めとられるのを防いだ。
しかし龍は全身を光の鎖に捕らわれ身動きが出来なくなっていた。
『光』の魔法。それは失われた筈の古代の魔法の一つである。
 
「あんた!いい加減に!……なに?それ。」
「これかい?彼を待っていたら襲ってきたから返り討ちにしてまでさ。まぁ僕に逆らえると思ったんだろうね。下位龍はこれだから低脳で困るよ。」
 
目の前にいる人物。一見は十人中八人は振り返るような容姿をもった少女である。
しかしその彼女が立つ足下には無数の龍の死骸が転がっていた。
『狂気の山脈』の外縁に住む下位龍達である。
その骸を足下に広がるのを見ながら関心の無いようにソノ少女は応えた。
その反応に少女はハルヒは怒りを感じていた。先ほどからの龍とのキョンとの遣り取りも含めて
ハルヒには目の前に少女が敵に見えるのだった。
 
「あんた、名前を名乗りなさいよ!」
「他人に名前を訪ねるなら先ず自分が名乗るのが礼儀と思うけど。まぁ良いさ彼のペットなら僕のペットでもあるからね。」
「何ですって~!!」
「良く聞いて憶えるんだね。僕の名は、」
 
瞬間ソノ少女の周りに幾つもの影が集まった。
それは驚いた事に見たことの無い龍であった。
その龍を従えてソノ少女は名乗った。
 
「僕の名は『ササキ』。金龍王に仕える魔法騎士にて彼、予言の地龍のフィアンセさ。」
 
龍のフィアンセと名乗る少女『ササキ』。
彼女もまた龍を従える存在であった。
だが、少女『ハルヒ』と共にある龍達とは明らかに異質であった。
 
1匹は夜よりも暗い漆黒の龍。
1匹は海よりも深い群青の龍。
1匹は血よりも濃い丹色の龍。
 
そのどれもが異彩を放っている。
だがその姿は何処か合わせ鏡を想わせるものがあった。
しかし今は彼女達の詮索をしている余裕等なかった。
光の鎖に囚われた龍。彼を助けるのが先決であった。
 
「ふん!バカなことを言うのは今は大目に見てあげるわ。今すぐキョンを開放しなさい!」
「キョン?…あぁ彼の事か。何とも珍妙な名前だね、くっくっ。」
「な、何ですって!」
「だってそうだろ?仮にも『予言の地龍』に対してそんな名前で呼ぶなんておかしな事じゃないか。まぁペットが言う事だから大目に見てあげるよ。」
「言わせて置けば好い気になって。…まぁ良いわ。どうせコンナ鎖の1本や2本、あたしが引き千切ってやる。」
【…ま……ま…て……ハ…ルヒ……】
「いいえ、待たないわ。こんな物あたしの魔法で、」
(…いけない!)
 
少女がハルヒが『光』の鎖に向かって護符を突き出し呪文を唱えようとした。
しかし、その行為は子龍によって遮られた。
 
「ちょ、何故止めるのよユキ。」
(…その鎖に不要に干渉してはいけない。攻撃が自分に返ってくる。)
「な、何よそれ!じゃぁ如何すればいいのよ!」
(この手の魔法は術者を倒せば解除されるのが常なのですが…失われた筈の『光』の魔法ですからね。我々でもどうなるか見当もつきません。)
「…でも他に方法が無いなら。…それにアノ子、何かムカつくのよね。」
(気持ちは判りますが落ち着いてください~、それに周りにいるドラゴン達も何か変ですよ~。)

一刻も早くこの束縛から龍を解放したいハルヒ。それに対して周りの龍達が静止をかける。
しかし、事態は刻一刻と悪化しているようにもハルヒには感じられた。
そして何よりも許せないのが先程からのもう1人の少女ササキの対応である。
自身を龍のフィアンセと語り少女を見下す事を言う。まるで少女は眼中に無いような対応であった。
まるで龍の横にいるのは自分のほうが相応しいと言わんが態度。嘗て龍と何かしらあるのは明白である。
だがその様なものは今の龍と少女の間は意味の無いものである。
そんな少女の反応をみてもう1人の少女ササキが動いた。
 
「如何やら、僕が彼に相応しいかを見せつける必要がありそうだね。」
「何ですって。」
「君も一応彼と一緒にいるなら知ってるだろ?世界中の巫女や神官達などにいっせいに告げられたお告げの事を。」
「それがなんだって言うのよ。言っとくけどそのお告げにある『龍と少女』はキョンと“あたし”の事よ。他人にとやかく言われる筋合いはないわ。」
「くっくっくっ。無知とは罪だよね。分からないかい?」
「何がよ。」
「僕が彼に“先”に出会ってるって事。」
「何が言いたいのよ。」
「そのお告げの“少女”は僕だって事さ!」
 
そうもう1人の少女が叫んだ瞬間、世界がその姿を変容させた。
一瞬にして世界の色が『オックスフォードホワイト』に塗り替えられた。
何よりも世界から感じるものが明らかに異なっている。
少女ハルヒに従う龍達もこの変容に驚いていた。逆に少女ササキに仕える龍達は驚くそぶりは見せなかった。
そしてハルヒにはこの変容に心当たりがあった。
地龍王の記憶の中。神の龍と聖なる少女に関する記憶の中で聖なる少女が行使する力の発現。
世界を己が世界で隔離し、外部に被害出さない為の一種の結界。
 
「…『閉鎖空間』…」
「如何やらそう呼ばれるものらしいね。どうだい?これを見せられても未だ納得しないかい?」
「ふん!こんなの魔法で如何とでもできるわ!それくらいの事であたしが尻ごみするとでも思ったのかしら。だったらお笑いぐさね。」
「ふーやれやれ。」
「む。」
 
少女ハルヒもこの世界の変容には驚いていた。しかし、だからと言って自分が引く言われは無い。
村で出会ったから今まで自分と龍が紡いだ絆は確かなものであるからだ。
そして何より龍の先程の反応が少女の気持ちを後押ししていた。
明らかに目の前にいる少女の事を其処まで快く思っていないのは龍の反応を見れば明らかである。
だからこそ此処で自分が引くことがあってはいけないと少女の心が叫んでいた。
その反応を見てもう1人の少女も動いた。彼女もまた此処で引き下がる訳にはいかなかった。
もう1人の少女もまた己が使命の為に此処に来たのだ。龍を連れ帰らないわけにはいかなかった。
互いの少女の反応を汲み取った各々の龍達が動いた。
 
オックスフォードホワイトの世界のなか
『白』と『黒』
『橙』と『青』
『緑』と『丹』
それぞれの影が交錯する。
その中で最も激しい戦いを繰り広げだしたのは『白』の氷龍ユキと『黒』の龍。
 
(…お前は『黒龍』でもその姿は。)
(───オマエ……邪魔────倒─す───)
(ドラゴンゾンビなのに個の意識を残している。…だが今は関係ない。)
(───彼の魂は───とても───きれい…)
(!させない!)
 
氷雪が舞う中、黒より滲み出るもの。世界を腐敗させる黒色の負のガス。
その横では風と雷がぶつかっていた
『橙』の雲龍ミクルが風を操り相手を押し返そうとする。しかしそれおも打ち砕き『青』の龍が奔る。
 
(こっちに来ないで下さい~!)
(ふん!その程度に力で『神』を守れるとでも思ってるのか。呆れて物も言えん。)
(ふえ?一体なんの事ですか?貴方達は一体なんなんですか~!)
(応える義務は存在しない!)
 
その中で最もかみ合わない戦いに陥っていた者達もいた。
互いに火球を撃ち合っているものの相手に全く届いていなかった。
上空を舞う『緑』の飛龍イツキに対して、地面から見上げ地団太を踏む『丹』の龍。
 
(さぁ、如何されました?僕に攻撃するのではないのですか?)
(むきぃーーー!飛ぶなんて卑怯です!龍の風上にも置けない奴です!)
(そう言われましてもこっちとしては飛ぶことが最大の武器ですからね。そちらの事情もあるでしょうがこっちにも事情がありますから。)
(あーー!今見下しましたね!あたしが亜龍だからって見下しましたね!)
 
その中にあって少女たちは互いから目を反らさず向き合っていた。
旅支度のままの少女と軽装ながらも『金色に彩られた武装』をしている金龍王の魔法騎士たるもう1人の少女。
だが少女には戦う方法があった。龍の鱗より練成した護符。
それを翳し呪文を唱える。相手の先手を取り戦いを終わらせるためだ。
翳した護符より『葵炎』が撃ち出される。それは一直線にもう1人の少女に向かって伸びた。
炎がぶつかる刹那。その少女の前を『紅い何か』が遮った。
一瞬周りの戦いが静まった。少女はハルヒは自分の炎を遮った『モノ』を見上げ声を失っていた。
全身を『紅く』染め上げ聳え立つそれに少女は見覚えがあった。
地龍王の記憶。聖なる少女の力の顕現。畏怖と遺憾の念をこめそれはこう呼ばれていた
 
「…『神人』……そんな……」
「どうだい?これでも僕が彼に相応しくないって言えるのかい?」
 
その姿を見、少女は目の前にいるもう1人の少女を見やった。
この少女が聖なる少女の生まれ変わりなのか?なら何故龍にキョンに固執する。
聖なる少女が求めていたのは神龍ではなかったのか。そこで少女は不意にある可能性に行き着いた。
名も無き龍。探しても見つからない神龍。只の地龍には持ち合わせない力。
だが少女が考える時間をもう1人の少女は与えてはくれなかった。
紅い神人がその腕を少女に向かって振り下ろした。
その動きが緩慢にも見えたが一瞬の事のようにも感じられた。それを見た龍達が少女を助ける為に駆けつけようと動く。
しかし互いの相手に遮られ動くことが出来ない。
誰もが間に合わないと思った刹那。
 
 
……奇跡は起こった……
 
 
少女を打ち潰す筈の紅い神人の腕が一瞬にしてかき消された。
いやそれどころかオックスフォードホワイトの世界が音をたて崩壊していった。
その力は少女のハルヒの背後より流れていた。
少女の背後、地龍キョンの存在。
しかし皆がその姿を見驚愕していた。
 
少女から地味な色と言われていた体色は光り輝く『白金』に。
翼の無きはずのその背には5対10翼の翼。右側には『聖』を現す羽の翼、左側には『魔』を示す皮の翼を。
四肢は力で漲る。頭部には力有る龍の証たる『角冠』を6本頂き。
元来の姿を超え倍以上に巨大になっていた。
 
だがその瞳は何時もと変わることは無かった。
何時ものヤル気のなさそうなそして暖かな色を纏っていた。
 
「…あんた…もしかしてキョン?」
【そうだぜ?ハルヒ 俺が他の誰に見えるってんだ】
「……だってその姿は………『神龍』………」
 
地龍は光の束縛を振り千切りその姿を変じていた。
それは少女が危機に際して起きたことなのか。
龍のその姿は地龍王の記憶にあった伝説の姿。
全ての龍族の頂点、龍の神。
 
 
 
 
『白金の神龍』を形どっていた。

 

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