概要
作品名 | 作者 | 発表日 | 保管日 |
本当にコワいモノ | 86-837氏 | 08/04/13 | 08/04/15 |
- コワいモノの続きの作品です
作品
その日ハルヒは授業時間のほとんどを寝て過ごしていた。
いつ教師に注意されるか、とハラハラしていた俺だったのだが、みんなちょっかいを出すと面倒なことになるというのを理解しているのだろうか、誰一人注意しようとはしなかった。
放課後、いつものパターンで部室に向かう俺の前を見覚えのある人影がフラフラと歩いていた。と、何もないところで躓いて転ぶ。
「おい、古泉? 大丈夫か?」
「おや、あなたでしたか。これはどうも、みっともないところをお見せしてしまいましたね」
見た感じ相当疲れてそうな様子の古泉だったが、それでもスマイルを維持し続けているのは流石だと褒めてやるべきか。
「申し訳ありません。実は昨晩久々に例のアレが発生しましてね」
――閉鎖空間か。
「ええ。しかもかなりの規模のモノでしたので、結局徹夜での対処です。これでも体力には自信のある方だったのですが、流石に体育でグラウンドを十週走らされるのは堪えました」
そう言って膝から崩れ落ちる。解った、もういい。今すぐお前は帰ってゆっくり休め。
「了解しました。それでは――涼宮さんのこと、くれぐれもよろしくお願いいたします」
俺は古泉を校門まで連れて行くと、タクシーを呼んでやった。
都合よく新川さんの運転するタクシーでも来るのかと思いきや、現れたのはこの界隈でよく見かけるタクシー業者のものだった。
まあ、よく考えたら、新川さんたち機関のメンバーも、今日はお疲れなのかも知れないな。
その後、部室で俺はいきなりハルヒに饅頭を口に押し込まれて窒息しかかったりしたものの、これといって特筆すべき出来事はなかった。
古泉の話からしてハルヒの機嫌を心配していた俺だったのだが、何故かあいつは俺が見た限りではそれなりに楽しそうにしている様子だったのだ。
やがて下校時刻になり、「先に帰ってて」と朝比奈さんに促されて、俺たちは一足先に校門を出ることになった。
気付けば長門はいつの間にか姿を消しており、残された俺とハルヒは二人肩を並べていつもの坂道を下っていたのだった。
久々に二人きりの帰り道ということもあって、俺は何か話をせねばと、つい余計なことを訊いてしまった。
「なあハルヒ、今日ずっと居眠りしてばっかりだったけど、寝不足なのか? 昨日は変な夢でも見てた、とか――」
「えっ?」
ハルヒの表情が一瞬にして曇るのを見て、俺は地雷を踏んでしまったことに気付いたのだった。
「いや……その――」
「……ねえキョン。あんたが今、一番怖いと思うのってどんなこと?」
「うーん、そうだな―――やっぱり俺はお前が」
「ちょっとキョン! ――あたしは真面目に訊いてるの」
「まだ途中だって。俺はハルヒが――SOS団のみんなが――俺の前からいなくなっちまうのが、怖いと思う」
「……ふーん、なんだか、あんたにしては妙に実感がこもってるじゃない」
まあ俺は実際SOS団を失いかけたことがあったからな。お前には教えられんが。
「でも――そうね、あたしも同じかも。……時々考えるのよ」
髪をさっと手ではらうハルヒのリボンがどこか寂しそうに揺れる。
「もしも古泉くんが転校してこなかったら、みくるちゃんが書道部を辞めてまでSOS団に入ってくれなかったら、有希が部室を貸してくれなかったら――」
そこでハルヒは一旦区切って、やがて静かに続けた。
「もしもキョンが、あたしに話しかけてこなかったら――SOS団はどうなってたんだろう、ってね」
「……ハルヒ」
「怖いのよ、あたし。……誰か一人でもいなくなるのなんて耐えられない。まして、たった一人っきりになっちゃうなんて」
ハルヒは突然俺にしがみ付いてきたかと思うと、ブルブルと震えていた。
以前の古泉の仮説通りなら、そんな状況を作り出せるのは他ならぬハルヒ自身だ。現に、いつぞやは閉鎖空間に俺と二人きり、なんてことをやらかしたぐらいだからな。
俺はハルヒの背中に両腕を回すと、ポン、と軽く叩いて、
「なあハルヒ。もしも助けが必要なら、いつでも呼んでくれ。お前が何処にいても、俺は――俺たちはすぐ駆けつけるから」
何の根拠もないのだが、俺は平然とそう伝えたのだった。こいつが心の底からそう望めば、きっと俺たちはハルヒのパワーによって閉鎖空間とか異次元とかお構いなしに引きずり込まれるだろう。
「あたしの夢の中にも来てくれる?」
ああ。
「ありがと――でも、一つだけお願い」
何だ?
「あたしの夢で……あんまりエッチなこと、しないでよね、エロキョン」
真っ赤な顔のハルヒ。って待ておい。俺には全くそんな記憶はないんだが。お前どんな夢見てんだよ? そこまで責任持てんぞ。
「……バカ」
イラスト