Grooming Trinity (81-754)

Last-modified: 2008-02-27 (水) 07:22:56

概要

作品名作者発表日保管日
Grooming Trinity(ハルユキみく)81-754氏08/02/2508/02/25

作品

 その日は朝から一日中どんよりと曇っていて、ついに太陽を拝むことはできなかった。
 
「やっほ~~!って、あれ……有希とみくるちゃんだけ?」
「…………」
「は、はい~~!」
 窓際に座って本を読んでいた有希は、例によって何も言わずにあたしのことを一瞥しただけだったわ。相変わらずね。
 みくるちゃんは有希のいる側とは反対の方で、やっぱり腰掛けて編み物をしてた手を止めて、ビックリしたのか慌てているのか、そのどちらとも取れるような反応で答えた。
 まるで居眠りしていたウサギとかハムスターが目を覚ましたときのような、そんな愛くるしい仕草に、思わず胸がキュンとしてしまう。
 と、そこで不思議そうな表情のみくるちゃんと目が合ってしまい、何故か気恥ずかしくなってしまったあたしは適当に誤魔化そうとした。
「そういえば、古泉くんはお昼頃に『今日は遅くなるかもしれません』って言ってたけど、何であたしより早く出て行ったはずのキョンまでいないのよ?」
 あたしがぶっきらぼうにいったせいか、みくるちゃんは、
「あ、あの……ご、ごめんなさい、涼宮さん。カセットコンロの燃料が無くなってるの、わたし気付いてなくって、困ってたらキョンくんが、その、買ってきてくれるって……」
 と、申し訳無さそうに謝ってきた。
「いいえ、ナイスよ、みくるちゃん。そういう類のことは何でも遠慮せずに、キョンに頼むといいわ。全く、あいつも気が利かないわね。無くなる前にちゃんと補充しといてくれなきゃダメじゃないの」
 そういいながらも、あたしはキョンとみくるちゃんのやりとりを頭に思い浮かべていた。
 
『あ、あれ……ふぇ~~!壊れちゃったのかな~?』
『朝比奈さん、どうかしましたか?』
『あ、キョンく~ん。ふぇっ、コンロ、さっきから全然、火が点かないんですぅ!』
『……ちょっといいですか?――――――ああ、ボンベがもう、空みたいですね』
『へっ、そうなんですかぁ?』
『確か予備は…………げっ、これが最後だったか。――仕方ない、今から俺が、ちょっとひとっ走り買ってきますよ』
『ええっ、そ、そんな、わ、悪いですよ』
『朝比奈さんが気にすることないですよ。あの甘露なお茶にありつけるんだったら、俺は火の中水の中、何処にだって行く覚悟があります!』
『キョンくん…………』
『朝比奈さん…………』
 
 見つめ合う二人。って、ちょっと、なにいい雰囲気作ってんのよ?
「あ、あの……涼宮さん?」
「へっ?」
 みくるちゃんの呼びかけに、我に返ったあたしは思わずマヌケな声を上げてしまった。
「な、何でもないわ。――――それよりも、何で二人とも、暗いのに灯りも点けないで、そんな窓際にいるの?」
「……本日十五時十三分二十八秒より、校内を含む広範囲に亘って、電力の供給が停止されている」
 あたしの疑問に答えたのは有希だった。
「なによ、有希。じゃあ今は停電中ってこと?」
「そう」
 つい、あたしは脱力してしまう。
 団長指定席に座ったものの、パソコンも使えない。ここしばらくの間、歌詞とか作曲とかその手のアイディアがどんどん湧いてきて絶好調だったのに、こんなことでペースを乱されるなんて……何処にクレームつけたらいいわけ?
「――くしゅん!――」
 思わずくしゃみをしてしまった。って、そういえば少し、いや、かなり寒いじゃないの。ストーブ、ストーブ…………ダメだ。停電中だから使えないじゃない。はあ、もう。一体これは誰の嫌がらせなのかしら。
「涼宮さん、大丈夫ですか?」
 みくるちゃんの声に、ふとあたしはいいことを思い付いた。
「みくるちゃん、ちょっと、こっちにいらっしゃい」
「は、はい――ふひゃぁ!」
 立ち上がったみくるちゃんにあたしは両腕を絡ませて思い切り抱きしめた。前にも思ったけど、みくるちゃんは温かくて柔らかくて、それに――――とっても気持ちいいわね。
「す、涼宮さん、ど、どこ触ってるんで……ひゃっ、も、揉まないでください~」
 顔を真っ赤にして抗議するみくるちゃんだけど、案外抵抗する様子は無いみたい。
 と、ふと背後に気配がした。同時にあたしの身体に巻きつくような腕と、背中に圧し掛かる感触。って、有希?
「……わたしも協力する」
 正直、意外だった。有希があたしに対して直接なにかのアクションを起こすなんて、今までにあった記憶は無い……気がするわ。
「って、ちょっと、有希までどこ触ってるのよ?」
 虚を突かれてしまったせいで最初は解らなかったけど、いつの間にか有希の両手は、あたしのバストをがっちりと包んでいたの。
「体温の上昇を確認。……これで温かくなる」
 有希に言われて、あたしも自分の顔がまるでゆでダコみたいに真っ赤になっているのを知った。
「もう……今度は有希の番よ。――ほら、みくるちゃん!」
「ほへっ?は、はい~!」
 あたしはみくるちゃんに合図すると、二人で有希をサンドイッチにして抱きしめた。
「…………」
 有希はさすがに顔色こそ変化させなかったけど、身体全体を弛緩させたように、あたしたちにされるがままになっていた。気のせいかもしれないけど、あたしには、有希がどことなく満足そうに見えた。
「それにしても、有希の身体って、華奢っていうか、あんまり強く抱いたら壊れちゃいそうなイメージがあったけど、この柔らかさはちょっと意外よね。みくるちゃんとは違った快感よ、これは」
「あなたの身体には、敵わない」
「そうですよぉ。ご自分では解らないでしょうけど、涼宮さん、とっても触り心地がいいんですから」
 みくるちゃんはそう言って今度はあたしの背後に回ると、大胆にもあたしの胸を弄り始めた。
「ちょ、ちょっと、みくるちゃん?あなたまで……」
「うふふっ。いつものお返しですよぉ~!」
 逃げようにも反対側からは有希があたしをがっちりとホールドしているため身動きが取れない。
 って、やだ、ちょっと、そこはくすぐった――あっ、いや、だ、ダメよ!
 耳に掛かるみくるちゃんの吐息と、首筋に触れる有希の髪の感触――あたし、もう限界かも。
「はあ、いいなあ、キョンくん。こんな可愛い涼宮さんを独り占めなんて――――あたし、すごく羨ましいですぅ」
「…………わたしも同意見」
 何でそこでキョンが出てくるわけ?って、それよりも、今のあたしのこんな姿、キョンに見られちゃったらどうしよう。恥ずかしくって気が遠くなりそうだわ。もう、二人とも覚えてらっしゃ――――ああん!
 
 
 
 
 
 
 
「おい、古泉。どうしたんだ?そんなところに突っ立って」
「いえ、少々面妖な空間が内部に発生しているみたいですので。――ちょっと入室するのも躊躇われるところでして」

 

 
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