ノンテンダー

Last-modified: 2024-03-31 (日) 13:13:25

メジャーリーグにおける戦力外通告の一種。
ここでは主に、2021年シーズンオフに北海道日本ハムファイターズが行ったことについて取り挙げる。


概要

2021年オフ、日本ハムは西川遥輝・大田泰示・秋吉亮の3選手に2022年度の契約を提示せず、野球協約第66条の保留手続きを行わないと発表した。新GMの稲葉篤紀は会見で「ノンテンダーにする」と表現した*1

ノンテンダーは年俸調停や厳格な減額制限のあるMLBではよく見られるが、NPBでは日本ハムが独自に用いたと言ってよい。NPBでは、外国人扱いの選手を除き、支配下登録の選手に対する対処としては「保留手続きを行う」「保留手続きをせず自由契約にする」「減額制限以上の減俸を提示して選手の決断を待つ(再契約か自由契約かは選手が決定)」の3択であり、一般的に保留手続きをしないことを通達することをマスコミで「戦力外通告」と呼ぶ(球団側がそう呼ぶことは無い)。当初稲葉GMは「3選手とプレー環境について協議した結果」「ファイターズとの再契約の可能性を閉ざすものではありません」と説明した。稲葉は実際の例として2020年オフの村田透を挙げたが、日本ハムはこれまで多田野数人と坪井智哉も一旦自由契約とした後で年俸大幅減額での再契約を行っていた。

金銭面が苦しい日本ハムは過去にも主力選手を他球団に放出することが多々あり、これらの自由契約は「たった1年の不調での放出はあんまりなのでは?」「ただでさえ戦力の層がペラペラなのに外野のレギュラー2人を放出していいのか?*2」という声が多く挙がった。
とはいえ、この時点では「通常の自由契約よりは他球団からの心象が良く見え、いい評価をもらえるのではないか」と、このノンテンダーという表現を評価する声も少なからずあった。その後、西川は楽天、大田はDeNAからオファーがあり、それぞれ他球団への移籍が決まった。

しかし、残る秋吉は怪我持ちもあってかオファーがなく、日本ハムとの再契約もならないまま2022年1月31日に独立リーグ・日本海オセアンリーグ(当時)の福井へ移籍することになる。
同年7月16日にソフトバンクが獲得したことでNPBに復帰できた*3が、再契約の可能性を閉ざさないとしながら秋吉が日本ハムと契約出来なかったため、球団に対して「ノンテンダーという聞こえのいい言葉を使って、主力選手を自由契約にすることに対する批判をかわしたかっただけなのではないか?」という批判が噴出することとなった。


選手会による抗議

選手会は「『ノンテンダー』という聞こえのいい言葉を使って3選手を戦力外とした」として、日本ハムを大々的に批判。
さらに2022年3月7日には、日本ハム球団に対して抗議文を提出。ノンテンダーは実際には予告もなく一方的に契約をしない旨を伝えられた、再契約の可能性についての提示もなされなかったなどと主張した。

プロ野球選手会が日本ハムに抗議文「ノンテンダー」と称し事実と異なる発表と主張
https://hochi.news/articles/20220307-OHT1T51093.html?page=1


 日本プロ野球選手会は7日、北海道日本ハムファイターズ球団に対し、抗議文を提出したと発表した。

(中略)

 また、選手会側は「『3選手とプレー環境について協議した結果』などと発表していましたが、当会がヒアリングを行ったところ、本件球団から事前の予告もなく一方的に契約をしない旨を伝えられたに過ぎず、プレー環境について選手の意向を聴いたり、これについての”協議”をしたような事実はありませんでした。また、本件球団からの再契約の条件提示など、再契約の意思やその可能性も伝えられたこともありませんでした。このような事実と異なる経緯を発表したことも、選手当人や本件球団に現在所属する選手との信頼関係を損ねるだけでなく、ファンや社会一般を裏切る行為であることから、当会は、本件球団に対し厳重に抗議しました」などとした。

この抗議を受けて球団は2022年3月に「ノンテンダーという用語は今後使用しない」ことを発表した。


他球団の通常の対応

野球協約には以下のような項目があり(2022年度版より引用)、普通は以下の対応となる。

第12章 参稼報酬の限界
第92条 (参稼報酬の減額制限)
 次年度選手契約が締結される場合、選手のその年度の参稼報酬の金額から以下のパーセンテージを超えて減額されることはない。ただし、選手の同意があればこの限りではない。その年度の参稼報酬の金額とは統一契約書に明記された金額であって、出場選手追加参稼報酬又は試合分配金を含まない。
(1)選手のその年度の参稼報酬の金額が1億円を超えている場合、40パーセントまでとする。
(2)選手のその年度の参稼報酬の金額が1億円以下の場合、25パーセントまでとする。

この規則と選手会との取り決めにより*4、通常は戦力外通告の通達期間に制限以上の減俸を行うことを通達した上で選手が決断することを待つことになる。同意しなければ自由契約となるが、球団公式発表では減額制限のことに触れず、以降は再入団交渉も行わないのが普通である。また日本ハムでも村田透まで一切減額制限に触れてはいなかった。

日本ハム側への擁護として、「この3人が日本ハムからの大減俸を不服としFA宣言を行っても野球浪人になる」というものが書かれていたが、そもそも日本ハムが減額提示さえしていれば来季契約の有無は選手が選択できたため全くの的外れである。


関連項目



Tag: 日ハム フロント 契約更改


*1 この言葉が多く用いられるようになったのはこの機会がきっかけだが、かつて横浜ベイスターズが1993年に巨人から駒田徳広をFAで獲得するための資金繰りのために、高木豊、屋鋪要、山崎賢一、大門和彦、市川和正の5人を大量解雇したのが「元祖ノンテンダー」と言われている。
*2 それでも外野手に限れば近藤健介淺間大基、松本剛、五十幡亮汰、万波中正とレギュラー候補・若手有望株が揃っており、内野手(特に二遊間)の選手不足が大きかった。
*3 しかし秋吉は入団してから僅か3ヶ月で再び戦力外通告を受け自由契約となり、実質的な福井の後継球団であるベイサイドリーグ・千葉に入団。
*4 この取り決めが作られたのは、2006年オフにオリックスとの契約更改で揉めに揉め、キャンプイン直前で自由契約となって野球浪人になりかけた中村紀洋の事例があったため。