アンチラグシステム

Last-modified: 2023-08-13 (日) 22:28:05

ターボ搭載車においてアクセルオフ時に発生するターボラグを解消するシステムのこと。
別名ミスファイアリングシステム*1、二次エア吸気システム*2。アンチラグシステムと言う名称はトヨタが主に使用*3しているが、英語圏ではトヨタと同じAnti-lag systemと呼ぶことが多い。

 

簡単に言えばアクセルが抜かれたときにターボチャージャーの排気側のタービン前で故意に爆発を起こしてタービンを回しターボチャージャーの回転速度を維持する装置である。
仕組みとしてはインテークからエキゾーストマニホールドに空気を送れるバイパスバルブを設置し、アクセルオフ時にこちらから吸気を導入、元々燃料過多である排気にフレッシュエアを混合させてエキマニの温度、もしくは点火タイミングを変更してエンジンからエキマニに火を送って燃焼させる。
色々名前が付いているが「エンジンをあえて失火(ミスファイア)させて燃料過多の排ガスを送り込む」「吸気とは別に吸気(二次エア)を吸う」「ターボラグを減らす」「エキマニに新鮮な吸気を入れる」と、どれも行っている事を直接書いているのである。
これ以外にも電子制御スロットルとエンジン制御を併用する形でも同じような動作が可能。ただしこちらは二次エアを直接コントロールが出来ない故に、効果はバイパスバルブ型より限定されると言われている。

システム作動時には太鼓を叩いたような「ポンポン」「ポコポコ」という音がするが、制御が不十分でエキゾーストマニホールド内で燃焼しきらずにアフターファイアーを起こしている場合には爆発音のような「バンバン」「パパパパ」という音が発生する。頭文字DではエボⅢで作動させているシーンがある。

 

実際のレースにおいてはほとんどの場合規定においてリストリクターという吸入空気量を制限する筒が装備されており、そのような状態でトルクやパワーを得るためにはターボチャージャーを装備することが常識的になっている。またリストリクターが無い状態でも重量やスペースをあまり取らずにパワー、トルクの向上ができるためターボチャージャーを装備することが非常に多い。
しかし、ラリーやラリークロスのような加減速の多いレースではエンジンの低回転域を使う必要が出るためターボラグの発生はタイムや速さに大きく影響してしまうためドライバーやマシン開発者はターボラグを大きく嫌った。かと言ってギア比を低くし回転を高く保てば良いかというとシフトチェンジの回数が増えるためこれも好ましくない。そこで登場したのがアンチラグシステムである。

 

一般的にターボチャージャーはエンジン回転数が高い状態でなければ過給圧が低くなりエンジンパワーが出にくい(ターボラグの項参照)。コーナリングのためにアクセルを抜くとエンジン回転が落ちタービンの回転・過給圧が落ち、コーナー脱出で思ったパワーが得られないこともある。
特に大型のタービンになればなるほど重量が増えるためタービンを回すのに大きな力が必要となりターボラグが起きやすい。

上述の通りレースでのターボラグは命取りとも言える。それを解消するためにアクセルオフ時にエギゾーストマニフォールド内に燃料を噴射し*4、排気側のタービン手前で排気ガス内の未燃焼酸素、バイパスバルブ型では更に吸気してきた酸素と燃料で燃焼を起こし、その燃焼エネルギーでタービンを回す。こうすることでエンジン回転が落ちてもタービンの回転を保つことができ再加速がしやすくなる。
しかしただタービンを回せば良いわけでなく、燃焼力が強すぎるとタービンにダメージを与えたりアクセルオフで一瞬加速する挙動を示すことがある。加速する挙動に関しては実車での実走を繰り返しセッティングをする他無い。

デメリットとしては当然燃料を無駄遣いしてるのだから燃費の悪化、また通常より高い排気温度による排気システム、バンパーなどの損傷、公害等である。

 

中低速での加速力や運動性を重要視する、WRC等のラリー*5や、ダートトライアルまたジムカーナ、静止状態から加速するドラッグレース、比較的に車重が重いル・マン24時間レースやSUPER GTなどのGT車両等に使用される*6

 

ホモロゲーション取得の際『市販状態で装備されていない装置はレースで使用不可』ということがほとんどなことから標準装備されている車がある。しかし排ガス規制に抵触するため二次エアバルブがECU側で開かないようになっていて、基本的には作動しないようになっている*7が、一部の車両では「ECUをスポーツモードに入れると起動する」場合もある。
特にベンツのA45とアウディのRS3に搭載されているソレは過激の一言で「花火大会」と称されるレベル。
これは実用性だけでなく音による演出も兼ねているフシもあり、泡が弾けるような音が鳴ることに引っ掛けて「バブリング」と呼ばれることもある。

後はGR Supra RZ(DB42)もスポーツモードで作動するのだが、兄弟車である現行のZ4(こちらは未収録)はスポーツモードでも作動しなかったりする。
現在「CAFE条例」という「会社内の車の販売台数をベースとした平均燃費をいくつ以上にしなさい」というルールがあるのだが、トヨタの売れ筋はハイブリッドを中心としたエコカーに偏っていて、GRスープラで少しぐらい燃料を無駄にしたところでラインに引っかからないのである。
逆にピュア内燃機関車に偏っているBMWは全く余裕がなく、泣く泣く制御で抑え込んでいる。

一応自然吸気エンジンでも「排気圧力のコントロールで吸気効率を上げる」という点からアンチラグを導入している場合がある。
例えばWECに出てくるLMP2マシンは減速中にバブリング風のパラパラパラッという特徴的な音が鳴る。

湾岸に収録されている車両としては

  • ランエボシリーズ(3以降は全車標準装備)
  • インプレッサWRXシリーズ(GDB以降)

ちなみにこれ以外ではST205型セリカGT-FOUR*8とVAB型WRX(どちらも湾岸マキシ未収録)のみである。
大っぴらには宣伝していないがモード切替で作動する車としては前出のGRスープラの他、718ケイマンもオプションで設定可能になる「Sport Plus」モードにアンチラグが仕込まれている。


*1 スバルは主にこの名称。頭文字Dでこの名称が出た為こちらで認識されてる方が多い。
*2 PCCS。ポスト・コンバッション・コントロール・システムの略で三菱は主にこの名称
*3 ALS 、フレッシュエアシステムと呼ぶこともあった
*4 一般的に「通常通りエンジンには燃料を噴射するが、制御で点火を間引く」という方式を取る、別にエキマニに専用のインジェクターを設置するわけではない。
*5 以前はバイパスバルブによる二次エア型が使われていたが、2021年以降のラリー1規定ではバイパスバルブが禁止されたためにECU制御単体型になっている。
*6 ただし、減速時にフューエルカットしないため燃費の悪化が著しく、予選時のみ使用し決勝では作動させない例もある。
*7 ECUを書き換えて作動Onにすることは可能。
*8 前期型WRC仕様のみ