日本で行われている自動車レースの1カテゴリー。全日本GT選手権(JGTC)を前身とし2005年より開催されている選手権シリーズ。
2005年からFIA公認の国際シリーズ*1となった。
運営は従来は各チームらの代表によって構成される任意団体GTアソシエイション(GTA) が行ってきたが、安定した運営母体として正式な法人化を必要とする声が高まり、2008年4月に「株式会社GTアソシエイション」が設立された。
概要
GT500クラスとGT300クラスという2つのクラスの車両が同一コースを混走するという方式で両クラスの速度差から徐々に混走状態となり、コースの所々で抜きつ抜かれつの争いが展開される。
各クラスの名称はクラス設立当初の最高出力がそれぞれ500馬力・300馬力に制限されていたことに由来する。その後エンジン性能の向上やエアリストリクター径の緩和などによって出力が向上、GT300のドライバーでもある谷口信輝選手によると2021年時点でGT500は700馬力以上*2、GT300は550馬力以上とされている。
毎シーズン8戦あるシリーズ戦の中で成績によりウェイト (重り) が加算されていくサクセスウェイト*3 、エンジン出力を制限する各種リストリクターの導入などで各車両の性能を調整することで白熱のレース展開となる様な演出がなされているため必ずしも有力チームが上位を占める訳では無く、シーズン終盤までポイントが僅差となることも珍しくない。
レース距離は250km~800kmのセミ耐久レースで必ず2人のドライバーが組み、予選・決勝共に2人のドライバーが走ること、及び1人のドライバーが全体の3分の2を超えて走ってはならずドライバー交代が義務付けられている。
認知度やレベルの向上などもありF1・FIA世界耐久選手権(WEC)・ドイツツーリングカー選手権(DTM)など海外のトップカテゴリーを経験したドライバー、また近年ではドライビングシミュレーター「グランツーリスモ」シリーズからプロドライバーを育成するプロジェクト「GTアカデミー」からの出身者などが参戦する例も増えている。
レースにはグランドツーリングカー、ブリヂストン・ミシュラン・ダンロップ・ヨコハマがそれぞれ供給するタイヤを用いて行われているが、元々の意図である市販車~改造車によるレースではベース車両の基本性能が競技車両の特性に大きく影響するため、車種の多様性を維持するのは難しい。
そこで「ベース車両の諸元などによりGT500とGT300の2クラスに分けてそれぞれの順位を競う」という方法を採用し、シリーズ名の変更後も2クラス制が受け継がれている。
各車の性能を出来る限り近付けるため、BoP(Balance of Performance)などの性能調整が行われている。
現在の現行ルールではJAF-GT規格車両については「市販車ベースの改造」とは言い難く、かつてのGT1クラス規定のように形骸化している。
特にGT300の一部車両、DTMと共通化を図った2014年以降のGT500の車両はそれぞれ共通のエンジンとクラッシャブルエレメントを付けた車体に市販車風の外板を被せている…といったようなものになっており、かつての(一応は市販車ベースである)特殊プロダクションカーをも越え、もはや別車種レベルのシルエットタイプカーとなっている。
このため、実際に多くのドライバーはグランドツーリングカーの走り方では通用しないためスポーツカー*4などの純競技車両的な走り方をしていると言われている。
日本で開催されている自動車レースのシリーズとしては1レース当たりの観客動員数は3万人~6万人と最大で、スーパーフォーミュラと並び日本最高峰の自動車レースである。その注目度から国内外の様々な自動車メーカーが参加している。
2006年にはインターネットサイトで生中継され、2007年からはBS放送でハイビジョン録画放送されている。また地上波ではテレビ東京系列でダイジェスト番組「SUPER GT+」が毎週日曜夜11時30分から放送されていた*5。
2012年からはさらにニコニコ生放送「SUPER GTチャンネル」において、予選の生中継を実施中。2014年の第6戦から有料ではあるが同じく「SUPER GTチャンネル」にて決勝も見られるようになった。
生放送は現在CS局の「J SPORTS」が担当し、ライブ中継はJ SPORTS4とオンデマンドのマルチ対応となっている。録画はオンボードカメラ増量&無線内容を増強した「Team Radioプラス」として後日J SPORTS1or3とオンデマンドで放映される。
実況は交代制を取っていたが、2020年よりサッシャ*6が基本的には担当で、他のイベントと被った場合のみ他のアナウンサーが代打という形になった*7。
GT500
参戦する車両はトヨタ (レクサス)、日産、ホンダの3社が巨費を投じて製作したワークス車両が主体。
ゼッケンの色は白地に黒、ヘッドランプの色は白色もしくは青で、2014年からはモノコック他多くの基本部分の車両規定をDTMと統一した車両で競われている。
車重、ホイールベース、最低地上高、トランスミッションなど車両性能に大きく影響を与える部分については概ね共通化されているため、メーカー間で極端に性能が偏ることは少ない。
エアロパーツなど共通化されていない部分の自由度は極めて高く、レース毎に次々とアップデートパーツが投入されることも少なくないほど開発競争が激しく、FIA GT1の旧規定が消滅した2012年以降では「世界で最も速いGTカー」と言われ、LMP1規定が終了した2020年以降では「世界で最も速い屋根付き車*8」と化している。
2014年からはエンジンを除きモノコック・カーボンブレーキ・ダンパー・リアウイングなど基本部分の車両規定をDTMと統一、2012年のDTM車両規定を元にSUPER GT独自規定を盛り込んだ仕様となった。
外観は各メーカーが市販車の意匠を生かしたデザインとすることをGTAなどに申請して認められている。全車が左ハンドルとなったほか共通項目は60に上るが、各メーカーは限られた部分に開発を集中出来るというメリットもある。
2020シーズンからはフロントフェンダー・リアフェンダー・リアディフューザー周り等のデザインがDTMクラス1と共通になり、より限られたエアロパーツのみが開発を許されている。
ただし2021シーズンからはDTMもFIA-GT3規定に切り替えてしまったため、クラス1を使うレースはこのGT500クラスのみになっている。
エンジンはスーパーフォーミュラでも使われる2.0L 直列4気筒直噴ターボの「ニッポン・レース・エンジン(NRE)」を使用。
NREには従来までの吸気を制限するエアリストリクターに代わり、エンジンに送られる燃料の上限と瞬間的な流量を制限する燃料リストリクターが搭載されている。これにより設定されたエンジン回転数まで機械式の燃料ポンプで制御、設定回転に達するとF1と同様の100kg/hに燃料供給量が制限される。
マシン特性がフォーミュラカーに近いため、ドライバーの年齢は20~30代といった若手ドライバーが殆どである。
元々の車体が一定以上のウェイトを許容する設計ではないため、50kg以上のサクセスウェイトが課せられた場合、ウェイトを34kgまでおろして燃料リストリクターを1ランクダウンさせるという処置が行われる。
最大ハンデは100kg表記となっているが、実ハンデは燃料リストリクター3ランクダウン+50kgとなっている。
2022年現在の主なベース車両…というかベースとなる見た目はトヨタGR Supra RZ(DB42)、ホンダNSX (NC1)*9、日産は2021年まではGT-Rだったが、2022年からFAIRLADY Z Version ST (RZ34)に切り替えている。
2024年からはNSXがFL5型シビック タイプR*10にスイッチする。
ちなみに上記の車両の中で市販車に2リッター直4ターボのFRというパッケージを持つ車両は、GR Supra RZ(DB42)のみである。
GT300
ゼッケンは黄色地に黒数字、ヘッドライトの色は黄色。
3大ワークスの戦いとなっているGT500クラスとは対照的に国内外の多種多様な車両およびチームが混沌混在しており、参加チームの大半がメーカーの支援を受けていないプライベーターである。GR SPORT、日産自動車大学校といったワークスチームやセミワークスチーム、ARTAやアップガレージ等の自動車関連企業もあれば「人をダメにするクッション」のyogibo、愛媛県松山市の温泉宿たかのこの湯*11、薄毛治療のFUE植毛センターといった一見クルマとは全く関係ない業種のチームまで実に多種多様。
参戦車種も2011年には21車種26台ものエントリーがあり、2012年からはプリウスやCR-Zなどのハイブリッド勢も参戦し更に多様化、2019年は14車種29台のチームが参戦している。恐らくプリウスがポルシェやランボルギーニを追い抜くという光景が見られるのも世界中のレースどこを見渡してもこのGT300だけ
国産スポーツカーの減少を踏まえたレギュレーションの大幅な緩和、更にこれまでより安価に入手・運用が可能なFIA-GT3車両の導入を許可したことなどもあって、新たなチームの参戦や車両の多様化に拍車をかけている。
近年はプライベーターがアニメ・ライトノベルといったサブカルチャー関連企業やパチンコ会社からスポンサードを受ける事例や、「初音ミク」「侵略!イカ娘」「ラブライブ!」「新世紀エヴァンゲリオン」「hololive」「ぶいすぽっ!」などのキャラクター(いわゆる版権もの)とタイアップしてファンからチーム運営費を募る「個人スポンサー制度」を導入する事例が増加しており、そのようなチームが出走させる痛車が真剣勝負をするという光景は世界でも類を見ない。
2011年・2014年・2017年にはミクさん号ことグッドスマイルレーシング(GSR)がGT300のシリーズチャンピオンを獲得する*12など、タイアップによる宣伝のみで終わっていない例もある。
車両は「JAF-GT300」と「FIA-GT3*13」規格の2種類が混在しており、GTAではこれをより細かく全6カテゴリに区分・管理している*14。
発足当初はJAF-GT規格に適合した車両のみ参戦可能であったが、エントラントをより多く集める目的で徐々にFIA-GTの導入条件を緩和した結果FIA-GTがJAF-GTを逆転し急激に増加したため、車両の性能を調整(BoP・バランスオブパフォーマンス)して均衡したレースの実現を目指している*15。
クラス名は発足当初300馬力前後までに調整されていた事からこの名前だったのだが、現在ではFIA-GT3レギュレーションに合わせるため300馬力という制限も事実上撤廃となってしまい、GT300というクラス名だけが残ってしまったきらいもある。
GT500クラスに比べて性能が抑えられ、GT500に比べても低コストで参戦できるため元々はプライベーターの独壇場だったが、近年はメーカーの支援を受けてセミワークス化しているチームも居る*16。
ところが、それによって元々改造範囲の広い魔改造レベル「JAF-GT」規定や「特認」で実質的なプロトタイプカー*17が参戦可能であったため、開発費用の高騰が問題となっていた。
特にJAF-GTの魔改造は駆動方式やエンジン搭載位置の変更、ベース車由来では無いエンジンへの換装などは当たり前、挙句の果てにはハイブリッドシステムすら別物のマシン(CR-Z)が現れる始末。過去には改造し過ぎてメーカーからクレームをつけられた事も*18。
そのため2012年シーズンからは新規参戦車両のベースがカテゴリーA・Bの条件を満たした*19JAF-GT車両、4000万円くらいはするものの安価かつパッケージ購入可能(=基本改造不可)でメンテナンスさえ出来れば参戦可能なFIA-GT3車両に絞られた。
このルールになって以降も、JAF-GTに関しては「車の形状とタイヤの位置と屋根の高さが市販車と同じ」ならOKという状況で、少なくともGRスープラに関しては「市販車のモノコックは使わず、完全パイプフレームでシャーシを構成」ということが確認されている*20。
2015年よりJAF-GT・FIA-GT3に加え、共通モノコックと共通エンジンを購入しデザインを市販車に合わせた「JAF-GTマザーシャシー(MC)」という第3の規格が導入されている。
JAF-GTが高度化しすぎて新規参入が難しい事やFIA-GT3は改造がほぼ許されない事から、エンジンとモノコック・ロールケージ・ディフューザー以外の自主設計が許容される中間的なプラットフォームとして立ち上げられた。車両購入価格も5000万円くらいはするものの非常に安価でホームセンターで材料を調達するなど改造のコスパや自由度も高く、性能的にも「FIA-GTより100~200kgほど軽い」「GT500のスペックを少し落とした程度」「ストレートのGT3、コーナーのJAF-GT、タイヤに優しいMC」となっていて、タイヤ無交換作戦も当たり前のように行われていたレベル。
しかし熱や振動に弱く走行中に様々なパーツが壊れてしまうという問題を抱えていた事やBoP調整、とある有力チームは「勝ってもどうせMCだし」という白い目で見られていた事*21などにより、参戦チーム数は少なめ。
モノコックの生産はすでに終了していて、エンジンも大本が生産終了済みで保守に限界があることから、あと数年でフェードアウトするものと見られている。
参戦ベース車両はGRスープラ・NSX・GT-Rを始め86(MC)・BRZ・プリウス・レクサスLC500・GR86といった日本車からメルセデスAMG・アウディR8・ランボルギーニ・ポルシェ・BMW・フェラーリ・アストンマーティン…など、枚挙に暇がない。過去にはJGTC時代含め様々な車両が参戦していた。
雑記
- SUPER GTは日本各地*22のサーキットを転戦するが、とりわけ宮城県のサーキットコース「スポーツランドSUGO」ではそのコースの特性上他のコースやレースではありえないような事例が毎シーズンのように発生することから「SUGOには魔物が棲む」と言われる事がある。
- SUPER GTを題材にしたゲームに、セガの『SEGA World Drivers Championship(SWDC)』がある*25。
GTA公認・監修の公式レースゲームであり、ゲーム内実況アナウンスは実際のSUPER GTでも実況を務めるピエール北川が担当している。
- 2022シーズンまでGT300クラスの56号車リアライズ日産自動車大学校GT-Rのドライバーを務めていた藤波清斗は元湾岸マキシプレイヤーでもあり、マキシ4時代に箱根のTAで往復路両方で全国1位を記録したり、湾岸マキシ公式プレイヤー@SoraにTAをプレイしている動画をすっぱ抜かれたりしている。