ΖキャラがIN種死(仮) ◆x/lz6TqR1w 氏_第26話後編

Last-modified: 2008-05-25 (日) 13:08:52

『再会と別離の先には』後編

 
 

 航行を続けるミネルバとアークエンジェル。やはり機関出力が上がらないせいで、非常にゆったりとした航海になってしまっているが、この地域に配属されていたファントム・ペインを撃退した事により、安全な航海が出来ていた。

 

 そして、ミネルバから移動してきたタリアが、ネオの尋問の為に収容されている医務室へ入ってきた。その隣には、護衛に志願したレイが付随していた。
 タリアはベッドの側にある椅子に腰掛け、ネオを尋問していた。

 

「核融合炉搭載型MSについては、私にも詳しい事は分かっていない。私の部隊に配置されていたのは、少数のミノフスキー粒子を応用したビーム兵器だけだ」
「では、連合軍は完全に核融合炉搭載MSをモノにしたわけではないのね?」
「だから、私は技術部の情報は知っていない。あれは、月のパプテマス=シロッコとかいう男が主導で開発しているんだ。現場担当の私が知るわけが無いだろ」

 

 タリアは溜息をついた。大佐という肩書きを貰ってはいるが、どうやらいいように利用されているだけの男のようだ。立派な肩書きは、便宜上のものなのかもしれない。

 

「では、そのパプテマス=シロッコという男が何者なのかも知らないのね?」
「フッ…ハハハ!」

 

 急にネオが笑い出した。眉を顰め、睨みつけるタリア。

 

「何か?」
「あんたらも知っているんじゃないのか? いや、知っている人間がいると言った方がいいかな?」
「どういうことかしら?」
「しらばっくれなくてもいいだろう? 私の調べでも、“イレギュラー”と呼ばれる者が何人か連合軍に紛れ込んでいるという事が分かっている。そして、ミネルバに経歴不詳の兵が混ざっているって事もな――そいつらが、そうなんだろ?」

 

 ネオは気付いていた。ジェリド、カクリコン、ライラ、マウアー……いくら経歴を洗っても、数ヶ月前までの足取りが掴めなかったのだ。そんな人間を、よくも連合軍は雇用したな、と不思議に思っていたが、それがシロッコの差金と知って納得した。
 ミノフスキー物理学を手土産にジブリールに取り入ったパプテマス=シロッコ。彼が“イレギュラー”と呼ばれている事を知るのに、大した手間は掛からなかった。そして、突き詰めていった結果、彼が異世界から来た人間だと分かったのである。
流石にそれを知ったときには面食らったが、しかしあのような高度な技術を何の前触れも無く持ち込んできた現実を考えれば、そう思わざるを得ないだろう。
 そこから先の調査は芋蔓(いもづる)式に判明してきた。同じ様な身の上の人間達がオーブに入ったという情報も、特殊諜報部隊としても活動しているファントム・ペインの情報力を駆使すれば容易い御用であった。

 

「月でMk-Ⅱを奪ったってガキも、その一人だって話じゃないか? そいつ等に直接聞いたほうが、話が早いんじゃないか?」

 

 ぎこちなく笑みを浮かべるネオ。余裕を見せたいところだが、打撲が痛んで顔の筋肉が悲鳴を上げた。

 

「艦長、私にもやらせていただきたいのですが」
「いいわ、レイ」

 

 入れ替わって、今度はレイが椅子に座る。

 

「ネオ=ロアノーク大佐」
「ん? お前は――」

 

 話しかけられて、ネオは気付いた。その少年の声が、自分を落としたムラサメのパイロットだと分かったのだ。意外そうな顔で、少し悔しさを滲ませる。こんな軟弱そうな少年に落とされたなどと、笑い事にしかならない。
連合軍大佐としての名声も、地に落ちたと悟った。

 

「コーディネイターは、少年の内から人を殺す術を教えているようだな?」
「俺はナチュラルだ。それにプラントでは、成人年齢が16になっているだけに過ぎない」
「ナチュラル? チッ、私も焼きが回ったようだな。 …しかし、流石はプラントだ。こんな少年を戦場に出してくるとは、恥も外聞も無い様だな?」
「貴様に言えた事ではないだろう」

 

 レイの語気が強まった。目つきは険しくなり、怒りの表情を浮かべている。

 

「私は大佐だぞ。口の利き方には、気をつけてもらおうか?」
「よくもそんな事を言える……! エクステンデッドの少年少女を率いておいてプラント批判とは、あなたこそ恥という感情が無いのか?」
「彼等は私が救ってやったのだ。兵士として戦えるだけ、幸せと思ってもらわなければな」
「貴様!」
「止しなさい、レイ!」

 

 感情に流され、椅子を倒して立ち上がるレイ。その異変にタリアは面食らいながらも、彼の肩を掴んで必死になだめた。

 

「見た目とは違って、血気盛んな少年だな、お前は?」

 

 挑発を繰り返してくるネオ。その言葉に苛立ちを覚えながらも、タリアに制止され、レイは仕方なく落ち着きを取り戻した。

 

「聞きたいことがある」
「私も、お前には聞きたい事があるな」
「何故、あなたはあんな感覚を持っている? 実に不愉快だった……!」
「フッ、同感だな? だが、私にも理由が分からん。迷宮入りだな」

 

 レイは、ラウからフラガの血筋に連なる不思議な特性について聞かされていた。それは、フラガ家の血筋には、同じ血筋に連なる者と感応し合えるというものだ。
 しかし、ネオはフラガの人間ではない。名前が違うし、何よりもフラガの血統は、2年前のヤキン戦役を最後に自分を残して途絶えたはずである。
 もしかしたら、ネオも自分と同じ身の上なのかもしれないと考えたが、こんな男と同じであると認めたくないレイは、黙るしかなかった。

 

「ちょっと宜しい、大佐さん?」

 

 タリアが前に出てきて訊ねる。ネオは視線を彼女の方に向けた。

 

「さっき、“エクステンデッドを救ってやった”とか、“兵士として戦えるだけ幸せだ”とか仰ってたけど、それはどういう意味?」

 

 少し調子に乗ってしゃべりすぎたか、とネオは思った。連合軍は、核融合炉の開発に成功し、超巨大人型機動兵器を完成させた。
それは対ザフト・ヨーロッパ方面軍用に開発された拠点制圧・防衛兵器で、連合軍の中でも一部の人間にしか公になっていない。そして、その巨大人型兵器の生体コアに、エクステンデッドを使用するという計画が持ち上がっていたのだ。
 しかし、ネオにはスティング、アウル、ステラの3人を、そのような機械の一部にはしたくないという思いがあった。だから、それならまだ普通の兵士として戦っていた方がマシだろうと思ったのだ。
加えて、精神操作を施したとはいえ、最近ではジェリド達とも仲間意識が芽生えてきた。このままいけるかと思った矢先に、自分が捕まってしまったのが唯一の失敗だ。

 

「エクステンデッドと言ったって、元は普通だった少年や少女に人体実験を施して、戦闘マシーンに仕立て上げたのなら、それは非人道的と言えるでしょう? なのに、あなたはそれを正当化している。
レイを戦場に送り出しているプラントを批判するという事は、連合軍の倫理観は私達に近いものがあると考えますけど――それとも、あなたの感性が崩壊しているというのかしら?」

 

 巨大人型兵器、“デストロイ”は極秘事項だ。その存在を、今ザフトに知られるわけには行かないのが、ネオの立場だ。本来なら、この場で黙秘するのが普通だ。
 しかし、仮にではあるが、デストロイが出てきた時点で、3人の内の誰かがデストロイの生体コアにされたということになる。それは、連合軍大佐である彼でも許すことは出来ない。
 ネオは考える。エクステンデッドを使う自分に対して怒りを顕わにしたレイ、そして、それに同調する素振りを見せたタリア。彼らなら、万が一デストロイが出てきたときに、止めてくれるだろうか。

 

「その答は、少し考える時間をくれ。今すぐには答えられない」

 

 敢えて、ここでは口にしない事にした。まだ捕虜にされて時間も経っていない。気持ちを落ち着ける間もなかったし、自分は気付かない内に混乱しているのかもしれない。先ずは気持ちを整理して、冷静に思考を巡らせられるようになってからその是非を考えようと思った。
 タリアも、ネオの反応を予測していたのだろう。特に表情を変化させるでもなく、淡々とした顔つきでネオの反応を見ていた。

 

「いいでしょう。ですが、いつまでも黙秘を続けていられると思わないで貰いたいわね」
「それは…分かっているさ……」
「今日は、ここまでにします。大佐は、ゆっくりと療養なさってください」

 

 そう言うと、タリアは医務室を出て行った。その後に続いて、レイがネオを一寸睨んで出て行った。

 

 ネオには懸念がある。デストロイの事もそうだが、レイという少年の存在が引っ掛かって仕様が無い。実際に目にして分かったが、彼には面識が一切無い。それなのに、どうしてあのような感覚を得たのだろうか。
 ふと、自分の記憶に疑問を持った。先程の戦いではそのせいで調子を崩し、レイに撃墜されたわけだが、これまで生きてきた記憶がもし、スティング達と同じ様に誰かに操作されたものならば――

 

「私は、一体誰だと言うのだ……?」

 

 目を閉じ、涙を流した。

 
 

 先行して地中海を横断する輸送艦。ヨーロッパはいまだザフトの優勢な勢力圏内だ。それも、ガルナハンでの連合軍橋頭堡をミネルバが押さえたお陰で、ヨーロッパに進出してきた連合の勢力は殆ど居ない。

 

「あと、どのくらいで落ち着けます?」
「今はイベリア半島に差し掛かる頃かな。旧スペイン領の辺りさ。ここまで来れば、ジブラルタルはもう目と鼻の先だよ」
「そうですか……」

 

 カミーユが輸送艦のパイロットに尋ねると、そう返事が返ってきた。目の前は相変わらず青い海が広がっているが、左右に大陸のものと思しき陸地が見えてきた。

 

「右がユーラシアで、左がアフリカ大陸――」
「分かるのか? 君はコロニーに居たと聞いているが、地球は初めてなんだろう?」
「いえ…生まれは地球ですけど――それを入れれば3回目ですかね」
「へぇ、リッチな身分なのかぁ」
「違いますよ」

 

 見当違いな話を振られ、カミーユは迷惑そうに眉を顰めた。観光気分のように言われたが、冗談ではない。少なくとも、地球に降りたときはエゥーゴの作戦行動に従事していたのだ。
 ジャブロー侵攻作戦やシャトルの打ち上げの為のアメリカ大陸、それにアウドムラの補給に訪れたホンコン・シティにキリマンジャロ攻略作戦――そこで経験した色々な出来事。カミーユにとっての地球というものは、悲しい思い出のほうが遥かに多い。
 操縦士の軽い口調に多少の違和感を覚えたが、しかし実情を話す気にはなれなかった。きっと、話しても何の意味も無いと思ったからだ。

 

(ん――?)

 

 その時、カミーユの頭の中を予感が過ぎった。その予感は、以前にも感じた事のあるものだ。確か、宇宙に戻ってエマに気合が抜けていると叱られた時に感じたものに似ている気がする。ハッキリとはしないが、危険が近付いているような感覚だ。
 カミーユは操縦士の座席の背もたれに手を掛け、話しかけた。

 

「レコアさんの容態も気になります。出来るだけ急いでくれませんか?」
「そうは言うがな――俺達も、早くガンダムMk-Ⅱを届けたいのはやまやまだが、焦ってご婦人の容態を悪化させても君に申し訳が立たない。これでも、ギリギリのペースで急いでいるつもりさ」
「す、済みません……」
「君が焦る気持ちも分かる。それに、聞くところによると、君の体調も優れないらしいじゃないか? まさか俺のせいで君の参加が遅れる事にでもなったら、責任は取りきれないからな。堪えてくれよ?」
「は、はい……」

 

 予感が、はずれであってくれる事を祈るしかないのかもしれない。操縦士の彼等も、それなりに急いでくれている。保証の出来ない予感だけで彼等を急かしても、迷惑を掛けるだけだろう。
 ただ、不安は徐々に大きくなってきている。何も無ければそれに越した事は無いのだが、如何せんニュータイプとしての感性に優れているカミーユの予感は、滅多な事では外れたりはしないのが難儀だ。我慢して心の中に留めているとはいえ、口に出したい衝動はあった。

 

「ん? 未確認のMS反応?」

 

 ふと、操縦士の隣に座る、副操縦士がレーダーに映る機影に気付き、言葉を漏らした。嫌な予感がして、思わずカミーユは前のめりに顔をレーダーに突き合わせた。

 

「どうしたんです?」
「いや、データ・ベースにも入っていない未確認のMSの反応をキャッチしたんだが、識別信号を出していないんだ。こんな所に連合のMSがいるとは思わないけど――ジブラルタルで開発中の新型か?」

 

 レーダーに映る機影は、徐々に輸送艦に迫ってきている。やがて、フロント・ガラスにも、飛来してくる物体が見えてきた。それは、カミーユの予感が確信に変わる瞬間。

 

「凄いスピードだ。大気圏内でこんなスピードを出せるMSなんて、聞いたことも無いぞ」

 

 凄まじい勢いで迫ってくるMS――と言うよりもMAだ。それは減速を掛けずに輸送艦に接近してくると、威嚇するようにコックピットを横切って上昇して行った。急な出来事に一同が驚き、悲鳴を上げる。
 その中で、カミーユだけがそのMAの正体に気付いていた。地球で幾度と無く遭遇した特長的なシルエットは、忘れる事は無い。目を見開き、声高に叫んだ。

 

「アッシマーだ! やっぱり――」
「し、知っているのか!? ――って事は、あれもMk-Ⅱと同じ“イレギュラー”のMS!」

 

 黄色い、円盤とも取れるシルエットのMA。空飛ぶ円盤とは、まさにあのような物体の事を指すのだろう。中央に赤いラインが入り、推力を発揮している下部のバーニア・スラスター部分は深いビリジアンに彩られている。
その更に下にぶら下がるように設置されている大型のビームライフルが、アッシマー唯一の武器だ。

 

「どっちだ! あれは、ザフトに味方するのか!?」
「そういう感じじゃないでしょう! Mk-Ⅱを出します!」
「ま、待て! 折角鹵獲したMSなのに――」
「待ってたら落とされますよ! 艦に閉じ込められたまま死ねるものかよ!」

 

 操縦士の制止も聞かず、コックピットを飛び出すカミーユ。そのまま、急ぎ格納されているガンダムMk-Ⅱの元へ向かって行った。

 

「お兄ちゃん?」

 

 その途中、ロザミアに出くわした。しかし、彼女に構っている時間的余裕は無い。恐らく、先程の接触でアッシマーのパイロットはこの輸送艦がザフトのものであると気付いてしまっただろう。不安げに近寄ってくるロザミアを適当にあしらおうと、彼女を見た。

 

「ロザミィ、レコアさんの事を看ていてくれ」
「敵が来たのね、お兄ちゃん!」
「いい子にしているんだぞ、ロザミィ」
「あっ――!」

 

 ロザミアが手を伸ばそうとした瞬間、カミーユの体はそれをすり抜けて駆けて行ってしまった。伸ばしかけた手を戻し、眉尻を下げて寂しそうな表情を浮かべた。
 そして、感じる。今襲ってきているパイロットの事を、何となく知っているような気がした。おぼろげであるが、不思議な違和感が彼女の頭を刺激している。

 

「この感覚は何だ? …そうか、あたしはこの感覚が誰のものなのかを知っているんだ――」

 

 壁に体を摺り寄せ、俯き加減に呟く。しかし、知っている感覚のはずなのに、誰なのかを思い出せない。必死に思い出そうと試みるも、頭を抱え込んでその場にしゃがみこんでしまった。違和感の正体――知りたいはずなのに、何故か思い出してはいけないような気がした。

 

 そのアッシマーに乗っているパイロットは、輸送艦がザフトのものであると既に理解していた。コックピットの中でコントロール・レバーを握るのは、青いパイロット・スーツに身を包んだベテランを思わせる風貌の中年。
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、獲物を捉えたかのごとく輸送艦を悠々と見やる。

 

「フン! ファントム・ペインに合流する為に、アッシマーの飛行テストを兼ねて出てきてみりゃあ――」

 

 輸送艦の真上で大きく縦に旋回し、ビームライフルの砲身を差し向ける。

 

「J.Pジョーンズの航行コースと外れていたはずが、こんな所でカモに出会うとはなぁ!」

 

 アッシマーの大型ビームライフルが、六角形の数珠繋ぎのような見慣れない火線を伸ばして輸送艦に襲い掛かってきた。その攻撃は辛うじて掠めただけに留まったが、アッシマーはもう一度旋回して仕掛けてくる様子だ。

 

「クッ――!」

 

 艦が揺れ、格納庫でガンダムMk-Ⅱに乗り込もうというところで脚がもつれそうになったカミーユ。慌てて体勢を整え、急ぎコックピットに飛び込んだ。リニア・シートに腰を埋めると、コンソール・パネルが浮き上がり、それを操作して即座にガンダムMk-Ⅱを起動させる。

 

「こんな所で好き勝手やってくれて――高度はもっと高く! Mk-Ⅱ、出しますよ!」

 

 コックピットの操縦士に向かって怒鳴ると、すぐさまガンダムMk-Ⅱを発進させた。

 

 そして、輸送艦をもう一度捕捉し、ビームライフルのトリガーに指を添えるアッシマーのパイロット、ブラン=ブルターク。次の一撃で決めるつもりで居た。

 

「しず――何だと!?」

 

 ビームライフルの砲身から放たれるビーム。しかし、その火線は突如現れたガンダムMk-Ⅱに驚いて、またも輸送艦を掠めただけに終わった。ブランは予想外の出来事に、面食らってアッシマーを旋回させた。

 

「これ以上やらせるかよ!」

 

 ガンダムMk-Ⅱは輸送艦から飛び上がり、ビームライフルを連射する。その火線の多さにアッシマーは反転してビームの嵐を掻い潜り、態勢を取り直した。

 

「こんな所に――月からザフトに渡ったMk-Ⅱが、のこのことぉ!」

 

 変形を解き、MS形態になるアッシマー。マニピュレーターにしっかりとビームライフルを握らせ、空中を漂うようにバーニアを吹かすガンダムMk-Ⅱを狙い撃つ。
 一方のカミーユは反撃のビームをゆらゆらとかわし、続けざまにアッシマーを迎撃する。空中戦で、しかも整備不良でシールドを失っていてはかなり厳しい状況だ。

 

「変形のタイミングを狙えれば――輸送艦は出来るだけここから離れて!」

 

 更に浴びせられるアッシマーのビーム。バーニアの消費を抑えながら何とか対応している状態だが、これではいずれバーニアの回復が追いつかなくなって機動力が無くなってしまう。
 そんな時、アッシマーが再びMA形態になって一気に距離を詰めてきた。

 

「向かって来る――これなら!」

 

 左のマニピュレーターにビームサーベルを引き抜かせ、接近のタイミングを図る。機動を不規則に変化させながらビームを撃ってくるアッシマーの攻撃をかわしながら、すれ違う瞬間を狙っていた。

 

「貰ったぁッ!」
『甘いな!』

 

 すれ違う瞬間、アッシマーはMSに戻り、回し蹴りを叩き込んできた。ガンダムMk-Ⅱのビームサーベルは空を切り、機体をくの字に曲げて態勢を崩す。アッシマーは更に変形してガンダムMk-Ⅱの背後に回りこんだ。

 

「クッ――!」
《後ろよ、お兄ちゃん!》

 

 唐突にロザミアからの思念波が、カミーユの頭に響いた。その瞬間、カミーユは背後に殺気を察知し、コントロール・レバーを動かす。

 

「――そこぉッ!」

 

 ガンダムMk-Ⅱが即座に反転して、ビームライフルを構えた。そこには、同じくビームライフルを構えてこちらを狙っているアッシマーが度肝を抜かれていた。

 

「見えているだとぉッ!?」

 

 ブランが驚くのも無理の無い話。態勢を崩して、アッシマーが見えていないはずのガンダムMk-Ⅱが、まるで背中に目があるかのように機敏に振り向いてビームライフルを取り回してきたのだ。
 そして、先にビームライフルを撃ったのもガンダムMk-Ⅱ。ブランは慌ててアッシマーを変形させてその場を離脱した。

 

「こいつめ――パイロットは只者じゃないな?」

 

 歯を軋ませ、再度MSに変形しようとしたその時――

 

「遅いッ!」

 

 アッシマーの変形による一瞬のタイム・ラグを突き、火を噴いたガンダムMk-Ⅱのビームライフル。アッシマーの胸部装甲が閉じ終わる前を狙われ、ブランは辛うじて機体を背後に反らせて掠めただけに止めた。

 

「これは――ケネディで同じタイミングで狙ってきたMk-Ⅱが居たが、パイロットは同じ奴か!? ――チッ!」

 

 ブランとしては、アッシマーはファントム・ペインに届けなければならない貴重な機体。それを、こんな所で傷物にしてしまっては、本末転倒だ。苦虫を噛み潰し、アッシマーをMAに変形させて撤退して行った。
 その後ろ姿を見送り、落下するガンダムMk-Ⅱのコックピットの中でカミーユは大きく息を吐いていた。何とか撃退できたのはいいが、慣れない空中戦でガンダムMk-Ⅱに無茶をさせてしまったかもしれない。多分大丈夫であると思うが、何処かに損害が生じていたとしたら問題だ。

 
 

『カミーユ君、敵MAは撤退して行ったようだ。もう、レーダーにも映っていない』

 

 輸送艦からの通信が入ってきた。とりあえず、今心配する事でもないだろう。先ずはガンダムMk-Ⅱをジブラルタル基地に送る事が第一。カミーユはベルトを外し、身体を背もたれに預けた。

 

「その様ですね――戻ります。済みませんが、迎えに来てください。バーニアが、整備不良で少しイカれ気味なんです」
『君もそんな機体で無茶するなぁ? 了解した、すぐに向かわせる』

 

 空に漂うガンダムMk-Ⅱ。両腕を広げ、大の字になって迎えに来た輸送艦に向かって落下していく。

 

「次から次へと、どいつもこいつも――! 一体、この世界の事を何だと思っているんだ……!」

 

 膝の上で手を組み、憮然とした表情で呟くカミーユ。アッシマーをあれ程にまで機動させて見せるのは、きっとヒッコリーやニュー・ケネディで襲ってきた人物と同じ人間だろう。そうなると、これでまた一人増えた事になる。
これ以上の混乱は止してくれよ、と思いながらも、これだけで終わるような予感はしなかった。

 

 輸送艦に戻り、やがてジブラルタル基地が見えてきた。これで、ようやくレコアを落ち着かせることが出来る。そして、これからカミーユの本当の戦いが始まる。
 先ずはジブラルタルでガンダムMk-Ⅱの解析と体調の回復を図り、次にいよいよオーブへ向かう事になる。高い技術力を誇るモルゲンレーテ社にデータを渡し、変形機構の似ているムラサメを基にすれば、Ζガンダムの開発も可能になるだろう。
 ただ、これでは自分もシロッコと同じ事をしているだけなのではないかという懸念が無いわけではなかった。しかし、彼がこうも容易くU.C.世界のMSを持ち出してきたのでは、こちらも早急に対応するしかない。
既に、彼のアドバンテージは大きく築かれてしまっているのだ。これを逆転する為には、ザフトとオーブに頑張ってもらうしかない。

 

「こんな事になるなんて……」

 

 眼下に迫った巨大規模のジブラルタル基地を眺め、カミーユは力なく呟く。そして、そこには再び地球に降りてきたデュランダルが待っていた。