「勝った!」
ノリス・パッカードは仕事を果たした安堵を抱き光に包まれた。
ケルゲレンは無事に離脱出来ただろうという思い。
そして長年仕えたアイナ・サハリンの想い人と対峙しこれ以上無い死に場所で満足感を胸に抱き眩いばかりの光に包まれていった。
ノリスが意識を取り戻したのは、、幕の様に全身を覆う痒痛に気づいたからだ。
しかし、その痒痛がおりなす焦燥感に意識は突き動かされる事はなかった。
全身を倦怠感が支配をしていた。
また、四肢を自由に動かせるという感覚すらなく、身じろぎすると刺す様な痛みが走るのだ。
久方ぶりに感じる静寂な時。視界は穏やかな白い光が映っていた。
光の中でアイナと、ノリスには見た記憶の無い男──シローが微笑みながら赤ん坊をあやしていた。
──我が人生に悔いは無し。
ノリスは満足げな笑みをたたえ、再び深い眠りへと落ちていった。
ノリスが次に目を覚ますと、全身にまとわりついていた倦怠感は既に無く、多少の痛みが有るものの体を動かす事が出来た。
上体を起こして周囲を観察すると、ここが質素な病室であることに気付く。
殺風景な感じは否めないが、過剰な装飾がなされるよりは無駄が省かれている方が良いと考えるノリスは悲しいまでに武骨な武人である。
未だハッキリと覚醒しない頭脳で様々な事を考えているとドアをノックする乾いた音が響き、お道化た──軽薄な雰囲気を纏った男が現れる。
「おや?起きていましたか。えーと、はじめましてと言うべきですかねえ。僕はムルタ・アズラエル──」
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